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感情FEVER 学園編  作者: きんたろ
39/49

39.覚醒への道

「わかったか?これが今のお前のレベルだ」


 スイミーの声が、洞窟の大広間に響き渡った。心は立っているのがやっとだった。


「く、くそ……!」


 僅かに揺らめく視界。目の前には、依然として金色の光を放つブラモンが静かに佇んでいた。茜もケイトも、そしてレナも、その圧倒的な力の差に言葉を失い、ただ立ち尽くしている。

 強くなっていると思っていた心は、圧倒的な力の前に打ちのめされた。その現実は、否応なく突きつけられる。だが同時に、その深い絶望の底から、まだ見ぬ高みへの渇望が静かに燃え上がっていくのを、彼女自身も感じていた。ナオトをさらった、あの黒いブラモンと同じ形をした生命体である金色のブラモンへの怒りは、心の奥底で燃え盛っていた。しかし、ブラモンが放った言葉が、脳裏に焼き付いている。


「せっかく悲しみの卓越感情を持っているのに、怒りで向かってくるなんて愚の骨頂だぜ」


 その言葉の意味を、心はまだ完全に理解できていなかった。なぜ、自分の感情が、愚の骨頂に繋がるというのか……。ゆっくりと心に近づくスイミー。その小さな顔には、年齢にそぐわない思慮深さが浮かんでいるように見えた。


「お前らを『ここに呼んだ』理由を話してやる」


 スイミーはそう言うと人差し指を自分の顔の前にやった。すると指先は、青いビームと同じ輝きを放った。


「わたしもこの位のことはできる」


その輝きを見た心たちの目が、驚きに見開かれた。


「あの青いビームは、お前たちを招くための道標だったのだ。赤いビーム同様、『卓越感情』を持つ者にしか見ることができない。お前らがここにいるのは、卓越感情を既に持っているからだ」


 スイミーは言葉を続ける。


「お前は、幼馴染をさらったブラモンに敵意を持っている。BRFからも、『神隠し事件』や『ブラモン』について聞いているのだろう。しかしそれは、まだ表面的な知識に過ぎない」


 スイミーは金色のブラモンをちらりと見た。金色のブラモンは腕を組んだまま無言で佇み、その視線は、試すようでもあり、どこか余裕すら感じさせた。


「ブラモンにも、進化する者と、そうでない者がいる。そしてお前たちがこれから向き合うのは――その“上”だ。」


 茜とケイト、そしてレナは、その言葉に息をのんだ。これまで敵として認識してきたブラモンに、そんな多様性があるとは想像もしていなかった。彼らが抱いていたブラモンへの認識を、少しずつ変えていった。


「お前らは、アグダラに行こうとしているな?あそこに行けば、いつか必ずもっと強力なブラモンらと対峙することにもなるだろう。」

「戦うことになるってことか」


 茜が言った。


「そうだ。だが今のお前らがより強力なブラモンと戦ったとして、勝率が何パーセントか教えてやろうか?」

「ゴクリ……」


 心が唾を飲み込んだ。


「その勝率は限りなくゼロに近い1パーセント。しかもその1パーセントは『まぐれ』が起こった場合の話だ。つまりほぼ勝てる見込みはないってことだ」


 その数字を聞いた瞬間、心の胸の奥が冷たいもので撫でられたように感じた。可能性が残されていると言えば聞こえはいいが、それは「ほとんどない」と告げられたのと同じだった。


「なん……だって……」


 レナは言葉を失った。アグダラという場所が、想像していた以上に過酷な世界であることを、初めて実感させられたのだ。


「そして、お前。なぜあのブラモンが『せっかく悲しみの卓越感情を持っているのに『怒り』で向かってくるなんて愚の骨頂』と言ったか理解できるか?」

「……!?」


 スイミーは心を見つめる。


「お前の『卓越感情』は『悲しみ』だ。それはいわば定め。定めに背くことはできないんだ。しかしまだ未熟。お前は、卓越感情の『悲しみ』の使い方もわからない。力を引き出せずにいる状態なのだ。そこでお前は、卓越感情の『悲しみ』を使わず、ただの突発の感情の『怒り』だけで向かっていった。だからこそ、金色ブラモンは「愚の骨頂だ」と言ったのだ。」

