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96.兵役

 アルトゥの説明により、なぜ蝦夷汗国がジパング王国の属国にならなければいけないのかを諸部族長達は理解した。


 同時に帯広部族を吸収したカン部族が諸部族の上に立っていることも理解し、部族長達は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。


 理解は出来ても納得は出来ないということだろう。言っていることは正しくとも、受け入れるのは難しいということは多々ある。


 例えば、そうだな……アシダカグモという、人間の頭よりも大きな蜘蛛(くも)が存在している。アシダカグモは日本に生息する蜘蛛の中では最大種で、普通に家の中にもいたりする。


 この蜘蛛はゴキブリを食べるので、家の中にいたとしても放っておけばゴキブリを食べ尽くしてくれる益虫だ。


 だが人間の頭より大きい蜘蛛が家の中にいたら、益虫だとしても追い出したり殺したくなるだろ?


 モンスター出現以前の話だが、自宅で寝ていてふと目が覚めると、壁に張り付くアシダカグモを見つけたことがある。


 アシダカグモはゴキブリを食べてくれる益虫だとは知っていたが、気持ち悪いので一晩かけて家から追い出した。


 その時俺はアシダカグモにびびり散らかして大騒ぎしていて、翌日に近所から苦情を受けたという苦い思い出がある。どうしても虫が苦手なんだよ。


 まあそれと同じで、理解出来るが納得が出来ないってことだ。少なくとも俺は頭より大きい蜘蛛と同居生活なんてしたくない。


「もうわかっただろ? 貴国は我が国の属国となったんだ」


 と俺は暗い顔で俯いている部族長達に言った。


 帯広部族を吸収してカン部族が大きくなってしまったため、カン部族長であるゾリグに諸部族長は逆らえなくなった。


 なので、そのゾリグの上に立つ俺に逆らえる者などいるはずもない。反発はなかった。


「ではまず、いくつかの()()()()を伝える。一つ、蝦夷汗国内ではジパング王国法が適用されることとする」


 俺は部族長達の顔を見回す。


「二つ、貴国には我が国以外の国と同盟を組むこと、外交をすることは認めない。三つ、侵略戦争も認めず、防衛戦争以外の戦争はしてはならない。四つ、諸部族の者達への最高指揮権はジパング王国国王が有する。五つ、諸部族には納税と兵役の義務を課す」


