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LastStudent.  作者: JACK_KINGSLAVE
7/22

『福音』




 刃元がオレの背中に刺さるその直前に、ロビンソンの斧槍ハルバードを、この手で握り砕いた。

 いいや、確かに背中に衝撃はあった。 しかし、背中には痛みもなく、出血の感覚もない。 つまり、背中に直撃はしたものの、怪我に至るより先に刃が四散した……、ということになる。


 金属バットの如く、遠心力に任せて大きく振るったり、展示されていた絵画を叩き裂いていたところを見るに、斧槍ハルバードを構成していた素材が柔らかかったり、脆かったというわけではないはずだ。 それなのに、ただ強く握りこんだだけで容易に砕くことが出来た。


 そして、何なんだこの感情は。

 言葉にならない、熱く湧き上がる情動は。


 オレは斧槍ハルバードの柄を握って、奴の動きを止めたかっただけだというのに、思い通りに破砕してやったぞ、という、不思議な実感がオレの中でガスのように充満していく。

 まるで初めからそうするために、奴の懐に潜り込んでいたような。 計画通りに物事が進んだことに対する快感に似た込み上げる喜びを感じる。


 テロリストも、ロビンソンも、斧槍ハルバードも、そしてこの感情も、何もかも説明がつかないことばかりで、わけがわからない。



「ぐ、ぎッ!」



 呆然としているオレから距離をとったロビンソンは、吹奏楽団の指揮者の様に両腕を振るい、爪から現れた血の光跡で、再び作品を創造し始めた。



「悪いねえ、君が何をしたかわからないけれど、 どうしてだか仕留め損なってしまった。 今度こそ、」



 ロビンソンのツメが空中に光跡の設計図を完成させると、先程と同様に何もないはずの空間から、長い柄の斧が出現した。



「ぐ、ぎぎぎッ、この斧で彫刻してやるよ。 一撃でってやるから動かないでよ。 痛いのは嫌だろうし、加虐趣味はないからね。 がッ、ぎぎ。 でも、逃がす訳にはいかないんだ」

「動くなよ、銃向けられてんのわかってンだろ!」

「悲しいね、世間に発想を押し決められ続け、社会に思考を押し付けられ続け、その結果に思考力が欠如してしまってる。 私は君のような思考力欠乏症患者の若者を、これ以上増やさないためにここにいるんだよ。 ギギッ、何を言ってるかわからないって顔だね、ぐッ、ググ……ッ! ヒントをあげよう」



 ロビンソンは仮面の隙間から、塗料のように真っ赤な鮮血をだらだらと流し続けながら、



「人は弱いからね、銃なんて強い道具を持つと、撃つことばかりに考えが集中してしまう。 なんて可哀想なんだ」



 と、斧槍ハルバードを構えて走り出した。


 どういう意味だ?

 ロビンソンは、何が言いたいんだ?


 確かに、今のオレはこの銃が持つ脅威性を利用して、弾丸を撃とうとする素振りで奴の動きを止めることしか考えられていなかったが、どうして奴は、銃を向けられているのにこちらに走ってこれるんだ?

 鉄の仮面の上から素手で思いきり顔を掻きむしり、爪を剥がすような気狂い野郎だから、ただ無謀なだけとも考えたが……


 もし、この銃に脅威性が(・・・・・・・・)無かったとしたら(・・・・・・・・)


 脅威とはつまり、人を撃つことが出来ること。


 しかし、もしこの銃に弾が入っていなかったとしたら?


 ロビンソンは人質を殺すなんて計画にはない、と言っていた。 もしあの発言がデマカセではなく、本当のことだとしたら?


 この銃は、警備員や一般客を制圧するために所持していただけで、その実は精巧に造られた空砲のモデルガンだったとしたら?



