23.『オミナスベイパー』
「兎に角、なんとなくですがBRFは凄いって事は分かりました……。分かった気にならないと、先の話についていけなさそうですし……。」
「えぇ。そうね……。」
咲達が年上のためか、茜が珍しく敬語で返すと、ケイトもそれに賛同した。4人は様々な信じられないことに触れてしまって、この時は、もはや感情が『麻痺』していた。『今なら何でも来い』状態だ。
「それで……地球の危機っていうのはどういうことなんだ……?」
皆がBRFに呼ばれたその理由、確信に迫るレナ。レナのその真剣な顔をみて、それに応えるように、咲が再びリモコンのボタンを押した。スクリーンの映像が動き出す。
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宇宙に浮かぶ地球を背景に、『14年前 地球』と記された太いゴシック系の文字が表示されると同時にそれを読み上げるナレーションとその効果音が映画館の音響のように響く。地球に降り注ぐ宇宙線のスペクトルが地球の一部の表面に触れる様子。その後地球は拡大表示され、街や動植物を映し、さらに人々も映しだした。が、とくに変わった様子がなく、人間も動植物たちも普通に暮らしているようだった。
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咲はこれを見せながら再び語り始めた。
「その1年後の『神隠し』は、誰も、予想出来なかった…。」
咲は被害者たちの事を思ってか、一瞬表情を曇らせたが、はっきりとした口調で続けた。
「そして今、全く同じ波長の宇宙線が、毎日のように地球に降り注いでいる!」
それを聞いて心とレナが尋ねる。
「14年前と同じ予兆が……?」
「予兆がまた起こったから来年も同じように何かが起こるってことか……?」
咲は身振り手振りを加えて説明を続ける。
「そう……。我々BRFは、予兆であるその特殊な波長の宇宙線を、『オミナスベイパー』と呼んでいる。」
「オミナス……ベイパー……?」
「オミナスベイパー。それは『波及や影響』を意味する、私達BRFだけが使う造語だ。それは『異変』とも言える。あなた達4人がクレッシェンド山へ見に行った『赤いビーム』、それもオミナスベイパーによるもの。あなた達は、山の頂上近くの石碑で、赤いビームの向こう側に、『それぞれ異なるビジョン』を見たはずだ。私はそれは見てはいないが、既に先月他の場所で赤いビームを見ている。」
「何故私が他の場所でその赤いビームを見る事ができたか。それはこの『時刻の書』に、書かれていたのを私が読んだから。」
「あ、その本は時刻表!!」
茜が驚きを隠せずに言った。咲は続ける。
「13年前の『神隠し事件』の多発は、この江茂志市に限った事ではない。北半球で起きた世界規模の多発事件。その後、水面下で独自調査していたBRFは、『事件に関連した、ある法則で導きだされる特定の場所』で、ある『書籍』を発見した。特定の場所とは、14年前の宇宙線の分布位置をこの江茂志市に『縮小』させた位置!書籍とはつまり『時刻の書』。書籍の数は宇宙線がかすめた北半球の各地の合計数と同じで全部で8冊。特定の場所と同じ法則で、『収束』するように、この江茂志市へ集まったからだ。ここに私も一冊所持している。それと茜が所持しているものを引いて残りが6冊。そして何故この江茂志市が『狙われている』のかは、時刻の書を探し出すことによって解き明かされるのだろうと推測した。」
ケイトと茜が目を合わせる。咲が徐ろに自身が持っている時刻の書をとり出し、4人に見せた。それは茜がもっているものと外観と文字が全く同じ黒い本であり、背表紙にはやはり、真っ赤な文字で大きく『ゲイム・ジェン・ヨハン』の文字があり、その下に少し暗めな文字で「一族とその繁栄」と印字されていた。
「誰が書いた物なのかは不明。製作年月も不明。紙の材質を調べてみたら地球でも簡単に作れるものだが、地球ではその材で製本などしない。製本方法も地球のやり方とは異なる……。つまりこれは『向こう』で作られた書物だろうと仮定されている。」
茜たちが「時刻表」と呼んでいた『時刻の書』。二人はそのことを心とレナには黙っていたので複雑な気分になった。知らなかった心とレナは意味が分からず聞き出そうとする。
「その本が……なんだって?」
「本を読んだ茜なら知っていると思うが。茜はケイトに、本より能力を授かる時、時刻の書に書いてある通りのことをさせた。つまり、その内容に記されている行動を、『当事者にふさわしい者』がすると『あるべき真実』にたどりつくことが可能なのだ。」
「私が持っている事も知っていたのか……」
「だから調べさせてもらっていた。」
続ける咲。
「時刻の書にはするべきことが書いてある。読むものによって内容も異なる。ちなみに卓越感情保持者でない者が見たら、ただの白紙だ。」
「ちょっとまって!混乱してもう頭がついていけない……」
「もうおわるから、もう少し辛抱しろ!」
心がギブアップしそうになったが勘吉が言い聞かせると、咲は続けた。
「時刻の書は『卓越感情』保持者であれば、『条件分岐』と各ケース結果を知ることが出来る。このまま手を拱いて1年経過した場合、『ケース1』が発動される。それはアグダラからの『敵』の来襲!!この江茂志市を拠点に、地球を植民地化しようとしているのだ。」
「卓越感情……?」
「アグダラから『敵』の来襲……?」
「あぁ……聞きたくなかった…」
「突拍子もない……」
只々愕然とする3人をよそに、初めて聞く『卓越感情』という言葉が気になった心であった。




