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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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二十六話 疲労


 騎士が四人、ギルドの中に入ってきた。

 こっちにくる。

 真新しい鎧を着ている。しかし、足取りが不自然だ。顔つきもチンピラみたいで不釣り合い。服に着られているような、全く似合っていない。

 岩砂糖の儲けで買ったのだろう。"成金騎士"というフレーズが頭をよぎった。


 ギルマスと職員たちが彼らの前に立つ。怒号が飛び交う。尋常じゃない雰囲気だ。

 知らない職員が私たちにギルドの奥に行くように促す。睨み合いとか怒鳴り合いとか、大の苦手だ。ここは退散しよう。

 ふと、トムさんがこっちを見ていることに気が付く。たぶん、ロッキーの短剣のことだ。出すのかと聞いているのだと思う。

 私は首を振る。

 この状況で「我は勇者なり~」なんて言える訳が無い。チキンでゴメンと、心の中で皆に謝る。


 椅子から立ち上がる。すると、急に力が抜けた。本日、三度目の横転。しかし、トムさんが支えてくれて助かった。

 "ヒール"を使った影響かな? それとも、食べ過ぎ?

 なんだか、頭がクラクラする。

 カレンとミレイが駆け寄ってくる。


「大丈夫?」

「……わかんない」


 めまいがする時は、なるべくその場を動かない方がいい。しかし、私たちはギルドの奥に避難しないと。

 起き上がろうとした私をトムさんが止める。無理しないようにと告げる。私を支える役をカレンとミレイに変わる。時間は稼ぐからと言う。

 ギルマスや騎士たちの方を見ると、状況は変わっていない。非常にまずい。どうしたらいい……。


 その時、ギルドに入ったきた一人の男が目に付いた。

 銀髪の長い髪、カラスのような黒い服。服には金細工を施した宝石がたくさん付いていた。

 男が右腕を上げる。魔力の流れを感じた。

 重くて低い音がギルドの中に鳴り響いた。

 

 ガゴガゴガゴ、グワァーン!!!


 ピアノを乱暴に叩いたような、耳障りな音。しかし、どこかノリが良いと思った。

 その場にいた全員が静まり返った。


 騎士の一人が口を開く。男の風変わりな格好もあって、声が狼狽えている。


「てめぇ、何者だ!?」


 男がすぐに質問に答えず、騎士を見て、甘い微笑をする。右腕で顔を半分隠し、歌うように言葉を紡ぐ。


「俺はこの世の哲条を省み、晴耕雨読を引き裂く愚象を吹き払う一陣の疾風。魔陀乱艇の活選を握る暴虐の雨。人呼んで、"破滅のスコール"」


 そして、体をくねらせて、カッコいいポーズを決める。

 厨二病だ! ヤバイ人が来ちゃった。

 周りにいる人たちが茫然としている。


 そんな中、私に向かって、何かが飛んできた。

 ネコ?

 私? いや、ミレイに抱きつく。


「ミレイちゃーん! うわああああん!」


 ミレイによく似た猫獣人の女性だ。


「姉さん!?」


 もしかして、ミレイのお姉さん?

 ディーノさんの言葉を思い出す。ミレイはチミリート伯爵領で活動する大きなクランに所属していた。確か、そのクランのリーダーの名前がスコールだ。


「スコールさんに……みんなも!?」


 強そうな冒険者たちが次々と現れる。おそらく、クランのメンバーだ。

 スコールさんが美しい声で話す。


「ディーノの仲間が知らせてくれた。"異変"のこと。"愚か者"のこと。それで、これはどういう状況だ?」


 騎士が叫ぶ。私たちを捕縛しに来たと。

 

「そうか。俺たちの仲間を傷つけることは許さない。今すぐ、立ち去れ」


 私の仲間なんですけどー! 

 でも、こっちは立ち上がるのも儘ならない。


 騎士たちがスコールさんに掴みかかろうとする。彼はゆらりと動いて、後ろに下がる。代わって、屈強な戦士たちが前に出てくる。

 男爵の騎士たちは、あっという間に制圧された。

 スコールさんが仲間の若い冒険者たちに、騎士たちを縄で縛るように指示する。

 ギルマスがそれはまずいと止める。

 スコールさんが両手で髪をかき上げ、悲痛な顔をする。


「悲しいけれど、これは戦争なんだ。冒険者と貴族のね」


 何やら大変なことになってるぞ。


 とりあえず、立ち上がる。パーティリーダーとして仲間の古巣の面々に挨拶しないと。

 よろよろしている。カレンが支えてくれる。ミレイはお姉さんに羽交い締めにされている。

 スコールさんがこっちにやってきた。

 挨拶をする。私がパーティのリーダーだと言う。


「やつらに何かされたのか?」

「いえ、魔法の使い過ぎです……」


 ミレイが突然、泣き出す。


「私が弱いから……うええええん」


 お姉さんも、もっと泣く。


「うわあああああん」


 酷い状況だ。

 ひとまず、助けてもらった御礼を言う。

 ミレイの"友達"だからとカッコよく返された。"仲間"としては、歯がゆい。悔しい。


 トムさんも彼に挨拶する。先生に仕える騎士だと言うと、スコールさんの顔が強張った。やはり、エルフは嫌悪の対象なのだろうか?