「遅いよ遅いねもう遅いッ、学生君ッ! 何に気付いたってどうしたって、遅すぎる!」



 走り込んできたロビンソンは、斧槍ハルバードを斜めに振り下ろした。 銃に意識が取られたことでアクションが遅れてしまい、もう、退避も前進も間に合わない。

 回避行動をとる余裕もないオレが、反射的に取ったアクションは、斧が首元に直撃しないよう、銃を握っている右手を前に出して邪魔することくらいだった。

 当然、手首は持っていかれるだろう。 それに、手首の次は首元が晒される。防御ともいえない、無駄な足掻きだ。 それでも、恐怖を前にして反射的にできることは、それしかなかった。


 先程まで体を満たしていた謎の情動はすっかりと冷め、恐怖で内蔵が浮く。


そこで、一瞬だけ思ったんだ。




さっきみたいに、斧がぶっ壊れたら助かるのにと。





 斧の刃先が手首に接触したその瞬間。


 触れた部分を中心に、赤黒い刃に光の亀裂が走った。


 亀裂は一瞬で斧槍ハルバードの柄まで達し、刃先から順に砕け、粉々になっていく。

 まるで雪が超高熱の火炎放射バーナーを当てられて一瞬で溶けてしまうみたいに、手首に触れたところから音を立てて粉々に崩れていく。

 驚くことに、そこに痛みはない。


 腕で受け止めきれなかった部分が肩に接触すると、同様に一瞬の衝撃だけを残して粉砕されていった。


 辺り一帯に斧槍ハルバードの欠片が勢いよく散乱し、空中に飛び舞っているところを、照明の光が照らした。 赤黒くてらてらと輝く欠片の群れが、物理法則に習ってフロアタイルに落下するまでの短い間、ステンドガラスのようにで煌びやかな空間を作り上げた。



「な……ッ」



 そこからは、状況を理解するより先に、身体が動いていた。


 銃を持っていない左手で、斧槍ハルバードを失ったロビンソンの腹部を、思い切り跳ね上げさせるように殴り込んだ。 やはり、彼の肉体は病的なまでに細く、中性的なまでに柔らかかった。 殴打をノーガードで受けたロビンソンは腹をかかえて何歩か後退あとずさる。


 オレは銃をその場に投げ捨て、床を蹴って勢いよくロビンソンに近づいた。


 彼は痛みを堪えながらこちらの動向に気付き、左手をこちらへ向けた。 その動きには血の光跡が伴い、どうやらまた手品を使って作品を創り出そうとしているようだった。


 しかし、それが完成するより早く、オレの右ストレートが空中に浮かぶ血の設計図ごと、彼の仮面の中心に直撃した。

 素人の殴打とはいえ、軽く助走をつけた拳が顔面にクリーンヒットしたため、ロビンソンは後方に吹っ飛び、壁際に展示してあった壺を豪快に破壊しながら床に転がった。



「ぐッ、がァ……ッ! 何……でだッ! 何なんだ……、それはッ!」



 床に転がったロビンソンの仮面は、先程の斧槍ハルバードと同じ光の亀裂が入り、半分が砕け散っていた。

 仮面が隠していた顔面は、掻き毟ったことで包帯も破れ、どくどくと脈打つボロボロの皮膚が露出してしまっている。



「どうして……、私の『爆弾作り(ベータテスト)』が砕かれるんだッ! 唯一の希望の権能ちからがッ!!」

「うるせえよ。 『少数派ルサンチマン』だの、『爆弾作り(ベータテスト)』だの、意味わかんねえんだよ!」

「君はァッ、その権能ちからをどこで手に入れた? どうして仮面も持たぬ君が権能ちからを執行できるんだッ!」



そう血濡れのロビンソンが叫ぶと、奥の展示室へと繋がる通路から、ブーツの音が近づいてきた。 まずい、と通路側に視線を向けると、そこには既にロングコートの男が立っていた。



「……苦悶の美術家、創実主義者ロビンソンよ。 我々『少数派ルサンチマン』は、世間の爪弾つまはじき者。 そんな我々では理解の及ばない、深き因果関係から成る他の『鍵』も存在するということだ」



いばらの様な純銀装飾の、極黒のフルフェイス。

この部屋で騒動が起きた時に、からすのような仮面をつけた男と一緒にいた奴だ。



「我々、『少数派ルサンチマン』は福音を受けることで異能の権限を解放している。 解放とは世のことわりを超越し、人間に与えられたかせを解く非可逆的な目覚めだ。 その解放には『鍵』が必要不可欠となる。 その『鍵』は我輩の手中にある。 しかしだ、学徒よ。 我輩は貴様に『鍵』を行使した憶えはない。 即ち、貴様の心を解放させ、異能の権限を与えた、別の『鍵』を持つ者がいるはずだ。 答えよ、何者なのだ、その所持者は?」

