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感情FEVER 学園編  作者: きんたろ
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7.宴のあと

 辺りはすっかり真っ暗になった。CLEAN HOUSEの店の前で、心達4人が話している。


「ケイト、あんたにあんな力があるなんてな。さっきの【手の光】と【巨木の幻影】は、

未だに信じられないよ。」

「私も!」


 レナが言うと心も頷いた。ケイトは茜の方に目をむけた後少しドギマギした様子で応えた。


「うん……」

「あぁ、あのさ、ケイトには、【ちょっとした力が宿ってる】、で今は良くない?そっとしてあげて欲しいんだ。」

「私はさっきの出来事をわざわざ説明する相手なんて居ないよ。てか説明出来る程、意味わかってないしな。ははは!」

「うん」


 茜が提案するとレナが応え、心がまた頷いた。ケイトは静かにお礼を言う。


「ありがとう……。」

「明日から暫くは、4人で一緒に帰ろう。その方が安全だよ。」

「そうだな。こうなったら次に【クロコー】の奴らに誰が狙われるかわからないし、一人の時にナイフ男が複数きたら厄介だしな。」


 茜が提案し、レナ応える。


「ちなみに、私の家、ここだから。」


 駄菓子屋兼雑貨屋であるCLEAN HOUSEを指差す心。


「さっき、うちの店を!って言ってたからわかってるよ。」

「それにしてもガラス2箇所も割られて頭にくるなぁ……また出費が嵩むよ…」


 家計の事を心配する心。


「あぁ、それなら大丈夫。さっき頼んどいたから。」

「え?何を?」


 心がケイトに尋ねるやいなや、バタンと車のドアを閉める音が聞こえた。


 いつの間にか近くの駐車場に止まっていたワゴン車から出てきた白い作業着の男性が2人、心達4人の前にやってきた。笑顔でとても物腰の柔らかそうな、青年と言える見た目の二人だった。作業着の胸のポケットの部分には、ワゴン車の側面に印字されているものと同じ、洗練されたデザインで【ASAHINA Group】という文字があった。


「こんばんはー!あ、お嬢様。お元気ですか?」

「うん!来てくれてありがとう!」

「あー、ここですね。」

「そう!ガラス張りがこんなになっちゃってるから両面、直して欲しいの。」

「はい!お安い御用です。直すというかこれは簡単に交換可能なタイプなので差し替えるだけですね!30分も掛かりません。」

「ありがとう!」

「どういう事……?」


 心がケイトに尋ねるが、茜がケイトを称えるように両手をひらひらとさせて言う。


「大金持ちの!ご令嬢~!!」

「え?」


 すぐにわかったレナが代わりに応える。


「お前、朝比奈グループ知らないのか?テレビのCMでよく流れてるだろう」

「知らなぁぃ」

「まじかよ、あんなに有名なのに!まぁ、それはいい…。そこの親会社の、社長の娘さんなんだろう。ケイトは。」

「ってことは……?」

「大金持ち!!」


 ここぞとばかりに茜も得意げに言った。


「あんまりそれは言わないで……なんか、嫌……。」

「でも、悪いよ……。」

「ううん!父親から命じられているの、ノルマがあるの……月に幾ら幾ら、人助けの為に大いに金使えって……。使った値段も伝えなきゃいけないの。これを直しても全然その金額にならない。だから……逆に助けると思って、お願い!」

「えええええ!すっごぉい!」

「なんたる悩みだ!!うらやま……しい……」

「あははは」


 心は感謝し、レナはとても羨ましがり、茜はその様子を見て笑った。

 数時間後に高級な防弾ガラスで覆われたこのCLEAN HOUSEは、この夜以降、たとえ電気を消していてもその機能故か、間接照明のように薄っすらと辺りを照らすようになったのだった。


--


「あっはっはっはっは!!おじさん、面白い人ぉ!」


 4畳半の部屋で、駄菓子が沢山置かれたローテーブルを囲んでみんなで老人の話を目を輝かせて聴いている。心は今まで、自分の部屋に誰も招待することは無かった。それは親友であるレナとは毎日【道場】で会えるし、その帰りにレナとCLEAN HOUSEに入っても、店の駄菓子を持ったら近くの公園で話す事が多く、わざわざ部屋に入れる機会もなかったからだが、この日は特別というか、なんと言ってもケイトのお陰で生まれ変わった改装後の店の外観が綺麗になった嬉しさからか、今すぐ近くに居るCLEAN HOUSEの店の主人であり、自分の保護者である【じっちゃん】をみんなに紹介したくなったのだ。


 その男性の名は青空丞あおぞらじょうだが、わざわざ名前の紹介はしないで、心は「じっちゃんだ」とだけいい、それ以外の事は言わなかった。逆に3人の中で、他の家族の事を聞こうとする者も居ない。この時間に他に家の人がいないということは、二人だけの家族なんだろうと思うだけだった。