 ミレイのお姉さんが説明する。

 スコールさんは若い頃、立ち入り禁止になっているアルベ-デンの森に飛び込んだことがあるらしい。それで、すぐにエルフたちに捕まった。そして、シスター・ハルにお尻ペンペンされたそうだ。


「……若気の至りだ」


 彼はバツが悪そうな顔をする。何だか、一気に親しみが出てきた。


 トムさんが私に街を出ることを提案する。聞くと、私が捕縛されるようなことがあれば、エルフたちがこの街に攻めてくると言うのだ。

 私が出発する際に、エルフたちに会わなかったかと聞かれた。記憶を辿ると、見回りの部隊が馬車を追いかけてきた覚えがある。どうやら、あれは見回りの部隊ではなく遠征部隊で、本気で付いて行くつもりだったらしい。先生も後で知ったそうだ。

 今回のことがエルフたちの耳に入れば、先生でも止められない可能性がある。穏便に事態を収めるには、私が街を出た方が良いみたい。


 ギルマスが護衛付きの馬車を手配してくれると言う。


 悩んでいると、カレンが震えていることに気が付く。


「カレン、どうしたの?」


 彼女は少し驚いて、私を見る。そして、トムさんとスコールさんを恐る恐る見る。

 スコールさんが優しく声をかける。


「どうした? 言ってごらん」

「……教会に仲間が入院しています」

 

 カレンは震えながら答える。

 ルーシーの所にも騎士が向かったかもしれない。でも、教会の中なら、手荒なことはしないはず。……本当にそうかな?

 ミレイが叫ぶ。


「そうか!? 教会に行かないと……ルーシーが危ない!」


 ミレイはもう一人、仲間がいることを説明する。

 すぐに向かうことになった。

 ミレイのお姉さんが私を見る。


「おんぶしちゃる」


 ひょいと背負われた。聞いた話だと、彼女はBランクのレンジャーだ。力も強い。名前は、コリーナさんだったはず。

 ギルマスも一緒に行くと言う。

 私たちは外に出た。


 ギルドの前には人だかりができていた。かき分けて、外に出る。

 街の様子がおかしい。うっすらと夜になっていたけれど、人が多い。

 ギルドの職員が走ってくる。騎士たちが教会で暴れているらしい。

 私たちは走った。




 教会の前に着いた。

 中から騎士たちが出てきた。五人だ。全員、灰を被っている。

 先ほど、出迎えてくれたシスターが後から出てきて、彼らに呪いの言葉を吐く。そして、持っていた杯を投げようとして、他のシスターに止められた。

 カレンが叫ぶ。


「ルーシー!」


 どこにいるの?

 探そうとすると、スコールさんがポエムを読む始めた。


「迷えるスフラよ。明け星に続く涙の兆陵よ。それはゴリデアの看護人……」


 何を言っているのか、わからない。

 さらに、両手を何かを混ぜるように動かす。そこには魔力が込められていた。

 前にいた戦士たちが、サッと横に動いて道を開ける。


「"縛りのメリージェルズモン"」


 水色の霞のようなものが騎士たちに降りかかる。すると、騎士たちの動きが止まった。

 "スロー"の魔法を使ったみたい。対象の動きを遅くする効果がある。レベル差があると、金縛りみたいになる。

 ポエムだと思ったのは呪文の詠唱だ。この世界では詠唱を入れることで、魔法の威力が上がることがある。そうなるのは当人の才能や性格によるもので、私には合わなかった。


 クランの人たちが騎士を拘束する。

 ルーシーは布を被せられて、騎士の肩に担がれていた。彼女を安全に助けるために、スコールさんはスローの魔法を使ったみたい。

 遠目に見ていると、ケガをしていると聞こえてきた。シスターたちが教会の中に来て欲しいと言う。


 私はどうしよう? 

 ふと、瞼が重くなってきた。

 やっぱり、ヒールの負担が大きかったのかな? 

 "異変"で死にかけたり、貴族に絡まれたり、今日は酷い目に合ってばかりだ。きっと疲れたんだ。

 だんだんと思考が鈍くなる。

 私はパーティのリーダーだ。こういう時こそ、しっかりしないと。

 ミレイの声がする。トムさんの声も。言葉の意味が理解できない。

 私の意識は遠のいて行った。


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