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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
プロローグ
1/86

一話 私は誰?


「ゴブリンだああ!!!」

「やべぇ、数が多い」

「馬車の外へ出るな」

「後ろからも来るぞ!?」


 何も慌てることはない。こっちはLv92のドワーフだ。蹂躙してやる。私は斧と盾を構えようとする。しかし、手には何も持ていなかった。


「あ、ゲームと間違えてた」


 ちょっとやり込み過ぎたかな。現実と区別がつかなくなってる。そう、これは現実なのだ。


「ぐああああああ!!!!」

「ゴブリンの大群だあ!?」

「馬車から降りて走れえええ!!!」


 ゴブリン? どういうこと? ゴブリンなんている訳が…そうだ、私は見たことがある。人型の小さい怪物。街の外へ薬草を積みに行ったときに襲われた。

 あの時は護衛の冒険者さんたちが倒してくれた。でも、その日は怖くて眠れなかった。


  いやいや、現代日本にゴブリンがいる訳が無い。伝承やゲームに出てくる怪物なのだから。


  違う、ここはクノテベス王国。


  いやいや、クノテベス王国はゲームの舞台だ。やっぱりゲームなんだ。疲れているのか幻覚でも見ているのだろう。


「逃げろ逃げろ」

「うわあああ」

「きゃあああ」


 次々と悲鳴が上がる。一緒に馬車に乗っていた人たちが慌てて外へと飛び出して行く。私も馬車を降りた方がいいのかな?

 その時、怪物が目の前に現れた。


「ゴオオオブブブブブ」


 ゴブリンだ。たぶん。ゲームと見た目もそっくり。50cmくらいの背丈に緑色の瘦せこけた体、子供のような外観。醜い表情、口も裂けている。

 私を襲うつもりか。甘いな。こんなこともあろうかと、スポーツジムで棒術を習っていたのだ。脇に置いてあったホウキを手に取り、ゴブリンを思いっきり突いた。


「ゴアアアア」


 やったか。OLを舐めるなよ。フハハハ。


 OL? 何? スポーツジム? わからない?

 

「ゴッブゴッブゴッブ」


 む、あんまり効いていないようだ。ちょっと鍛えてるつもりだったけれど、24歳の女の腕力ではダメなのか。

 

 え? 24歳? 私はまだ12歳だよ。この間、洗礼式を受けたばかり。


 自分の体を見てみる。子供っぽいワンピースを着ている。小さい。手も足も体も。ホウキが異様に長く見える。私の体じゃない。


 私? 私はユミル。


 んん? 私は柚実瑠ゆみる


 何? どういうこと?

 

「ゴゴゴゴゴ」 


 ゴブリンは数歩下がって体制を整えようとしている。しかし、ゴブリンの姿が突然消えた。馬車から落ちたのだ。下を覗き込むと、頭から落ちたようで気を失って痙攣している。とりあえず、終わった?


「助けてえええええええ」

「ちくしょう、何匹いやがるんだ」

「もう逃げるしかねぇ」


 馬車を降りて、周りを見る。人がゴブリンに襲われている。どこもかしこで。馬車は全部で八台あった。それで真ん中くらいにいたはず。前も後ろも、あちこちでゴブリンが暴れている。


「どういうこと?」


 ゴブリンは弱い魔物と聞いている。新人冒険者が相手にするものだって。それに、出ても数匹のはず。それがこんなにたくさん。どうして?

 休憩の時に飴をくれたお姉さんのことが頭をよぎる。衣装や一緒にいた人たちの様子から、魔術師の冒険者だと思う。街の外を移動するときには魔物や盗賊に襲われないように、護衛として冒険者を雇うのが常識だ。


 飴玉はとても甘かった。そういえば、砂糖って希少だったよね。


 …希少?


 あんな美味しい飴玉を持っているんだ。きっと強い冒険者に違いないってことだよ。


 うん、そうなのかな?


 そう。たかがゴブリン。どんなに数が多くてもへっちゃらさ。範囲魔法で、ド~ン☆だよ。


 ド~ン?  

 誰と話しをしているの?

 私?


 私は君に……君? ……ん、私?


 ?????


 ????? 



 ふと、周りを見る。あの魔術師の女性が倒れている。ゴブリンが馬乗りになって、彼女の背中をナイフで刺している。

 見てはいけないものを見てしまったような、気味の悪い、濁った感情が昇ってくる。

 

 あれは違う。違う。違う。


 さらに、周囲を見渡すと、次々と人が倒れていく。そして…。


「ゴギィィィィッ!!!!」


 ゴブリンに見つかった。

 後ろを向く。森の中に、人が通れそうな開けた道がある。飛び込んだ。走る。

 後ろからゴブリンが追いかけてくる。それも、二体!?


