表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
11/87

十一話 始まりの森


 朝。

 朝食にタラの塩漬けの干物が出た。しょっぱい。動き回る冒険者には丁度いいのかな。

 アッシュさんたちは一人も目覚めてこない。お酒を浴びるほど飲んでいたから今日一日は動けないと思う。ドワーフなら平気かと思うけれど。単純に寝ているのだろう。

 そんな訳で、一人で冒険者ギルドに行くことにする。

 

 街を歩くと、大勢の冒険者や商人とすれ違う。南方の樹林帯の探索が順調のようだ。今度、あの辺り一帯に名前を付けるらしい。公募して、採用されたら賞金が出るそうだ。私はネーミングセンスが無いから不参加かな。それに、もしもスタンピードが起きたら、事件名になって後世に語り継がれそうだ。君子危うきに近寄らずだよ。




 冒険者ギルドに着いた。

 また肉と酒の匂いがする。酒場では朝から飲んでる人たちがいた。夜間の警備の依頼とか受けていたのかな? 依頼を受けなかった人も混ざってそう。お気楽だな、と思う。しかし、冒険者は危険な職業だ。明日死ぬかも判らない身だから、今を背いっぱい楽しむのだろう。


 依頼書が張り出された掲示板の所へ行く。アルベーデン領のギルドでは一ヵ所にビッシリと詰まっていた。こっちのは広い範囲に複数の掲示板が置かれ、依頼内容も分別されている。遅めに来たはずだけれど、残っている依頼の数が多い。街に活気があると要件も増えるのだろう。


 雑用依頼の所には若い冒険者の人だかりがあった。荷運びや農作業の手伝い、街の清掃などなど。こういった安全な仕事を受けて、装備を整えるのが新人のセオリーだ。

 私には先生の家で使用人として働かせてもらった際のお給金がある。さらに、自前でポーションが作れる。当分はお金の心配は無い。


 私は装備もあるし、狩りに行くべきか否か。後衛一人は危険なので、パーティを募集するべきか。

 周囲を見ていると、パーティメンバーを募集する張り紙を見つけた。パーティ関連のことも専用の掲示板にまとめれていた。

 Dランク以上の魔法使いの募集が2件あった。どちらも、南方の探索に行くパーティのようだ。まだ早いと思うので遠慮しておこう。

 他には新人のパーティが4件。どれにも、早くランクを上げて南方の探索に行きたいと希望が書いてある。危なっかしい気がした。ろくに装備もないまま、ノリや勢いでレベルの高い依頼に挑むことになりそうだ。お断りさせてもらう。


 薬草採集のコーナーに行く。掲示板だけでなく、小さなテーブルがあって、上に依頼書が何枚も置いてある。手に取ると、初心者向けの簡単な依頼のようだ。


 "始まりの森での薬草採集"。Fランクから受注可能。


 新しいギルマスの赴任後、北西の森に名前が付いた。それが"始まりの森"だ。

 森の浅い所での採集みたいだ。依頼されているのは、採りやすい薬草ばかりだ。さらに、判らない人は受付で『薬草マニュアル 初級』を購入するようにと書いてある。これなら新人でも依頼を受けられる。

