十話 到着して早々に大騒ぎだよ
ステーションを出ると、屋台や露店がいくつも並んでいた。人も多い。凄い賑わいだ。
「活気のある街ですね」
「いや、俺はこんなとこは知らない」
「へ?」
アッシュさんはこの街の出身だ。
平和な田舎の領地だと、大きな魔物も出てこない。事件も起きない。望んでも、Dランクまでの依頼しか受けられない。なので、ある程度の実力が付いた冒険者はその領地を出て、別のレベルの高い領地に行く。
アッシュさんもその一人であり、今ではBランクの冒険者。つまり、大ベテラン。稀に様子を見に、故郷へ帰ってきているそうだ。
「半年前に帰ってきたときは、人もまばらで相変わらずの寂れた街だった。何がどうなってんだか」
「岩砂糖の採掘の関係でしょうか? 他に色々と採集できるようになったと聞きましたけど……」
「そうだな。あのボンクラ男爵め!」
機嫌悪そう。
故郷が壊されるって、どんな気持ちなんだろう。私でも怒るかな。
ロバートさんたちもステーションから出てきた。護衛任務を受けていたので、受付で依頼達成の報告をしていた。早い気がするけど、何もなかったから書類にサインするだけだったのかな?
合流して、冒険者ギルドへと向かう。
「おう、俺の街が滅茶苦茶だ。何だよ、これは」
「んー、また増えてるなぁ。南の方の採集がよっぽどウマいみたいだ」
「ちっ、余所者が好き勝手にしやがって」
「この街の冒険者だと、あの辺で戦うのは難しいから。仕方ないさ」
「お前さんらは行かないのか?」
「危険も多いからな。死人もかなり出てるみたいだ。俺たちは何も焦ることもない。だから、馴染みの人たちの依頼をいつも通り受けてるよ」
「そうか。その方が良いわな」
馬車の中で聞いた話だと、アッシュさんはこの件には反対の立場らしい。それでも、ドワーフの大公の顔を立てて仕方なく参加することになった。前線にいれば、いち早く兆候を見つけられて、街を守ることができるそうだ。
私はスタンピードのことについて、彼から質問を受けた。しかし、直前に知らされたので殆ど情報を持っていなかった。みんなが私を驚かそうと内緒にしていた話をすると、猛烈に怒って、エルフの悪口をたくさん言い出した。本当に仲が悪いんだね。
大通りを歩いて、街の中心部から少し西に行くと、冒険者ギルドに着いた。レンガ造りの綺麗な建物だ。新しいギルマスの着任に合わせて新築したらしい。これは、わくわくする。私の冒険がここから始まるのだ。
ところが、入った瞬間、肉と酒の匂いが顔に被さってきた。
「うぅ……」
入って左側は酒場になっていた。結構な数の冒険者が昼間から飲んでいる。
「見ねぇ顔がいるな」
アッシュさんが呟く。
飲んでる人たちの中にこっちを見て、手や酒瓶を上げて挨拶する人がいる。知り合いだろうか。下卑た笑みをしている人もいる。私とアイラさんを見ているのだろう。
「先に、依頼達成の報告を済ませておくよ」
「じゃあ、席を取っておくぜ」
「私も配達の依頼があるので、行ってきます」
入って右側、受付や依頼を貼りだした掲示板などがある。掲示板の前で、職員が若い冒険者たちに何か説明をしていた。他には誰もおらず、私とロバートさんたちはすぐに受付で対応してもらえた。
「はい、手紙の配達ですね」
窓口にいたのは、ショートヘアの若い女性だ。十代後半だと思う。まだ職務に慣れていないのか、書類に記入する姿がたどたどしい。
「えっと、差出人は……」
「アルベーデン辺境伯さまです」
「えええええ!!!」
絶叫。ギルド内に響き渡る。
私、何かおかしなこと言いました?
「……う、受取人は」
「ここのギルドマスターです」
「えええええ!!!」
大絶叫。酒場の喧騒が止んでいる。たぶん、みんな、こっちを見てる。
目と口を大きく開けた受付嬢は振り返ると、ギルドの奥へと走って行った。
「えぇ……」
どうしたらいいのだろう?
