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感情FEVER 学園編  作者: きんたろ
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6.ある奇跡

「なんだ…その…手の光は……!!」


 ケイトの神々しい光を放つ手を見た茜が発した言葉だった。


「なんなんだ?それ……?さっきの声は……」

「分からない……。でも、何か今までに味わったことのない、凄い力を自分から感じる……!」


 先程までの歓喜に満ちた笑顔の時とは違って、声の抑揚は既にいつものケイトに戻っていた。


「とても信じられない現象だ……。大丈夫なら……いいけど……」

「大丈夫……。茜のその目尻の傷を治してあげたい…って今思ってる」

「う?うん……ありがとう……」

「なんかね、そう思うと、もっと力を感じるの。漲ってくるの。」


 目の前で起きている信じられない現象への驚き……。それは勿論あるが先程のケイトのまるで別人のような言動もまた気になった茜に対し、ケイトも茜の傷をいたわる気持ちを伝えるが、【力】を得たケイトの手はさらに輝きをましてくる。


「そうなん…だ?あ!」


 茜は心たちと戦っている黒い学ラン達の中にまだ存在していたナイフ男を見つけた。それが今真下にいる!男はナイフを握った手を心の頭に振りかざそうとする。それを見たレナがそこに走ろうとするが間に合わない!


(間に合うのは私だ。)


 茜は避雷針の先端をナイフ男の額ど真ん中を狙いをつけ、


「おい!」


 ナイフ男に注意を促した。こっちを向いてくれたので狙い通りの場所にそれを当てるのは簡単だった。ナイフ男が頭上を見ると、影となった何かの先端が自分に当ってくるのだけが意識できた。


「ンガッ!!」


 避雷針の先端はナイフ男の額ど真ん中を命中した。


「あいつ……。心を助けてくれた!ん?なんだあの光は……」

「あ、ありがとう!ん……!?」


 異変に最初に気づいたのは助けようとしたレナだった。音で心も自分が狙われていた事に気づくがその後目で見た光景をみて不思議がり、さらに黒い学ラン達もそれに気づき不思議がる。


「何だ……?あれは……?」

「ん?」

「んー?何なんだ?あの光は?スマホ持ってねぇしなぁ?ん~……?」


 ケイトの不思議な手の光を見て黒い学ランたちも口々に言ったが、茜の言葉で【その舞台】が一変した。


「じゃじゃーん!!一度しか見せないマジックを見せてしんぜよう!!」


 芝居がかった茜の言葉がその場に響き渡った。


「何言ってだあいつ?!降りてきやがれぇ!!」

「まぁまぁまぁ!そんなに時間は取らせません!いいから見ていきんしゃい!」


 黒い学ランたちを軽くあしらう茜。


「あの子、あぁいうキャラだったの?」

「知らん……」


 茜のセリフに少し戸惑う心達をよそに、続けられる茜の言葉と、黒い学ラン達の横やり。


「このケイトちゃんの神々しい手の光をよくご覧なさい!種も仕掛けもございません!」

「なんなんだよ!それー!おかしいぞ!手が光ってるけど!絶対トリックだろうが!」

「そこ!うるさいよ!種も仕掛けもございまっせん!」

「で?どうなるの?これからなんかやるの?」

「この手に念を込めて頂きます!するとどうなると思う!!」

「あぁ?!お前の目の横の傷が治るとかでもいうのかー?」

「……それだったら嬉しいけど……。全然違うな!」


 徐に時計を見た茜がケイトを導く。


「ケイト。さっきのどこからか聞こえた「おめでとう」という言葉と、その手の光、この人数、この時間…この風景…でわかったの。私はその本の時刻表でケイトの『未来』を見た!時間は1分後。実は私もその本に触れた時、変な感覚があったんだ。ただの強い静電気みたいな……でもそれだけでその後は何も無かった。ケイトに抜かされちゃったのはちょっと悔しいけど、多分、それはケイトに宿った聖なる力。何も考えず、手を上にあげてごらん。きっと、何か良い事が起こる!」


 わけがわからないが、ケイトは茜の『何も考えず、手を上にあげてごらん』という言葉通り、素直にやってみようと思った。自分には今出来る事が何も無いと思っていたケイトにとって、聖なる力が宿ったと言われ少しばかりの自分に対する期待も出てきた。


「うん……!」


 ケイトは決意をもった表情で、しゃがんだ姿勢からゆっくりとその場で立ち、右手を上に上げていく。さらにさらに光を放っていく。左手には本。その佇まいは誰もが知るアメリカの『自由の女神』を彷彿とさせていた。


「何が起きるんだ……」

「なんかやばくねぇか?」

「何が起こるんだ……?」

「なぁ……なんか隠れたほうがよくないか?」


 光の強さとともに怯んでいく黒い学ラン達をよそに、ケイトが右腕をめいいっぱい伸ばしきった時、それは起こった。手の光から『レーザービームのようなもの』が一直線にその広場中央のを指し示したかと思うと、より太いレーザービームが軌跡の先にへとさらに放出された。


ズドォォォオーン!!