 少し森の中を歩いてみようかと考えた。今、手に取った依頼を受けてみようか? 私はDランクなので、狩場荒らしになってしまうかも。

 掲示板を見ると、Eランクの依頼を見つけた。内容は見つけるのが少し難しいけれど、比較的浅い所に生えている薬草ばかり。これならいいかも。

 ちょいと始まりの森を散歩しよう。


 依頼書を持って、受付へと向かう。

 空いている所に入ると、昨日の受付嬢がいた。


「あっ!?」


 私に気付いた彼女が大きな声を出す。 

 どうしようか? 目が合ってしまった。

 ひとまず、挨拶してみる


「……おはようございます」

「……おはようございます」


 うーん。

 仕方が無いので、依頼書を持っていく。

 昨日のことを謝られた。責めるつもりもないので、当たり障りのない返事をする。少ない会話をしてから、お互い神妙な顔で手続きを始める。


「サンドラさん、もしかしなくてもお一人ですよね? 依頼を受ける際にはパーティメンバー全員が揃った状態でここに来てもらう規則なのですが」

「はい、知っています。私、一人です」

「危ないですよ?」

「気を付けます。なるべく浅い所で採取します」


 じっと見つめ合う。

 私も馬鹿じゃない。のこのこ森の奥になんて行かない。


「それが……私に送り出されると死ぬ、と噂が立っているのです」


 突然の告白。どういうこと? 怖い。


「一応、亡くなったのは新人や南方の探索に行かれた方々です。受付の中で、私に片寄りがあっただけなのかもしれませんが……」

「南方が危険なのは聞きました。新人もそんなに亡くなられているのですか?」

「はい。始まりの森の奥には暴ウルフやゴブリンが出現します。新人が囲まれると一溜りも無いです」


 どちらも雑魚敵だったはず。しかし、レベル1とか2で、装備も無ければ死んでもおかしくない。


「私、ちゃんと止めているのですよ。奥に行ってはいけません、と。でも、浅い所は人が多くて、それで稼ぎが少ないからって」


 それなら仕方が無い、か。冒険者になるのは向こう見ずな人間が多い。


「絶対に奥には行かないで下さい。魔法使いが素早い暴ウルフの群れに囲まれでもしたら、勝ち目無いですから」


 凄く心配された。彼女が悪い人ではないのはなんとなく分かった。

 



 昨日入ってきた北門に行く。

 あちこちで店を開ける準備をしている。いくつかの屋台は朝早くから営業していたみたいだ。


 北門に着く。

 昨日は馬車の中にいたので、よく見えなかった。城壁は二階建てより少し大きいくらい、門は馬車が通れるくらいの大きさだ。チミリート伯爵領の門と比べると心細い。


 門番さんに冒険者証と依頼書を見せて、外に出る許可を貰う。

 門を出ると広場があって、冒険者が二組ほど話し込んでいた。何をしているのだろう? 同じ採集か、それとも近くの村へ行くのかな?

 私は案内の立て札を見て、始まりの森へ向けての道を進む。五分ほどで到着した。


 森がチカチカしてる。幹や葉っぱにテクスチャが貼ってあるような気がする。ゲームの中の木みたいな、テカテカしたのがいっぱい生えてる。

 他の冒険者たちの姿が見える。どのパーティも薬草マニュアルを持っている。装備も綺麗だ。みんな、新人かな? 見渡すと何組もいる。街の雑用が嫌なのだろうか。これでは儲けも少ないはずだ。

 ダンジョン内のアイテムは時間が経つと再出現する。なので、野菜や薬草を大人数で根こそぎ採っても問題ない。しかし、再出現には一定の時間が掛かる。こうして、人が多いとアイテムが殆ど拾えないこともある。


 私はもう少し先に進むことにする。少しだけだよ。


 依頼の薬草をチマチマと採取する。

 何だろう。ワラビ採りに来た気分だ。ゲームだと落ちているアイテムの上を歩くだけでよかった。こっちだと回収に手間がかかる。だから、あんまりワクワクできないんだよね。

 アイテム袋から剣と盾を取り出す。

 もうちょっと先に進もう。ちょっとだけだよ。

 

 一角ウサギを二体見つけた。角が生えただけのウサギではなく、魔物化したことで狂暴になっている。

 よし、戦闘だ。テンションを上げていこう。

 頭の中で音楽を鳴らす。


 チャララララララララ♪


 剣と盾を構える。

 さあ、どう攻める? 二対一だ。飛びかかってきた方を切り払う。そして、もう一匹に"バッシュ"のスキルを決める。強力な一撃を加えるスキルだ。

 よし、来い!


 パーパカ♪パーパカ♪

 パーパカ♪パラララ♪


 音楽が鳴って、絶好調だ。

 よーし、来い!


