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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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十六話 噂


 怪我をした二人は医務室で休むことになった。手続きの書類を貰い、もう一人の男と受付へと向かう。

 歩きながら、彼はつぶやいた。


「噂は本当だった……。受付にヘルミンという女性がいる。彼女の元で依頼を受けると、高確率で失敗すると聞いた」


 どうやら、彼らもヘルミンさんの所で手続きして出発したようだ。

 ルーシーが私の方を見ていたので教える。


「うん。今朝の受付さんだよ」

「そうなの? 災いを呼ぶような人には見えなかったけど」

「魔女みたいな格好をしていたら、そもそもギルドに採用されないよ」

「それもそっか」


 彼が噂の全容を語り始める。どれも尾ひれが付いて、えらいことになっている。


「昨日も四人組の新人が全滅した」


 私に声をかけてきた連中のことかな。


「さらに、彼女の呪いで発狂した女の子が、奇声を上げて森の奥に走って行ったそうだ。それも、物凄い勢いで」


 呪いまでかけてるの? 怖いなぁ。でも、どこかで聞いたことのある話だ。

 

「あの受付嬢には近づかない方が良い」


 彼は怯えるような表情で語る。所詮、噂だろうけれど。みんなも微妙な表情になっている。

 依頼の結果報告は、別の受付の人に頼んでも全く問題ない。

 考えている内に通路を抜けて、フロントに着いた。


「あ、サンドラさ~ん!!!」


 ヘルミンさんがこっちに向かって手を振っている。

 見つかってしまった。 

 他の受付コーナーには誰もいない。彼女以外の所に行ってもいいけれど……。

 ヘルミンさんが笑顔でスタンバイしている。駄目だ。逃げられない。

 

「無事で何よりです。パーティを組んでみて、どうでしたか?」

「いい感じだと思います。ひとまず、今日は途中で"救助"を行ったので、あまり戦わずに帰ってきました」

 

 後ろの男を見る。私を睨んでいる。

 いや、仕方が無いでしょう。


「あぁ、そうですか。お辛いでしょう。けれども、あなただけ生き残ったことには意味があるはずです。これはきっと神々の試練なのです。お仲間も天に召され……」

「勝手に殺すな! 二人は怪我しただけだ!」


 怒鳴り声が響く。

 酒場の方の喧騒が止まる。こっちを見ているのかな。

 左右の受付嬢が目を見開いている。


「無事だったのですね。良かったです」


 ヘルミンさんはケロッとしている。無敵か。

 変な噂が立ったのは彼女の性格が原因なのでは?


 男は私の方を睨んでくる。


「何で、こいつのところに行くんだよ!?」

「目が合ったからとしか……。えっと、あなたは隣で報告されては、どうでしょうか?」


 隣の受付嬢を見ると、ドキッと体を反らした。うろ覚えだけれど、一昨日と同じ人っぽい。

 彼女はすぐに冷静になって、男に対応した。

 ヘルミンさんは何事も無かったように、報告の手続きを始める。


「書類を確認しました。依頼はキャンセルですね」


 四人の冒険者証に記録して、手続きは終わった。

 男は私以外のメンバーに一礼して去って行った。


「サンドラは悪くないよー」


 ルーシーが慰めてくれる。

 怒られるようなことはしていないはず。私は。

 彼は仲間が負傷して、余裕が無かったのだろう。





 私たちは微妙な空気で冒険ギルドを出た。

 それでも、お腹が空いていることには変わりない。ルーシーとカレンにお店を紹介してもらう。着替えるのも面倒なので、冒険者が食事にくるようなラフな店をお願いする。


 店に入る。壁に絵がたくさん飾ってある。客は一組だけで空いていた。彼らと離れた位置の丸いテーブルに座る。

 お店のおばちゃんとルーシーが親しげに話し始める。子供の頃から通っているらしい。

 なんと、冒険者デビューを祝って、ザワークラフトを御馳走してくれた。

 さらに、私は今日のおすすめにあったアイスバインを注文する。あとは、エールが欲しい。でも、我慢だ。

 この世界はお酒は15歳から解禁される。みんなは飲むのかと思ったけれど、昼間からは遠慮するそうだ。

 さっき、ギルドの酒場をチラ見したけれど、みんな真昼間でも飲んでいたよ。


 怪我人を診ていたカレンのことが気になったけれど、両親の手伝いで救護活動をしたことがあるらしく、平気だそうだ。そういえば、自分から率先して治療にあたっていた。


 料理を半分くらい食べた辺りで、ルーシーがバイト先で先ほどの男たちを見たことがあると話し始めた。似た年のはずだと言った。


 ミレイは彼らが失敗を受付の責任にしているのが不満みたい。


「ろくに防具も身に着けていない。やられて当然だ」


 レベル1で、装備もなく、最初のダンジョンで強めのモンスターに合って全滅。RPGあるあるだね。

 そんな連中を助けて、進軍が止まったのが嫌なのかな。それは"救助"の選択をした私のせいである。

 

「ごめん、とっさに助けちゃった。次からは皆に相談するよ」

「サンドラを責めてる訳じゃない。私が怒ってるのは、半端な覚悟でうろついて、迷惑をかけてくる三流冒険者に対してだ」


 何か嫌なことでもあったみたい。

 しかし、耳が痛い。


「うぐ~、耳が痛いよ~」


 ルーシーが項垂れる。


「説教をするつもりは無い。私だって、未熟者だ。ただ、ああいう手合いにはうんざりしている……」


 ミレイが辛そうに語る。何があったかは聞かないよ、私は。

 ばつの悪そうな表情で、ミレイは申し訳なさそうに続ける。


「"救助"はよほど態度の悪い冒険者でない限り、断らない方が良い。変な噂が立っても困るし、何より自分が助けられる側になる可能性もあるから」


 パーティの方針として、今後も負傷者を見かけたら"救助"を行うことになった。

 そして、今日は早めに解散して、体を休めることにした。明日も"始まりの森"を冒険するためだ。

 



 ディーノさんに報告するために、冒険者ギルドに戻る。

 アッシュさんもいて、ディーノさんたちと打合せをしていた。ギルド主導の共同作戦で、南方の新ルートに挑むそうだ。

 今日のことを話すと、揉め事になったら、いつでも相談に乗ると言ってくれた。




 それから、ボブさんたちの拠点に向かう。


「リッカルドのおっさんが変な事したら、槍で突いちゃっていいから」


 おっさん呼ばわりされてる。


 拠点に着くと、ロバートさんのパーティが全員揃っていた。

 今日のことを話す。すると、リッカルドが助っ人として自分が混ざると言い出した。ハーレムパーティにする気か!?

 ミレイがゴミを見る目で彼を見ている。


「これでも、おっさんはCランクなんだよー」


 ロバートさんが彼はGランクに落ちたことがあると、苦い顔をして付け足した。




 報告が終わって、解散することにした。

 ルーシーとカレンは自身の家に帰った。 

 ミレイは私と同じ宿に移るそうだ。アッシュさんたちがミレイのいたクランと仕事をしたことがあって、面識があったからだ。


 それから、ミレイと二人で話をした。クールそうな人だと思ったけれど、慣れてくると可愛いネコミミお姉さんに見えてきた。

 このまま、みんなと仲良くできるといいな。


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