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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
プロローグ
2/86

二話 チュートリアルですか?

 知らない部屋の中、私はベッドの上で目を覚ました。

 ふとんが柔らかい。木の壁。ログハウスっぽい。


「気ガ付イタ?」

 

 誰かいる。小さい。身長1メートルくらい。濃い緑のロープを着ている。フードを深くかぶっていて、顔は見えない。

 もしかして、ゴブリンに捕まった?


「ゴブリンですか?」

「……違ウ」


 微妙な反応。

 私は川に流されていたはず。助かった? この人が助けてくれたのかな。こんな小さい人が? いや、小柄でも凄いパワーを持っている種族がいる。私がゲームで選んでいたあの種族だ。


「ドワーフですか?」

「……」


 怒ってる? マズいことを言ってしまったか!?


「……チョット待ッテネ」


 小柄な人は、フードを取った。一見子供に見えたが、すぐに違うとわかった。

 丸い金色の目。可愛い鼻。笑みを宿した小さい口。ふっくらとした頬っぺた。顔全体が輝いて見えた。

 そして、金色のさらさらした髪。その間から覗く、葉っぱのように尖った耳。

 彼女は、いたずら好きの妖精だった。


「私は"エルフ"だよ」


 本物!?

 彼女たちは人との交流を避けて、西の辺境で暮らしているはず。それが何で東部こんなところに!?

 そんなことよりも、可愛い。とにかく可愛い。


「そう、まじまじと見つめない方がいい。私たちはヒトよりも魅力値が高いから。今は魔道具で抑えてはいるけれど、念のために注意しておくよ。もしも心が迷って、どこかへ行ってしまうと大変だ」

「一向に構いません。それで、抱きしめてもいいですか?」

「……少し落ち着こうか」


 フードを被り直そうとしたので、慌てて止める。


「ちょっと待って下さい。私、エルフを見るの初めてなんです。ゲームではドワーフでソロプレイしていたから……それで入れてもらえなかったんですよ。エルフの里に。髭もじゃのおじさんに追い返されちゃって。ドワーフはダメだって。それで、その、あれ?」


 私は何を言っているのだろう。エルフの里に入ろうとしたって。私は街から出たこともないのに。


 うん、そうだ。ゲームだ。今のはゲームの話だ。


「"クノテベス・サーガ"」


 え?


「あなたの遊んでいたゲームの名前。これじゃない?」


 何で知ってるの?


 そもそも私はゲームで遊んで何て、いや、遊んでいた。


 えっと?


 えっと?


「転生者に会うのは、あなたで二人目」

「え?」

「転生前の記憶を思い出したんだよね?最初はかなり混乱したと聞いてる」

「……」


 私はしばらく答えに詰まっていた。


 エルフの少女。名前は"ミルルム"だと教えてくれた。

 ミルルムさんは、私が錯乱して川に身を投げたのだと思っていたようだ。心配してくれていたみたい。

 私は孤児院を出てから、ゴブリンに襲われた所までを順に説明した。途中で何度も、自分が何を言っているのかわからなくなった。それでも、ミルルムさんは優しく微笑みながら聞いてくれた。

 だいだい話終わると、ステータスを開いて確認するように言われた。


「ごめんね。"鑑定"であなたのステータスを覗かせてもらったよ」


 "鑑定"とは対象物を見極めるスキル。使った物の情報を知ることができる。高レベルになると、他人のステータスを覗くことが可能になる。


「まだ確認していないなら、開いてみて」


 私はステータスを開いた。



【ステータス】


名前:ユ柚ミ実ル瑠

性別:女

年齢:12才

種族:人間

職業:勇者

称号:異世界からの転生者

   ドワッフフフ爆爵



 どういうことなの…。

 名前が混ざっている。

 さらに、称号に転生者と書かれてる。

 何で"ドワッフフフ爆爵"の爵位まで!?


「前の転生者のときも名前が混ぜ混ぜになっていたんだ。それで、まず、今の状態を落ち着かせるために」


 ミルルムさんは強い言葉で私に語りかける。


「名前を変えるよ」

「え!?」

「混乱した彼女は、周りの人々から悪魔に憑かれたと勘違いされたんだって。それで教会に入れられたらしい。うーん、麦の神様の信仰の話なんだけれど。聖職に付く際に改名する習慣があるんだ」