 チャカ♪チャカ♪チャカ♪チャカ♪

 チャカ♪チャカ♪チャカ♪チャカ♪

 ズッペン♪ズッペン♪

 ズッペン♪ズッペン♪


 体でリズムを刻みながら、攻撃を待つ。

 ……しかし、向こうは動かない。

 こっちから攻めようかと考えた次の瞬間、敵は左右に分かれた。私を囲んで、円のように動いている。私をかく乱するつもりだ。


「そんな小細工に……あれ?えっと?」


 思ったより、動きが早い。アルベーデン領にいた一角ウサギは動きが鈍かった。思い返すと、目の前のに比べて小太りな個体だった。

 想定外の事態だ。盾を強く握りしめ、ガードに徹する。


「ウサァァァァッ」


 一匹が飛びかかってきた。

 焦った私は剣でバッシュを放つ。それも、突きで。


 ドシュっ!!!

 

 ショートソードが一角ウサギの腹に深く刺さった。手に、一角ウサギの重さが伝わる。勢いにつられて、私は剣を手から離してしまった。

 ここぞとばかりに、もう一匹が飛びかかってくる。

 慌てた私は盾を突き出し、殴るようにぶつける。"シールドバッシュ"だ。一角ウサギはノックバックした。

 私はアイテム袋から剣をもう一本取り出す。そして、スタン状態の一角ウサギに突き刺す。


「やああああ」


 慌てて、声が出た。

 致命傷を受けた一角ウサギは灰になって消えた。後には、魔石だけが残った。もう一匹を見ると、こちらも消滅している。刺さっていた剣に、魔石と木の実が落ちていた。

 戦闘に勝利したみたい。脳内で戦闘終了の音楽を流す余裕も無かった。


「ふぅ……」


 その場に腰を下ろした。

 一歩間違えたら死んでいた。そう考えると怖くなった。

 今までは傍に先生たちがいてくれた。たった一人で戦うのがこんなに辛いなんて。


 私がへたり込んでいると、後ろから笑い声が聞こえた。

 振り返ると、15歳くらいの男子四人組がこちらに近づいてくる。下卑た顔で笑いを浮かべて。

 今の戦闘を見られていたみたいだ。私のことを馬鹿にしているの?


「平気かよ~」

「大苦戦じゃないか」

「一人じゃ危ないぜ」

「何なら、俺たちのパーティに入れてやろうか?」


 大口叩いているけど、あなたたち新人だよね。装備が新品で、ちぐはぐだ。ろくに戦闘経験も無さそう。


「いえ、結構です」

「じゃあ、どうすんだよ。死んじまうぜ」

「俺たちと組めよ」


 男子たちはこっちに近づいてくる。嫌な予感しかしない。

 私は大急ぎで剣とドロップアイテムを拾う。


「何だ!? お前、アイテム袋を持ってんのか?」


 見られた。まずい。

 焦って、何だかよく分からない。とにかく逃げよう。

 "加速"の魔法を使う。猛ダッシュで彼らから離れる。


「あっ、おい!?」

  

 このスキルを使うと動きが早くなるのだ。魔物から逃げるときに使うと便利だ。ゲーム内だと回避率や"にげる"コマンドの成功率を上げたり、行動ゲージのようなものが早くなる効果だった。

 

「おい、待て!」

 

 追いかけてくる。どうして!?

 私はさらに魔法を使う。


 加速!加速!加速!

 




「ぜぇぜぇ、はぁはぁ」


 ゲームと違って、魔力だけでなく体力も消耗する。ポーションを飲んで回復する。これだけ走れば、今朝の塩分の過剰摂取も解消されたかな、なんて。

 冒険者と喧嘩になるイベントはあったけれど、生身でやるのは勘弁して欲しい。

 女子一人なのがまずいのかな。前世でもソロキャンしようとして止められた。


 顔を上げると、周りが薄暗い。雰囲気が違う。結構、走ったけれど……。

 どうやら、森の奥に来てしまった。

 もしかして、ピンチ?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