12.『アグダラ』
「ご乗車の皆様束の間の天空への旅、如何でしたでしょうか。間もなく、目的地の
呉塩土山頂上に到着いたします。お荷物のお忘れなきよう……」
トンネルに入った途端、外が暗くなる。山頂の着地点はトンネルになっていて出口が北と南に分かれている。別れの挨拶をしてくるカップルの男性。
「さぁて、着いた!お嬢さん達も楽しんでね!どこかで逢えたら、またね!」
「ばいばい!あ、お姉さん、真帆実によろしく!」
「オッケー!」
カップルは先に客室から出ていき、江茂志市が一望できる南の出口へと歩いて行く。心達も客室から出るが、心は逆に北の出口を目指す。別れの挨拶をしたのに同じ方向へ歩くのも気まずくなるからだ。トンネルを抜けると、頂上は木々に囲まれた楕円形の公園といった感じになっていて足元は砂利道、広さは面積でいうと100平米程しかなく、中央には団子屋とジュースの自動販売機が2つ並んでいるだけだった。公園の北側は断崖絶壁で、【4人の目的】である赤いビームが放たれていたのはその方向だ。4人は横一列に赤いビームを目指すと、すぐに崖の手前の北西の海を広く一望できる場所にたどり着いた。
鎖の仕切りで隔てられているが1メートルもないほど低いので簡単に跨いで超える事が出来る。仕切りを越えた先には、横幅一人分ほどの小道が下へと伸びていた。下り坂を正面に右側はむき出しの地層の壁になっている。そしてかなり下った所に高さ4メートル位の大きな岩が見える。赤いビームはその岩から伸びていた。
「どうやら、赤いビームの源はあの岩のようだな!」
レナがそう言うと心は目の前の天に向かって放射されている赤いビームを見ながら言った。
「太いビーム。直径1m位かな・・・」
「下、行ってみる?」
茜が一応確認するが心は既にそのつもりだった。
「近くに行ってみないと謎のままだ。行こう。」
「みんな足元に気をつけて。」
ケイトが注意を促す。心を先頭に、レナ、茜、ケイトの順で小道を降りていく。まだ明るい時間だが、途中、木の陰で暗くなっている部分も歩く。茜が躓き、レナにぶつかった。
「わっ!!」
「痛っ!」
「ごめん!」
「大丈夫か?ふふ」
「眼鏡……持ってくるべきだったかな……そこまで悪くはないからあんまり掛けないんだけど」
「へー!茜って眼鏡かけるんだ?」
「あんまり掛けてないけどね!」
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鳳茜は、小学三年生の時から実は自分の眼鏡があった。それは、小さな頃から読書が大好きだったのが原因だ。それが功を奏したのか、小学生の頃から他の科目と比べると国語の成績だけはずば抜けていたし、漢字テストでは殆ど毎回満点だった。しかし、眼鏡を掛けた顔の自分は、あまり好きではなかった。傍から見たら眼鏡女子は真面目で頭が良さそう、みたいなことはよく言われるが、茜としては、それよりも【本当は暗い自分】が見事にあらわされてしまっている様に思えたからだった。
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小道の一番下にたどり着くと、海側である左に曲がるようになっていて、その正面には周りが木々に覆われた、50平米程の広場があった。依然として地面は砂利道の延長だった。その中央に、例の【赤いビームの始まり】である【岩】がある。4人は警戒しながらその岩に近づき、同じ方向からその岩を見る。
「これは岩というか、石碑みたいなもののようだ。ほらここ、何やら文字が書いてある。」
見落としが無いように観察する為、前かがみになったレナが言った。
「レナ、赤いビームの部分見て?」
心が何かに気づいた様で、レナに確認した。
「うん?岩でなくて?んー!?なんだあれ……」
その1メートル程の幅のビームの中を見て、レナが不思議に思い返事をするが、茜もケイトも同じように不思議がっていた……。それは、赤いビームは光線だ。故に透過してうっすらと向こう側の風景、つまりそこらの木々が見えるはず。しかし赤いビームの部分に存在する情景は、背後の木々でもなくまた向こう側の海でもなく、全く異なる情景なのだった。
「これは……砂漠……だよね?行ったことは無いけれど……」
心が言った。
「そう、だね……どうなっているんだ……」
レナが赤いビームと、周りの木々を見比べながら応えた。
「うん、この場所の……木々の風景とは全然違う……場所が見えるよね?……」
「うん。」
ケイトと茜も意味がわからないといった表情だった。茜が言い、ケイトが答える。
「何かの……ビジョンが投影……されているの、か?」
