表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
15/87

十五話 選択


 森へ行く前に、作戦会議をすることになった。


「こっちだよー」


 ルーシーが案内してくれる。北門から少し離れたところにテーブルとベンチがあった。ここで話をすることにした。


 私はアイテム袋から飲み物を取り出す。仲間と親睦を深めるために用意しておいた。紅茶とレモネード、どっちがいいか尋ねる。しかし、ルーシーとカレンは私がアイテム袋を持っていることに驚いていた。

 アイテム袋は一つをパーティで共有して使うのが一般的だ。新人が持っているものではない。


 ミレイが何やらそわそわしている。聞くと、彼女もアイテム袋を所有していた。ミレイは弓と槍のスイッチ型だ。持ち運びが大変だからと、姉が自身のものを譲ってくれたらしい。弓と矢筒が入るだけの小さなものだが、これでも結構な値段になる。

 姉に限らずクラン全体が過保護気味で、ミレイはそれが窮屈に思えて飛び出したそうだ。


 紅茶をカップにそそぐ。私は先生の屋敷のメイド長から入れ方を教わった。みんなに感心される。

 ティーポットはアルベーデン辺境伯領を出る前に用意したものだ。アイテム袋の中では時間が停止していて、入れたときの状態で出すことができる。

 ゲーム内では"アイテム"というコマンドがあるだけだった。どう持ち運んでいるのかは不明。食べ物系のアイテムも腐ることはなった。その辺を現実に落とし込んだ結果、こんな便利な魔道具が誕生したのだろう。


 ビスケットを食べながら相談する。

 気になっていたのはスイッチ型のミレイだ。私とカレンが近接戦闘が苦手なことを話すと、彼女は槍メインで行くことを選んだ。


 前衛がミレイとルーシー。

 後衛が私とカレン。


 編成も決まったし、出発だ。


「サンドラ、うきうきしてるね」


 ルーシーは緊張しているのか、声が低い。 


「それは冒険に行けるからね」

「私は緊張してきたよ。いつも大人と一緒だったからさ」

「私も昨日、ソロで歩いていて、同じような気持ちになったよ。でも、今日はパーティ組んだからね。バッチコイさ」


 前衛が二人もいれば、このくらいの難易度の森で怖がることは無い。

 一方でカレンは緊張で足取りが落ち着かない。


「よく一人で森に入れるね」


 そこはもう、ただの阿呆と言われたら御仕舞だ。


「森の中には冒険者が大勢いるから、奥にさえ行かなければ安全だよ」

「私は二年目だから活躍しないと……うん、緊張してきた」


 ミレイはふむふむと、うなずく様なポーズをする。冗談を言って、場を和ませようとしているのかな? 

 ルーシーが顔を覗き込んでくる。


「よーし、サンドラも緊張しろー」

「無理ー、わくわくしてるよー」


 アイテム袋から杖を取り出して、くるくると回して、おどけてみせる。

 編成したばかりのパーティを早く使ってみたい。ゲーム脳が全快になっている。


「戦闘狂なのかー」

「まさか、そこまでじゃないよ」


 そろそろ森に入るから、冷静になろう。仲間を道連れにしてゲームオーバーになる訳にはいかない。




 入り口付近には、昨日のように新人冒険者たちがいた。私たちは薬草に目もくれず、先に進む。

 そして、一角ウサギやゴブリンと戦闘をした。結果は、ルーシーとミレイの二人で難なく倒せた。

 ルーシーは兵士の家系で育った。父親や叔父のボブさんから稽古をつけてもらったそうだ。動きが大袈裟な所があるけれど、同年代では強い方だと思う。

 ミレイは獣人故に、身体能力が高い。動きに切れがある。そして、冒険者になって、一年でDランクに上がった。これはとても才能があるということ。頼もしい。


「次は二人の番ねー」


 今度は私とカレンが魔法を見せる。

 少し歩くと、ゴブリン二体に遭遇する。


「まずは私から……」


 悩んだけれど、手の内を隠して、弱い魔法を撃つことにする。三人とも、信用して大丈夫のはず。けれども、勇者職のことを明かすには早いと思った。

 もしもバレたら、南方の探索に私を利用しようとする手合いが出てくると思う。しつこい勧誘に合うかも。事態が悪い方に転べば、身の危険に晒されるかもしれない。

 三人には申し訳ないけれど、嘘をつかせてもらう。


「"アースボール"」


 魔法で土の塊を作り、敵の頭上に持ち上げて、落下させる。


「ゴブッッッ!?」


 命中。ゴブリンは灰になった。

 続いて、カレンだ。


「"ファイアーボール"」


 こちらも命中。ゴブリンは灰になった。


「私ら、強いよー」

「もうちょっと奥に行ってみる?」

 