「『鍵』だのなんだの……、オレには何もわかんねえって言ってんだろッ!」

「ならば、貴様は何者だ。 その異能の権限を獲得するに至った経緯を答えよ」

「知るか。 経緯っつったって、オレは記憶喪失で何にも憶えちゃいないんだ。 だから説明しようもねえんだよ」

「……ほう、記憶の欠落か。 面白い、貴様もまた、世間や隣人とは違う、少数派という訳か」



ロビンソンが、背後から声をあげた。



「まさか、この学生君を『少数派ルサンチマン』に引き入れる気じゃあないよね。 こいつは、私の信じる美を否定したんだぞッ! こんな空っぽで、何にも考えてなさそうな奴がッ!」


「ロビンソン、その通り、オレは空っぽだ。 あんたみたいに強い信念や思想があるわけでもない。 学校のやつらみたいに、何かに必死になれるものがあるわけでもない。 浅くって、薄っぺらい人間さ。 だけどな、これは何度だって否定してやるよ。 あんたは間違ってる。 それに、つまんないぜ、あんたがやってることは。 美術館の展示品を傷つけて、汚して、これは腐った世の中へシグナルだなんだとのたまったところで、そんなの、ただの餓鬼ガキの地団駄じゃねえか! 美しくもなんともねえ。 そんなことで、世の中に復讐したつもりかよ、笑わせんな、選挙の投票に行かねえオレにだってわかるぜ、そんな間違った方法じゃ、何も変えられねえよ。 オレには真の美しさなんてもんはわかんねえし、絵心なんかもねえけどよ、これだけはハッキリと言えるぜ。 お前の美的センスは(・・・・・・・・・)最悪だってな(・・・・・・)!」


「っ……、君って奴は……!!」



ロビンソンは流血している顔を片手で押さえて、その場で黙ってこちらを睨み続けている。



「苦悩の筆を振るいし者、ロビンソンよ。 貴様の大願は成就させた。 帰還し、我々との約束を果たせ」

「チッ、わかってる、わかってるさ……」



 血濡れのロビンソンは片手で顔を押さえてゆらりと立ち上がり、後ろから取り出した携帯電話ガラケーのような無線機に話しかけ始めた。



「私だ、終わったよ……、邪魔が入って集中できなかったけれどね。 AチームからCチームは移動を開始、『脱走兵ヒル・ペレス』率いるDチームはブリーフィング通り、脱出の準備を進めろ。 私は羊飼い(・・・)と先に目標地点へ向かう、以上《over》」

「――――了解、移動開始《move》」



 無線機を切ったロビンソンは再びこちらを睨みつけて、



「……名前も知らない学生君、私は君が心底気に入ったよ。 君がその権能を持つ限り、『仮面の引力』によって私たちは再び巡り会うことになるだろう。 次に会った時には、今度こそ君を作品にしてやる。 最高傑作に! 世の中にショックを与える、対極主義的な問題作にねッ!」



 そう言い残し、彼はふらふらと肩や腕を壁にぶつけながら、部屋を出ていった。 フルフェイスの男は、しばらくオレを品定めするように仮面越しで凝視したあと、何も言い残すことなくロビンソンの血痕を追っていった。


 待てよ、と声をかけてやりたかったが、急に緊張が解れたせいか、意識がぼんやりと虚ろぎ、彼らの足音が聞こえなくなるまで、ただ立ち尽くすことしかできなかった。


 展示室に残るのは、赤色せきしょくに染め上げられた美術品の数々と、引き裂かれた絵画、ぐしゃぐしゃに倒されたパーテションと、血溜まりの中で煌めく斧の砂塵。 全てが、ここで起きた出来事の壮絶さを物語っていた。