「そうしたらよぉ、その客人、こんな顔してやがった!」


 この店で起こった喧嘩の笑い話。タコのように口を突き出して見せる丞。


「やめて!その顔やめて!腹いてええええええ」

「はははは!」

「まぁ…!」


 レナと茜は大笑いし、ケイトは上品に手を口の添えて笑う。またその話かと、呆れて笑っていたが、なんとなく自分の席を離れ、窓のカーテンを開ける心。


「あ…」

「おぉ!?すごい!大っきくない!?」

「綺麗だなぁ……」

「満月かぁ」


 卵のような月の光は心達の居る4畳半を一層明るくしていた。


「なんか、不思議な気分だ。」

「うん」


 レナが言い、茜が答えた。ケイトが言う。


「わたし、こんなにきれいな満月初めてみた……」

「じゃぁ、記念日だな!」


レナがまた答え、続けて言う。


「奇跡が起きた夜、私達4人は心の部屋に集まって、皆で綺麗な満月をみた……。」

「うん」


 皆頷く。場の空気を読んだのか、丞の姿はいつの間にか部屋から消えていた。


「そろそろ、私帰るね。」

「じゃぁ私も帰る」

「もうこんな時間か。また明日学校でも会おう!」

「うん!」


 茜がそういうと、同じ帰り道まで一緒に帰る事になった。心に挨拶してCLEAN HOUSE をあとにする3人。


「またなー!」

「うん!」


 3人の帰り道は少しの時間、方向は同じだった。


「いやー、今日は色々あったけど、結局は楽しい日だった!」

「わたしもよ」

「心のおじいさんも、良い人だったね。面白い人だけど、それよりも優しさの方が感じられた」


 茜がそういうと、レナが答えた。


「確かに、そんな感じだったな。なんていうか、言葉使いはアレだけど、返事してくれる時、あぁ、この人はちゃんと相手の事を考えて親身になって言ってくれる人だなって感じたよ」

「私は、昔から偶にしか両親と会わないから、少し羨ましかったよ。」

「あぁ……。ケイトのご両親は、そりゃ忙しいんだろう。」

「わかってる。べつに不仲とかじゃないの。でも羨ましいな。一緒にいられるの。」

「ま、人それぞれ、色々あるしな……」

「うん」


 茜の最後の返答は、どこか、自分に言い聞かせているような感じだった。そして茜が言った。


「それじゃ私、家むこうだから。また、明日ね!」

「おー、また明日!」

「気をつけて帰ってね。おやすみ」


 22:00。茜は一人、今日の出来事を思い出しながら家に向かっていた。特別気になることは、やはりケイトの事だった。科学で証明できそうにない出来事が実際に起きたらこんな気持になるんだとも思った。しかもその発端が、自分が今カバンの中に持っている本が原因だと思うと、不思議な気分だが、ある種の可能性を考えると、期待感もあった。


(ケイトにも宿ったのだから、わたしにも何かあるはず!)


 しかし、家の前にやってくると、そういった前向きな気持ちはすぐに消え失せてしまう。学校ではいつも明るくて人気者の茜であるが、実は心の中に恐れを、みんなに内緒で隠しもっている。それが鳳茜という人間だった。


 このアパートの部屋には存在するのだった。恐れの原因となる理由が。


「ただいま……」

「ガッシャーン!」


 玄関を開けるやいなや自分がいるキッチン側と居間を隔てるガラス引き戸に何かが飛んできて割れた。その隙間からキッチンへと流れてくる液体。炭酸を帯びたそれを見て、ビールの入った、コップか何か投げつけてきたのだとすぐわかった。父親がいる時は、一旦玄関から出てあるものを外から持ってくるのがもはやルーティンになってしまっている。

 威嚇の為の長めの棒をもって小脇に抱え、カバンを盾のようにして部屋に入る。


「おまえ今まで何してたあぁ!!」


 今度はビール瓶が飛んできた。カバンでそれを防ぐ。毎日飛んでくるので警戒するようになり、よけるのはいつのまにか難しくなくなった。怖いのはすぐそばに立った時だった。あの力で暴力を振るわれたら自分の心と身体にダメージが残る。それが学校でバレると【この人】と住めなくなってしまう。長めの棒は、家庭内暴力の証拠とならない様にするためだけの、父親と自分を離すためだけに使うものだった。自ら攻撃しようと思っているわけではない。父親の周りに投げられそうな物がないとわかったらもっている棒とカバンはすぐにキッチンの隅に置いた。


「それでなにをしようってんだぁ?!」

「親父……、静かにしてくれよ……近所に迷惑だよ……」

「周りなんて関係ねーんだよ!おう!酒買ってこい!切れた!」

「一日一本にするって約束じゃん!」

「いいから買ってこい!もっとうるさくするぞー?!」

「わかったよ……」


 鳳茜は家に帰った時いつも思う。


--

 私が見放したら、この人の人生は、たぶん終わる。でも、父親は父親だし、この人は最初からこうだったわけじゃない。どうしたら昔のお父さんに戻ってくれるのだろう…。

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