二十五話 おんぶに抱っこ
ヘルミンさん曰く、男爵はカールに世間を学ばせるため、冒険者になることを了承したそうだ。結局、世間に大迷惑をかける事態になっている。
ヘルミンさんは職員に連れて行かれた。ここにいたら、現場を混乱させかねない。
ギルマスが酔っ払った冒険者にお説教を始めた。
その間に、カリーナたちと話す。
別れ際に、カールが男爵家の次男だと説明するのを忘れていた。私のミスだ。
彼女たちは私がギルドを出た後に知ったらしい。教えた相手は、森の入り口で出発前に私と話した冒険者たちだ。
それで彼女たちは、知り合いのベテラン冒険者と相談し、ギルドの酒場で待機していた。戻ってきたカールたちが騒いだけれど、ギルドの中にいた冒険者や職員が守ってくれたみたい。
みんなで協力して助け合う。素晴らしいよね。だからこそ、"救助"の邪魔をしたカールは許せない。殴られて当然と思うけれど、暴力を肯定すれば、絆の力を否定することになる。どうにか、ルールに乗っ取って、軽い罰で済ませられないかな?
ギルマスが来た。
"救助"の件はカール側に非があるということで、大きな処分はしないそうだ。手を出した者に口頭で注意しただけで終わった。
この後のことは、ギルドで責任を持つとギルマスは言った。彼らに何かされそうになったら、反撃せず、ギルドに連絡を寄こすようにとのことだ。
これでカール側が引いてくれれば丸く収まるのだけれど……。
ギルマスから、この後の予定を聞かれた。ここに呼ばれなければ、教会で二人が起きるのを待つつもりだった。
ギルマスが苦い顔をする。彼は騎士団にいた。仲間の身を案ずる気持ちはよく判るはず。しかし、教会には奴がいる。目を覚ました直後に、また揉めるかもしれない。
ひとまず、教会にギルドの職員を派遣してあるので、顔を合わせなければ大丈夫だろうという結論になった。
ギルマスにお礼を言って別れる。すぐに職員が寄って来て、ギルマスを連れて行った。忙しそうだ。
巻き込んだお詫びに、カリーナたちに食事を奢ろうとしたけれど、遠慮された。冒険者は一蓮托生だって。少し話をして、ギルトを出た。
教会に向かう足取りが重い。今日、何回この道を歩いたのだろう?
カレンと話す。二人が起きるまでは自分は家に帰らないと言う。私に宿で寝るように促す。もう混乱で疲労を感じることができなくなっているけれど、私の体力は残りわずかだ。宿で眠らせてもらうことにする。
教会に着くと、寄付を渡したシスターが迎えてくれた。
私たちを病棟とは別の場所に案内する。
カールとの一件がギルドの職員を通じて伝わっていたみたい。麦の神の礼拝堂の近くに、ルーシーの入院する病室を作ってくれた。
ルーシーだけ? ミレイは? もしかして、獣人差別!?
部屋の中を見ると、ベッドが一台あって、ルーシーが寝ていた。ルーシーの母親も一緒だ。
入ると、右の方からミレイの声がした。入口の横の壁際で、体育座りをしていた。耳が垂れて、しょんぼりしている。
ルーシーを起こさないように小声で会話する。
「ケガは殆ど治ったから、入院しなくてもいいと言われた」
「本当に? 念のために、寝ていた方が良いよ」
「……向こうも、私のベッドを用意するとは言ってくれた。けれども、起きていたかったから断った。私は獣人だから、平気のはず……」
獣人は人よりも頑丈で回復力も高い。ヒールも使ったし、高品質ポーションも飲んだ。少し眠ったら、全快してもおかしくない。
しかし、様子がおかしい。どうやら、足を引っ張ったと思い詰めているみたい。
「仕方ないよ。Cランクの魔物が出てきたんだ。運が悪かったんだよ」
それっぽい言葉を並べるしかできない。
あの時、ミレイがゴブリンアサシンの攻撃を回避していたら、状況は大きく変わっていた。本人もそれが判っているから苦しんでいる。
ルーシーのケガは"ヒール"で治ったそうだ。いない間に、ちょっと起きたらしい。ポーションを飲んで、また寝たそうだ。
ルーシーの母親が彼女の着替えを取りに、家に戻った。
私たちはルーシーが起きるまで、ここでぼんやりすることにした。
「ところでさ……」
ミレイが私に聞く。
「私にはすでにヒールが使われていたとシスターが言っていた。よく覚えていないけれど、神官の冒険者がいたの?」
「あー、うん」
現場にいた本人には隠し切れないと思うので、秘密を話すことにする。
私は"魔力探知"で周囲を確認する。聞き耳を叩ている者はいない。と言っても、ゴブリンアサシン以上の"隠れ身"使いがいるなら探知できない。一応、教会の中だから大丈夫だと思う。
「私が使ったんだ」
「え?」
「ね?」
カレンを見る。彼女がうなずく。
「私は勇者職なんだ」
アイテム袋から勇者ロッキーの短剣を取り出す。オリハルコンの青く澄んだ輝く刃を見せる。
ミレイとカレンが驚く
「詳しくは泉に着いて話すつもりだったけれど……ルーシーが起きたら教えるよ。ひとまず、今回のことを聞かれたら、私の先生から貰った不思議なポーションで治ったことにしておいて」
今、説明すると、二度手間になることに気が付いた。短剣をアイテム袋に戻す。
「そう……」
ミレイは顔を下に向けて、しょんぼりする。
どう声をかけようか。教えない方が良かったかな?
