二十八話 別れ
次の日、午後に馬車が出て、ミレイはお姉さんたちとチミリート伯爵領へ帰って行った。
別れの言葉は、「また一緒に冒険しよう」だった。
北門のステーションから外に出る。
昨日の暴動で、あちこちが破壊されていた。警備の兵士が何人も立っている。泣きながら片付けをしている人もいる。
私はロープで身を隠している。一応、バレない為に。
カレンも一緒に見送り来ていた。無言で歩いて、途中で別れた。
私は真っ直ぐに宿屋へ帰った。
ベッドの上で、ぼんやりする。
私たちのパーティは解散した。
ミレイは自分に自信が無くなったと言った。勇者職のことを話したのも、かえって追い詰めることになったみたい。
心配するお姉さんの説得もあって、彼女はクランに戻ることを選んだ。
もっと落ち着いて話せたら……。順調に進んで、泉で打ち明けていたら結果は違ったかもしれない。
ルーシーには謝られた。
カレンに聞いた話では、ルーシー一家は騎士たちに脅された。抵抗した父親が暴行を受けた。それで、ルーシーは騎士たちの一方的な言い分を飲んで、自分たちが悪いと言ってしまった。
とても悔やんでいるみたい。ルーシーからは、いつもの元気が無くなっていた。
そんな幼馴染の姿を見たカレンも意気消沈していた。
パーティリーダーとして、皆を励ますのが私の使命のはずだけど……無理だ。
もう辛い。投げ出したい。
私はアルベーデン領に帰ることを選択した。
異変が起き、貴族が暴れ、暴動が起きた。傷付いた仲間たちを労わることもできなかった。
こうして、初めての冒険が終わった。
次の日。
ディーノさんたち探索チームが予定を切り上げて、戻ってくるらしい。
私は宿屋の裏にあるテラスで魔導書を読みながら、ぼんやりしていた。
いい訳を考えたけれど、何も出てこない。どんな顔をして、彼らに会えばいいのだろう?
宿に泊まっている顔見知りの冒険者が、探索チームが戻って来たと教えてくれた。彼は一緒にギルドへ行かないかと言った。
ロバートさんやディーノさんに宿まで来てもらう訳にもいかない。会わない選択肢は無い。
私は、行くと返事をした。
宿屋の前で待つ。2組のパーティと一緒だ。一人がもたついて出発が遅れる。
その間に、探索の結果を聞いた。白い霧が出て、先に進めなくなったらしい。
前提となるイベントがクリアできていないから? そうなると、"スタンピード"はまだ起きないってことでいいのかな?
冒険者たちはこの白い霧が"兆候"ではと疑っている。そして、街を離れる相談をしている。
冒険者はフリーランスだ。街の為に命懸けで戦うかどうか、報酬や信念で決める。思い入れの無い街なら、逃げの一手も間違いでは無い。
支度に手間取っていた冒険者が出てきた。私たちはギルドに向かった。
ギルドの前に着いた。
ギルドの周りに、遠目に中をうかがっている人たちがいた。
商人らしき人が顎に手を当てて、ふむふむと何かを考える仕草をしている。
ひそひそ話をする女性たち。
職人さんらしき体格の良い人たちが集めって、腕を組んでいる。
騒がしい。けれども、私たちが中に入ろうとすると、急に話し声が止まった。
「あの子が……アルベーデンの魔女!?」
私の事ですか?
聞き流して、ギルドの中に入った。
ギルドの中はごった返していた。
冒険者以外にも商人や役人っぽい人がいて、立ち話をしている。受付がどうなっているか、人混みで見えない。
私は掲示板の辺りに、カリーナたちを発見した。一緒に来た冒険者に礼を言って、彼女たちの所に向かった。
どうやら、彼女たちも街を出ることにしたみたい。先日の件で顔を覚えられたなら、また面倒ごとに巻き込まれる危険性もある。その方が良いと思う。
リーダーが私に、誰かが来たと教えてくれた。振り向くと、ロバートさんたちがいた。
私たちは「また今度、どこかで会おう」と言って別れた。
探索チームにも街の大まかな情報が伝わっていたみたい。
私はパーティが解散するまでの経緯を説明した。
アイラさんが私を抱きしめて、慰めてくれた。
鈍い音がして、リッカルドのおっさんが地面に倒れたけど、何をしようとしたの?
ロバートさんは報告は後回しにして、ボブさんに先にルーシーの所へ行くように促す。ボブさんは報告を終えてから行くと断った。そんなに時間が掛からないだろうと。そして、みんなにも来て欲しいと言った。三人とも快く了承した。仲の良い姿を見て、私は羨ましいと思った。そして、ちょっと悲しい。
話をしていると、ディーノさんが現れた。連れているのは、次男を殴った酔っ払いの冒険者たち。事態を悪化させたと謝罪を受けた。
私は失礼の無い様に、精一杯の返事をする。結局、しどろもどろになってしまった。
スコールさんのことも、ディーノさんが謝った。最初は理由がわからなかった。戦争を始めたことか、厨二ムーブのことか、お姉さんがミレイを連れて帰ったことか。どうやら全部らしい。
謝られてばかりだ。ムズムズする。
ギルドの職員さんが探索チームを招集した。
ディーノさんたちと別れた。きちんと話せなかった。彼らは、本当に良い人だ。
一緒にギルドに来た冒険者に声を掛けられた。アッシュさんが私に、報告が終わるまで待っていて欲しいと言っていたらしい。待つか、自分たちと宿に戻るか聞かれた。私は待つと答えた。
探索チームがいなくなると、他の人たちも帰って行った。
私は酒場でレモネードを注文して、隅のカウンターに座った。
酷い味だ。冒険者向けだからか、色々と濃い。けれども、今の沈んだ気分の私には刺激が嬉しい。
14歳の新人冒険者なのだから仕方ないという空気を感じた。転生者だけど、前世でも大したことはしていない。もう、仕方ないと受け入れるしかない。
ぼんやりしていると、聞き覚えのある声がした。ヘルミンさんだ。
「サンドラさ~ん」
会いたくない。騒ぎの元凶なのに。何しに来たの?
