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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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二十二話 危機


 魔法使いはパーティの生命線だと教わった。

 一発の魔法が危機を脱し、戦況をひっくり返す。だから、常に冷静に、どんな時でも最高のパフォーマンスを発揮できるようになること。それが一人前と認められる条件だ。




 ミレイは動かない。しかし、ケガの具合を確かめるよりも、ゴブリンアサシンを先に倒すべきだ。

 "ストーン・バレット"を使う。魔力を込めるまでは、前衛に耐えてもらうしかない。


「ルーシー! 時間を稼いで!」

「う、うん……」


 心もとない返事だ。彼女も仲間が傷つく経験は初めてのはずだ。

 そして、Eランクのルーシーがどこまで耐えられるか……。


 私はアイテム袋から弾になる石と、土属性の魔石を取り出す。魔石を消費することで、威力が上がる。出し惜しみせず、全力の一撃を決める。

 魔力を込める。早く。早く。


 ゴブリンアサシンの持つ二刀の短刀がルーシーを襲う。

 ルーシーは回避ができないと判断して、防具で受けている。しかし、攻撃の威力が高い。レザーアーマーがボロボロになっていく。

 右の上腕に二度目の斬撃を受ける。一度目の斬撃でアーマーが裂けた所を狙われた。


「うあぁぁぁ!?」


 ルーシーは叫んで体勢を崩し、剣を落とした。


「ゴォォォブブブ!!!」


 ゴブリンアサシンが飛びかかった。

 ルーシーは盾でガードする。痛みもあるのに、ここまで動けるのは凄い。まだまだ強くなれる。彼女もミレイもこんな所で死んではいけない。


 ルーシーが倒れる。上に乗ったゴブリンアサシンが止めを刺そうとする。

 もう少し……あと1ターン耐えて……。


 次の瞬間、カレンが杖でゴブリンアサシンを叩いた。


「やああああ!」

「ゴォォォォォブ!」


 ゴブリンアサシンは横に転がった。

 杖の先に魔力を込めて叩く。"マジック・アタック"のスキルを使ったようだ。

 

 そして、魔法のチャージが完了した。

 空中に停止した三つの石の弾丸が黄色く光る。


 こちらの準備が整ったことに気が付いたゴブリンアサシンは、素早い動きで森の中に身を隠す。


 身を隠すスキルを使っているが、私の"魔力探知"は反応を捉えている。そこまでレベル差が大きくなかったようだ。姿を現したことで、相手のスキルは私に通用しなくなった。


 魔石を触媒に使ったことで、石の弾丸にはホーミング機能が付与されている。"魔力探知"と合わせて使うことで、死角にも対応する。


「"ストーンバレット"」


 黄色い光の弾丸が木々の間をすり抜け、蛇のような軌道を描き、ゴブリンアサシンに命中する。


「ゴオオオオオオブゥゥゥ……」


 "魔力探知"から反応が消えた。

 先ほどの鑑定で、ゴブリンアサシンの属性は"風"だと出ていた。"土"属性の魔法は相性が良く、効果抜群だ。


「……やった」


 その場に、へたり込んだ。

 気が抜けそうになった矢先、カレンの悲痛な声が聞こえてきた。


「ルーシー、しっかりして! あぁ、ミレイも血が……」


 カレンがルーシーにポーションを飲ませようとする。しかし、ルーシーの反応が無い。気を失っている。


「駄目。ポーションを飲んで。飲まないと死んじゃう!」


 まだ終わっていない。動け。動け。

 

 ミレイは重症だ。彼女も気を失っている。出血が多い。

 見ると、胴体を切られてる。それでも、首は避けているし、頭も無事だ。これなら治せる。


 私はMP回復ポーションを取り出し、一気飲みする。

 さらに、純度の高い魔石を取り出す。

 ミレイの前に座って、杖を構える。


 集中する。祈り。治れ。


「"ヒール"」


 ミレイの体をピンク色の眩い光が包む。


 "ヒール"の仕様は、ゲームとこの世界とで大きく変わっている。ゲームではHPの数値を回復させる効果だった。それがゲームが実体化したことで、肉体を再生させる奇跡に近い現象になった。

 発動条件も変わり、魔石を触媒に使い、大量のMPを消費する。体力も大きく削られ、一日に使えるのは数回と限られてくる。

 

 ミレイの傷が治る。光が消えていく。


「ん、うぅ……」


 ミレイの意識が戻った。


「カレン、ミレイにこのポーションを飲ませて」


 先生から貰った高品質のポーションを取り出す。

 新米の私の"ヒール"にどこまでの効果があるかは判らない。念を入れて、効果の高いポーションを飲んでもらう。


「え……今の……?」


 カレンは動揺している。

 嘘を混ぜつつ、簡単に説明する。


「私の秘密。洗礼式で、勇者職と出たんだ。だから、ヒールも使えるの」

「勇者なの?」

「勇者見習い……みたいな感じ?」


 立ち上がろうとすると、眩暈がした。その場に転ぶ。

 カレンが起こしてくれる。


「大丈夫!?」

「うーん、辛いけれど、ルーシーにも使わないと……」


 やはり、体への負担が大きい。ゲームで"ヒール"が使える斧を入手したときには、気軽に連打できたのに……。この世界、難易度高いよ!?