「うん!そーいうこと!!」


 金色のブラモンが相槌を打った。心の胸の奥に、スイミーの言葉が突き刺さる。ナオトを失った悲しみを、ただ怒りへと昇華させていた心。しかし、『悲しみ』と『怒り』の使い分けが、まだわからない。

 『怒り』だって強いはずだ。怒ったとき、人は確かに力を感じる。実際、心もそうやって戦ってきた。だが、あのときの怒りはどうだっただろう。一瞬で燃え上がり、一瞬で視界を狭めていただけではなかったか。

 スイミーの言う『突発感情』という言葉が、胸の奥に引っかかる。もし、自分の本当の卓越感情が『悲しみ』だというなら、あの怒りは、悲しみに蓋をしただけの、逃げだったのではないか。理屈では、わかる。理解してしまったからこそ――心は、まだそれを認めたくなかった。

 スイミーは続いて視線を茜に移した。


「お前もだ。お前の『卓越感情』は『恐れ』。『恐れ』といったら負の感情のように聞こえて力がないのではないのかと思うかもしれないが、そうではない。お前の力を妨げていると同時に、秘めたる可能性を握っているのだ。しかしお前もその使い方をわかっていない。」


 茜は落胆とともに驚きを隠せなかった。自分の卓越感情は「恐れ」……。それが何の役に立つのかと思った反面、恐れが力になる――その発想自体が、茜にはまだ怖かった。だが同時に、逃げなくていい理由を与えられた気もした。

 続けてスイミーは次にレナを見た。


「お前の『卓越感情』は喫驚。つまり『驚き』だ。恐れ同様、マイナスのイメージがあるな。時に思考を停止させることもある。しかし同時に新たな可能性の扉を開く力にもなり得るのだ。」

「驚き……」


 レナも、自分の卓越感情が『驚き』だと聞いて、何の力になり得るのか理解できなかったが、直感的に生まれ持っての定めというならば、「自分向き」ということなのかと感じた。次にスイミーはケイトを見た。


「そしてお前。お前が『ゲイム・ジェン・ヨハン』の『時刻の書』から授かった力。おまえらの中で唯一能力を持っているようだな。だが今はまだ能力を支配できてないようだ。だがお前自身の卓越感情で未知の領域に到達できるはずだ。おまえらにいっておく。卓越感情の『能力』と『時刻の書』は対の関係をもつ。だからおまえらも『自分』の時刻の書を得ることが出来れば『能力』を身に着けることができる。それはアグダラからのオミナスベイパーの影響であり、贈りものなのだ」


「贈りもの……」 


 スイミーが、自分たちのことをどこまで知っているのか、話の内容から察するに、BRFとは密接な繋がりがあるのだろうが、BRF以上の情報を持っていると思った。スイミーは再び、真剣な表情で語り始めた。


「神隠しの際に引きずり込まれるあの穴は、『漆黒の穴』と呼ばれている。そこは深い奈落で、通過するには、『落ちていく恐怖との戦いのなかでさらにひとつの試練』を乗り越えなければならない。その試練に打ち勝ち、幼馴染を救い出すためには、お前たちは今のままでは到底無理だろう。それぞれの『卓越感情』を覚醒させ、アグダラの脅威に立ち向かう力を手に入れなければならない。」


 スイミーは一同を見渡す。


「そこでだ。わたしがお前らに、漆黒の穴を通過し、アグダラで生き延びることができるように『訓練』をしてやる。アグダラはいうなれば弱肉強食の世界。ボーっとしていたら、すぐに誰かの餌食になってしまうぞ。まぁ科学は地球に比べて全然発達はしてない星だがな…。」


 心は、ナオトを救い出すという揺るぎない決意を胸に、スイミーの言葉を深く受け止めた。


 (気持ちは何も変わらない。胸の奥で、抑え込んでいた何かが、確かに脈を打っている。私はそのために、強さを求めてきたんだ)


 ナオトへの変わらぬ想い、覚悟は、彼女を突き動かす。心たちは、この未曽有の危機と、スイミーからの厳しい訓練を受け入れる決断をする。洞窟の奥深く、神秘的な光に包まれたこの場所で、4人の未知の力への覚醒に向けた『修行』が、今、始まるのだった。






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