十八話 救助隊
結局、三回目も出動した。
さっきの男子二人がもう一度付いてきてくれた。魔物が出なかったので、楽に"救助"できた。
負傷した三組のパーティを連れて森を出る。ここからは他の冒険者も手伝ってくれた。負傷者を担いだり、背負ったりして、大勢で歩く。門の周りにいた人たちがビックリしていた。
街の中に入ってからも注目の的になっていた。心配する声もあれば、嘲る声もある。
歩きながら、負傷した冒険者の一人が呟いた。
「呪いの受付は避けたのに、どうしてこんな目に……」
ヘルミンさんの事かな?
運気以前に、彼らは準備不足だと思うけれど。
ちなみに、今朝の私たちは別の受付で依頼を受けた。
変態したルーシーのことが気がかりで、呪いのことは頭から抜けていた。
朝の混んでる時間は受付が5つある。ヘルミンさんは左から二番目にいた。私たちは一組分空いていた一番左の列に並んだ。
そこにいたのは、隣で驚いていた受付さんだ。名前は、ステラさん。ウェーブの赤髪で、背が高い。
ギルドに入って、医務室へ向かう。受付と酒場の間を歩いて奥へと行くので視線が痛い。受付を見ると、ステラさんがいた。ヘルミンさんはいないみたい。
他にも負傷者がいたらしく、医務室は満杯になってしまった。
早々に書類を貰い、私たちは退散する。
"救助"には報酬が出る。手伝ってくれた人たちに分配を相談する。手伝いを申し出ただけあって、善良な面々だ。揉めることも無く、話は纏まった。
ギルドの受付に向かう。
「あ、サンドラさ~ん」
ヘルミンさんだ。さっきはいなかったのに。
挨拶だけして、ステラさんの所に行こうかな。ステラさんと目が合うと、ドキッと体を反らす。この人、いつも驚いているなぁ。
後ろを見ると、他のパーティが微妙な顔をしている。昼間は冒険者が少ないからか、受付にはヘルミンさんとステラさんの二人しかいない。私が避ければ、自分が"呪いの受付嬢"に当たることを恐れているのだろうか?
仕方が無いので、私が行く。
「今日も"救助"ですか?」
「そうです。三組を"救助"しました」
「三組も!? それは大変でしたね。こうして積んだ徳は、風の神様が気流に乗せて飛ばしてくれます。いずれ、知らないどこかで芽をつけますよ」
たんぽぽですか?
「それで、手伝ってくれた方々にも報酬を分けることになりました。えっと……」
報酬を分配するのは始めてだ。どうやるのだろう?
ミレイが説明してくれる。
「報酬を分ける場合、同じ受付で処理をすることになる」
それを聞いた冒険者たちがビクビクと狼狽え始める。
噂でしょう。そんなに怖がらなくても……。
「大勢いますね」
「14人で、パーティは5組います」
順番に冒険者証、書類、依頼書、採取した品を出していく。
うねるヘルミンさん。
ステラさんが横から手伝ってくれた。彼女のサポートで順々に処理をしていく。
「終わりましたよ、ふぅー」
ヘルミンさんは椅子にへたり込んだ。途中から、何度も書き間違えていた。見てる方もヒヤヒヤした。
ステラさんも疲れた表情をしている。
他の冒険者たちも安堵の表情を浮かべていた。
そんな中、ヘルミンさんがジッと私を見つめてくる。
「あー、サンドラさん、疑ってますね。ふふん。負傷したパーティの中に、私の担当した子たちはいませんでしたよ」
ドヤッとした顔でこっちを見る。
「私は信じてませんよ」
ただ、アクが強いところが苦手なので避けようとはしていたけれど……。
他の冒険者たちとは軽く雑談をして別れた。
ひとまず、私たちは帰る前に酒場で休憩することにした。
「疲れたよー」
「うん。疲れた……」
きちんと昼ご飯を食べられなかったので、大きめのパイを頼んだ。ちょっとずつ食べながら、ぼんやりする。だんだんと冒険者が戻ってきた。受付が込み始める。
項垂れていると、ロバートさんたちがやってきた。昨日、ディーノさんたちが打合せしていた南方への大規模探索。彼らも臨時で参加することになったらしい。
私からは三回の"救助"を行ったことを話す。
ルーシーが満面の笑顔で勝どきを上げる。
「我ら、サンドラ救助たーい!」
そうなのかな?