横のロバートさんたちを見ると、こっちを向いて固まっている。いや、リッカルドだけ、またウインクしてきた。見なかったことにする。
「どうした、どうした」
アッシュさんが来てくれた。
「いえ、えっと…」
説明できないよ。
ロバートさんたちの報告を聞いていた隣の席の受付嬢と目が合う。ドキッと体を反らすも、すぐに姿勢を整えて話し始めた。
「彼女、新人なのです。そそっかしくて、決して悪気がある訳では……」
「そう…ですか、はい」
おろおろしていると、さっきの受付嬢が巨漢の男性を連れて、その手を引っ張りながら戻ってきた。厳つい顔のいかにも強そうな人。目が合うけれど、怖い。服装からして、ギルドマスターかな? 右腕が無い。先生から聞いた話だと、右手を怪我して王都の騎士団を引退したらしい。やはりこの人で間違いない。
「えーと、何だ?」
何って、何だろう? どうしろと?
「ギルマス」
ロバートさんが助け船を出してくれる。
「その受付さんが大声出して、いきなり飛んでったんだ」
「あー、つまりどういうことだ?」
「知らないよ。何で叫んでたんだ?」
ロバートさんが彼女の方を見る。
「だ、だって、エルフからの手紙ですよ。呪われるんじゃないかって……」
酷い。エルフ差別だ。愉快な連中だよ。たまに、頭をグリグリしたくなるけど。
「それにギルマス宛の手紙って。スタンピードのことでしょ! やっぱり起きちゃうの!? いやああああ」
半ばパニック状態の彼女をギルマスがなだめる。
他の職員さんが来て、彼女を奥の部屋へと連れて行った。
私は改めて説明する。
「領主様から手紙を配達する依頼を受けて来ました。受付の所で渡せばいいとだけでして、特にその…直接、ギルドマスターへの言伝などは伺っていません」
勇気を出して返事した。ジッと睨んでくるから、口から出る言葉が詰まりそうになる。
「ギルマス! 嬢ちゃんは卑劣なエルフに嵌められたんだ」
アッシュさんが話に割ってくる。ここで種族間の喧嘩を持ち出さないで下さい。
「その話は今しなくても……」
「あいつらの横暴はガキのそれで、見た目もガキンチョだがよ」
駄目だ。スイッチが入ってる。
「アッシュか。久しぶりだ。後にしてもらっていいか」
ギルマスが慣れた様子で対応する。王都の騎士団にいれば、ドワーフの相手も何度もしたのだろう。ギルマスに抜擢されるだけはある。
「嬢ちゃんは手紙を持ってきただけなんだな。わかった。他の職員に対応させるから待っていてくれ」
「あ、はい。それと……」
「何だ?」
「しばらく、この街に滞在して依頼を受けようと思います。よろしくお願いします」
ちゃんと挨拶できた。偉いぞ、私。
「そうか。頑張ってくれ」
ギルマスは奥へと戻って行った。怖かった。
代わりの受付さんに書類を書いてもらう。冒険者カードに依頼達成の記録が入力された。これで私の初めての依頼が完了した。
これはこれで冒険だったかな。馬車に乗っていただけだったけど。
ロバートさんたちが待っていてくれたので、一緒に酒場の方へと向かう。私を見る視線が痛い。ソロだと、もみくちゃにされていた。
アイラさんの隣の席に着く。リッカルドが妙な動きをしていたけれど、ボブさんがまたガードしてくれた。
乾杯をする。微妙な空気で、さっきの受付嬢の話になる。ここの男爵さまの姪っ子らしい。彼女自身は商家の出で、貴族ではない。たまに、とんちんかんなことをするそうだ。
少し経つと、みなさんの知り合いの冒険者が次々と声をかけてきた。私も自己紹介することになる。前世は営業の仕事をしていたので、このくらい余裕と言いたいけれど、そうもいかない。大したことは無かったよ。覚えきれないくらい挨拶した。
あれよあれよという間に夜になった。何人か酔い潰れてる。
私はアッシュさんたちと同じ宿に泊まることになった。
ロバートさんたちはパーティで家を買って拠点にしているそうだ。
ギルド側からは特に何も言われなかった。手紙の内容は知らないけれど、私への用事なんて何もないはず。
気を取り直して、明日から冒険だ。