 そしてすぐに今までただのコンクリートだった広場中央の地面の一部が、軽い地震と共に盛り上がる。その後、時間にしてものの数秒。


ズォォォオオオオオオオオ!!


 結果を言うと、けたたましい音と共に、幹が直径2メートル位の『巨木』が生えた。まるで植物の成長の映像を早送りでみているように草もウニュウニュ動いた。巨木が一瞬にして成長し現れたのだった。それはそこに居た誰もが信じられない光景だった。


 皆言葉を失っていたが、1分後くらいだったろうか。そこに居合わせたケイト以外の全員の気持ちが、心達も敵対する学ラン達も、同じベクトルを向いた。こんな信じられないほどの壮大なものを見せつけられて、全員が、今の今までやっていた喧嘩が馬鹿らしく思えたのだ。それは、人が宇宙について語る時、自分の悩みや考えがなんと小さい事なんだと思う気持ちと共通するものがあった。


「なんかさぁ……!今日、もうやめない!?」


 レナが、その場に居る全員に聞こえる大声で言った。


「わたしもなんか、もうやる気なくした……。」


 その時一番好戦的な感情になっていた心がそう言うと、学ラン達は何も言わずに倒された者を抱えて来た方角へ帰っていった。黒い学ラン達が去っていくのを確認したケイトが安堵して手を下ろすと、巨木は瓦礫となったブロックだけを残してふっと消えた。


「なんだったんだ……見えたよな?レナ?」

「私の方が確認したい。見えたよな?心もさっきの……巨大な木。」

「うん…」

「うん…」



 二階の屋上で話す二人の会話は心とレナには聞こえなかった。


「私はあなたのその傷を癒やしたかったのだけれど。どうしてその聖なる力っていうのが、傷を癒やすものじゃないとわかったの?」

「それだよ。その本。今日の事が、その本の中で書いてあったからだよ。どうやらケイトは、喜びと平和を『司る』ようだ。まだどういう力かははっきりとはわからないけれど、その力があの幻影の巨木を生んだらしい。」


 茜はその本でわかったことをケイトに説明した。


「この本のおかげ……なんだよね?」

「たぶんそう。でも謎だらけだよね。もっともっと、この中の時刻表については注意しないと。今回は結果的に良い方向に進んだけれど、悪いことも書いてあるかもしれない。」


 懸念もあり、本の使用には注意が必要であることを語る茜。


「でも、何かが始まっている気がするわ……私に宿ったという力の話だけじゃなく……」

「この本の事は、今はまだ、心とレナには黙っていた方がいいかも……」

「それは、賢明かもしれないわね……」

「しかし、すごいものを見せてもらったよ」

「わたしも自分で驚いてるよ!念じると手に光が出てくる。ほら。試しにその傷を治すことができないか、手をあてがってみてもいい?」

「いや、だからさ、何が起こるか、ケイト自身、わからないんでしょ?なら怖いよ。すごいけれど。その力も、ここぞという時にしか使わないほうがいいと思う。わからないうちは。」

「うん、そうよね、わかった。」


 そう答えると、ケイトの手の光は薄っすらと消えた。

 下にいる心が言う。


「あいつらのリーダー、いつの間に消えているな。やっぱりあいつ、逃げるのが早い!」



 距離にして1キロメートル程離れた場所の、古い一軒家。表札には『八木』の文字。庭には小さめの離れ家がある。母屋からは見えない離れ家の裏で、3人の黒い学ランを来た男達が、一人の正座しているやはり黒い学ランを来た男に対して、それまでのいきさつを聴いていた。


「こっちは13人もやられて、戻ってきただぁ?」


坊主で黄緑にそめた髪が一点だけちょんっと乗っかっている男が言った。


「で、でも負けると思って逃げてきたわけじゃないんだ!お互いに、その、なんていうか、その場に居た全員が、喧嘩する気をなくしたっていうか……」

「ダッセーな!相手は女だろうが!マジダッセーな!」


長髪の男が見下しながら言った。


「で、さっきから大木たいぼくが現れて消えたってどういう事なんだよ?それが全く意味分かんねぇ!」

「だから、そのまんまの意味、なんだ……」

「おめぇの言ってる事、ぜんっぜんわかんねぇわ!!」

「だがこっちは昼間に30人やられとか、50人出向いてじゅう何人もやられたとか、もう、こっちも収まりがきかねぇ!」


 最後に立てた右足の膝に右腕を載せて黙っていた一番奥の男が口を開いた。


「朝比奈ケイトといつも一緒にいるのは鳳茜とわかった。それと青空心と神宮寺レナ…。あの三人を排除しなけりゃ、朝比奈ケイトには近づけないようだ。丁度俺たちも3人だ。3対3なら向こうも受けるしかないだろう!」

「あぁ、そうだな。」


 奥より一つ手前の男が返事をしたとき、一番奥の男が素振りのパンチをしながら言った。


「正々堂々とやってやろうじゃねぇか!俺の相手はもちろん!青空心だ!」






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