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感情FEVER 学園編  作者: きんたろ
5/55

5.『ハレルヤ』

「うぐ……」


 ナイフ男の一人が怯んだが、もう一人が振りかぶり


「心とつるんでるお前の事なんて最初から知ってんだよ!!」


 レナにナイフを投げてきた。しかしレナにはそのナイフも効かなかった。


「確かに、ナイフの技術は無さそうだから投げた方が相手を負傷させ易いかもな!」


 レナは避ける事も出来たが、Clean houseがこれ以上破壊されぬようナイフを蹴り払い、地面に落ちたそれを拾って長丈スカートの腰の部分に刺し入れた。


「け!バカが!そのナイフ使えばいいのによ!くらえ!!」


 先程の怯んだナイフ男がレナに向かって投げる瞬間、ナイフを蹴り避けられた男が自分の方に逃げて来てぶつかった。男の額付近がナイフ男の鼻っ柱にヒットした。


「んぁーっ!!」


 当たり所が悪かったのか、ナイフ男は断末魔のような声を発した後、気を失い大の字に倒れた。逃げた男は振り向くこと無くそのままどこかへ走って行った。

投げられたナイフはあらぬ方向へと飛んでいく……。運の悪い事にそれは茜の方向へ向かったのだった。


「うわっ!!」


 よくある野球のボールなどがカメラに向かってくる時、実際にそこにはいなくても、カメラ越しの映像を観ている人は勝手に避けてしまうことがある。反射神経だ。一部始終を見ていた茜はその反射神経で避ける事が出来た。投げられたナイフの【未来の軌跡】は偶然にも茜の額のど真ん中を指していて、もし避けられなかったら多少なりとも負傷していただろう。顔を少し右に傾ける事でナイフをまともに喰らう事は回避できた茜だったが、しゃがみ屈んでいた体勢は後ろに傾き、両手をついた。その際、左手に持っていたカバンをケイトの近くに落とした。


 ナイフは左眼の目尻を擦ってそのまま飛んでいった。一般的に観て眉目秀麗な茜の顔が、見方によっては目尻が強調された血化粧となり、それは皮肉にも茜をさらに美しく魅せた。


「茜!大丈夫!?」


 ケイトが言った。


「っ痛ぅぅ!!あっっぶないなー!!へへ……でも避けた!」


 ヒリヒリとした痛みで思わず左眼を瞑る茜であったが、ケイトに見せたその元気な振る舞いは、いつもと変わらないものだった。


「良かった!!いや傷ついてるから良くはないけど!」

「ふふ」


 ケイトが安堵して応えると、茜はケイトが昔から好きだったその笑顔で応えた。


--

 出会いの場所は近所の小さな公園だった。

 公園近くの電柱のてっぺんに一羽の鳥が止まっていた。砂場で、一人しゃがんで【砂の城】を作っていたケイト。これに忍び寄る4人の影があった。



「うーりゃ!!」

「あぁ……!!」


 ケイトと同い年位の悪ガキ(1)がケイトの背中を蹴って転ばせた。ケイトは吃驚したあと、啜り泣き初めた。


「イェーーィ!!一発で泣かせたぜ!」


 蹴った男の子が自慢げに言った。


「ひっど!!お!?なんだこれ!!結構上手くね!?かっこいい!」


 悪ガキ(2)がケイトの作っていた砂の城を指さして言った。


「おぉ!これ凄ぇ!俺たちの城にしようぜ!」


 悪ガキ(3)が答えると


「だーけーどー!!」


 悪ガキ4が砂の城を勢いよく蹴飛ばした。砂の城は半壊した。


「あぁ……」


 砂の城を壊された悲しさがケイトを襲い、さらに啜り泣き続けるケイト。


「これはさすがにひどい!健ちゃんのせいだー!あっはっはは!」

「へへへ!」

「酷いねぇ。本当に酷いねぇ!」


 最後の声は悪ガキ4人の声ではなく、ケイトの後ろの方からやってくる女の子の声だった。


「なんだこいつ!」

「あー!俺たちと同じ、東小の同い年だよ!」

「まぁいいや、なんか俺たちに言いたいらしいぜ!」

「ってか、こいつも泣かしてやろうぜ!」


 ケイトは啜り泣きつつも、自分の近くに立つその子を見上げた。自分と同い歳位だが背丈は自分より少し高めで、綺麗な小豆色の髪をした可愛らしい女の子。その顔は、悪ガキ4人を前にしても恐怖を全く感じていないかのように得意げな笑顔。その笑顔を見てケイトは心強さを感じた。


「これでも?」


 と、悪ガキ4人に見せたのは、どこから持ってきたのか、一本の【3メートル位ある棒状の物】を小脇に抱えて構える姿。重力がそうさせているのか、棒は少し湾曲しているように見えた。


ブォーンッ!!


 茜は悪ガキに当たらないように、その棒を一回ぶん回した。


「うぅ……」


 悪ガキの誰かが少したじろいだ。


「来るなら、当てちゃうよ!そっちは男4人じゃん!卑怯だからこっちも卑怯にいくよ!」


 悪ガキ(4)だけは少し気性が荒かった。


「こいつぅー!!」


 走ってくる。また蹴ってくるような勢いだった。


ガン!