「二回も使えるの? 今度はサンドラが倒れるんじゃない?」

「えっと……」


 日に二度使った経験はある。それで疲れて動けなくなったこともあった。

 私たちはダンジョンの中にいる。これから帰らないといけない。修業時代の経験を踏まえると、入口まで自力で歩くのは難しいと思う。

 さらに、魔物と遭遇する可能性も考えないといけない。


「やっぱり、二回目は無理かな。ルーシーのケガはどう? これ、高品質ポーションなんだけれど……」

「私も一本持っているよ。ルーシーには頑張って飲んでもらうから、サンドラは無茶しないで。それで、そっちはミレイに飲ませてあげて」


 私は体を無理矢理に起こす。

 ミレイはうっすら眼を開いていた。意識は朦朧としていたけれど、ポーションを飲むことができた。

 ゆっくりと起き上がる。


「何が起きたの?」

「ゴブリンアサシンが木の上から降ってきて……。それで、攻撃を受けて、ミレイは気絶していた」

「えっ?」


 ミレイは眼を丸くする。

 切り裂かれた服とうっすら残った傷跡を見る。それでも、今の状況が信じられないみたい。


「無理に起きないで。カレン、ルーシーの様子はどう?」

「少しずつだけど、飲んでくれてる。大丈夫だと思う」


 私は"魔力探知"で周囲を確認する。魔物はいない。

 警戒しながら、ゴブリンアサシンの魔石を拾いに行く。現場には魔石と、青い鞘の片手剣が落ちていた。

 両方をアイテム袋に仕舞う。


 戻ると、ミレイが槍を構えていた。


「無理しないで」

「ソウイウワケニモイカナイ」


 言葉が上手く話せていない。苦しいみたい。けれども、前衛がいないと厳しい。頑張ってもらうしかない。

 

 ルーシーが起き上がる。彼女も意識が朦朧としている。


「"異変"かもしれない。無理にでも帰った方が良いと思う」


 "異変"とはダンジョンのバランスが乱れることだ。いないはずの高レベルの魔物が出現するようになる。


 三人とも賛成する。

 カレンが肩を貸して、ルーシーが立ち上がる。何とか歩けるそうだ。

 急ぎたいけれど、難しい。ミレイも今にも倒れそうな状態だ。かなり無理をしている。




 運に身を委ねて、森の中を歩く。


 鬼が出るか……蛇が出るか……。


 反応が出たのは、冒険者のパーティだ。7人いる。全員、会ったことがあるみたい。

 丁度、こっちに向かって来ている。

 少し歩くと出会った。男子6人に、女子1人。

 事情を話すと、私たちを"救助"してくれることになった。


「先日のお返しよ」


 どうやら、私たちが救助したパーティみたい。

 女の子のことを思い出した。四日前、森の入り口に一人で助けを呼びに来たレンジャーだ。名前はカリーナだ。彼女がミレイに肩を貸してくれた。

 さらに、男子の内の三人は最初に救助したパーティだった。一人から、受付で私に悪態をついたことを謝られた。

 二組のパーティは仲良くなって、合併したみたい。


 入口に向かって歩く。

 途中、ゴブリン2体と暴ウルフ1体が現れて戦闘になり、男子二人が負傷した。装備と経験が足りないと思う。人数を増やしても意味がない。あえて、この場では言わないでおく。お説教なんて柄じゃないし。


 今度は暴ウルフ2体が近づいて来た。私が遠距離から"ストーンバレット"で倒す。他の冒険者の内の何人かは、きょとんとした顔で私を見ていた。"魔力探知"のことを説明している余裕も無いので、先に行こうと言って誤魔化す。

 念のために、二本目のMP回復ポーションを飲んでおく。


 さらに、4人組のパーティに合い、"救助"してもらえることになった。女性の戦士がいて、ルーシーを背負ってくれた。気が緩んだからか、ルーシーは眠ってしまった。


 またまたパーティに会う。"異変"のことを話すと、すぐに帰ることを選択した。


 途中で、ミレイがもう歩けないと言った。男子に自分を背負って欲しいとお願いする。カリーナのパーティのリーダーが引き受けてくれた。


 それから、ゴブリンと一角ウサギが何体か出てきた。合流したパーティが難なく倒してくれた。 




 森の入り口に戻ってくる。

 採集をしている冒険者たちに"異変"のことを伝える。冒険者たちが騒ぎ始める。

 私たちは先に森を出ようとする。

 しかし、太った男が私たちの前に立ち塞がった。


「ぶははは、やられてるじゃねぇか!」


 汚い声。今朝会った男爵の次男だっけ?


「俺たちに逆らうから、バチが当たったんだよ」


 そんな訳が無いだろう。むかつく。魔法を打ち込みたい。


「どいて。"異変"が起きてる。早く戻らないといけない」


 案の定、こいつは"異変"の意味を知らなかった。取り巻きの二人が説明しようとするけれど、待ってられない。

 一緒にいた冒険者たちが痺れを切らせて、三人を押しのける。そのまま喧嘩になって、三人は殴り倒されていた。何をしているのだか……。

 




 五分ほど歩いて、北門に戻ってきた。

 門の前には兵士が集まっていた。

 先ほど、入り口付近に戻ってきたとき、足の速い冒険者が走って行って、先に知らせてくれていた。

 私は魔法使いの兵士にゴブリンアサシンの魔石を見せる。"鑑定"の魔法で調べて、周りに本物だと伝えた。それを聞いて、伝令の兵士たちが馬で駆けて行くのが見えた。


 やっとのことで街に帰ってきた。

 門をくぐった瞬間、気の緩みから足がもつれて転んだ。痛い。

 酷い冒険だっだ。


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