十九話 怒りの救助隊
朝。いつも通り、ご飯を食べる。
朝が弱いミレイは朦朧としていて、回復したのか判らない。
昨日の見送りを経て、南方へ行きたいという思いが込み上げてきた。同時に、救助はやりたくないともなった。
何と言うか、最初のダンジョンで手こずっている。次で四度目だ。サクッと攻略したい。
ここは一つ、みんなに相談しよう。
ギルドへ行く。この道にも慣れてきた。
ギルドの中は、今日も込み合っている。
ソファーはすでに使われていた。座れる場所も無い。空いていたハイテーブルに陣取る。
しばらく待つと、ルーシーたちが来た。こちらはすっかり回復したようだ。ミレイはどこか、うつらうつらとしている。
「森の奥に行こう」
今後の方針みたいなのを話し合う。
"始まりの森"には3つの攻略ポイントがある。西北西のキャベツ帯、北北西の風の神のほこら。そして、北西の"旅立ち泉"だ。挙げた順に巡ると良いと聞いた。
「それで、まっすぐ泉を目指すべきか。キャベツ帯、ほこらと順にクリアしていくか。どっちがいい?」
ルーシーがいつものように緩く返事をする。
「どっちでもいいよ。サンドラが決めてー」
「まっすぐ泉に行きたいけど……」
「攻めるねー」
カレンが理由を聞いてくる。
「南方に行きたくなったとしか……」
目を反らしながら話してしまった。急かすつもりないけれど、そう受け取られるかな?
「昨日の出発する馬車は派手でカッコよかったものね。次は私たちも乗りたいよね」
「馬車の上はいいかな。目立つの嫌いだし」
「あれ? てっきり大好きなのかと思ってた。いつも、大胆な行動ばかりしているじゃない」
「えぇ、そうかな?」
「"呪いの受付"を平然と利用するとか……」
「あれは呼び止められたから……」
「お店のお客さんの間でも噂になってるよ」
そんなこと、噂しなくてもいいのに……。
「私ら、泉に行かないと南方には行けないんだよねー」
そうだった。新しいダンジョンの解放には条件が設定がしてあった。この世界、自由度低いな。ゲームの頃は無差別に動いて死ねたよ。
「じゃあ、泉に直行する?」
カレンは困った顔で返事をする
「私は順番に巡りたい……。この中で一番弱いから、まだ自信なくて……」
「同年代なら強い方だと思うよ。並みの新人魔法使いだと、ボール系が二、三回使えるくらいだもの」
「アイラ姉ちゃんも才能あるって褒めてたよー」
カレンは照れて、否定する。母親が元冒険者で、色々と教わったそうだ。ルーシーの訓練にも付いて行って、実戦も経験していた。
「直行でもいいんじゃないかな。ミレイは思う?」
ミレイはジッと静かにうつむいている。
「……平気」
二日酔いのダメージを引きずっているみたい。
「私は順に巡りたい……」
ミレイは南方の新ダンジョンを攻略するために、ここに来たはず。私の意見に、賛成すると思っていた。
「理想は、昨日の探索に混ぜて欲しかった……」
ディーノさんなら、ミレイを探索チームに加えることもできたはず。外されたのがショックなのかな?
「今は、このパーティを大切したいと思う。だから、慎重に行きたい」
そう言われると無茶はできない。私もみんなに傷ついて欲しくない。
満場一致で、キャベツ帯を目指すことになった。
キャベツ帯とは、キャベツがたくさん生えている区域だ。畑で採れる物よりも栄養価が高く美味しいと評判だ。どういう理屈で出現するかは不明。誰かが苗を植える訳でもなく、突然生えてくる。
「この間のお店のザワークラフトも、ここのキャベツで作っているんだよー」
あれは美味しかった。ダンジョン産を使っていたんだ。
転生してからもダンジョン産を何度も口にしていたので、もう抵抗は無いよ。
カレンが尻尾プラントの話をする。
「火属性が有効だから頑張るね」
キャベツに似た魔物で、普段はキャベツに擬態している。長い触手を鞭のようにしならせて攻撃してくる。さらに、花粉を飛ばして、"眠り"の状態異常を起こす。
擬態はミレイの耳と私の"魔力探知"で見破れる。
そして、カレンは"ファイヤーボール"が十回以上撃てる。群れで出てきても殲滅できるはずだ。
私たちはキャベツ採集の依頼書を手に取り、受付に並ぶ。
空いていたからヘルミンさんの所にした。何事も無いよね?
