14.レナからの呼び出し
クレッシェンド山へ向かった日から数日が経っていたある日のこと。
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昨日、3人のスマホにレナから招集のメッセージが送られた。
『明日家に招待するから昼過ぎに来てほしい』
心は、レナの家の一部である道場に毎日のように通っていたため、『今から来い』と言われても迷わず行ける場所だった。ここ最近の出来事から、また何か進展があるかもしれないという期待から、素直にその招集に対して『わかった!』の二つ返事だけしたのだった。
ケイトは、親友の茜か、両親、若しくは『朝比奈グループ』関係の人としかスマホでの連絡を交わした事がないので、レナからの連絡が新鮮だった。その連絡の内容が、この辺りでは豪邸として有名な『神宮寺家』への招集ということがわかると、自分の住んでいる家と比べるつもりは毛頭ないが、他の豪邸と呼ばれるような所に住む人間がどういう生活をしているものなのか知れる機会でもあったので少し楽しみでもあったし、最近『自分に起こった奇跡』の行方を知ることが出来るかも知れないという勝手な期待もあった。その奇跡によって得られたものかは定かではないが、この時のケイトの『心のバイオリズム』は上向きであった。
茜のスマホの画面はいつも新品だ。それは、酔っ払った父親にスマホを奪われ、ぶん投げられた結果画面が割れるという事が頻繁にあり、その都度ケイトに『また割れちゃった……?』と気付かれる度にケイトが目の前で修理してくれるからだ。最初の頃は朝比奈グループのお兄さんが直してくれたが何度目からか、ケイトは割れた画面の交換がお手の物となった。『別に割れててもいいよ……』とケイトに伝えた事もあったが、ケイトの『ダメダメ!画面が割れてたら液晶漏れでどんどん壊れる一方だから』と勝手に直してくれた。裕福さではかけ離れている家柄の娘である親友の申し出には、なるべく甘えないつもりの茜ではあるが、スマホの画面についてだけはいつからか甘えるようになっていた。
茜がスマホを持つ理由はなんといっても誰かが書いた『小説』をどこでも読めるからだった。
茜は読書が大好きで、著名な小説家である「ガイタ・クロ」の大ファンだが、まだ日の目を見ない無名の小説家による小説を読むのも好きだった。好奇心旺盛な茜は面白ければ誰のだろうが読む。最近面白かった小説はKAERUというペンネームの小説家が書いた『君にアセンション。』という小説だった。リアルな描写から一転してファンタジー要素を含むその小説を、茜が一番評価していたのは読みやすさで好感が持て、内容もわくわくした。この小説家は目が離せない。それを読んだ後、他にも無いのかとちょっと調べてみたらすぐに見つけた『君の声のせいだよ』もとても面白かった。文章の書き方から執筆者の「丁寧」という人柄がつたわってくるようでこれも素晴らしかった。これも読みやすさの重要さを考えさせられる作品だった。読み進めるにあたってのストレスが全く無い。茜は、新しいお話が出ていないか、そのKAERUの新しい投稿がないかと時折チェックするのが、密かな楽しみになっていた。
もう一つの理由は親友であるケイトと『いつでも繋がれている』こと。別にやりとりがなくても良かった。番号は自分の家とケイトの2つしか登録されていないが、気持ちが落ちている時、『そこ』に朝比奈ケイトの名前が表示されるのを見るだけで心救われる時があるのだった。
夜、父親にまた暴力を振るわれ、いつものように気持ちを変えようとして「朝比奈ケイト」の文字を眺めていた茜の目に、見知らぬ番号によるコールの画面が映った。多分ただの間違いとか、いたずらとかだろうと思って無視していたら、『おーい!コールに出てくれよ。レナだ!』の文字が送信されてきたので、あわててその番号を登録し、折返しコールした。
「ごめんごめん!まだ登録してなかった!もうしたよ!」
「明日の昼過ぎにみんなでうちへ来てくれ!用件はそれだけだよ!今からちょっとまた個人練習あるからまたね!」
「わかった!」
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こうして次の日、3人は神宮寺家の近くの小さな公園で待ち合わせすることになったのだった。
その家は、広大なマンモス団地の端にひっそりと立つ、数軒の一戸建てが並ぶ一角にあった。その奥には、アスレチック施設を備えた大きな公園「日向村」がある。
休日であるこの日、レナからの連絡で集まった心・ケイト・茜の3人は、その家の少し手前にある小さな公園で待ち合わせ、時間通りに集合した。来る道中、心はマンションの一室から流れてくる、アコースティックギターの音色にのった可愛らしく透き通った美しい歌声を耳にした。その心地よさに気分を良くした心は、まだ耳に残っているそのメロディーを口ずさんでいた。
時間になると、ここへの訪問に慣れている心は、『神宮寺』の表札の下にあるインターホンを得意げに鳴らした。
「おー、来たね!入って入って!」
心の先導で3人は敷地内へ入っていった。3人の目に映るのは、とても立派な日本家屋、それと離れ家を結ぶ屋根付きの渡り廊下、そこから観る事のできる壮麗な庭園が3人の心にひとときの安らぎを与えていた。




