十四話 旅立ちの泉へ
私の旅の目標は、レベルを上げて魔王をフルボッコにすることだ。
それは話せないので、純粋に冒険したいという気持ちを語る。世界を観て回りたい、とか。
あと、先生のことも教える。
三人とも驚いていた。そんな大したものではないと誤魔化す。
ディーノさんが私に、南方に行くつもりなのか確認する。彼はミレイの戦闘を何度か見たことがあるそうだ。実力はあるから足を引っ張ることはないと言う。
「えっと、その前に"始まりの森"を攻略しておきたいです」
「"旅立ちの泉"に行くのかい?」
昨日の飲み会で新しい情報を仕入れた。森の奥に綺麗な泉がある。そこに辿り着けると、一人前の冒険者として認められるそうだ。この街の冒険者の風習みたいなもの。
そして、これを契機に他のレベルの高い街に旅立つそうだ。ゆえに、付けられた名前が"旅立ちの泉"だ。
新しいギルマスが赴任して、"始まりの森"は正式名称になった。けれども、こっちは不採用だった。泉に行った後、街に残った人も結構いる。その過程で、自分の限界を知るそうだ。
「この街の出身者としては、そうしてくれると嬉しいねぇ。ミレイ君もどうだい? 南方に行く前の腕試しだ。僕としても慎重に行ってくれると嬉しい。もしものことがあったら、スコールや君のお姉さんに合わす顔が無い」
「ミレイさんは南方の攻略に来たのですか?」
「そのつもりだ。しかし、実力を示す上で、泉に挑戦するのも悪くない」
一緒に行ってくれるみたい。
「私も南方に行きたいんだよねー」
ルーシーさんはノリが軽い。ボブさんが嗜める。
聞けば、ルーシーさんとカレンさんに南方に行きの許可を出すのに、泉の攻略を条件にしているそうだ。かつて、ボブさんとロバートさんも街を出る前に"旅立ちの泉"を攻略した。だから、後輩のルーシーさんたちに同じ道を続いて欲しいみたい。
目的が一致したので、ひとまず四人で組んでみることになった。
さあ、冒険に行こう。
適当な採集の依頼の張り紙を取り、受付カウンターに向かう。
「そこ、空いてるよー」
ルーシーさんが指差す。
人が並んでる場所もあるのに、そこだけ空いている。
まさか……。
「サンドラさん。おはようございます」
ヘルミンさんだ。
噂が原因か、他の冒険者から避けられている。
冒険者は意外とゲンを担ぐ。常に死と隣り合わせだからこそ、敏感になるのだろう。
「おはようございます」
「およ、知り合いなの?」
「そうかな……」
一緒に濃いイベントを起こしてるとは思う。ということは、知り合いだよね。
「私の所に来てくれたのは三度目ですね」
ヘルミンさんは胸の前でグッと拳を握って、得意げな顔をする。
「そうですね」
愛想笑いで返す。
実は私もヘルミンさんを避けようと思っていたのは内緒だ。
「そちらの方々は?」
「彼女たちとパーティを組むことになりました」
「わあ! それは良かったですね。ということは、パーティ結成の申請も必要ですね」
彼女は引き出しから書類を取り出す。
「リーダーは……サンドラさんですか?」
「えっと……」
皆を見る。ちょっと相談して、私がリーダーになった。お試しパーティだ。ひとまず、適当に決めておこう。
「パーティ名はいかがなさいますか?」
「とりあえず……パーティAとかでいいですか?」
皆、うなずく。
会ったばかり面々では、すぐに決められないよ。
「では、"サンドラのパーティ"で登録しておきますね」
「私の名前ですか!?」
「リーダーの名前が一番無難ですよ」
活動二年目のミレイさんに聞くと、どうもそうらしい。ディーノさんやロバートさんの所も、二人の名前をパーティ名にしているそうだ。
そう言えば、彼女の所属していたクランの名前は"嘆きのスコール"と聞いた。ディーノさんの口ぶりだと、リーダーの名前はスコールのはず。
人を束ねられる実力のある人なら、当然目立つだろう。だから、この方が判りやすいのかな?
「では、それでお願います」
最後に、全員の冒険者証を確認する。パーティ欄に記載をして、登録完了だ。
「手続きが完了しました。おめでとうございます。そうだ、サンドラさん。昨日の男子たち、全員亡くなったようです」
ちょっと待って。そんな急に。心の準備をさせて欲しい。
魔法を使って逃走した私にも責任があるのかな、と考えていたけれど。
全員、死んだの!?
「まあ、仕方が無いことです。彼らの自己責任ですので、気持ちを切り替えていきましょう」
またグッと拳を握って、笑顔で励ましてくれる。
この世界、死生観が軽い。
それでも、彼女は頭のネジが緩んでいると思う。
「パーティを組んだからと安心してはいけませんよ。結成したばかりのパーティだと、上手く連携が取れず、お互いに足を引っ張ってしまうケースもあります。まずは森の入り口の辺り、なるべく開けた場所で戦うようにしてください。昨日も注意しましたが、くれぐれも奥には行かないように」
「わかっています。じっくり態勢を整えてから、森の奥の泉を目指すつもりです」
「"あの世行きの泉"ですね」
「違います」
私たちは冒険者ギルドを出て、北門へと向かった。
ルーシーさんが先ほどの話を訪ねてくる。あまり話したくない。
ガラの悪い男子たちに絡まれたこと。森の奥に走って逃げたことを誤解のないように説明する。
「四人いたのに、一角ウサギに負けたの? 確かに、この時期は痩せて動きが早くなってるけどさ」
有力な情報だ。ヘルミンさんも教えてくれたら良かったのに。
「でも、去年の私でも勝てたんだよ」
「うーん。チャラチャラして、素人みたいだったから。ルーシーさんみたいに、戦い方を習っていなかったんだと思う」
彼女は呼び捨てで良いと言ってくれた。カレンさんも。
年長のミレイさんもそう言って、話に加わってきた。
「街の中で生まれ育って、魔物を見たことない人は結構いる。それで、冒険者の自慢話や噂を聞いている内に勘違いする。みんな、大袈裟に喋るでしょ?」
「あー、年中、ホラばかり吹いてる人を知ってるよー」
リッカルドさんのことかな? 飲み会のときに、ドラゴンと死闘を演じた話をしていた。
「それで軽い気持ちで挑んで、返り討ちに合う人間は大勢いる。だから、サンドラも気に病む必要は無い」
ミレイが慰めてくれる。
走ったお前が悪い、と言われるかもしれない。なんて身構えていたけれど、杞憂だった。
このまま仲良くできるといいな。幸先悪いけど、頑張ろう。