それから、どのくらい時間が経ったのだろう。ルーシーはまだ起きない。
ドアがノックされた。
念のため、魔力探知で確認すると知っている人物だった。
「トムさん!」
先生に仕える騎士だ。2年前に先生に拾われた時から、ずっとお世話になっている。
話を聞くと、"スタンピード"の件で街のことを調べていたみたい。街の有力者たちの関係性とか、そういうの。
それで何かあったら、私のことも面倒を見るように先生が指示を出していた。子供じゃないぞと言いたいけれど、今は危ない状況なのだ。凄く助かる。
事態が悪化するなら、先生の名前を出して、男爵に抗議してくれるらしい。
冒険者同士の案件ということで、ギルマスと打ち合わせをしてくると言って、トムさんはギルドへと向かった。
ミレイがぼやく。
「サンドラは凄いね」
「凄いのは先生だよ。何もかも、おんぶに抱っこだよ」
「私もクランのみんなに世話になってばかりで……。それで、自分の力で何かできると思ったんだ」
「難しいね。先生に啖呵を切って出て来たけれど……。今は頼りたい。先生の力で解決してもらうしかないって感じ。うーん、ままならないよね」
鬱々としている。雰囲気を変えたい……。
すると、またドアがノックされた。
ルーシーのお母さんと赤髪のヒゲの男性。
赤髪の男性はルーシーの父親だった。ヒゲで判り辛いが、よく見るとそっくりだ。
そして、ルーシーの家族がこの部屋に泊まると言った。カールの件もあるので、一人にさせられない。
カレンも残ると言ったが、帰るように促された。
ひとまず、ギルドの酒場で夕飯を食べることを提案する。"異変"の調査結果も知りたい。
私たちは朝一に来ることを伝えて、部屋を出た。
そして、ギルドへと向かった。
夕方。もうすぐ、日が沈む。
冒険者ギルドに入る。あちこちで冒険者たちが雑談している。
受付を見ると、ヘルミンさんと目が合った。毎度のごとく、私は受付へと向かう。ステラさんはいなかった。
「出ましたよ。ゴブリンアーチャーにゴブリンドラムです」
「ドラム?」
「太鼓を叩くゴブリンですよ」
ヘルミンさんは笑顔で太鼓を叩くまねをする。
そんなのがいるんだ。音楽で士気を高めるスキルがあったはず。ゴブリンも使うのかな?
「あと、先行した冒険者二組の死体を調べたところ、大きな棍棒で叩かれていることが判りました。他にも上位種が入るみたいです。"異変"で確定ですよ!」
「そんな興奮して話されても嬉しくないです」
死人が出るくらいなら、はずれた方が良かった。
ここからはベテラン冒険者の仕事だ。私たちはご飯にしよう。酒場へと向かう。
「ネコの嬢ちゃん、凹んでるなあ」
「こういう時は飲むに限るぜ」
「うひょー!」
夕方なので、酔っ払いが多い。
席に着くと、ミレイにお酒を頼んでもいいと促す。前世の記憶があるので、嫌なことを酒で流したい気持ちはよくわかる。ミレイはエールを注文した。
「うわああああん」
三杯目で泣き出した。
私は彼女の頭を撫でる。
カレンも撫でる。彼女はワインを頼んでいた。
飲みニケーションを推奨する気はないけれど、今の私にはこれしかできない。
ミレイが肉をたくさん食べるので、私も食べる。お昼は食べれなくて、ポーションで誤魔化した。だから、胃が叫んでいる。
しばらくすると、調査隊に参加した冒険者に話しかけられた。
上位種が群れを束ねて行動している可能性が高いそうだ。ゴブリンアサシン以上の魔物がいる。強い冒険者は遠征に参加しているので、街に残っている面々で対処するのは難しいらしい。。
それで、兵団と男爵の騎士隊を導入する案が浮上している。しかし、カールの一件で冒険者ギルドとの仲がギクシャクして、話が纏まらないそうだ。
そんな訳で、始まりの森はしばらくの間、立ち入り禁止になるみたい。私たちはルーシーの回復待ちだから、それでも構わないけれど。
しばらくすると、トムさんが現れた。肩で息をしている。
「男爵が癇癪を起こした。君たちを捕まえに来る」
驚きに声を失う。どういうこと!?
すると、ギルマスがギルドに飛び込んできた。彼も走ってきたみたい。
周りの冒険者に聞いて、こちらに向かってくる。
「ギルドの奥の部屋にいてくれ、まずいことになった」
トムさんがギルマスの指示に従うように言う。
ミレイとカレンに声をかける。酔いもあるけれど、あまりのことに動揺している。
入口の方が騒がしくなる。騎士らしき人が4人ほど入ってきた。
何が始まるの?