 直後、何の前触れもなく背後の防火シャッターが引き上げられ、非常口への道が開放された。


 これで、外に出られる。

 そうだ、仁たちは無事だろうか。

 すぐにでも安否を確認したい。

 もしあいつらの身に何かあったら――――――


 と、歩き出したところで、急に四肢から力が抜けて、血溜まりに倒れ込んでしまった。


 あぁ、クソ、何だってんだ、どうして力が入らねえんだよ。 ――――仁と遥夏、逃げきれたんだろうか。 勝人は奴らに捕まったあと、暴れて怪我させられてないといいが。 あいつ、陸上部のエースと勝負するんだって、伝説の五連勝を超えるんだって意気込んでたからな。 こんなとこで脚に怪我して不戦敗です、なんて目も当てられねえ。 あんなに張り切ってたのに報われねえよ。 不幸だなんて言葉じゃ、片付け、 らんね、 え――――

























『――――運命の"呪われ"よ、全ての仮面を暴き、世界を掻き乱せ。 喪失された記憶を取り戻し、全てを元の通りにするためには、この世界ものがたりを破壊しなければならない。 そう、君は、『代筆者』となるべき王なのだから』























 目を覚ました場所は、アイボリー色の天井をした病室だった。


 左を向くと、ベッドの隣で椅子に座る妹の理紗りさがいることに気がついた。頬に窓明かりが射し込んだまま、コクリコクリと船を漕いでいる。

 どうやら、眠っていたオレの様子を、長い間見てくれていたようだ。


 掛け布団をめくって身体を見回すと、腕や肩に白い包帯が巻かれ、指には謎のハサミまで取り付けられていた。 ……オレは、どれだけ眠っていたのだろう。



「……おっ、お兄ちゃん? お兄ちゃんっ!! 起きてくれたのぉっ! 目が覚めたんだね、良かったぁ、良かったよおぉ……!」

「理紗……、お前、ほんのこの前までずっと部屋に引きこもってたっていうのに、病院なんて来て大丈夫なのかよ」

「ぜんっぜん大丈夫じゃないよ! とっても苦しい! 今すぐ家に帰りたいよ辛いよ、でも、お兄ちゃんが一緒にいる家じゃなきゃヤダよ……! もう……、お兄ちゃんの馬鹿、本当に本当に、本っ当に馬鹿なんだから! 危ないことしないでよ、とっっっっっても心配したんだよ……! もう……! もう……、起きないかもって、何度も、考えちゃって……」

「悪ぃ、不安にさせちまって。 ……本当に、すまねえ」



 しばらくの沈黙の後、そうだ、と理紗は椅子から立ち上がって、



「お父さんとお母さん呼んでこなきゃ、ちょっと待っててっ!」

「おい、待て、それはそうだけどこういう時ってまずは看護師呼鈴ナースコールをだなっ、痛ででえ゛っ……!! おい、理紗、おいっ! ……く、くそ、超高速で行っちまいやがった……。 オレだけじゃ肩が痛くてコールボタンに手が届かねえよ……!」



 はあ、と再びベッドに落ち着き、窓外の空でも見て理紗の帰りを待つことにした。



 美術館での一件――――、あれは一体なんだったのか。 異能の力だの、仮面がなんだのってのは。 それにあのロビンソンとかいう奴、あいつは、再び巡り会うだろうとかなんとか言っていた。 あの言葉の意味は――――




 しばらくして、病室に神無月家の面々が飛び込んで来て、泣き笑いで安否を確認された。 理紗は左半身に抱きつき続け、怪我したところが痛いから離れろと言っても、数時間は聞いてくれなかった。


 それから一週間、様々な来訪者が病室にやって来た。 刑事から、ゴシップ誌の記者まで。 そして首を揃えてこう聞いてくるんだ。 テロリストグループについて知ってることをなんでもいいから教えてくれ、って。

 話せることはとにかく全部話した。 奴らの言っていた、異能や仮面のことも。 しかし、聞かせてくれと言ってきたのはあちらだというのに、まともに聞いてくれる者は一向に現れず、次第に足を運ぶ者は減っていった。