「うわぁああああ!!」


 女の子は躊躇することなくその棒を振りあてた。悪ガキ4が蹴りの姿勢だったのでその膝にヒットした。


「痛い!痛い!!」

「だから言ったじゃん!当てちゃうよって!まだやるー?」


 今度は上から振り下ろすような体勢を見せてみた。


「やらない!やらないです!!痛い!痛い!」

「お、おぃ、大丈夫か……?」


 悪ガキの一人が泣いている悪ガキ(4)を気遣った。


「お前達、さっさとどっか行け!行かないとぉ!!」

「ぎゃゃぁぁ!!」


 悪ガキ4人組は一目散に逃げていった。


「どうもありがとう。でも、どうして知らない私を助けてくれたの?」


 ケイトが質問すると茜はすぐに応えた。


「え?泣いている、困っている子が居たから助けたかった。それだけだよ。」


 その言葉はケイトにとってとても心に残る一言だった。


「ねぇ、そのお城直すの、手伝ってもいい?」

「うん!」

「お名前、何ていうの?」

「茜。鳳茜」

「わたしはケイト。朝比奈ケイト」


 電柱のてっぺんに居た一羽の鳥はどこかへ飛んでいった。


 こうして二人は、家がそんなに近くもなく、通っていた保育園、小学校も違うのだが、9歳からの幼なじみ、そして親友となったのだった。


--


「あ……この本……」


 ケイトが言った。ナイフを避けた勢いで落としたカバンから一冊の本が少し顔を覗かせていた。背表紙に真っ赤な文字で「ゲイム・ジェン・ヨハン」の文字。そのすぐ下に少し暗めな文字で「一族とその繁栄」と印字されている本を見て、ケイトは先程の本屋での事を思い出した。

 凶器を持つ男がいないかじっとみつめる茜が、ケイトの一言で一瞬左眼をあけケイトの方を見て言った。


「あぁ……それね、不思議な本なんだ。一カ月位前だったかな、さっきの書店でふと目に留まって、手に取った瞬間、『ビビッ』ときたんだ。それでなんとなく買わなきゃって思ったんだ。」


「これ、わたしもあそこの本屋で見たよさっき。全然内容は知らないけれど。」


「そうなんだ?でも内容はね、年表みたいな形式なんだけど、ネットで調べても何処にも載ってない内容だから、全部創作だって思ったんだ。でも内容がとても鮮明に記されていて……。その鮮明さが半端なかった。年表って言ってたけど、いうなれば『時刻表』だよ。日付と合わせて時間まで書いてあって、その時、『だれがなんちゃらする』って書いてあるんだ。」


 その時、じっとその本を見つめていたケイトの手が小刻みに震えだした。


「でもね、なんか読んでると『気分が悪くなる』時がよくあるんだ。読書好きだからかな、それでもなんか、もっと先をどんどん読んでみたくなるっていう……。だから書いてある事は全部読んだ。そしてそれが不思議な本だと思うのには理由がさらにあってぇ……。」


 その時、黒い学ラン達の様子を探っている茜は、ケイトをしっかりと見る事は出来なかった。


(モウ一度、触レテミロ……)


「はっ……!」


 それは『本から聞こえてくる、ケイトにしか聞こえない声』だった。


 ケイトは意識が普通にあるのにも関わらず茜の言葉を注意深く最後まできくことはできず、今自分に起きている事象だけしかすでに頭になかった。右手が勝手に動いているような感覚。不安の中、本に対し一瞬『拒絶』の思いを込めても故意に本から手を遠ざける事は出来ず、右手はますます本に近づいていく。それはとても不思議な感覚だった。

 その時、


「よし!心が少しこっちに近づいたぞ!これなら凶器野郎がいたら阻止できる!」


 茜が言った。顔に傷がある黒い学ラン三人を立て続けにストレート、アッパー、そして得意のハイキックでほぼ同時に倒した心は攻撃を避けるとともに知らぬ間に自分とじっちゃん店『CLEAN HOUSE』のすぐそばに移動していた。レナは凶器を持つもの以外は自分からは攻撃しないが自分へ攻撃してくる者に対しては降りかかる火の粉を払うが如く、ダメージを受けたら動けなくなる程度の攻撃で返した。この時点でレナが倒したのは先程のナイフ男を含めて六人だった。


 ケイトの手が本まで十数センチのところにくると小さなプラズマのようなものが発生し始めた!プラズマの実際のベクトルは逆なのだが、それはまるでケイトの手が雲となりそこから地面である本に稲妻が発せられているような小さな景色にも見えた。


(触レルノダ……)


 プラズマのビリビリとした激しい感触がケイトの掌を直撃するが、ケイトはそれよりも、触れてみたい。触れたらどうなるのか……。プラズマが発生してからは、もはや半ば期待の気持ちに変わっていた。先程まで勝手に動いている手の感覚も今は自分が動かしている感覚に戻っていた。


(ソウダ……)


 手を真下にそのまま下ろして本に触れたその時、本から発せられているようなその声とはまた違う声で

言葉が聞こえた。


「アグ……ダ……ラ、ブラ……モン、ピラミッド……レジスタンス……ミラ!……ハレルヤ……!!」


「あぁぁあぁああああ……ハレルヤァァァ!!」


「え!?」


 歓喜の笑顔で叫んでいるケイトを見た茜。


「触れている!大丈夫かケイト!!」


「あぁぁあぁああああ!!」


 ケイトに放たれた最後の言葉は茜の耳にもはっきりとその声が聞こえた。


「オメデトウ」


 ケイトの髪の毛が逆立ち、右手からは神々しい光が放たれていた。






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