十二話 魔力探知
"始まりの森"の奥に来た私。
このままだと、"終わりの森"だよ。
ここからは魔法使いとして、本気で戦おう。
アイテム袋から、愛用の杖を取り出す。青の柄の先に、金色の装飾具に包まれたエメラルドブルーの魔法石が付いている。
さらに、嵐鋼鉄製の三日月形の刃が装着されていて、短槍にもなっている。非力ゆえに、棒術よりも槍の方が良いと言われた。あくまで、1ターン稼ぐ手段として。
名前は付けてないよ。
私は俗にいう職業ガチャというものでSSRを引いた。勇者だ。説明書にも、イージーモードで遊びたい人は"勇者"を選択して下さい、と書いてあった。
高いステータスを誇り、成長速度も速い。遊び人と種族固有のものを除いた全てのスキルが習得できる。
こいつ一人でいいんじゃないか、を体現した職業だ。
しかし、ゲームが現実世界に置き換わったことで、数値によるステータス表記が消えた。そして、STRが生身の肉体に左右されるようになった。
ここでもう一度、身体能力ガチャのようなものを引くことになる訳だ。結果は一般人と大して変わらない体だった。スキルを覚えても筋力が足らず、剣を振ることができない。折角の勇者職なのに残念だ。
一方で、この世界には魔法がある。こちらの才能はズバ抜けていた。
孤児院時代に気付かれなかったのは、魔法が安定して使えるようになるのが第二次成長期の後だからだ。バレていたら、もっと早く奉公に出されていた。
前世の記憶がよみがえる前、私は洗礼式で"ポーション作成"のスキルを授かった。"錬金術師"に向いていると言われた。しかし、このスキルの場合は"ヒーラー"になれる可能性もあるそうだ。信心が高ければ、"ヒール"か"キュア"の回復スキルを授かっていたのかもしれない。
そして、勇者職に覚醒したことで"魔法使い"のスキルも習得可能になった。攻撃がしたい私は、戦闘用の魔法を率先して覚えた。
二年間のチュートリアルで磨いた技を繰り出す時が来た。
まずは"魔力探知"の魔法で周囲の索敵をする。ゲームだと罠や隠しアイテムを見つける魔法だった。こっちだと魔物も探すことができる。まさに、万能レーダーだ。
ひとまず、危険はないようだ。あの冒険者たちも追って来ていない。
東に進もう。昨日、馬車で通ってきた道に出て、北門に戻ろう。
アイテム袋から磁石を取り出す。正常に動く。
魔力探知を使いながら慎重に進むことにする。使用中はMPがだんだんと減っていく仕様なので注意が必要だ。
MPというのは、精神力とか魔力とか、そういうものの総称。ゲーム内だと、MPとだけ表示されていて説明が無かった。
戦士が精神力を使ってパワーを引き出すことを"スキル"と呼び、魔法使いが魔力を駆使して万物を操ることを"魔法"と呼ぶ。この世界の人が色々と考えて、そういう解釈がされたみたい。
MP切れを起こすと戦えない。早めにMP回復ポーションを飲むようにしよう。
しばらく、歩くと反応があった。
暴ウルフが二体いる。
会敵する前に倒そう。
魔法には火、水、土、風の4属性がある。一般的な魔法使いはその内の1つしか操ることができない。しかし、私は4属性を全て習得できる。
複数の属性を使うと勇者だとバラすようなものなので、土属性のみを使用するスタイルで行く。他の属性よりも覚えが早かったからでもある。
アイテム袋から取り出した2個の石に魔力を込める。すると、石は黄色に光って、宙に浮く。私の左右斜め上で止まる。そこに、さらに魔力を込める。光が強くなる。
「"ストーンバレット"」
2個の石の弾丸が発射され、暴ウルフの頭蓋を砕く。
戦闘に勝利した。
このまま相手が気付く前に倒して進めばいい。せこいけれど仕方が無い。相手の攻撃を避けながら魔力をチャージするのは至難の業だ。
先生は魔法剣士なので、それらを軽くやってのけた。しかし、エルフでSランクの冒険者だ。何の参考にもならない。
やっぱり、私には前衛が必要だ。パーティを組まないといけないのかな。
パーティを嫌う理由なんて特にない。他人にゲームの邪魔をされたくないとか、そんな所だろう。でも、そうも言ってられないようだ。
それから、同じように進んで、昨日通った道に出た。
ここまでにゴブリン3体、暴ウルフ1体、一角ウサギ4体を倒した。大したドロップは無かった。依頼の薬草も一通り集めた。途中でMP回復ポーションを飲んだので、赤字だ。
馬車に乗ろうかと考えたけれど、最後の停留所は過ぎていた。北門に向けて歩いた方が近い。念のため、魔力探知を使いながら進む。二本目のポーションを飲んだ。大赤字だ。
チミリート伯爵領行きの馬車とすれ違う。荷馬車が五台くらい。大きな魔物の毛皮を積んでいる馬車があった。南方で出たドロップアイテムを運んでいるみたい。
また、前から馬車がやってくる。変な仮面を被った男が、私に手を振ってアピールしてくる。嫌気がしたけれど、仮面の方に目が奪われる。仮面と言うより、ゴリラの頭蓋骨だ。あれは"オニザルの面"だ。私もゲームの中で装備していた。戦士系のレアアイテムだ。
他のメンバーを見ると、熟練のパーティのようだ。笑顔でこっちに手を振ってくれる。楽しそうだ。
まずい。南方に行きたくなってきた。
ようやく北門が見えてきた。
疲れた。冒険者ギルドで報告を済ませたら、すぐに宿に帰って寝よう。
門の前の広場に人だかりができている。冒険者の集まりだ。何かあったのかな?
