10.ロープウェイのひと時
ケイトが何故かクレッシェンドのロープウェイの無料チケットを4人分持っていたため、心達は500円ずつ払うことなくロープウェイに乗ることが出来た。中々広い車体だ。中央の入口から乗り込むと、4人は中を仕切っている乗務員にチケットを手渡すと、戻ってきた半券を受け取った。
「往復券ですね。帰りまでなくさないようお願いしまーす。」
「はーい」
心が応えた。他の客としては、進行方向側に二十代後半と思しきカップルがいた。
「私達も先頭の方行こうよ」
「カップルがいるけど。邪魔じゃないかな……?」
茜がいうとレナがいったが、心の
「別に大丈夫でしょ?」
という言葉によって進行方向側に向かった。カップルは進行方向に向かって右隅にいたので4人は左側に行った。心が進行方向正面のガラスの前に立ち、これから上っていく方向を見つめた。レナは側面についている左側の手すりに寄りかかり、ケイトはレナの逆に1メートル程距離をあけて立ち、茜は心の後ろ1メートル程のところにいた。
しばらくすると車内に録音の再生と思しきアナウンスが流れてきた。
「こんにちは。みなさま、クレッシェンド・ロープウェイをご利用いただき、ありがとうございます。標高350メートルの呉塩土山頂上まで、総延長958メートル、約9分間という束の間の美しい旅ですが、どうぞお楽しみ下さい!
私、清田鈴がみなさんをナビゲートします。では発車いたします」
「わぁ」
心は、楽しくなり、目を輝かせていた。それを見てレナが言った。
「ふふ、ロープウェイ初めてか」
「うん!」
「そうなんだね!」
茜が応えた。上っていく方向にはあの赤い線が未だ輝き続けていた。その為かその周りの空の色も少し赤みがかって見える。
「今日は凄い綺麗な空模様だね。どこもかしこも綺麗な青空だ。」
となりのカップルの男性が女性に言った。
「そうだねー!」
4人はそれを聞いて不思議がった。
(あの赤い線によって青空じゃない部分もあるけれど?)
と思ったのだが、他人なので何も言わなかった。
「あ!知ってる?青空といえば、青空心って言う人、知ってる?」
カップルの女性が言った。その瞬間、4人はそのカップルの会話に聞き耳をたてた。もっとも、そのカップルの会話、なかなか声が大きいので普通に聞こえてくるのだが。
「知ってるよ!この町じゃ有名だからね。女の子だけど、そんな背も高くないのに、男勝りで、とても強いんだってね。それがどうしたの」
ケイトが目を丸くして口に手をやった。茜とレナは面白そうに聞いており、当の本人である心は自分が噂されてることがとても変な気分になった。
(こういう風に噂されてるんだ……私……)
「その青空心ってのは、高校2年生らしいんだけど、わたしの従兄弟も高校2年の女子なんだよね」
「昨日電話で話したんだけど、青空心を知らないかって聞かれて。見たことは無いっていったら、そっかーって、すぐ電話切られちゃったんだけど、なんか探してたみたい」
「なんで従兄弟、その子を探してるんだ?喧嘩の勝負でも挑もうとしてるのかな?」
「いや、喧嘩するような子じゃあないよ。やるとしたら野球とかサッカーかも」
「でも青空心って野球やサッカーしないんでしょう?」
(あぁ……答えたい。野球でもサッカーでもなんでも相手してやると……言いたい……)
心は少し苛ついているようで、手すりにおいた手をトントンした。心以外も黙っているがそれをみて心の今の気持ちを知ってか、顔は笑っていた。
「でも喧嘩だけでしょ?強いのは!つまり不良でしょう!!」
「だね!喧嘩が強いってなっても、今じゃ何の役に立たないさ。それに不良の根性なんて、たかが知れてる。ふっ…。たぶん、俺でも勝てる」
(かっちーん!!)
(あ……!)
(あ……!)
(あ……!)
心の中で何かが切れたその音が、他の3人にも聞こえた気がした。
「野球でもサッカーでもなんでもやってやるよ!で、お兄さん!今、俺でも勝てるって言ったよね!やってみる?」
「え……?」
「えぇ……?!」
カップルの二人は知らない少女が突然喋りかけてきてびっくりしたがその内容から相手が青空心なる人物、本人であることがわかったが信じられない様子だったが、
「えぇ~~!!」
その形相から、たぶん本当なのだろうとカップルは思ったが、ダメ出しの心の一声。
「わたしが!!青空心だ!!」
心はこれで二人を黙らせる事ができるなと思ったが、そんな思いとは裏腹に、
「こんな子だったのか!」
「まぁ!!可愛い!!」
「ぎゃはははははははは!!」
最後に馬鹿笑いしたのはレナで、心に言った。
「心、可愛いってよ!良かったじゃーん!!」
「ふ、ふざけるなー!」
「そうです、この子が青空心です」
茜が心を称えるように両手をひらひらさせながら言った。
「うふふ」
「もう!」
お嬢様笑いのケイトが笑うと、心は怒っている表情はみせつつも少し落ち着いた様子になった。
「サイン頂戴!?」
「え、私もお願い!!」
「サインなんてやってないよーだ!!」
「あら残念!!でもまさか青空心さんが君のような人とはね!びっくりしたよ。失敬失敬、噂してごめんよ。でも俺でも勝てるって思ったことは、あながち嘘にもならないなぁ。これじゃぁ。かわいいから別に強そうに見えないなぁ。普通に女の子じゃん!」
「そうよね。可愛いもん。もっと、なんていうか金髪とかなのかと思った。あと顔も男みたいな顔してると勝手に想像してた!」
「あー……、さいですかぁ……」
「ぎゃはははは!」
心以外の3人はまだ笑いながら会話を聞いていた。
「でさー!その、従兄弟!?名前なんて言う?」
「あぁ、別に教えちゃってもいいかぁ!!うんとね、切下真帆実っていうよ!!江茂志三高の2年生だよ!戦いたいっていってたから、その時は宜しくね!」
「別にいいよ!」
スマホにその名前をメモする心はしめしめといった様子。競技は何でもいい。相手が私と戦いたいというのなら全部受けて立つと日頃から思っている心にとって、対戦相手の事をメモすることは楽しみの一つでもあった。
「本当になにか勝負事が好きなんだね!」
「うん!誰とでも戦いたい!」
「なんで?」
「相手が好敵手だったら、今よりもっと強くなれる気がするから」
「どうしてそんなに強くなりたいの?」
「教えなーい。」
「あら残念。」
カップルの男性と心の会話をみんなで聞いていたが、心の拒否が会話を止めた。
その答えを知っているのはレナだけだった。