相談をしていたので、到着が遅くなった。森の入り口では、すでに大勢の冒険者が活動している。
すると、一人のレンジャーらしき女の子が話しかけてきた。
「助けて下さい」
「え!?」
夕方。昨日と同じように三組のパーティを救助した。
「ロバート兄ちゃんたちに言ったアレが広まっていたなんてー、ごめーん」
いつの間にか、私たちは"サンドラ救助隊"として名が知れ渡っていた。
これでは冒険ができないじゃないか!?
私は明日の朝、一番乗りで森に入ることを提案した。
朝早く集まる。ギルドはすでに開いていた。
依頼コーナーでは、まだ職員が依頼書を張り出している。終わるまではロープで区切られていて近づけない。ミレイが言うには、Dランク以上なら依頼を受けずともダンジョンへの進入許可が出るらしい。
先に受付が始まった。私たちはすぐに向かう。
「あ、サンドラさ~ん」
ヘルミンさんだ。他に受付に向かう冒険者はいない。五択だ。どこに行ってもいい。
仲間たちを見ると、どっちでもいいという雰囲気だ。
ヘルミンさんはニコニコと笑顔でこちらを見ている。
私はステラさんの所に飛び込んだ。彼女はドキッと体を反らした。また驚いてるよ!
「確かに、Dランク以上なら進入許可が出ます。ですが、もしもの事態が起きたとき、何かしらの依頼を受けおくと居場所を特定できる確率が上がります」
なるほど。キャベツ帯の依頼を受けていたなら、そこに救助隊を送り込めばいい。
ヘルミンさんがどこへ行くのかと隣から聞いてくる。まだ依頼コーナーが開いていないので、受付に来る冒険者はいない。
「今日こそ、泉に行きます」
ステラさんにも聞こえるように言う。これで万が一のときは、救助隊が来てくれるかもしれない。
ステラさんはスパイクボアの討伐達成の報告が上がってから挑むと安全だと教えてくれた。基本的に一匹ずつで、連日出現することは無いそうだ。
私は今日、失敗したら参考にしますと返事をした。ちょっと生意気かなと思った。
ヘルミンさんがイノシシ除けのおまじないをしてくれると言う。嫌な予感がするので丁重にお断りする。
進入許可書を書いてもらい、私たちはギルドを出た。
北門に行く。
門番から依頼書の時と同じように許可書を見せる。隊長らしい人が冒険者証のランクを確認していた。私が14歳でDランクになっていることに驚かれた。
そして、森へ着いた。誰もいない。私たちは悠然と進撃する。
このまま泉までノンストップだ。
「たすけて~!!!」
声がした。朝、一番に出たはずなのに、どうして!?
「少し上の方から声がする」
「上?」
「もしかしたら、木の上かも……」
助けを求めていたのは、三人組の冒険者だ。戦士二人が傷つき、魔法使いの少女一人では助けを呼びに行くこともできなかった。救助隊が出たのかは判らない。誰にも見つけてもらえず、木の上で一晩過ごしたそうだ。
私たちは彼女たちを"救助"して、森の入り口に戻ってきた。
すると、一組の冒険者が話しかけてきた。昨日、魔物から逃げる際に、森の奥に財布を落としてきたそうだ。一緒に取りに行って欲しいとのこと。
正直、断りたい。場所はキャベツ帯だった。方向が違うと言うことで、全員反対ということで断った。
彼らはここで、キャベツ帯に行く冒険者が来るのを待つらしい。
話が終わると、別の冒険者がやってきた。
「助けて下さい」
また!?
「もう嫌だー」
「だねー」
ギルドのソファーで、ルーシーと一緒に項垂れる。
二組連れ帰った後、ギルドの救助隊への参加を要請された。今日も三組助けたよ。
「明日も朝一で行く。もう、何があっても進むよ」
怒りのボルテージが上がって行く。最初のダンジョンで足止め喰らうなんて最低だ。
しかし、ミレイが反対する。
「カッとなって無茶をすると失敗する確率が上がる。落ち着こう。"救助"で疲れたのもあるから、明日は休みにしよう」
ミレイも面倒に思っているはず。先輩冒険者として、冷静な判断をしているのだろう。
私はうなずく。一応、リーダーだ。我儘をいう訳にはいかない。
「じゃあ、今から飲むよー」
ルーシーが胸の前でパンッと手を叩く。ミレイとカレンも賛成する。私の怒りを鎮めようとしてくれているみたい。
「私はザワークラフトが食べたい」
煩悩から絞り出して答える。キャベツ帯のこともあって、少し気になっていた。
こうして、先日のお店に行くことになった。




