二十二話 危機
魔法使いはパーティの生命線だと教わった。
一発の魔法が危機を脱し、戦況をひっくり返す。だから、常に冷静に、どんな時でも最高のパフォーマンスを発揮できるようになること。それが一人前と認められる条件だ。
ミレイは動かない。しかし、ケガの具合を確かめるよりも、ゴブリンアサシンを先に倒すべきだ。
"ストーン・バレット"を使う。魔力を込めるまでは、前衛に耐えてもらうしかない。
「ルーシー! 時間を稼いで!」
「う、うん……」
心もとない返事だ。彼女も仲間が傷つく経験は初めてのはずだ。
そして、Eランクのルーシーがどこまで耐えられるか……。
私はアイテム袋から弾になる石と、土属性の魔石を取り出す。魔石を消費することで、威力が上がる。出し惜しみせず、全力の一撃を決める。
魔力を込める。早く。早く。
ゴブリンアサシンの持つ二刀の短刀がルーシーを襲う。
ルーシーは回避ができないと判断して、防具で受けている。しかし、攻撃の威力が高い。レザーアーマーがボロボロになっていく。
右の上腕に二度目の斬撃を受ける。一度目の斬撃でアーマーが裂けた所を狙われた。
「うあぁぁぁ!?」
ルーシーは叫んで体勢を崩し、剣を落とした。
「ゴォォォブブブ!!!」
ゴブリンアサシンが飛びかかった。
ルーシーは盾でガードする。痛みもあるのに、ここまで動けるのは凄い。まだまだ強くなれる。彼女もミレイもこんな所で死んではいけない。
ルーシーが倒れる。上に乗ったゴブリンアサシンが止めを刺そうとする。
もう少し……あと1ターン耐えて……。
次の瞬間、カレンが杖でゴブリンアサシンを叩いた。
「やああああ!」
「ゴォォォォォブ!」
ゴブリンアサシンは横に転がった。
杖の先に魔力を込めて叩く。"マジック・アタック"のスキルを使ったようだ。
そして、魔法のチャージが完了した。
空中に停止した三つの石の弾丸が黄色く光る。
こちらの準備が整ったことに気が付いたゴブリンアサシンは、素早い動きで森の中に身を隠す。
身を隠すスキルを使っているが、私の"魔力探知"は反応を捉えている。そこまでレベル差が大きくなかったようだ。姿を現したことで、相手のスキルは私に通用しなくなった。
魔石を触媒に使ったことで、石の弾丸にはホーミング機能が付与されている。"魔力探知"と合わせて使うことで、死角にも対応する。
「"ストーンバレット"」
黄色い光の弾丸が木々の間をすり抜け、蛇のような軌道を描き、ゴブリンアサシンに命中する。
「ゴオオオオオオブゥゥゥ……」
"魔力探知"から反応が消えた。
先ほどの鑑定で、ゴブリンアサシンの属性は"風"だと出ていた。"土"属性の魔法は相性が良く、効果抜群だ。
「……やった」
その場に、へたり込んだ。
気が抜けそうになった矢先、カレンの悲痛な声が聞こえてきた。
「ルーシー、しっかりして! あぁ、ミレイも血が……」
カレンがルーシーにポーションを飲ませようとする。しかし、ルーシーの反応が無い。気を失っている。
「駄目。ポーションを飲んで。飲まないと死んじゃう!」
まだ終わっていない。動け。動け。
ミレイは重症だ。彼女も気を失っている。出血が多い。
見ると、胴体を切られてる。それでも、首は避けているし、頭も無事だ。これなら治せる。
私はMP回復ポーションを取り出し、一気飲みする。
さらに、純度の高い魔石を取り出す。
ミレイの前に座って、杖を構える。
集中する。祈り。治れ。
「"ヒール"」
ミレイの体をピンク色の眩い光が包む。
"ヒール"の仕様は、ゲームとこの世界とで大きく変わっている。ゲームではHPの数値を回復させる効果だった。それがゲームが実体化したことで、肉体を再生させる奇跡に近い現象になった。
発動条件も変わり、魔石を触媒に使い、大量のMPを消費する。体力も大きく削られ、一日に使えるのは数回と限られてくる。
ミレイの傷が治る。光が消えていく。
「ん、うぅ……」
ミレイの意識が戻った。
「カレン、ミレイにこのポーションを飲ませて」
先生から貰った高品質のポーションを取り出す。
新米の私の"ヒール"にどこまでの効果があるかは判らない。念を入れて、効果の高いポーションを飲んでもらう。
「え……今の……?」
カレンは動揺している。
嘘を混ぜつつ、簡単に説明する。
「私の秘密。洗礼式で、勇者職と出たんだ。だから、ヒールも使えるの」
「勇者なの?」
「勇者見習い……みたいな感じ?」
立ち上がろうとすると、眩暈がした。その場に転ぶ。
カレンが起こしてくれる。
「大丈夫!?」
「うーん、辛いけれど、ルーシーにも使わないと……」
やはり、体への負担が大きい。ゲームで"ヒール"が使える斧を入手したときには、気軽に連打できたのに……。この世界、難易度高いよ!?
