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95.部族長会議

 ゾリグが馬上から放った矢は帯広部族の長を見事に射抜き、これによりカン部族と帯広部族の戦いは終わった。


 すぐさま俺は帯広部族の長を回収し、矢で射抜かれた患部にポーションを掛けて回復させる。


「ふぅ」


 俺はため息を吐いた。


 やっと戦いが終わったな。と言っても一日でこの戦いは終わったし、そもそも俺達はまったく戦っていないのだが。


 そうなのだ。この戦いに俺達は介入していない。それは、カン部族の力を帯広部族に示さなくてはいけないからだ。


 ゾリグが帯広部族の長を射抜いたわけだし、力を示すことは出来たんじゃないか?


 あとは帯広部族の長が了承すれば、帯広部族はカン部族に吸収されることになる。


 だがこの戦いで両部族からかなりの数の戦死者が出てしまった。


 ゾリグにはあまり殺すなとは言っていたが、殺し合いをしているのだから手加減をするのは難しいから仕方のないことだ。


 まあ戦死者が出なかったとして、カン部族と帯広部族の人数を合わせても蝦夷汗国のモンゴル人の過半数を越えられないのだが。


 あともういくつかの部族をカン部族が吸収しなくては、蝦夷汗国のモンゴル人の過半数を従えていることにはならない。


 まあ……何とかなるだろ。過半数を占めずとも、帯広部族を吸収したカン部族に逆らえる部族は蝦夷汗国にはいないし。




 ───それから数時間後、帯広部族はカン部族に吸収された。


 これにより帯広部族の長は部族長の地位を失ったが、帯広部族内の有力氏族の氏族長でもあるので影響力は少し低下した程度だ。


 対してゾリグの影響力は大幅に強化され、逆らえる部族はいなくなった。


 だがしかし、帯広部族を吸収したカン部族がモンゴル人の過半数を占めているわけではないため、他部族全てが反旗を(ひるがえ)した場合は普通に負ける。


 なのでもう一つか二つほどの部族をカン部族が吸収しなければ安心は出来ない。が、帯広部族以外に戦う理由のある部族がないのだ。


 理由なくいくつかの部族と戦えば諸部族が反発するし……困ったな。


「俊也、難しい顔をしてどうしたんだ?」


 どうしようかと悩んでいると、馬乳酒を飲みながら雫が話し掛けてきた。


「まだカン部族が過半数を占めているわけではないから不安でな」


「う~ん。言いたいことはわかるが、勝ったんだし今くらいは難しいことを考えなくてもいいんじゃないかな?」


「それもそうか」


 ということで、俺と雫は帯広部族を倒したカン部族の者達とともに戦勝パーティーを始めた。意外なことにイザナミもパーティーを楽しんでいたみたいだ。




◇ ◆ ◇




 一週間後。俺は巨大なゲルの中に並べられた椅子の一つに腰を下ろしていた。


 この一週間の間に大日本皇国の戦後処理を進めたりしていたので、かなり疲労が溜まっている。肩凝った。


 このゲル内には、蝦夷汗国の諸部族の部族長が全員集まっている。これから、部族長会議なるものが始まるらしい。


 この部族長会議には、ジパング王国からは俺しか出席していない。つまり俺以外の出席者は全て諸部族の長ということだ。


 まあ俺は一国の王なんで、部族長よりも遥かに立場が上なので遠慮することは何もない。


 といっても、部族長会議に出席している部族長達は俺が国王であることを知らない。だがいずれの部族長も俺の存在を興味がなさそうに無視している。


 どこぞの部族と交易をしている北海道民だとでも思っているのだろう。


「まず、皆に言っておくこと、ある」


 片言の日本語で喋り始めたのはゾリグだ。諸部族の長は北海道民との交易のために日本語を操れるので、ゾリグが何を言っているのかがわかるらしい。


 ゾリグは部族長らの顔を見回して……


「蝦夷汗国は、ジパング王国の、支配下に、入る」


 と言った。


 実はまだカン部族以外の者達には、蝦夷汗国がジパング王国の属国になるということを伝えていない。


 加えて、帯広部族がカン部族に吸収されたということもまだ秘密にしている。なのでこの会議には帯広部族の元部族長も出席していて、堂々と椅子に座ってるよ。


 諸部族は北海道の各地に散らばっていたため情報に(うと)く、まさか帯広部族がカン部族に吸収されたとはつゆ知らずに彼ら部族長は会議に出席しているのだ。


 そのため部族長達にとっては寝耳に水だったのか、彼らはゾリグが言ったことを理解するのに数秒ほどの時間を要してフリーズした。


 だが次第に固まっていた部族長達の表情が驚愕したものへと変わっていく。そして部族長の一人が椅子から立ち上がると、ゾリグに怒声を浴びせた。


「●●●●●●!?」


 モンゴル語か? 何を言っているのかわからんな。日本語を操れるなら日本語で喋ってくれないと困るよ。


「●●●●●●●●●●●!!!」


 怒鳴り声を上げる部族長に対してゾリグも負けじと怒号を飛ばし、言葉の応酬(おうしゅう)は続いていく。


 ……翻訳が出来るこんにゃくが欲しい。お前らマジで何を言ってんだよ? こちとら日本語以外は喋れないし理解出来ないんだぞ?


