十五話 選択
森へ行く前に、作戦会議をすることになった。
「こっちだよー」
ルーシーが案内してくれる。北門から少し離れたところにテーブルとベンチがあった。ここで話をすることにした。
私はアイテム袋から飲み物を取り出す。仲間と親睦を深めるために用意しておいた。紅茶とレモネード、どっちがいいか尋ねる。しかし、ルーシーとカレンは私がアイテム袋を持っていることに驚いていた。
アイテム袋は一つをパーティで共有して使うのが一般的だ。新人が持っているものではない。
ミレイが何やらそわそわしている。聞くと、彼女もアイテム袋を所有していた。ミレイは弓と槍のスイッチ型だ。持ち運びが大変だからと、姉が自身のものを譲ってくれたらしい。弓と矢筒が入るだけの小さなものだが、これでも結構な値段になる。
姉に限らずクラン全体が過保護気味で、ミレイはそれが窮屈に思えて飛び出したそうだ。
紅茶をカップにそそぐ。私は先生の屋敷のメイド長から入れ方を教わった。みんなに感心される。
ティーポットはアルベーデン辺境伯領を出る前に用意したものだ。アイテム袋の中では時間が停止していて、入れたときの状態で出すことができる。
ゲーム内では"アイテム"というコマンドがあるだけだった。どう持ち運んでいるのかは不明。食べ物系のアイテムも腐ることはなった。その辺を現実に落とし込んだ結果、こんな便利な魔道具が誕生したのだろう。
ビスケットを食べながら相談する。
気になっていたのはスイッチ型のミレイだ。私とカレンが近接戦闘が苦手なことを話すと、彼女は槍メインで行くことを選んだ。
前衛がミレイとルーシー。
後衛が私とカレン。
編成も決まったし、出発だ。
「サンドラ、うきうきしてるね」
ルーシーは緊張しているのか、声が低い。
「それは冒険に行けるからね」
「私は緊張してきたよ。いつも大人と一緒だったからさ」
「私も昨日、ソロで歩いていて、同じような気持ちになったよ。でも、今日はパーティ組んだからね。バッチコイさ」
前衛が二人もいれば、このくらいの難易度の森で怖がることは無い。
一方でカレンは緊張で足取りが落ち着かない。
「よく一人で森に入れるね」
そこはもう、ただの阿呆と言われたら御仕舞だ。
「森の中には冒険者が大勢いるから、奥にさえ行かなければ安全だよ」
「私は二年目だから活躍しないと……うん、緊張してきた」
ミレイはふむふむと、うなずく様なポーズをする。冗談を言って、場を和ませようとしているのかな?
ルーシーが顔を覗き込んでくる。
「よーし、サンドラも緊張しろー」
「無理ー、わくわくしてるよー」
アイテム袋から杖を取り出して、くるくると回して、おどけてみせる。
編成したばかりのパーティを早く使ってみたい。ゲーム脳が全快になっている。
「戦闘狂なのかー」
「まさか、そこまでじゃないよ」
そろそろ森に入るから、冷静になろう。仲間を道連れにしてゲームオーバーになる訳にはいかない。
入り口付近には、昨日のように新人冒険者たちがいた。私たちは薬草に目もくれず、先に進む。
そして、一角ウサギやゴブリンと戦闘をした。結果は、ルーシーとミレイの二人で難なく倒せた。
ルーシーは兵士の家系で育った。父親や叔父のボブさんから稽古をつけてもらったそうだ。動きが大袈裟な所があるけれど、同年代では強い方だと思う。
ミレイは獣人故に、身体能力が高い。動きに切れがある。そして、冒険者になって、一年でDランクに上がった。これはとても才能があるということ。頼もしい。
「次は二人の番ねー」
今度は私とカレンが魔法を見せる。
少し歩くと、ゴブリン二体に遭遇する。
「まずは私から……」
悩んだけれど、手の内を隠して、弱い魔法を撃つことにする。三人とも、信用して大丈夫のはず。けれども、勇者職のことを明かすには早いと思った。
もしもバレたら、南方の探索に私を利用しようとする手合いが出てくると思う。しつこい勧誘に合うかも。事態が悪い方に転べば、身の危険に晒されるかもしれない。
三人には申し訳ないけれど、嘘をつかせてもらう。
「"アースボール"」
魔法で土の塊を作り、敵の頭上に持ち上げて、落下させる。
「ゴブッッッ!?」
命中。ゴブリンは灰になった。
続いて、カレンだ。
「"ファイアーボール"」
こちらも命中。ゴブリンは灰になった。
「私ら、強いよー」
「もうちょっと奥に行ってみる?」