「二回も使えるの? 今度はサンドラが倒れるんじゃない?」
「えっと……」
日に二度使った経験はある。それで疲れて動けなくなったこともあった。
私たちはダンジョンの中にいる。これから帰らないといけない。修業時代の経験を踏まえると、入口まで自力で歩くのは難しいと思う。
さらに、魔物と遭遇する可能性も考えないといけない。
「やっぱり、二回目は無理かな。ルーシーのケガはどう? これ、高品質ポーションなんだけれど……」
「私も一本持っているよ。ルーシーには頑張って飲んでもらうから、サンドラは無茶しないで。それで、そっちはミレイに飲ませてあげて」
私は体を無理矢理に起こす。
ミレイはうっすら眼を開いていた。意識は朦朧としていたけれど、ポーションを飲むことができた。
ゆっくりと起き上がる。
「何が起きたの?」
「ゴブリンアサシンが木の上から降ってきて……。それで、攻撃を受けて、ミレイは気絶していた」
「えっ?」
ミレイは眼を丸くする。
切り裂かれた服とうっすら残った傷跡を見る。それでも、今の状況が信じられないみたい。
「無理に起きないで。カレン、ルーシーの様子はどう?」
「少しずつだけど、飲んでくれてる。大丈夫だと思う」
私は"魔力探知"で周囲を確認する。魔物はいない。
警戒しながら、ゴブリンアサシンの魔石を拾いに行く。現場には魔石と、青い鞘の片手剣が落ちていた。
両方をアイテム袋に仕舞う。
戻ると、ミレイが槍を構えていた。
「無理しないで」
「ソウイウワケニモイカナイ」
言葉が上手く話せていない。苦しいみたい。けれども、前衛がいないと厳しい。頑張ってもらうしかない。
ルーシーが起き上がる。彼女も意識が朦朧としている。
「"異変"かもしれない。無理にでも帰った方が良いと思う」
"異変"とはダンジョンのバランスが乱れることだ。いないはずの高レベルの魔物が出現するようになる。
三人とも賛成する。
カレンが肩を貸して、ルーシーが立ち上がる。何とか歩けるそうだ。
急ぎたいけれど、難しい。ミレイも今にも倒れそうな状態だ。かなり無理をしている。
運に身を委ねて、森の中を歩く。
鬼が出るか……蛇が出るか……。
反応が出たのは、冒険者のパーティだ。7人いる。全員、会ったことがあるみたい。
丁度、こっちに向かって来ている。
少し歩くと出会った。男子6人に、女子1人。
事情を話すと、私たちを"救助"してくれることになった。
「先日のお返しよ」
どうやら、私たちが救助したパーティみたい。
女の子のことを思い出した。四日前、森の入り口に一人で助けを呼びに来たレンジャーだ。名前はカリーナだ。彼女がミレイに肩を貸してくれた。
さらに、男子の内の三人は最初に救助したパーティだった。一人から、受付で私に悪態をついたことを謝られた。
二組のパーティは仲良くなって、合併したみたい。
入口に向かって歩く。
途中、ゴブリン2体と暴ウルフ1体が現れて戦闘になり、男子二人が負傷した。装備と経験が足りないと思う。人数を増やしても意味がない。あえて、この場では言わないでおく。お説教なんて柄じゃないし。
今度は暴ウルフ2体が近づいて来た。私が遠距離から"ストーンバレット"で倒す。他の冒険者の内の何人かは、きょとんとした顔で私を見ていた。"魔力探知"のことを説明している余裕も無いので、先に行こうと言って誤魔化す。
念のために、二本目のMP回復ポーションを飲んでおく。
さらに、4人組のパーティに合い、"救助"してもらえることになった。女性の戦士がいて、ルーシーを背負ってくれた。気が緩んだからか、ルーシーは眠ってしまった。
またまたパーティに会う。"異変"のことを話すと、すぐに帰ることを選択した。
途中で、ミレイがもう歩けないと言った。男子に自分を背負って欲しいとお願いする。カリーナのパーティのリーダーが引き受けてくれた。
それから、ゴブリンと一角ウサギが何体か出てきた。合流したパーティが難なく倒してくれた。
森の入り口に戻ってくる。
採集をしている冒険者たちに"異変"のことを伝える。冒険者たちが騒ぎ始める。
私たちは先に森を出ようとする。
しかし、太った男が私たちの前に立ち塞がった。
「ぶははは、やられてるじゃねぇか!」
汚い声。今朝会った男爵の次男だっけ?
「俺たちに逆らうから、バチが当たったんだよ」
そんな訳が無いだろう。むかつく。魔法を打ち込みたい。
「どいて。"異変"が起きてる。早く戻らないといけない」
案の定、こいつは"異変"の意味を知らなかった。取り巻きの二人が説明しようとするけれど、待ってられない。
一緒にいた冒険者たちが痺れを切らせて、三人を押しのける。そのまま喧嘩になって、三人は殴り倒されていた。何をしているのだか……。
五分ほど歩いて、北門に戻ってきた。
門の前には兵士が集まっていた。
先ほど、入り口付近に戻ってきたとき、足の速い冒険者が走って行って、先に知らせてくれていた。
私は魔法使いの兵士にゴブリンアサシンの魔石を見せる。"鑑定"の魔法で調べて、周りに本物だと伝えた。それを聞いて、伝令の兵士たちが馬で駆けて行くのが見えた。
やっとのことで街に帰ってきた。
門をくぐった瞬間、気の緩みから足がもつれて転んだ。痛い。
酷い冒険だっだ。