「いやはや、私の受付に誰も並んでくれなくなりました。仕方ないですねー」
うん。仕方ないね。
「えっと……それで仕事中に私の所に来たとか?」
「座っていても仕事ないですから」
ヘルミンさんは満面の笑顔を浮かべ、拳を胸の辺りでグッと握った。どうして、そんなテンション高いの?
それから、暴動の経緯というか、愚痴のような話を始めた。
「男爵様や奥方様に、私ははっきり言いましたよ。お二人の教育が悪いと。だから、誰もカール君を貴族と認識していなかったって」
それ、火に油を注いでない?
「奥方様はプライド高くて、ヒステリックなんですよ。それで……」
私の前で悪口言うの止めてほしい。
すると、職員が彼女を連れ戻しに来た。
職員は私を見ると驚いて、何か用件があるのかと尋ねてきた。私は探索チームに会いに来たこと。アッシュさんにここで待つように言われたことを話した。職員さんは納得して、ヘルミンさんを連れて戻って行った。
意外と早く、報告は終わった。
アッシュさんが先頭を切って出てきた。私を見つけて、手招きする。
私はレモネードを持って移動する。アッシュさんの向かいの席に座る。
「エールだ。嬢ちゃんも飲みな!」
派目を外す訳にはいかない。
ディーノさんが横に座って、一緒に断ってくれた。
アッシュさんはまあいいやという感じで話を始める。
「それで、エルフは来るのか?」
やっぱり、その件か。私は知っている情報を話す。
先生はここに来るつもりだ。先生だけ来るのか、エルフの軍隊を連れてくるのか協議していると答えた。
「そうなると、大公も動くな」
エルフとドワーフの軍隊が街の中で睨み合うとか恐ろしい。ディーノさんも真剣な顔で聞き入っている。
給仕の女性がエールを持ってくる。アッシュさんは乾杯も待たずに、一気に飲み干した。すぐに、二杯目を注文する。
ディーノさんも飲み始める。乾杯はしないそうだ。みんな、疲れている風に見える。自分たちがいない間に街が無茶苦茶になったことに、ショックを受けているみたいだ。
アッシュさんは話を続ける。王都の方にも連絡が行っているはずだと。男爵が岩砂糖の採掘を中止したことを受けて、後ろ盾の貴族や商人がどう動くか。いざ、スタンピードが起きたら、街に王国から援軍は来るのか。
二杯目のエールが届いた。また一気に飲み干した。まとめて持ってくるように給仕の女性に指示した。
「嬢ちゃんはどうするんだ?」
急に、私の話になった。
とりあえず、帰ろうと思っていることと、先生に街で待つように言われたことを話して、迷っていると答えた。
「帰れ、帰れ、こんな危ない橋を渡る必要はねぇ。まったく、エルフは人の気が知れなねぇ。何なら、ドワーフの所に来るか?」
アッシュさんは三杯目も飲み干す。
ディーノさんも帰ることに賛同してくれる。一方で、残って何をするのか気になるみたい。
私はエルフのチャームに耐性があることを話した。勇者職のことはまだ伏せておく。
それで、街の住人とエルフとの仲介役をさせるために、先生が私をここに送り込んだことを教えた。大したことはできないけれど、エルフたちが勝手に外に出歩かないように見張るくらいはできると思うと話した。
それと、この事は先生の騎士に後から教えて貰ったこと。私自身は何も知らずに来たことも説明しておく。
アッシュさんがエルフの悪口を次々と言い出す。エールはもう何杯目だろうか。
ディーノさんは一転して、私に残って欲しいと言った。住民が興味本位で覗きに行く可能性がある。事故が起きないように、止めて欲しいそうだ。
こうなると、責任ある立場だ。私に務まるのだろうか?
「細けぇことは後にして、嬢ちゃんも飲め飲め」
アッシュさんが私のレモネードの瓶にエールを注ぐ。エールが撒け出て、机がグチャグチャになる。
これは何ハラですか?
アッシュさんが酔っ払ってしまったので、難しい話は終わりになった。
ディーノさんが女性陣の所に逃がしてくれた。帰ろうかと思ったけれど、女性冒険者たちに歓迎されたので残ることにした。どちらを選択するにしろ、同業者の結び付きを得て、損は無いと思う。
そして、日が暮れる頃にお開きになった。
ロバートさんたちは戻ってこなかった。
私はアッシュさんたちと宿へ帰った。
明日には、先生の部下の人たちが街に来る。今後のことを相談しよう。