 病室の来訪者たちから聞いたところ、事件は以下のようにまとめられ、世間には報道されているらしい。


 新国立博物館を襲撃した大規模窃盗事件。 警備員に扮装していた正体不明のテロリストグループは、一般客を人質に立てこもり、旧美術館棟の現代美術展示フロアに展示されていた複数の展示品を破壊した。紛失した展示品も一部確認されており、美術品の窃盗を目的とした事件であるとして捜査が進められている。しかし、警察が駆けつけた頃には既にテロリストグループは現場から姿を消しており、ロビーには目隠しと結束バンドで縛られた人質たちが取り残されていた。 館内のカメラ映像などのデータは全て抹消済みで、警察は周辺地域に設置された防犯監視カメラ映像を確認し、逃走経路の特定を試みたが、同日の夕方頃に大規模停電と電波障害が発生していたことが原因で、一部のカメラが使い物にならない状態となっており、逃走車両の特定どころか、構成員の一人すら絞り込むことは難しいと判断され、捜査は難航している。 だが幸い、館内関係者含め一般客に大きな被害はなく、軽傷者は医療機関で治療を受けている、とのことだった。


 少数派ルサンチマンに関する新たなことは、何もわからなかったが、人質たちは軽傷で済んだと聞いて胸を撫で下ろした。


 退院許可が下りたころ、警察から口酸っぱく言れていた、許可証所持者以外への情報開示禁止期間もちょうど明けたことでSNSの使用が解禁され、仁たちから安全を確認する連絡が来るようになった。 しばらくは、感謝とこっぴどいお叱りが交互に何度も何度も書かれたメッセージがいくつも届き、嬉しい反面、もう少しSNS接触禁止期間が伸びていた方が幸せだったのかもと思うことがあった。




 事件から二週間後、授業が再開した。

 まだ再開一日目だからか、あまりクラスメイトが揃わなかったが、事件の日に関する情報交換は盛んに行われ、学級閉鎖前よりずっと騒がしい朝礼ホームルームを迎えることとなった。



「おはようございます。 皆さん、お久しぶりですね。 先日の校外学習の一件で、クラスの皆さんに大きな怪我がなく、担任として心より安心いたしました。 しかし、人の怪我とは二種類あります。 目に見える身体の怪我と、目に見えない心の怪我です。 もし今回の一件で、心にしこり(・・・)が残ったり、何か相談しておきたいと思うことがあったら、いつでも教師陣を頼ってください。 私たち先生は、皆さんの味方ですから」



 そのまま事件の話がしばらく続いたあと、



「最後に皆さんに明るいニュースがあります。 本日よりこのクラスに転入生が入ることとなりました」



 転入生だと?

 もう七月の半ばに差し掛かろうとしている、テスト前のこんな時期に、どうして――――?



「野崎さん、入ってきてくださーい」



 野崎、どこかで聞き覚えが――――


 そう思ったのもつかの間、教室の扉が開かれ、転入生の顔を見た途端に心当たりは確信へと変わった。



 男子用の半袖シャツと、黒い学生ズボンをスリムに着こなす、頭と両腕に包帯をグルグル巻きにしたハロウィン男。 身長は160から170あたりはあるだろうというのに中性的、あるいは病的にまで細い腕と、その異様な姿に、クラス中の視線が集中する。


 オレは彼の正体を知っている。 仁と遥夏も、あの展示室にいたから、奴の姿を見たはずだ。 一度見たら忘れられないあの包帯頭を。


 彼は……、さきの事件を起こした張本人、テロリストのロビンソンだ。


 彼は教壇に立ち、黒板に白の白墨チョークで自身の名前を書いてみせた。 そして振り返り、





「本日よりこのクラスに転入してきた、野崎海舟のざきかいしゅうと言います。 好きな科目カリキュラムは美術。 尊敬する人物はギュスターヴ・クールベ。 好きな絵画は、同人物の『絶望』の自画像。 苦手なものはコンピュータやデジタル関連の大体。 趣味はラーメン屋とハンバーガー屋巡り。 あとコンビニジェラートの食べ比べ。 私は女だけれど(・・・・・・・)、カロリーはどれだけ摂取しても太らない体質らしくてね、好きなだけ食べられるんだ。 あぁ、それと、皆この包帯が気になるだろうけど、これは今朝、駅の階段で転んだだけで、大した怪我じゃないから、あまり気にしないでもらえるだろうか。 まぁ、あれだ。 私は皆と仲良くしたい。 だから、警戒せず、気軽に話しかけてもらえると嬉しいよ。 挨拶はこれくらいでいいかな、それでは皆さん、本日よりクラスメイトとして、よろしくお願いいたします」




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