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感情FEVER 学園編  作者: きんたろ
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3.邂逅

 背表紙に真っ赤な文字で「ゲイム・ジェン・ヨハン」という文字が、そのすぐ下には、少し暗めな文字で「一族とその繁栄」と記されている。本棚に並んでいる中で特に目立った本というわけでもなく、ゲイム・ジェン・ヨハンなんて名前も聴いた事がないし、何故その本が気になったのかもわからない。ただの気まぐれなのか、ふとケイトがその本を取ろうと本の背表紙に触れた時、指にビッ!という感覚が走った。


「わっ!!」


 静電気が走った時のような感覚。しかしそれより強い感覚だった為、思わず声が出た。その時茜に釣り銭を渡す店主の手がほんの一瞬止まった。会計を済ませた茜が振り返り際にケイトに言う。


「ケイト行こう~?んー?なんか気になった本あるの?」

「あ、ううん!なんでもない。行こう」

「おっけ~。ありがとうございましたー!」

「どうもご贔屓に!ありがとうございます!」


 二人が出ていくと、店主は鏡越しに、二人が見ていた本棚の本の方に目をやった。


「本に拒絶された……?おかしいな……あの本の『当事者』は彼女の筈だが……」


 一人呟くと畳んでいた新聞を再び広げ読み始めた。


「なぁ、『ただいま留守にしています』って張り紙あるけど、なんでそこの駄菓子屋、今やってないんだぁ?」

「知らねーな!さっきまではやってたけどな!!」


 商店街の角には、一面がガラスである為に外から内装が見える綺麗な駄菓子屋があった。二人がその角を曲がると、たむろしている4人の黒い学ランを着た男達と遭遇した。この辺りで黒い学ランといえば、不良が通う高校で悪名高い、黒原高校の制服。そこの学生達だ。しゃがんでいる【細い男】、地べたに座りこんで駄菓子を食べている【でかい男】、なぜか壁に向かって【逆立ち】をしている男、そして【スマホ】で喋っている男が一人。ケイトを見つけた細い男がケイトに指さしながら大声で言った。


「あ!おい!あれ朝比奈ケイトじゃねー?」

「あ!本当だー!超かわいい~!!」


 突然自分の名前を言われ吃驚するケイト。その2人の男達はケイトと茜の方へ駆け寄ってきた。


「朝比奈ケイトさんですね?こんにちは~」


 細い男が喋りかける。茜はケイトが異性から極めてモテることを知っていた。学校中、いや他校の男子からもモテる。有名な話だ。親友の茜が知らない筈はなかった。そしてたまに興味本位でやってくる輩達の事も知っていた。茜も茜でその美貌からモテるのだが、そんなかわいい二人組をみたらやってくる、どうみてもケイトと話すること自体不釣り合いな外見の輩達。今回これで何回目だか数しれず……。両手でも楽に収まらない。茜はやれやれといった気持ちだった。


「いやぁ、こっちの子もかわいいね~」

「……。軽い男は嫌いだよ!ケイト行こう!」


 逆立ち男がそういうと、茜はケイトの手をとり自分の方へ寄せた。


「およぉ~?ちょい待てや~!俺はケイトちゃんにようがあるんだよ~!」


 細い男が茜の肩に触れた途端、


「気安く触るな!」


 と細い男の手をはらうと、座っていたでかい男が立ちあがり、またやってきた。


「おいおい!今見てたけどよぉ!お前、こいつの手を叩いたろう!」

「はぁ!?違う!!」

「なめんなごらぁ!!」


 その怒号は辺りに響いた。ケイトは茜を擁護する。


「あなた達、見てたでしょう?この人は肩を触れられて手をはらっただけ・・・」


 しかし相手は話の通じない輩達である。逆立ち男が言った。


「おめーそんな事はもうどうでもいいんだよ!この女はダチの手を叩いた!だから詫び入れるとかなんかあるんじゃないんかーいって話よ!とりあえず金!金よこせや!おめーら今いくら持ってる?」