「サンドラさ~ん!!!」
誰かが叫んだ。
この声は、受付の彼女だ。
「うわあああああん」
思いっきり抱きつかれる。一体、何事!?
「おうおう、嬢ちゃん、無事だったか。なぁ、心配要らねぇって言ったろ?」
アッシュさんだ。
他の冒険者も私のことを見ている。
「何かあったのですか?」
「サンドラさんが森の奥に走って行っちゃったって。物凄く心配したのですよ!?」
受付さんが泣きながら説明してくれる。
「え、いや、ガラの悪い冒険者に絡まれて……それで逃げただけですよ」
「その冒険者たちも私が送り出したの。みんな、重症だって。それでサンドラさんも死んじゃったと思って……うぐうぐ、ヒック」
攻撃した覚えはないけれど、どういうことなの?
アッシュさんが代わりに説明してくれた。
私が出会った冒険者は、余所の領地から来たばかりの新人らしい。ろくに心得も無く、生半可な知識で魔物を舐めていた。あの後、一角ウサギに襲われて全滅したそうだ。
運良く他の冒険者に助けられて、彼らは街に帰ってきた。意識のあった男に問い詰めたところ、女の子が森の奥に走って行った、と答えた。それで危ないから助けに行こうとしていたらしい。
私の認識と違う。
「で、その女の子の特徴を聞くと、嬢ちゃんだった訳よ」
何と、ここにいる人たちは私の救助隊だった。ギルマスが手配してくれたらしい。
「それは……ご迷惑をおかけしました」
「気にするな。無事で何よりだ」
バンバンと、背中を叩かれる。マントと皮鎧があるけれど、すごく痛い。
「受付の嬢ちゃんも、もう離してやりなよ」
「うおおおおん」
結局、抱き着かれたまま冒険者ギルドに帰ってきた。
薬草を納品して、依頼達成の報告をする。ついでに、魔物の魔石も売り払う。
「え!?サンドラさんが倒したのですか?」
受付さんが驚く。
もう勤務時間は終わっているらしく、何故か私に付いてくる。
「一応、Dランクですから……」
「サンドラさんはソロで魔法使いですよ? 普通、倒せませんよ?」
「遠くから撃ちました。慎重行けば、何とかなります」
「危険過ぎます。それと、一角ウサギ相手に剣と盾を持って戦っていたと聞きましたよ」
「それはちょっと試しにやってみたくて……」
「もう、次からは気を付けて下さい。パーティ組むまで、"始まりの森"は出禁ですからね」
メッと子供を叱りつける顔で言われた。実力で倒したとは思われていないようだ。
今回、上手くやれたのは"魔力探知"のお陰だ。私と同い年でこれを使える魔法使いはまずいない。
習得できた理由は勇者職の特性である成長速度の速さだけではない。エルフのみんなとの修行で、かくれんぼ大会をしていたからだ。
エルフとの仲を広めるのもまずいと思うので、このことは内緒にしておく。
それから、ギルマスにお礼を言うはずが忙しくて会えなかった。職員さんから、あの冒険者が絡んできた件は後で注意しておくと伝えられた。
そして、飲み会が始まる。
救助隊の面々と、知らない人たち。私は主役なので参加を断ることはできない。お酒を何度も進められたけれど、全て断った。
受付さんも混ざって、くだを巻いていた。
冒険者は騒ぐのが好きだ。今日、生き残れたことを祝うらしい。私も一歩間違えれば危なかった。戻ってからのドタバタで疲れも吹き飛んでいた。私はお腹一杯食べた。
帰りに、受付さんの名前を教えて貰った。"ヘルミン"と言うらしい。この世界では北欧神話がベースの一つになってる。不安になる名前だ。