ちょっとだけなら大丈夫のはずだ。ちょっとだけなら。
ミレイがルーシーを見ながら、もう少し様子見したいと言う。
「どっか、駄目だった?」
「大振りなのが気になって。あんまり人にとやかく言えるほど、私も腕がいい訳ではないのだけれど、その……転びそうな気がしてね」
そこは私も気になった。無駄な動きが多いと思う。
「シュッと走って、ズバズバってやりたいんだよー。ただ、父さんたちが言うには、私は盾を持ってバランス型になるのが良いんだって。みんなもそっちのがいい?」
「私としては盾持ってくれると嬉しいけれど……」
バランス型の戦士は欲しいビルドだ。
それに、お気楽口調のスピード型だと、先生とキャラが被ってしまう。
ミレイは自信がヘンテコなスイッチ型なので、他人のスタイルに口出ししたくないらしい。
カレンが言うには、ルーシーは落ち着きがないといつも叱られているそうだ。
「それ、内緒だよー」
みんなで笑う。
軽口を叩いていると、ミレイが急に槍を構える。
「あっちに冒険者がいる。様子が変だ」
私も"魔力探知"で冒険者の存在には気が付いていた。彼らが暴ウルフと戦っていたことも。暴ウルフの反応が無いので、戦闘に勝利したと判断して、気を抜いていた。
「うめき声……」
ネコミミをピクピクさせる。エルフ程ではないけれど、獣人の耳もよく聴こえる。
おそらく、負傷者が出たのだろう。
私が行ってみようと言うと、三人はうなずいた。
到着すると、そこには男が二人倒れていた。無事だった残りの一人が止血している。
選択を迫られる。助けるか、見捨てるか。
NPCなら見捨てたけれど、そうもいかない。
彼らは悪人には見えない。助けよう。
「手伝いましょうか?」
「すまない。ありがとう」
無事った男は泣きそうな顔で礼を言う。
つい感情に任せて、仲間に確認を取らずに"救助"の選択をしてしまった。
私が何か言う前に、ミレイが見張りをすると言って動いた。
ルーシーも続く。
カレンはカバンから救急セットとポーションを取り出す。
息が合うって、素晴らしい。
カレンが傷の手当てをして、私は二人にポーションを飲ませる役だ。魔物が出たら、ミレイたちに加勢する。
倒れている男たちには暴ウルフに噛まれた跡がいくつかある。私の持っている高品質のポーションを飲ませれば、すぐに治る。"ヒール"を使ってもいい。けれども、そこまでする義理はないはず。致命傷には至っていない。このまま普通に治療しよう。
ちびりちびりとポーションを飲ませる。だんだんと容態が安定してくる。カレンの実家は、雑貨屋だと聞いていた。自家製のポーションだろうか? 効果が高い。
二人は、何とか歩けるまで回復した。無事だった男が肩を貸す。
私たちは負傷者に合わせて、ゆっくり移動する。そうなると、魔物との遭遇率も上がる。彼らをかばいながらの戦闘になるので大変だ。
不安になっていたところに、暴ウルフが三体現れた。
私にはリーダーとして"救助"を選択した責任ある。コソコソと力を隠して、皆を危険に晒すのも問題だ。"ストーンバレット"を使って、一掃する。
みんなに驚かれていたけれど、安全が第一だ。
さらに、ゴブリンが二体現れる。
ミレイが槍を大きく振ると、一瞬で灰になった。何かスキルを使ったみたい。
さっきの私を見て、スキル連打で押し通る流れになったのかな?
ルーシーが次は自分の番だとばかりに構えていたけれど、魔物に遭遇することなく、森を抜けてしまった。
ゲームだと、教会でHPを全回復できた。こっちでもケガをすると教会に行くのかなと思っていたけれど、冒険者ギルドに医務室があった。"ヒール"を受けるには、教会へ高額の寄付が必要だ。お金の無い新人は大抵こちらを選ぶ。
彼らが医務室で治療を受けている間、私たちはこの後のことを相談する。すでにお昼を過ぎている。
私はお腹が空いていた。午後から働きたくないとも思っていた
「"救助"を行ったから、依頼をキャンセルできるけど。今日の所はここまでにして、ご飯を食べに行かない?」
特に理由もなくキャンセルしようとすると、依頼は失敗扱いになる。悪戯半分に依頼を受けようとする人間を防止するシステムだ。
「いいね。お腹ペコペコだよー」
ルーシーが私に賛同した。
ミレイは街を見て回りたいそうだ。私も冒険ばかりで、武器屋を覗いたくらいだった。ルーシーとカレンが案内してくれるそうだ。
ちょっと街を散歩してみよう。