 外交をする権利(外交権)や他国と交戦する権利(交戦権)は国が有する主権であり、これを認めないということは国家主権を制限することだ。


 最高指揮権(統帥権)をジパング王が有することにしたのは、ゾリグが諸部族を率いて独立運動を起こさせないようにするため。


 そして納税は国民の義務であるため、諸部族に納税を課したのは彼らをジパング王国の国民として扱うということになる。


 税にもいろいろあり、ジパング王国では国民ではなくても消費税や取得税などが徴収されている。


 だがジパング王国籍を取得してジパング王国民になれば、それ以外のいくつかの税の納税義務が課されるが、それに応じた様々なメリットが用意されている。


 蝦夷汗国の諸部族には、ジパング王国民にだけ課している納税の義務を課したのだ。その代わり彼らにはジパング王国籍を発行し、ジパング王国の国民として扱う。


 で、諸部族に兵役を課すのは、カン部族……というよりゾリグの権限を強化するためだ。より正確に言うならば、カン部族以外の諸部族の権限を縮小するためである。


 どういうことかと言うと、この兵役義務によって徴発される人数はカン部族だけ他の部族より少なくなっている。


 そうすることによりカン部族以外の諸部族の人数が大幅に減ることになるので、カン部族の力がより増すというわけだ。


 帯広部族を吸収して人数がほぼ倍に膨れ上がったカン部族だったが、それでもまだ蝦夷汗国内のモンゴル人の過半数には達していない。


 だがカン部族から徴発する人数の三倍や四倍ほどの人数を各部族から徴発してしまえば、事実上はカン部族が蝦夷汗国内のモンゴル人の過半数を従えているということになる。


 ジパング王国としても諸部族から徴発したモンゴル人達で騎兵隊を結成させられるので、諸部族に課す兵役義務はカン部族にだけ利があるというわけではない。


 もっとも、良いことばかりではない。世の中がそんなに都合が良いならば誰も苦労はしないよ。


 問題は、ジパング王国の陸上の主力である騎兵隊が外国人で構成されているという点だ。


 要するにジパング王国にあまり忠誠心のない外国人が騎兵隊を構成しているため、騎兵隊に反乱を起こされるという可能性が危惧される。


 もし騎兵隊が反乱を起こせば陸戦においてジパング王国に勝ち目はないから結構やばい。


 まあ俺が本気になれば反乱を起こした騎兵隊を殲滅することも可能だが、俺が従えるモンスターの中に広範囲を攻撃出来るような奴は少ないので騎兵隊殲滅にはかなり骨を折るはずだ。


 でも騎兵に関しては彼らに頼らなくてはならない。馬は去勢すると体が大きくなったり、気性が穏やかになるらしい。だがジパング王国には馬の去勢技術などない。


 ジパング王国には騎兵育成のノウハウもないので、騎兵を育てることも出来ない。となると、生まれながらの騎兵であるモンゴル人に頼らざるを得ないんだ。


 反乱を起こさないよう、徴発したモンゴル人達を監視したりしないとな。が、俺は反乱を起こしたければ起こせばいいと思っている。


 兵役義務によりジパング王国の騎兵となったモンゴル人が反乱を起こしたら鎮圧すればいいし、蝦夷汗国内でどっかの部族が反乱を起こしたらその部族をカン部族が吸収すればいい。簡単なことだ。


 反乱は起きないことに越したことはないが、起きたとしても俺はそこまで困らない。


 というより反乱を起こしてくれれば諸部族を潰してカン部族に吸収させる大義名分を得られるので、どちらかと言うと反乱はウェルカムだ。なのでいつでもどうぞ。


 と言って強がっておく(小声)。


 諸部族に対して兵役義務を課した理由を部族長達は理解しているかは知らんが……カン部族にすら逆らえない部族長達が俺に逆らうことが出来るわけないから、もう手遅れだ。


 これによりゾリグが蝦夷汗国の実権を完全に掌握し、蝦夷汗国はジパング王国の属国となった。


「それとだな、国防上の観点から常にいずれかの部族を稚内(わっかない)市に配置しておけ」


 稚内市は北海道最北端、つまり北海道のてっぺんに位置している。その稚内市の中でも最北端にあるのが宗谷(そうや)(みさき)であり、そこから樺太までは43キロメートルの距離しかない。


 北海道と樺太の距離が近いということだ。


 なのでゾリグらモンゴル人が樺太を通って北海道に上陸したように、樺太を通って大陸から敵勢力が北海道に上陸する可能性は非常に高い。


 そのため、稚内市には常にいずれかの部族を配置しておいて損はないはずだ。


 念のため、ジパング王国海軍を稚内市近海に配置しておいた方が良いかもしれない。


 いや……樺太をジパング王国の領土に併合(へいごう)して国境線をもっと北側に押し上げた方が最善かな? つまりジパング王国の国境線を北海道と樺太の間ではなく、樺太とユーラシア大陸の間にするということだ。


 良い考えかもしれん。それで樺太を要塞化すればいい。


 蝦夷汗国の支配は樺太にまでは及んでいないため、今すぐには出来ないが……いずれ樺太を領有することにするか。


 まあこれで部族長会議は終わりかな。蝦夷汗国のあれこれも解決したわけだし。でもまだ戦後処理が終わってないんだよなぁ。面倒だ。


 そう思いながら俺は肩を落とし、深くため息を吐き出した。




◇ ◆ ◇




 数々の戦争でジパング王国を勝利へと導き、『陸の悪魔』と恐れられるジパング王国の軍隊がある。それこそがジパング王国陸軍騎兵隊である。


 このジパング王国陸軍騎兵隊はジパング王国の属国である蝦夷汗国から徴発したモンゴル人達によって構成されている。


 蝦夷汗国がジパング王国の属国になる原因となった戦いは士蝦戦争、蝦夷内戦、十勝合戦などと呼ばれる。しかしこのように呼び名は数あれど、一般的には一日戦争という名称が定着している。


