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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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十話 到着して早々に大騒ぎだよ


 ステーションを出ると、屋台や露店がいくつも並んでいた。人も多い。凄い賑わいだ。


「活気のある街ですね」

「いや、俺はこんなとこは知らない」

「へ?」


 アッシュさんはこの街の出身だ。

 平和な田舎の領地だと、大きな魔物も出てこない。事件も起きない。望んでも、Dランクまでの依頼しか受けられない。なので、ある程度の実力が付いた冒険者はその領地を出て、別のレベルの高い領地に行く。

 アッシュさんもその一人であり、今ではBランクの冒険者。つまり、大ベテラン。稀に様子を見に、故郷へ帰ってきているそうだ。

 

「半年前に帰ってきたときは、人もまばらで相変わらずの寂れた街だった。何がどうなってんだか」

「岩砂糖の採掘の関係でしょうか? 他に色々と採集できるようになったと聞きましたけど……」

「そうだな。あのボンクラ男爵め!」


 機嫌悪そう。

 故郷が壊されるって、どんな気持ちなんだろう。私でも怒るかな。


 ロバートさんたちもステーションから出てきた。護衛任務を受けていたので、受付で依頼達成の報告をしていた。早い気がするけど、何もなかったから書類にサインするだけだったのかな?

 合流して、冒険者ギルドへと向かう。


「おう、俺の街が滅茶苦茶だ。何だよ、これは」

「んー、また増えてるなぁ。南の方の採集がよっぽどウマいみたいだ」

「ちっ、余所者が好き勝手にしやがって」

「この街の冒険者だと、あの辺で戦うのは難しいから。仕方ないさ」

「お前さんらは行かないのか?」

「危険も多いからな。死人もかなり出てるみたいだ。俺たちは何も焦ることもない。だから、馴染みの人たちの依頼をいつも通り受けてるよ」

「そうか。その方が良いわな」


 馬車の中で聞いた話だと、アッシュさんはこの件には反対の立場らしい。それでも、ドワーフの大公の顔を立てて仕方なく参加することになった。前線にいれば、いち早く兆候を見つけられて、街を守ることができるそうだ。

 私はスタンピードのことについて、彼から質問を受けた。しかし、直前に知らされたので殆ど情報を持っていなかった。みんなが私を驚かそうと内緒にしていた話をすると、猛烈に怒って、エルフの悪口をたくさん言い出した。本当に仲が悪いんだね。




 大通りを歩いて、街の中心部から少し西に行くと、冒険者ギルドに着いた。レンガ造りの綺麗な建物だ。新しいギルマスの着任に合わせて新築したらしい。これは、わくわくする。私の冒険がここから始まるのだ。

 ところが、入った瞬間、肉と酒の匂いが顔に被さってきた。


「うぅ……」


 入って左側は酒場になっていた。結構な数の冒険者が昼間から飲んでいる。


「見ねぇ顔がいるな」


 アッシュさんが呟く。

 飲んでる人たちの中にこっちを見て、手や酒瓶を上げて挨拶する人がいる。知り合いだろうか。下卑た笑みをしている人もいる。私とアイラさんを見ているのだろう。


「先に、依頼達成の報告を済ませておくよ」

「じゃあ、席を取っておくぜ」

「私も配達の依頼があるので、行ってきます」


 入って右側、受付や依頼を貼りだした掲示板などがある。掲示板の前で、職員が若い冒険者たちに何か説明をしていた。他には誰もおらず、私とロバートさんたちはすぐに受付で対応してもらえた。


「はい、手紙の配達ですね」


 窓口にいたのは、ショートヘアの若い女性だ。十代後半だと思う。まだ職務に慣れていないのか、書類に記入する姿がたどたどしい。


「えっと、差出人は……」

「アルベーデン辺境伯さまです」

「えええええ!!!」


 絶叫。ギルド内に響き渡る。

 私、何かおかしなこと言いました?


「……う、受取人は」

「ここのギルドマスターです」

「えええええ!!!」


 大絶叫。酒場の喧騒が止んでいる。たぶん、みんな、こっちを見てる。

 目と口を大きく開けた受付嬢は振り返ると、ギルドの奥へと走って行った。


「えぇ……」

 

 どうしたらいいのだろう?