ボブさんがルーシーの装備が一新されていることに気が付いた。彼女が慌てて説明する。私たちは今日の彼女の活躍を大袈裟に語る。
ボブさん曰く、ルーシーはやればできるがやらない子らしい。
ロバートさんたちも苦笑いしている。
「これでルーシーも一人前になったのかな?」
ロバートさんも彼女のことを昔から知っているらしく、色々と話してくれた。
「あー、その話は駄目、なしなしー」
ルーシーは悶えるように照れる。
しばらくすると、ディーノさんやアッシュさんも酒場に集まってきた。今日も飲み会かなと思いきや、明日の朝に出発するから控えるそうだ。あくまで、一杯だけ。ドワーフのアッシュさんは三杯いくらしい。
今日のことを労って、私たちに皆の分も飲むように勧められた。奢りだそうだ。
「わーい」
はしゃぐルーシーをボブさんが嗜める。
ミレイはお礼を言って、エールを注文した。
私とカレンはお酒は飲めないからと断る。そうしたら、変わりに食事を御馳走してもらった。
私は明日の冒険はお休みにして、みんなの見送りに行くことを提案する。
「じゃあ、たくさん飲むよー」
「こら」
ルーシーはグイグイとエールを飲んでいた。
ミレイはやや遠慮しがちだ。でも、勧められるままに飲んでいる。獣人だからか、食べ物の欲求に勝てないみたい。
ほどなくして、二人は酔い潰れてしまった。
「疲れていたのかな?」
「"救助"は神経使うからなあ」
「普通に飲みすぎじゃないかな?」
ルーシーはボブさんがお姫様抱っこで運んで行った。カレンも一緒に帰った。
ミレイは何とか歩けたので、肩を貸した。アイラさんが反対側を支えてくれる。ロバートさんも念のために宿まで付いて来てくれるらしい。リッカルドはディーノさんに首根っこを掴まれていた。
次の日の朝、ミレイはまだ調子が悪そうだ。
食堂に二人分の白湯を貰いに行く。
すると、アッシュさんのパーティが全員揃って朝ごはんを食べていた。私たちが帰った後、まだ飲んでいたはずなのに起きるのが早い。
「冒険者だぞ。起きるときは起きるさ」
アッシュさんたちはガッハッハと笑う。
予定より遅い時間になって、宿を出た。
ミレイはふらふらと歩いている。
「大丈夫?」
「少し辛い……」
「肩を貸そうか?」
「……平気」
苦しそうに返事をする、ネコミミが前に垂れている。
でも、弱気な姿を見せてくれるくらい信頼関係ができたのだと思う。
探索チームは南門から出発する。そこへ続く大通りにカレンの家のお店がある。ギルドには向かわず、私たちはカレンのお店で合流する予定だ。
お店の前にカレンがいた。
「ルーシーはちょっと無理かも……」
お店の中を覗くと、ソファーにルーシーが倒れていた。
「お、は、よ……」
朝起きて二日酔いに苦しんでいる所に、父親からの雷が落ちたらしい。もうダメみたいだ。
「行、く、よ……」
ゾンビを二体連れて、南門へと歩く。
途中からルーシーに、カレンと一緒に肩を貸した。
南門が見えてくる。前世で住んでいた四階建てのマンションより、少し大きいくらい。
門の周りには人だかりができていた。冒険者以外にも、街の住人が大勢集まっている。
丁度、アッシュさんたちが馬車に乗り込んでいた。頑丈な馬車だ。大男たちが乗り込んでもビクともしない。
周りにはギルドの職員に、ギルマスもいる。
見送りできる場所を探す。門の近くが空いていた。
「もうちょっと歩くよ」
「う……」
「ん……」
向かう途中で、冒険者かと聞かれた。そうですと答えると、籠に入った紙吹雪を渡された。
プオオオオオオオオ!!!
ラッパが鳴った。出発の時間だ。
馬車が何台も動き出す。私はルーシーから離れて、紙吹雪をまく。ロバートさんやディーノさんたちも見つけた。手を振ってくれた。苦い表情をしていたのは、ゾンビを見たからだろう。
馬車が通り過ぎると、すぐに門が閉められた。魔物を警戒しているのだろう。
街の住人たちは帰っていく。若い冒険者たちが掃除に取り掛かる。
私たちも帰ることにする。
歩いていると、ギルマスが話しかけてきた。
"救助"の話を聞いたらしい。四回も行った上、自身の遭難騒動も起こしていれば目立つよね。あの時のお礼も言っておく。
他所の街から来る新人が多すぎて、ギルマスもお手上げ状態らしい。無理のない範囲で手を貸してあげて欲しい。理不尽なことを言う輩がいたら、すぐにギルドに通報してくれとのことだ。
私は曖昧に返事をして、ギルマスと別れた。
「このまま救助隊になるのかな?」
カレンに聞く。
「どうなんだろう」
明日、二人が正気に戻ったら、もう一度相談することにする。
私も三日続けて森に入っているから休憩したい。
ルーシーとカレンと別れて、宿へ戻った。ミレイをベッドに送り届ける。そして、私もひと眠りすることにした。
おやすみ。