 そもそもジパング王国と蝦夷汗国はまともに交戦しておらず、ゾリグの部族とアルトゥの部族が十勝平野で戦った以外にこれといった戦いは起きずに蝦夷汗国はジパング王国の属国となった。


 十勝平野で行われたゾリグとアルトゥの両部族の戦いの決着が一日でついたため、一日戦争と呼ばれるようになる。


 だがこの名が一般に定着した理由は、大国である蝦夷汗国を一日で屈服させるほどの軍事力をジパング王国が持っているということを知らしめるために、初代王・塚原俊也が意図的に一日戦争という名を広めたからだ。


 だが、これによりジパング王国の軍事力を警戒した九州の諸勢力は、ジパング王国に対抗するべく同盟関係を構築した。


 そして四国の諸勢力はと言うと、こちらもジパング王国に対抗するべく諸勢力が連合を組んだ。


 かくして、九州と四国にはそれぞれ支配者が誕生したのだった。




 後世の歴史家は、ゾリグ・カンをこう評した。賢王と。ジパング王国の属国となることを受け入れるという判断をした、賢き王だと。


 蝦夷汗国はジパング王国に最初に従属した国であり、ゾリグはジパング王国がいずれ世界を統一するということを見抜いていたと言われている。


 というのもゾリグの日記には、蝦夷汗国をモンゴル帝国のような大国へ成長させたいという気持ちがつらつらと書かれていた。


 だが初代王・塚原俊也と会った日を境に、彼の日記には蝦夷汗国をモンゴル帝国のように成長させたいということも、チンギス・カンのようになりたいとも書かれなくなる。


 そして日記の末尾には、(つたな)い日本語で後からこう付け加えられていた。


『私の意志はジパング王が受け継いだ』と。


 ゾリグは初代王・塚原俊也と会い、自分の意志を彼に託したのだと思われる。


 ただし塚原俊也の代でジパング王国が世界を統一することはなかった。


 世界統一は、ジパング王国の最盛期を現出させた第七代ジパング王──もとい、()()()()()()()の治世まで待たなくてはならない。



 ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


 第二章完結!!


 面白いと思ったらブクマや評価、感想くれると作者は泣いて喜びます(圧)。




 感想なんですが、作者のメンタルは豆腐なのでアンチは控えてくださると嬉しいです。面白いとかの感想なら大歓迎です!


 いや、あの……面白くないという感想も書いていいんですが、その場合は面白くない理由やどの部分が面白くなかったとかも書いてほしいです。今後の参考になりますので。


 それと、面白くないと感想で書く時は出来れば優しい感じの言い方でお願いします……。作者のメンタルは豆腐なので(大事なことなので二回言いました)。




【第三章について】

 第一章、第二章は短いスパンで書いたので本作の執筆を少し休もうかなと思っていたりします。


 当初の予定では50万文字くらいで完結させるつもりだったんですが……現時点で35万文字くらいです。思ったより長くなってしまいました。


 …………完結まで書けるといいんですが。せめて100万文字いく前に終わらせたいです。


 私のメインは推理小説なので、第三章書く前に息抜きに推理小説とか書きたいですね。


 実は去年くらいから主人公が殺人犯の推理小説を書いているんですが……なかなか納得いかず二回ほど書き直しているんですよ。文字数にしたら十数万くらい。


 で、今四回目聞き直し中です。そっちを集中して書きたいなぁと思ってるんですが、本作が意外とpt増えたので第三章も早く書かないといけませんし難しいです。


 シャーロック・ホームズのエッセイの方も書きたいですし。このエッセイはかなり本気で書いてるので読んでくれると嬉しいです(宣伝)。

 URL⇨https://ncode.syosetu.com/n4200gx/


 第三章は……今年中にスタートは無理そうなので、来年の一月、二月辺りには始めたいです。


 プロットはまだ出来ていませんが、第三章でフラガラッハとカヤを生き返らせたいので、第一章みたいに冒険がメインになるかと思います。


 そのついでに四国か九州のどちらかをジパング王国の支配下に置きたいですね。


 あと、もし余裕があればクリスマス短編をクリスマス当日に投下するかもしれません。サンタクロースのモンスターの話とか書きたいので。


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