 横のロバートさんたちを見ると、こっちを向いて固まっている。いや、リッカルドだけ、またウインクしてきた。見なかったことにする。


「どうした、どうした」


 アッシュさんが来てくれた。


「いえ、えっと…」


 説明できないよ。

 ロバートさんたちの報告を聞いていた隣の席の受付嬢と目が合う。ドキッと体を反らすも、すぐに姿勢を整えて話し始めた。

 

「彼女、新人なのです。そそっかしくて、決して悪気がある訳では……」

「そう…ですか、はい」


 おろおろしていると、さっきの受付嬢が巨漢の男性を連れて、その手を引っ張りながら戻ってきた。厳つい顔のいかにも強そうな人。目が合うけれど、怖い。服装からして、ギルドマスターかな? 右腕が無い。先生から聞いた話だと、右手を怪我して王都の騎士団を引退したらしい。やはりこの人で間違いない。


「えーと、何だ?」


 何って、何だろう? どうしろと?


「ギルマス」


 ロバートさんが助け船を出してくれる。


「その受付さんが大声出して、いきなり飛んでったんだ」

「あー、つまりどういうことだ?」

「知らないよ。何で叫んでたんだ?」


 ロバートさんが彼女の方を見る。


「だ、だって、エルフからの手紙ですよ。呪われるんじゃないかって……」


 酷い。エルフ差別だ。愉快な連中だよ。たまに、頭をグリグリしたくなるけど。


「それにギルマス宛の手紙って。スタンピードのことでしょ! やっぱり起きちゃうの!? いやああああ」


 半ばパニック状態の彼女をギルマスがなだめる。

 他の職員さんが来て、彼女を奥の部屋へと連れて行った。

 私は改めて説明する。


「領主様から手紙を配達する依頼を受けて来ました。受付の所で渡せばいいとだけでして、特にその…直接、ギルドマスターへの言伝などは伺っていません」


 勇気を出して返事した。ジッと睨んでくるから、口から出る言葉が詰まりそうになる。


「ギルマス! 嬢ちゃんは卑劣なエルフに嵌められたんだ」


 アッシュさんが話に割ってくる。ここで種族間の喧嘩を持ち出さないで下さい。


「その話は今しなくても……」

「あいつらの横暴はガキのそれで、見た目もガキンチョだがよ」


 駄目だ。スイッチが入ってる。


「アッシュか。久しぶりだ。後にしてもらっていいか」


 ギルマスが慣れた様子で対応する。王都の騎士団にいれば、ドワーフの相手も何度もしたのだろう。ギルマスに抜擢されるだけはある。


「嬢ちゃんは手紙を持ってきただけなんだな。わかった。他の職員に対応させるから待っていてくれ」

「あ、はい。それと……」

「何だ?」

「しばらく、この街に滞在して依頼を受けようと思います。よろしくお願いします」

 

 ちゃんと挨拶できた。偉いぞ、私。


「そうか。頑張ってくれ」


 ギルマスは奥へと戻って行った。怖かった。

 代わりの受付さんに書類を書いてもらう。冒険者カードに依頼達成の記録が入力された。これで私の初めての依頼が完了した。

 これはこれで冒険だったかな。馬車に乗っていただけだったけど。


 ロバートさんたちが待っていてくれたので、一緒に酒場の方へと向かう。私を見る視線が痛い。ソロだと、もみくちゃにされていた。

 アイラさんの隣の席に着く。リッカルドが妙な動きをしていたけれど、ボブさんがまたガードしてくれた。

 乾杯をする。微妙な空気で、さっきの受付嬢の話になる。ここの男爵さまの姪っ子らしい。彼女自身は商家の出で、貴族ではない。たまに、とんちんかんなことをするそうだ。

 少し経つと、みなさんの知り合いの冒険者が次々と声をかけてきた。私も自己紹介することになる。前世は営業の仕事をしていたので、このくらい余裕と言いたいけれど、そうもいかない。大したことは無かったよ。覚えきれないくらい挨拶した。


 あれよあれよという間に夜になった。何人か酔い潰れてる。

 私はアッシュさんたちと同じ宿に泊まることになった。

 ロバートさんたちはパーティで家を買って拠点にしているそうだ。


 ギルド側からは特に何も言われなかった。手紙の内容は知らないけれど、私への用事なんて何もないはず。

 気を取り直して、明日から冒険だ。


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