「でも、今の3Dの立体映像とかじゃない……鮮明というか、本当にそこに存在している様にみえる……!」
「砂漠の景色の奥にピラミッドのようなものも見えるな。」
レナが、見つけたものを指さして喋りだすと、他の3人はちぐはぐな内容を口にする。
「え?ないよ?ここは城のような建物の中じゃないのか」
そう答えたのは茜だった。
「私が見えるのは……夜の砂漠の中の街のようだけど……?」
「マスクをした女の人が剣で何かと戦っている!」
ケイトと心も見たままを言っただけだった。
「え?皆、何をいってるんだ!?意味がわからない!見えているものが、違うのか!?なにか、やばくないか!?」
レナがそう言ったその時だった。ビームが伸びている天の方から、ビームが消え始めたかと思うと、すぐに石碑まで達し、今まで見ていたそのビジョンとともにフッと消えた。
「何だったんだ……今のは……」
心が言うが皆、言葉を失っていた。気を取り直そうと石碑をさらに観たレナが言った。
「これは……文字だよな?」
「何語だろう?見たこと無いけど」
「昔の言語?」
「わけわからん」
「あ……」
心を除く3人は、検討がつかないと言った感じだった。心だけが何かを感じ取ったようで、その文字と思しき一箇所を指差し、なぞりながら口にする。
「アグダラって書いてある……」
「え?」
「ん?」
「え?なんで読めるんだ!?」
レナは当然の疑問を心に投げる。しかし心は
「わからない……」
と答えた。
(本当にアグダラとかいてあるのか?)
(心の言っていることが本当ならアグダラとは何の名前なのだろうか?)
(アグダラという言葉、どこかできいたことがある気が……)
そんなことを考えながら4人はこの石碑にはほかに秘密があるかもしれないと至る所を調べた。しかし他に気になるところは何もなかった。消えたビームがまた出ないかと待ってみたが、何も起こらなかった。ここにきてから1時間ほど経過したころ、もうここに居ても何も変わらないだろうということで、4人は気持ちが消化不良のままその石碑をあとにした。
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頂上に戻り、先程横を通り過ぎた団子屋で休憩をしながら、4人は顔を近づけてヒソヒソと話した。レナが自分の話している内容を半ば疑念を持ちながら言った。
「まとめると……アグダラっていう場所?がどこかに存在していて、その土地にはピラミッドや砂漠の街があって、ケイトの話によるとそれは聖なる力とも関係があって、そこにはマスクをした女剣士が何者かと戦っている。みたいな?」
「4人それぞれが見たビジョンの情景を合わせるとそんな感じ……だね……」
茜が応えるが、茜もあまり信じることが出来ずにいた。そもそもあの赤いビームのビジョンが3Dの立体映像ではないと思うとケイトが言ってもまだ確信には至らなかった。しかし、ただの作り物だとした場合、何の意味がある?となる。ではアグダラはどこにある?となり、ネットで探しても出てくるのは旧ソビエトのある地区の名前でアグダラと言う名前だったことがあるが昔のことでその名前はもう使われていないらしいし、そこは砂漠ではないので多分関係ない。ではどこだとまた考え込んだ。それまで沈黙していた心が、いち早く団子を食べ終わりお茶を飲んだあとに言った。
「みんな、これを観て欲しいんだ。レナには見せたことがある写真」
「あぁ、あれか。」
心が見せたのはナオトくんが穴の中にひきずりこまれた時撮った生物の写真だった。
「な、なに?……この生き物……動物……じゃないな……」
「とても……信じられない……けど……、この人は大丈夫なの?」
それをみた茜とケイトの素直な感想は、レナが初めてそれをみた時の感想と同じだった。とても信じられない光景だけれど、そこに映っているから信じられる。まず心にそんな写真加工の能力はないと思えてしまうし、わざわざアプリを使ってそんな意味のないイタズラをする子ではないことはわかっている。見た事もない生命体が穴の中に人間の子供をひきずっている瞬間の写真。これをみせられたら信じるしか無い。心が静かに喋りだす。
「アグダラが……地底なのか、それはわからない。けど未だ世界に認知されていない場所。そしてこの生き物……頭・身体・両腕・両足があり、ひきずりこむという思考を持っている。どのくらいの知的生物なのかはわからないけど、さっきレナがまとめた内容にまだ入ってない情報があるんだ……」
「え?!」
「私が見た、砂漠でマスクをした女剣士が戦っていた相手。その敵対しているやつが、この生き物と瓜二つなんだ!!」
「え?!」
「そう、なのか……」
「それなら、話が繋がるな!」
レナが言った。