 はっきり言ってこの街は治安が悪い。男女関係なく制服で外を歩けば、少し運が悪いと、このように話の通じない輩にあたる。


「ふっ。さっきはかわいいって言ってたくせに、もうおめー呼ばわりか。忙しいな!」

「おめー生意気だなぁ!!口の利き方教えてやろうか?あーん?!」

「うるさいよ。ケイト行こう」

「うん」

「まてと言ってるのがわからんのかーい!!」


デカい男が茜のカバンをとりあげて思いきり壁にぶちまけた。


「あぁ!!」


 ケイトは思わず声をあげた。


「なんだって、こんなことをする?」


 茜はうつむき、冷静に言うが、そこには静かな怒りがあった。


「じゃかぁしいぼけぇ!!いいから慰謝料出せやぁ!」


 さらにデカい男は怒鳴り散らす。今にも喧嘩が始まりそうな、一触即発の間があった。その時であった。


「お前らああああああああ!」


 遠くの方から、叫びながら突っ走ってくる、江茂志四校の学生の制服を着た少女の姿があった。緑色の髪の毛をした背の高い女性も少女のあとから走ってくる。ケイトはすぐにわかった。さっき知り合ったばかりの、青空心と神宮寺レナだ!


 青空心の右足のハイキック。それは【不良達】の間で彼女の代名詞となっている、得意技だ。目標の頭部、特にこめかみ付近を狙い、くらわせた相手を高確率でダウンさせる。小学生の頃から喧嘩三昧だった青空心の【喧嘩勝率】を限りなく100%に近づかせていたのは彼女にその得意技があったからだった。【喧嘩勝率】。おのれがこれまでを振り返ってみれば数を出すのは容易いが、己の喧嘩の勝率など、普通は恥ずかしくて誰にもわざわざ言ったりしない。しかし、喧嘩などしない【普通の人】からすると【とてもくだらないその数字】は、偽りなく、事実として己のステータスの一部データとして刻まれ、都度変動する。ロールプレイングゲームでいうところのレベルや経験値と同じ、今の状態を示すステータス。喧嘩の数が百をとっくに超えていた青空心に、その時刻まれていた喧嘩勝率は99%だった。青空心が喧嘩で負けたのは一度だけだったが、一度負けてしまえばこの先どんなに勝ち星をあげようが決して100%になる事はない。だがその負けた時のハイキックの事や、自分の弱点を認識し、改良をする事はできる。負けてから、右足のハイキックの練習と腹筋の鍛錬を練習メニューに加えて毎晩実施してきた。誰かを助けたいと思った時、己が正しいと思える行動をしたい時、強くなくては駄目だと思っていて、敗北してからの3年間、世話になっている師範、仲間にも内緒でやっていた。最後に負けてからその得意技はあまり使わないよう意識していた。

練習で強化はするが、【温めて】おいて、いざという時だけ使おうと決めていた。

だがブチギレてどうしても制御できない時は別だった。


 あの学ランは、こないだの30人位と喧嘩した時の不良どものうちの3人だ。女の子二人がその男どもに絡まれ、カバンを取り上げられ壁にぶち撒けられている。その様子を見て、怒らずに黙っていられる程、心はまだ精神的に大人にはなっていなかった。


( まずハイキックを、あのデカイやつに御見舞してやる! )

「お前らああああああああ!」


 俊足でもある心は標的近くでそのままジャンプし走った勢いを利用しつつ攻撃する。最初のハイキックの餌食となったのは、デカイ男だった。


「ぐぁっ!」


 デカイ男は心のあまりのキックの速さに防御も出来ぬままそれがヒットしダウンした。あとから走りながら見ていたレナが言った。


「うっわ!はっや!!あいつやっぱ速っ!」

「青空心ぉ!てめぇ!」


 逆立ち男が言った。ハイキックの後、地面に着地した心が次に標的にしたのはこの男だった。


「ボクシング部で少し練習させてもらったパンチだ!」


 逆立ち男の鼻の前に2発寸止めした。


「あ!?へ、へへ!なんだそれ!」


 逆立ち男は、パンチの動きが見えなかったが強がり、逆に自分もパンチをくらわそうとした。しかし心にとってスローに見えるそんなパンチは通用せず、すかさず逆立ち男の腹部に5発打った。最初は軽く、当ってもダメージを与えないものだったが、回数が増えていく内に完全にダメージを与えるものになっていき、最後には強烈なものとなった。


「ぐごごごご!!」


 逆立ち男は腹を両手で抱え顔面が前にでた。


「いっくよー!?」


 心は構えをとり軽快に言った。


バギィーン!!