「「ゴブゴブゴブ」」


 うまく走れない。子供の体だからか。

 これはアレだ。つまり、そうだ。だから、間違って大人の動きを脳が指示しているみたい。

 少し開けたところに出た。持っていた箒をゴブリンへと投げつける。二体のゴブリンに箒が当たる。ダメージは無いみたい。ただ、二体が箒を払いのけようとして、引っ張り合いを始めた。


「「ゴッ、ゴッ、ゴッ!?」」


 箒を掴んで、二体が立ち止まっている。この隙に。私は森の中を駆けた。

 木の枝が体のあちこちに当たる。痛い。どうしてこんなことにったのか?

 私はこの状況に一つだけ心当たりがある。"異世界転生"だ。別世界に生まれ変わる現象だ。

 いや、でも、ゲームの世界に行くのは変じゃないかな?


「「ゴオオオオオオ!!!」」


 ゴブリンが追いかけてきた。まずい。このままでは殺される。転生して、すぐに死ぬとか勘弁してほしい。

 RPGの世界に転生したのだから、何か不思議な力を使えるのではないか。そうだ、先日の洗礼式で私は神様からスキルを授かった。"ポーション作成"だ。うん、役に立たない。


 どうしよう? どうしよう?


 次の瞬間、体が急に軽くなった。


「飛んでる!?」

 

 なんと飛行能力を手に入れた。これが異世界チート。凄いよ。


ヒュウゥゥゥゥゥゥ!!!


 何かおかしい。左右で地面が空に向かって上昇している。これは飛んでいるのでは無く……落ちて


バッシャアアンン!!!




~~~~~~~~~~~




 生きてる?


 体の周りに水が流れている感触がある。仰向けになっているのか、顔の上に太陽が乗って眩しい。しかし、動く気力がない。とりあえず、頭は回るので状況を整理してみよう。


 私はユミル。12歳の孤児の女の子。

 クノテベス王国のとある街の孤児院で暮らしていた。色々あって、乗っていた馬車がゴブリンの群れに襲われた。そして、崖から落ちて、今、川に流されている。

  

 前世の私は柚実瑠ゆみる。日本に暮らす24歳のOL。

 ド田舎の県で生まれ育つ。大人になってからは、叔父のコネで広告代理店に就職した。そこからは飲み会に参加したり、スポーツジムに通ったり、家でゲームをしたりして過ごしていた。ようするに、深く考えずダラダラと生きていた。

 うちの会社では定期的に健康診断を受ける決まりになっている。それで人間ドッグに行ったら、入院することになって…。


 ゲームの中の私はアレクサンドロス・フォン・ドワッフフフ爆爵。…なんて名前だ。ドワーフの戦士。冒険者。

 入院中、私は"クノテベス・サーガ"という怪しいゲームで遊んでいた。半額セールで偶然見つけた。

 まず、"クノテベス"の意味が分からない。検索しても不明。

 そして、こっちの私も意味を知らない。一度、院長先生に尋ねたことがある。誰も知らないことで、昔からそう呼ばれているらしい。

 とにかく胡散臭い。知らないメーカーが作った謎のゲームだ。

 しかしながら、遊んでみると非常に面白い。

 プレイヤーは冒険者になって、西洋ファンタジー風の世界を自由に巡ることができる。複雑な操作性もなく気楽に遊ぶことができた。やり込み要素も豊富だ。

 私はキャラメイクでドワーフの戦士を選択し、ソロプレイを強行。レベルをたくさん上げて、ソロで魔王を倒すことに成功した。

 

 ひとまず、このゲームの趣旨は"勇者が魔王を倒して世界を救う"ことだ。

 こっちの私の記憶を遡っても、魔王の存在は出てこない。いないのか、これから出てくるのかは不明。

 そして、勇者はいる。二年前、勇者の称号を受けた少年が王都から旅立った。私の街でも旅立ちを祝ってお祭りが行われた。だから、もし魔王が出現しても彼に任せておけば大丈夫ということだ。


 とりあえず、私は物語の蚊帳の外にいることがわかった。

 これからどうしようか?

 孤児院には事情があって戻れない。それなら、冒険者として生きよう。まだ達成していないクエストも一杯ある。異世界転生したなら、とにかく楽しまないと。なんだか、ワクワクしてきた。


 その時、虫の知らせのようなものを感じた。慌てて、自身のステータスを確認する。頭の中にゲーム画面のようなイメージが出てきた。こっちの世界では常識なので、この現象に違和感は何も感じなかった。そして、恐る恐る職業の項目を確認してみる。


 職業 勇者


 冗談でしょ…?


よくある異世界転生ものです。初連載です。書くの遅いけれど頑張ります。

「いいね」など押してもらえると励みになります。よろしくお願いします。

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