28.それぞれの想い 鳳茜の場合
家路についた鳳茜はずっと焦っていた。
今日、最も心が動揺していたのは、1年後に地球に迫っている危機についてのことだったが、スケールが大きすぎて、茜自身も全く現実味を帯びていなかった。しかし同時にBRFで聞いたその他の話では新たな知見がいくつもあった。BRFのリサーチ能力は勿論、アグダラは惑星の名前であるということ、黒い生命体や黒い穴も実在すること、そして茜が時刻表と呼んでいた時刻の書、それが江茂志に全部で八冊あり、その内容は読む者によって変化するということ。
茜はこれまで、何度かこの時刻の書を、見える範囲で未来を調べたことがあった。そのため、日付・時間と場所はわかるものの、それを成すべき人物と肝心なその内容は直前にならないとわからないことを茜は知っていた。成すべき人物が自分と関係無いときもまれにあり、そんな時は内容を『スルー』した。
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ケイトは能力を得たのに……。何故私には何も起こらない……?!アヤメさんの話によるとそれが今の私の限界、とのことだ。
今まで数えきれない程の本を読んできて知識を身に着けてきた。小さい頃は本を読むのはその世界に没頭できて楽しかったから。でもいつのまにか、どうしたら自分の身近な人間が幸福になれるかを調べるためとなっていた……。どうしたら父を昔の父に戻せるのかを。
心たち3人を羨ましく思う自分自身に反吐が出る。私も誰かの力になれるよう、ケイトのように能力を得たい。
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そんなことを思いながらマンションの家に着く。酔っ払って寝ている茜の父親は、涙を流していた。
「ぐぅ……こんちくしょう……」
茜は、いつも父親のちかくにあるタオルケットを掛けてあげ、隣の自分の部屋に移る。今日もどうしても気になって時刻の書に触れるが……何も起きない……。新しいページに表れている文字を読もうとするが、字が書いてあるのに頭が字を認識できず読むことができない……。
「くそ……」
読むことを諦め、寝ている父親のそばにある、安い銘柄の煙草に手を伸ばす。煙草に火をつけながら吸ってみる。
「おえっ……!! 気持ち悪い……」
すぐに気分が悪くなり、とても後悔した。それは茜が吸った最初で最後の煙草だった。
その後自分の部屋へ戻った茜は、それとなく本棚にある整列されたガイタ・クロの本の背表紙を指でなぞった。そしてもともと読書をするようになったきっかけを思い出す。読書は自分を想像すらしたことのない世界へと連れて行ってくれる。およそ現実離れした、『リアル』ではないSFチックなストーリーに触れることも出来る。そうすることで過酷な日常の辛さから一瞬でも離れることも出来る。だから読書はこれ以上のない喜びだ。特に好きな小説などについては、自分でその物語についての『考察ノート』を書くほどだ。
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以前から持っていたこの本は、内容は現実を左右する預言書のようなものであり、特別な力を持つものであったが、『自分に対しては』作用しないものなのだということはもう分かった。
咲さんの話によれば、これと同じような本がこの江茂志市に他に6冊あるという…。きっとこれは、ケイトが所持するべき時刻の書。明日、この本は、ケイトに渡そう。そして自分の時刻の書を探し出そう。
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そう決意した茜の表情は、いつも以上に鋭い目で、かつ美しく輝いていた。