「風の神様もです。孤児院を出て改名した人がいました」

「そっか。名前は人の形を表している。神の信徒になるために、その人たちは名を変えたんだ」

「私も神の信徒になるの?」

「そこまでする必要はないよ。今のあなたには心が二つある。それを一つにする訳だ」

「どういうこと?」

「深く考えなくていいよ。それで彼女は改名して、身の振り方を改めた、と。それで、落ち着いたんだって。ようするに、新しい自分になるってこと」


 よく判らないけれど、なるほど。


「じゃ、新しい名前を決めるよ」


 いきなり決めると言われても心の準備ができてないよ。

 新しくゲームを始めたときも、ここで躊躇するんだよね。

 ん、もしかして、これって。


「どうかした?」

「あ、いえ、まるでチュートリアルだなって」

「チュートリアル?」

「ゲームを始めてすぐ、色々と説明があるんです。あらすじ、世界観とか。操作のやり方とか。誰かが説明してくれる場合もあります。そこで自分の名前や種族とか諸々を設定するんです」

「そう、それで私が説明役なのかな。偶然でもないような。面倒な因縁も感じるよ」


 ミルルムさんは遠い所を見ながら、しみじみと感慨にふけっている。


「それじゃあ、名前を決めよう。この状態が続けば、魂が裂ける可能性もある。何か候補はあるかな?」


 さらりと恐ろしいこと言われた。

 だったら、早く決めた方が良いのだろうけれども…。ネーミングセンスの無い自分としては辛い作業でござるよ。

 あらかじめ設定された名前があるなら、それを使うんだけれど…。

 元のユミルに戻す?でも、この名前を名乗り続けるのはマズい気がするんだよね。このゲーム、北欧神話がベースになってるっぽい。詳しくないけれど、最初の巨人とかだった気がする。止めた方が良いのかな。

 悩んでも仕方が無いのでゲームで使っていた名前、アレクサンドロスを元に改名することにしよう。


「"サンドラ"もしくは"イスカンダル"というのは、どうでしょうか?」

「うーん、サン……ドラ? サンやドーラは聞いたことがあるけれど…」


 サンドラは無いのかな。アレクサンドロス大王がいないから?


「"イスカンダル"も初めて聞いたけれど、ドワーフに関係あることだったりする?」


 怪訝そうに眉をひそめている。

 ゲームと同じなら、エルフとドワーフは仲が悪いみたい。


「いいえ、ゲームで使用していた昔の王様の名前です」

「そっか。変わった名前だね」


 名前で目立つのも嫌だ。

 そうなると、サンかドーラの二択かな。いや、もうサンドラでいいや。


「サンドラにしようと思います」

「わかった。じゃあ、適当に変更の申し出をしてみて」

「適当にとは?」

「私は爵位を持っているから、他人の名前の変更できるよ」


 簡単にお願いしてみて、と言われたので試してみる。


「えっと、私の名前をサンドラに変えて下さい」

「アルベーデン辺境伯がこれを了承します。あなたは今日からサンドラです」


 これでいいのかな? ステータスを開いてみる。

 


【ステータス】


名前:サンドラ



「変わったみたいです」

「早いね。ビックリだよ」

「驚くことなんですか?」

「本来は、ね。国の正規の書類があって、そこに私がサインをするんだ。それから

洗礼を受けた神派の教会に行くの。そこから司祭様にお願いして、お説法を頂くんだよね。それからそれから、麦の神様の場合だと決まった日に儀式をするの。それでー、やっとやっと変わる訳だ」


 つまり、どういうこと?


「勇者職は成長が早いから。名前もすぐに変わったんだよ」


 そうなんだろうか?

 

 勇者だから。


 やっぱり、私は勇者なのか。 


 これで名前と職業が決定した。


「名前と職業が決まったので、フィールドへ魔物退治に行ってもいいですか?」

「…まあまあ、落ち着きなよ」


 チュートリアルって嫌いなんだよね。ゼロから手探りで進めてこそ、RPGってやつだと思ってる。


「川に流されて、体力が落ちてる。今の状態じゃ、満足に歩けないよ」


 言われてみると、体中が重い。確かに、動けそうもない。

 それでいて、今すぐに戦闘がしたいとも思っている。異世界転生で心がハイになっている。頭の中が麻痺しているようだ。


「このポーションを飲んで。それから、お腹空いてる?」

「あ、私、お金持って無いです」

「いいよ。しばらく、あなたの世話をさせて欲しいんだ。理由はゆっくり説明するから。この世界のことも、私が知る限りね」


 ポーションを飲み終えると、ミルルムさんが簡単な食事を持って来てくれた。蜂蜜入りのホットミルク。西方の果物。ふっくらとしたパン。

 どれも孤児院では食べられないものばかり。こっちの世界の私が夢中で食べてしまった。途中でむせたのはお約束。


「すみません。眠くなってきて…」

「うん。ゆっくり休んでね」


 横になった私に、ミルルムさんが布団をかけ直してくれた。エルフって、お人形みたいで可愛い。抱いて眠りたい。でも、我慢。

 あれこれと、だいぶ失礼な態度だったと思う。テンションがおかしかった。

 寝て起きたら、今度はちゃんとしよう。

 おやすみなさい。

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