 美しいアッパーが決まった。


 青空心は頻繁に、入部もしていない運動部の部員から『試合に出てくれ』と

申し込まれることがあった。ずばぬけた身体能力は、殆どのスポーツを少しやれば得意なものの一つとする事が出来た。一種の天才だった。特にスピードを活かせるものが得意だった。喧嘩で有名な彼女だが、沢山の運動部からその身体能力を買われていたし、喧嘩で有名、といっても怖がっているのは不良たちだけであり、基本的には優しい性格なので、一般生徒からは親しまれ、実は【隠れファン】もいる位なのだ。高校2年生ともなれば、その中には彼女に告白してくる生徒もいた。しかし前向きな返事をした事など無かった。否、【己の鍛錬】の為に忙しく、告白してきた者たちは可愛そうだが、心からしたら気にもとめていない事なのでお断りの返事すらした事が無かったというのが正しい。


 ボクシング部で練習試合に参加した時はわざとヘッドギアを付けずにやっていたら

途中からきた先生にバレて部員共々怒られたが、仲良くなった【須賀くん】という部員に少し教えてもらった『アッパー』の角度が自分がやっていたのより相手を捉えやすいというのがわかったので少し角度を矯正した。


 アッパーを受けた【逆立ち男】は大の字になって泡を吹いた。次に心は細い男を睨んだ。

 

「あー!ちょっとまてまて!!」


 既に怒ってしまっている心にその言葉は届かない。後ろを向き飛んだと思えば後ろ回し蹴りがあごをえぐり、細い男はうつ伏せになって動かなかった。レナがやっと追いついた頃にはすでに3人倒れていて、ケイトと茜はその速さにただ呆然と見ているだけだった。心とレナが走ってきた時は角度的に見えてなかったが、気配を感じ右に振り向いて、やっと、もう一人いることがわかった。ぶつぶつ会話をしているスマホの男。


「あぁ。ヤシキ、ヒロ、サワジがやられたわ。あぁ。いま、目の前にいる。青空心と雑魚三人だ。おまえらも来い。」

「おぉおおぉお!!」

「なんかすげー数の走ってくるような足音と怒号が聞こえるぞ!」


 レナが言った。この商店街は響きやすいのか、足音がよく聞こえる。


「こいつ、昼間の30人位の中の、ボスのくせして逃げたやつだ」


 と心が言うと


「ってことは・・・」


 唾を呑む茜。


「また30人位がやってくるってこと!?」


 ケイトが応えた。


「30人?クックク!青空心!さっきの続きだ!だがお前、覚悟したほうがいいぞ。もう、おわりだよ!昼間のことでみんなお前を憎んでる!」

「おまえ!今度こそやっつける!」

「心、わたしは助けないぞ。武道の教えに反する……。」


 とレナが言った時、


 パリンッ!ガシャ!


 何かが飛んできて駄菓子屋の窓が割れた。


「あー!!窓が!」

 心が叫んだ。


「ひっでぇ!なんでもありか?!あっぶねぇなぁ!」


 レナも叫んだ。


「警察沙汰じゃん!!」


 ケイトが言い、それと同時に茜がスマホを操作しようとすると、心が言った。


「警察は呼ぶな!すぐ終わらせる!あいつらふっざっけんなよおお!!うちの店を!!」

「しょうがねーな……。」


レナはあらぬ方向を向いてお辞儀をし、謝っていた。

その方向は、自分の家、道場の方向だった。レナには葛藤があった。格闘技を喧嘩に使うなど言語道断、喧嘩で使おうものなら、破門されてしまうのではないか。しかし、自分が正しいと思うことをしたい、と。これから場合によっては格闘技で覚えた技を出してしまうかもしれない。だから許してほしいと、謝るのだった。


「おおおおおおおぉおぉお!!」


不良たちの怒号が、近づいてくる。見えて確認できたその数は30を大きく越えて、ざっとみたところ50人。


「ひぃぃ!話が違う!くっそ!あーもう本当にしょうがねーなああ!!」

「ケイト、わたし達も一緒に戦おう。でも素手では無理だから私たちは場所移動しよう」

「助けてもらったし、ね!」


 それは、青空心、神宮寺レナ、朝比奈ケイト、鳳茜が、敵対するものたちと共闘した、初めての出来事だった。






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