 ちょっとだけなら大丈夫のはずだ。ちょっとだけなら。


 ミレイがルーシーを見ながら、もう少し様子見したいと言う。


「どっか、駄目だった?」

「大振りなのが気になって。あんまり人にとやかく言えるほど、私も腕がいい訳ではないのだけれど、その……転びそうな気がしてね」


 そこは私も気になった。無駄な動きが多いと思う。


「シュッと走って、ズバズバってやりたいんだよー。ただ、父さんたちが言うには、私は盾を持ってバランス型になるのが良いんだって。みんなもそっちのがいい?」

「私としては盾持ってくれると嬉しいけれど……」


 バランス型の戦士は欲しいビルドだ。

 それに、お気楽口調のスピード型だと、先生とキャラが被ってしまう。

 ミレイは自信がヘンテコなスイッチ型なので、他人のスタイルに口出ししたくないらしい。

 カレンが言うには、ルーシーは落ち着きがないといつも叱られているそうだ。


「それ、内緒だよー」


 みんなで笑う。


 軽口を叩いていると、ミレイが急に槍を構える。


「あっちに冒険者がいる。様子が変だ」


 私も"魔力探知"で冒険者の存在には気が付いていた。彼らが暴ウルフと戦っていたことも。暴ウルフの反応が無いので、戦闘に勝利したと判断して、気を抜いていた。


「うめき声……」


 ネコミミをピクピクさせる。エルフ程ではないけれど、獣人の耳もよく聴こえる。

 おそらく、負傷者が出たのだろう。

 私が行ってみようと言うと、三人はうなずいた。


 到着すると、そこには男が二人倒れていた。無事だった残りの一人が止血している。

 選択を迫られる。助けるか、見捨てるか。


 NPCなら見捨てたけれど、そうもいかない。

 彼らは悪人には見えない。助けよう。


「手伝いましょうか?」

「すまない。ありがとう」


 無事った男は泣きそうな顔で礼を言う。


 つい感情に任せて、仲間に確認を取らずに"救助"の選択をしてしまった。

 私が何か言う前に、ミレイが見張りをすると言って動いた。

 ルーシーも続く。

 カレンはカバンから救急セットとポーションを取り出す。

 息が合うって、素晴らしい。


 カレンが傷の手当てをして、私は二人にポーションを飲ませる役だ。魔物が出たら、ミレイたちに加勢する。

 倒れている男たちには暴ウルフに噛まれた跡がいくつかある。私の持っている高品質のポーションを飲ませれば、すぐに治る。"ヒール"を使ってもいい。けれども、そこまでする義理はないはず。致命傷には至っていない。このまま普通に治療しよう。


 ちびりちびりとポーションを飲ませる。だんだんと容態が安定してくる。カレンの実家は、雑貨屋だと聞いていた。自家製のポーションだろうか? 効果が高い。

 二人は、何とか歩けるまで回復した。無事だった男が肩を貸す。


 私たちは負傷者に合わせて、ゆっくり移動する。そうなると、魔物との遭遇率も上がる。彼らをかばいながらの戦闘になるので大変だ。


 不安になっていたところに、暴ウルフが三体現れた。

 私にはリーダーとして"救助"を選択した責任ある。コソコソと力を隠して、皆を危険に晒すのも問題だ。"ストーンバレット"を使って、一掃する。

 みんなに驚かれていたけれど、安全が第一だ。


 さらに、ゴブリンが二体現れる。

 ミレイが槍を大きく振ると、一瞬で灰になった。何かスキルを使ったみたい。

 さっきの私を見て、スキル連打で押し通る流れになったのかな?

 ルーシーが次は自分の番だとばかりに構えていたけれど、魔物に遭遇することなく、森を抜けてしまった。


 


 ゲームだと、教会でHPを全回復できた。こっちでもケガをすると教会に行くのかなと思っていたけれど、冒険者ギルドに医務室があった。"ヒール"を受けるには、教会へ高額の寄付が必要だ。お金の無い新人は大抵こちらを選ぶ。


 彼らが医務室で治療を受けている間、私たちはこの後のことを相談する。すでにお昼を過ぎている。

 私はお腹が空いていた。午後から働きたくないとも思っていた


「"救助"を行ったから、依頼をキャンセルできるけど。今日の所はここまでにして、ご飯を食べに行かない?」


 特に理由もなくキャンセルしようとすると、依頼は失敗扱いになる。悪戯半分に依頼を受けようとする人間を防止するシステムだ。


「いいね。お腹ペコペコだよー」


 ルーシーが私に賛同した。

 ミレイは街を見て回りたいそうだ。私も冒険ばかりで、武器屋を覗いたくらいだった。ルーシーとカレンが案内してくれるそうだ。


 ちょっと街を散歩してみよう。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