二十三話 痕跡
街の中では、ざわめきが起きていた。
屋台や露店が大慌てで片付けをしている。
私たちはギルドの医務室ではなく、教会へ向かう。
ルーシーが重症だ。"ヒール"を使ってもらう。ミレイも念のため、もう一度受けた方が良い。
そして、教会は病院でもあるので、今日はそこに泊まってもらう。
ギルドの前を通る。負傷した男子二人は医務室の方に行くからと、ここで別れた。
街の東側へ行く。こちらに来るのは初めてだ。道を曲がると、すぐに教会が見えた。
ここでは複数の神様を同時に信仰している。それぞれの礼拝堂が内部にある。一番大きいのは風の神様だ。
中に入ると、シスターのおばさんが迎えてくれた。冷えた笑顔が張り付いている。値踏みするように、こちらを見ている。
「いらっしゃい。お若いですね。入院や回復スキルの使用には高額の費用が必要ですよ?」
ファンタジー名物、強欲聖職者だ!?
ならば、こいつをくらえー!
「私の先生から、寄付を預かっています。どうか、よしなにお願いします」
金貨袋だー!
「あらあら、まあまあ、おほほほほほー♪」
効果は抜群みたいだ。
私たちを好待遇で迎えてくれた。
ルーシーとミレイをシスターたちに任せて、私たちは"救助"を証明する書類を貰う。
一度、ギルドに戻って、"異変"のことを報告した方が良いかな。兵士からの連絡は、すでに届いているはずだ。
カレンが自分が行くからと、私に休むように提案する。私が二度も転倒していたから心配らしい。
すると、ギルドマスターの使いが来て、パーティリーダーの私に直接の報告をして欲しいと伝えた。ゴブリンアサシンの魔石も持ってくるようにと言われた。
「呼ばれたから行ってくるよ。カレンは残って、二人を診ていて」
「わかった。現場に案内してとか言われても、断ってね」
カレンと別れて、"救助"してくれた冒険者たちとギルドに向かう。
冒険者の中の誰かが、"異変"のことを話し始める。そして、"スタンピード"の兆候なのではと言い出した。
カリーナや他の冒険者が私を見ている。私の先生が誰か、みんな知っているのだろう。
「たまたま一匹だけ、はぐれたのかもしれない。調査隊が出るはずだから、その結果を待つしかないよ」
色々と聞かれたけれど、わからないと返した。本当に知らないからね。
ギルドに着くと、すぐに職員が出迎えてくれた。点呼をとり、私たちのことを確認する。
"キャベツ帯"に向かった冒険者が、私たちの他に二組いるらしい。姿を見ていないか聞かれた。しかし、誰も知らなかった。準備ができ次第、捜索隊および調査隊を送るそうだ。
職員に案内されて、受付に行く。ステラさんが担当だった。"救助"の書類を渡す。
処理が終わると、私は奥の会議室へ行くように促された。
カリーナたちにお礼を言って別れた。
会議室には怖い顔の人たちが集まっていた。帰りたい。
適当に挨拶する。
ギルマスに言われて、ゴブリンアサシンの魔石を提出する。
周りから、「ほぅ」とか「むむっ」とか声がした。
「会敵したときの状況を教えてくれ」
突然、木の上から降ってきたと説明した。"魔力探知"のことは別に教えなくていいはず。
一匹だけだったこと、帰りに遭遇した魔物たちは、いつも通りだったことを話した。
「しかし、よく倒せたな」
「危なかったです。二匹いたら死んでいました」
どうやって倒したか知りたそうにしている。あえて、説明はしない。
魔石を触媒にして威力を増す技術は、かなり高度な芸当だ。冒険者だと、Bランク以上のベテラン魔法使いが行う。私は勇者なので、何となくで使えてしまった。
話すことも殆どないので、私の報告はあっさり終わった。
ギルマスから、なるべく連絡が付きやすい場所にいて欲しいと言われた。第一発見者なので、あと何回か話を聞くことになるらしい。
泊まっている宿の名前を教えて、教会の仲間の所に行くと伝えて、私は部屋を出た。
ギルドのフロントで何人かの冒険者から質問を受けた。顔と名前が一致しないけれど、ディーノさんやロバートさんたちと懇意にしていた人たちだ。急いでいるけれど、冒険者同士の関係は大事にしないといけない。なるべく丁寧に知っていることを話す。
誰かが、仲間のところに行かせてあげようと言ってくれて、すぐに解放された。
教会に向かっている途中に、お腹が鳴った。すでに、お昼は過ぎていた。
カレンの分も昼食を買って行くことにする。
街中のお店は通常通り営業していた。
美味しそうなサンドイッチを見つける。ポークサンドが一押しらしい。仲間が斬られて、血を見た後に肉を食べていいものか。しかし、私の胃は飢えている。
全種類入ったミックスセットがあったので、それを買った。
カフェオレも注文する。ミレイとルーシーが起きているかもしれないので、4つ頼んだ。アイテム袋に入れておけば冷めない。それに、二人が飲めなくても、後で自分で飲めばいい。
教会に戻ってきた。
入口の近くのベンチにカレンがいた。私を見つけると、早歩きで近づいてきた。無言で指を差して、私を人気のない所に誘導した。
「神官様がね。ミレイにヒールが使われた痕跡があるって聞いて来たの」
そういうの判るの? 私は他の人のヒールを何度も見たことがあるけれど、気にしたことは無かった。
「すでに傷は十分回復しているから、二度目は必要ないそうよ」
「そっか。良かった」
「それで、誰がヒールを使ったかまでは、聞かれなかったんだけど……」
まずい予感がした。
この世界のポーションは、飲めば何でも治るといった万能のものではない。
ミレイの服に着いた血の量を思い出す。まずポーションで治せる傷では無かった。
これは……誤魔化せないのかな?
ひとまず、ポーションで治ったことにしよう。先生に貰った不思議なポーションってことで、乗り切ろう。カレンと簡単に打ち合わせをする。
そうして、ミレイたちの所に向かおうとすると、冒険者らしき男性が教会に飛び込んできた。
どうやら、私たちを呼びに来たみたい。
先ほどの男爵家の次男坊が、私たちから暴行を受けたと言って騒いでいるらしい。
最低の事態だ。
人同士の争いパートって嫌いなんだよね。早送りしたい。




