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感情FEVER 学園編  作者: きんたろ
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9.『双子山』

 時間は14時少し前。待ち合わせ場所であるコンビニの脇にある喫煙所の近くで、一人佇んでいる女子が居た。高校生であり、ましてやお嬢様であるケイトが煙草を吸う筈もなく、店の出口の近くでは迷惑がかかるからと少し離れているだけのこと。


 ケイトは横断歩道の向こう側の景色を見ながら、ふと小学生の時のこの場所での出来事を思い出す。


--

ザーー。


 『習い事』の帰り道、夕方4時位から降り始める予定だった豪雨に2時間早く見舞われた。傘を持参していなかったので、これ以上濡れたくないと、やむなくこのコンビニのビルの端で雨宿りをしていた。一向に雨が収まらないどころか、さらに強くなる雨と、夕方に近づくに連れ、だんだんと心細くなっていくケイト。


(この大雨だったら頼んでも別にいいかな……?)


 という『自分を納得させる』気持ちで、スマホを手にした。人には迷惑をかけたくない気持ちがある。たとえそれが親に、


『何かに困ったらここに電話するように』


 と言われていても、なるべくは人の手を借りることなく解決したい。子供なりの『気配り』があった。電話を掛けるとすぐに相手が応対した。


「お疲れ様です、お嬢様。コンビニ前ですね。そこなら7分程で到着いたします。これから向かいますので、しばらくお待ち下さい。では。」

「うん。ありがとう。」


 自分から説明することなく、その返事だけですぐに迎えが来てくれる。お嬢様であるケイトは実はその居場所は完全に把握されているのだが、ケイトが自分から助けを求めない限り出向かないのは、父親である社長の命令だったためである。実際のところ、ケイトの居る位置のはるか上空には、ケイトを見守っている飛行機体が存在していて、ケイトに『完全なる危機』があった時、時間にすればものの1分でケイトの目の前に『救出班』が現れる事が出来るようになっているのだが、その班は雨宿り位では動かない。この場合動くのは、『地上班』で、それはケイトが求めた時だけやってくるのだ。


(向こうの山の方はなんか明るいのだけどなぁ…)


 そう思った時、傘を差した小豆色の髪の毛の女の子が、ケイトの方に走ってきた。


「やっぱりだ〜!ケイト〜!!」

「あぁ!茜〜!」


 そこは茜の家の近くてあり、ベランダからはコンビニが見える。ふとみたらケイトがコンビニ近くに居たので来てみたのだ。そして傘を持っていない為にここで雨宿りをしているということがわかった。


「あー持ってくれば良かった!ちょっと待ってて!傘もう一本、家から取ってくる!」

「あ、大丈夫だよ!いま車がきてくれ…」


 子供のころの茜は少し早とちりというか、思ったらすぐ行動する女の子だったので、ケイトの返事を最後まで聞くことなく、その行動を先に実行した。家に戻って帰ってきて5分強。


