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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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二十話 信頼できる仲間


 冒険者ギルドを出て、店に向かう。

 私は店の名前を知らない。前回訪れたときに看板を見ていた。けれども、"レストラン"としか書かれていなかった。

 ルーシーに聞くと、店の名前はそのまま"レストラン"だそうだ。ヤンおじさんのお店だから、"ヤンのお店"とか"ヤンのレストラン"と呼ばれているらしい。"


 入店。夕ご飯前なので空いている。

 今日のおすすめは象牙アスパラだ。出てきたのは大根を輪切りにした様な料理だ。白いソースがかかっている。

 私はソーセージのセットを頼んだ。ザワークラフトも付いてくる。

 みんな無言で食事をする。疲労で、お腹が空いていた。

 料理はどれも美味しかった。

 食べ終わった後に、ルーシーとミレイがエールを頼んだ。飲み過ぎないように一杯だけらしい。先日のことを反省しようだ。


「泉を攻略するまで我慢だよー。その後は、探索チームの帰還祝いもあるしねー」


 予定が詰まっていると嬉しいよね。


 カレンが少し不安そうに話す。


「みなさん、無事に帰ってこれるといいね」


 今回の探索は強行軍になるそうだ。

 王都にいる貴族や商人たちがビジネスの主導権を握ろうと企んでいる。向こうから本格的な開拓部隊を送り込むという話も出ているらしい。

 慌てたジマーリ男爵は、彼らに大見えを切ってしまった。

 現在の岩砂糖の採掘場所は、七百年前の記録を元に見つけた。そして、男爵の浅薄な計画により、もう一ヵ所の九百年前の採掘場所も採掘することになったのだ。

 ディーノさんにアッシュさん、それにロバートさんたちが参加したのは、余所者に好き勝手されたくないという地元の反骨心だ。


「どんな魔物が出てくるかもわからないなんて、不安だわ」

「ディーノさんなら大丈夫でしょー。リッカルドのおっさんもいるしねー」


 リッカルドのおっさんはスカウトだ。腕は普通。しかし、"不死身のリッカルド"の異名を取り、何があっても死なないそうだ。その冒険譚を聞くと身震いがする。

 

 ディーノさんは凄腕のレンジャーだ。若い頃は西方にある無数のダンジョンに挑んだそうだ。


 レンジャーと聞いて、ふと思い出した。ミレイが弓を使うことを。彼女もレンジャー技能を持っているのだろうか?


「レンジャーとは違う。姉に憧れて習っただけだ。槍の方が適性があるとクランのみんなに言われた」


 耳で魔物の索敵はできるけれど、罠の発見、解除はさっぱりとのこと。


「実は、これから槍使い一本に絞ろうと思う」


 槍と弓では要領が違う。どちらかに集中した方が上達も速い。当然、得意な方を伸ばすのが上策だ。


「いいのー?」

「ルーシーが頑張っているから、負けていられない」

「じゃあ、私も負けないよー」


 前衛が厚くなるのは私にとってはプラスだ。

 ただ、そうなると宝箱を開ける係がいない。由々しき事態だ。


「それならさ、スカウトかレンジャーを募集してみる? 森の奥へ行くのに危険もあるから」


 カレンはレンジャーが良いと言う。


「スカウトの人ってさ。ヘンテコな人が多いなって。偏見だけど……」


 先生から聞いた話だと、お調子者や目立ちたがり屋が多い。軽い考えで一攫千金を目指そうとする。すぐに命を落とす危険な職だからか、なり手も少ないらしい。


「募集するよりもさー。ロバート兄ちゃんたちが戻って来たら、一緒に探してもらおうよー」


 確かに、その方が安全だ。しかし、ベテラン冒険者に迷惑をかけたくはない。でも、親しくなったからには頼った方が良いのかも。


 ミレイは危険を減らすなら募集すべきと言う。ただ、その必要は無いとも思っているらしい。


「たぶん、サンドラが何か隠してる」


 "魔力探知"のことかな? 大きいクランにいたから、使える人と組んだ経験があるのだろう。私は反応が顔に出るタイプだ。気付かれてもおかしくない。

 始まりの森の難易度なら、私のレベルでも危険なトラップは全て探知できるはずだ。困ることと言えば、ポーションをがぶ飲みするくらいかな。


「うん。秘密があるよ。恥ずかしいから、まだ秘密」


 "勇者"のことは、この三人には早めに話しておこうと思う。"転生者"の方は、先生に一生の秘密にするようにと念を押された。


「えー、今、教えてよー」

「うーん」


 周りを見ると、お客さんが増えている。商人らしき人もいる。聞かれるとまずい。


「泉に着いたら教えるよ」

「わかったー。約束破ったら、くすぐってでも吐かせるよー」


 ルーシーは手をワキワキさせる。


「ちゃんと話すよ」


 勇者職が特別にできることは多い。世間に広まれば、悪用しようと考える者も出てくるはず。

 まだ会って数日だけど、彼女たちなら信頼できる。


「絶対だよー」


 ルーシーはそう言いながら、二杯目のエールを頼む。ミレイも続く。

 それから、私たちは他愛もない話をした。二年前に孤児院を出てから、同年代と話す機会は殆ど無かった。楽しいと思う。

 こうして日常を過ごせるのも、仲間に恵まれたからだ。より安全に冒険するために、パーティ編成は大事にしたい。




 しばらくして、店の奥から中年の男性が出てきた。恰好からして、コックのはずだ。


「およ、ヤンおじさんー」


 ルーシーが気さくに挨拶する。

 この人が店主のヤンおじさんみたい。怖そうな顔だけど、優しい口調で話してくれる。

 私たちに依頼を頼みたいそうだ。


「キャベツが無いって、どーして?」


 ここのお店の料理のいくつかは、始まりの森のキャベツ帯で採れたキャベツを使っている。

 しかし、採集に行く冒険者が減って、供給が不足しているそうだ。

 理由は余所から来た新人冒険者にある。彼らは頻繁に負傷して助けを求めてくる。ときには、死体袋を担がないといけない。中には図々しい者もいて、ストレスが溜まる。今まさに私たちが直面している状況だ。


「私たちも大勢"救助"したよー」


 ルーシーがサンドラ救助隊の武勇伝を語る。店主は驚いていた。良い仲間に出会えて良かったなとルーシーの頭をなでる。


「もう子供じゃないよー」


 親しい関係みたい。確か、幼い時から店に通っていると言っていた。

 

 依頼内容は、私たちにキャベツを採集して欲しいとのこと。

 今日はカッとなって泉に直行しようとした。失敗して、この依頼を振られるということは、順番に回りなさいと言う天の思し召しなのだろうか? そんなことは無いよね。


 みんなと相談して、依頼を受けることにした。

 こういう馴染みのおじさんのクエストって、報酬でレアアイテムを貰えたりするんだよね。もしくは、新ルート解放とか。ゲーム脳が騒いで、興奮している。

 

 体力には余裕がある。だから、明日も冒険に行くことになった。

 ルーシーとカレンと別れて、宿屋に向かう。

 ミレイがふらふらしている。一晩寝れば治るそうだ。

 今日も早めに寝る。明日こそ、楽しい冒険ができると良いな。


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