「はい!傘持ってきた!」

「ありがとう。それは凄く嬉しくて申し訳ないのだけど…」


 と言い、同時にやってきたASAHINA Group車体の横に印字されているワゴン車を指さして


「でも頼んじゃった…」


 と言ったその声に、茜は


「あぁ〜、あたしまた早合点しちゃったのか……!あははは」


 と笑った。その笑顔が大好きなケイト。自分も笑顔になった。地上班のドライバーがワゴン車から出てきて、丁寧に話し掛ける。


「お嬢様、どうぞ。よろしければお友達もご一緒に。どうぞ!」

「乗っていく?」


ケイトが茜に聞くと、


「なんか逆に悪いなぁ。でも…じゃあお言葉に甘えます!」

「はい!」


ワゴン車は二人を載せて静かにコンビニから去っていった。


--


 そのいつかのことを思い出しながら待っていると、コンビニのドアが開いた。コンビニから出てきたのは、先程思い出していた小豆色の髪の色をした女の子が成長した姿だ。

茜がケイトに話しかける。


「ケイト、おっつ~!」

「あ、茜。もう居たんだね!」

「うん、ちょっとお手洗い借りてた」


 今日は学校全体が午前授業のみの日。一旦帰ってから待ち合わせることになっていたが、二人とも、着替えずに制服のままだった。


 コンビニに貼ってあったポスターをみながらケイトが言った。

「今年は江茂志市の催し、何をやるんだろうね?いつも突然決まるよね。ここの市長さんは、計画立ててないのかしら。」

「何が開かれるかは全然わからないね。ただ…」

「うん?」

「今年は曰く付きの年なんだ。」

「曰く付きの年?」

「ここの地方紙を前から注意深く読んでいたら、あることがわかったんだ。この街の市長、基本何事もなければ普通に継続だけど、変わる時は任期を待たずして、突然変わる。そして変わる直前には、『とんでもない催し』が開かれるんだ。発起人は市長なんだ。その後、元市長がどうなったとか、普通公開されたり問題視されるはずなのにまるで元から居なかったかの様に白紙になり、副市長が市長となっているんだ。それが大体4年に一度なんだ。」

「それが今年で、何か起こると?」

「かも知れない」


 それはケイトが初めて知ったことだった。茜の興味に関心する。それは茜が『読書好き

』だからという事からきているんだろうとも思った。しかし同時に、茜のいう『この江茂志市にずっと根付いてるいわく、黒い何か』の存在を聞いて、『何かが起きるのか』という不安を少し抱いた。


 14:00だった約束の時間を5分程過ぎた時だった。


「あ、来たー!二人!」

「うん!」


 心とレナが、信号の向こう側で青を待っている。なにを喋っているのかは分からないが、楽しそうにお互いを小突いたりしている。


「おっつー♪さっきぶり~」

「やぁやぁお二人さん!ってかごめん!ちょっと過ぎちゃった」

「ごめーん」

「まぁ5分くらいだし別にいいよ!」

「うんうん」


「それじゃ!あの山の『赤いビーム』の源の場所へいってみよう!」

「おー!」


 コンビニからその山までは、10分も掛からない距離だった。山がある北方面への道は一つしかないのでその道を歩くしか無かった。


 世界には二峰が接近して並び、『双子山』と呼ばれる山が幾つも存在する。それは江茂志市にもあった。内陸と海岸を隔てるようにその双子山はそびえている。その内の片方の山は、最近、巷で『動物でも人間でもない何かが居る』と噂され、通称ヤマンバ山と呼ばれるようになった山だが、今から心達が行こうとしているのはヤマンバ山ではなく、標高の高さから双子山とされているもう一つの山の方だ。その名前は呉塩土山。ヤマンバ山より標高がほんの少しだけ低いその山は通称、くれやま、クレッシェンドなどと呼ばれていた。クレッシェンドへ行くにはヤマンバ山の麓を左手に通りすぎるのだった。

 

 休みの日に限っては、そこにはアスレチックで賑わっている子供達の声が聞こえてくる。アスレチック施設の前の道路にはここに遊びにくる家族達の車なのか、休みの日は結構な交通量だ。アスレチック施設内が木々や大きな看板により見えないため、中がどのような感じになっているのかは入ったものにしか分からないが、楽しそうな子供達の声が聞こえてくるし、隣接している広い場所には世界中にある某ハンバーガー屋もまた沢山の客を集めているのだろう。

 しかし今日は平日。アスレチック施設の方からは子供の声は聞こえないし、道路の交通量は多いがアスレチック施設に入ろうとする車は心達が通り過ぎた時は無かった。

 その後、途中の二股などに差し掛かった時の道の選択では赤いビームを頼りにやってきた4人は、5分程すると目的とする赤いビームの源がある山『クレッシェンド』の入り口の道に到着したのだった。


 これから『登山』目的地まで行こうでとすれば、帰りは暗くなってしまうであろう事は想像出来る。4人が今日の放課後で良いと思ってやってきたのは、『ロープウェイ』がある事を知っていたからだった。登山では数時間はかかるだろうが、それに乗れば、すぐに山頂に着く事が出来ると思っての事だった。


 クレッシェンドの麓には、入り口に向かって幅の広い道があり、その左右には山に訪れるものを歓迎するかのように平日でもそば屋や土産屋が営業していた。


「あぁ、お腹へったなぁ」

「ふふ、帰りにやってたら寄ってみる?」

「うんうん!」

そば屋を見たレナがいうとケイトが答えた。


「あ!ロープウェイ乗り場!」


心が指をさして言った。


「うん!」


そうして4人はロープウェイ乗り場の方へと向かって行った。






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