「なあおい、オユン。何言ってるかわからんから日本語に翻訳してくれ」


 俺がオユンと呼んだのはゾリグの一人娘だ。彼女はゾリグよりも日本語を上手に操れるため、通訳として俺の背後に立っていてもらっている。


 どうも彼女は相撲が好きで、相撲の本場である日本に旅行に来たいと思っていたらしい。だからモンスター出現以前から勉強をしていて、そういう理由もあってオユンはゾリグより日本語が達者だ。


 ゾリグはオユンを俺に嫁入りさせることでジパング王国と蝦夷汗国の結びつきを強めないかと打診してきたが、俺は断った。


 確かにオユンは可愛い顔をしているし、日焼けのためかモンゴル人にしては珍しく肌が褐色(かっしょく)であり非常に扇情的で、民族衣装を着る姿は似合っていて男ならば誰でも見惚れることだろう。


 だが雫がいるし、王だからといって俺は多くの女性と結婚するつもりなんてない。そもそも日本は一夫一婦だし、俺は現代っ子だから政略結婚とかしたくないし。


 俺と雫の間に子供が生まれたとしても、その子には政略結婚とかはさせず自由恋愛をさせるつもりだ。まあ子供云々以前に俺はまだ童貞だがな。


「立ち上がって怒鳴ってる部族長の男は、お父さんに『聞いてないぞ!?』と言った。それに対してお父さんは『私がこの国の君主なのだから君に言う必要はない!』と返した。このお父さんの返しに、立ち上がった部族長の男は『我が部族とゾリグの部族には大した差がない』とさらに怒りながら言った」


「おお、ゾリグが強気な発言を返していているってことか」


「そういうこと」


「というかそもそも、部族長達はジパング王国の存在を知っているのか?」


「知らないと思う。でも蝦夷汗国が他国の支配下に入ってしまったということはお父さんの発言で理解出来たから、あの部族長は憤っているんじゃないかな?」


「なるほど」


 やはりジパング王国の名は北海道にまでは届いてはいないか。九州や四国にはジパング王国が本州を統一したということが広まっているんだが。


 まあ仕方ない。九州・四国とは違い、北海道は本州から少し離れているからな。


 つーか、まだ本州は統一出来たわけじゃないんだが、九州・四国ではジパング王国が本州を統一したという情報が流れている。


 ジパング王国の本州の覇権は確定しているが、東北地方にはまだジパング王国に逆らう勢力があるので本州はまだ統一出来ていない。


 だがこの東北地方の勢力というのは弱小で、町一つすら支配出来ていない。そんな弱小勢力が束になろうがジパング王国は負けないので、本州の統一は目前だ。


「●●●●●●●●!!!」


「●●●●●●●●●●●●●●●!!!」


 俺が考え事をしている間にもゾリグと立ち上がった部族長の口論は激化していた。何言ってるかわかんないし、いい加減やめさせるか。


「ゾリグ! (らち)が明かないから説明は俺がやる!」


「……わかった。任せる」


「おう」


 俺は椅子から立ち上がり、ゾリグと口論していた部族長を見る。


「お前は座れ」


「なっ!? 何様だ!!」


 ふーん、こいつもやっぱり日本語喋れたんだ。


「何様って……俺は貴国の宗主国の王様だよ。そんなことより、とっとと椅子に座れ。お前のせいで会議が進まない」


 そう言いながら睨むと、彼は歯ぎしりをしながら渋々椅子に腰を下ろした。


 今の俺はエルダートレントに祝福されて身体能力を強化されている状態なので、おそらく彼我(ひが)の実力差を理解して部族長は椅子に座ってくれたんだろう。


 覚醒者ならば、相手の力量を感じ取る程度なら造作もない。


「さて諸君。俺はジパング王国の国王だ。ゾリグが言った通り、蝦夷汗国は我が国の属国となった。つまり俺は君らの上に立つゾリグの、さらに上に立っているということだ」


 俺がそう言うと部族長達は目を見開き、それぞれ隣りに座る他部族の部族長と小声で話し始めた。


 そしてしばらくすると、一人の部族長が口を開く。


「ゾリグ、我らの上、立って、ない。それに、我ら、お前の、支配下、入ってない」


 ああ、まだ帯広部族をカン部族が吸収したということを知らないから、未だに部族長達はカン部族が諸部族と対等だと思っているのか。


 俺は帯広部族の元長に顔を向けて、彼の名を呼ぶ。


「アルトゥ」


 そうすると帯広部族の元長──名はアルトゥ──はうなずいて立ち上がった。


「●●●●●●!」


 アルトゥはモンゴル語で説明を始める。


 事前の打ち合わせでは、俺がアルトゥの名を呼んだら彼は帯広部族が独断でジパング王国に侵攻したことや、それにより怒ったジパング王国が蝦夷汗国を属国化し、のちにカン部族に帯広部族を吸収するように俺が命令を出したということも説明することになっている。


 これだとジパング王国が蝦夷汗国を属国化したことやカン部族が帯広部族を吸収したことに正当な理由があるので、諸部族長達は反論が出来ない。


 ジパング王国の言い分としては、蝦夷汗国(そっち)が先に手を出してきたんだ、というものだ。


 ジパング王国に手を出した帯広部族のことを諸部族長達が責めようにも、帯広部族はすでにカン部族に吸収されてしまっている。


 それにカン部族が帯広部族を吸収して大部族になってしまったので、他部族はもうカン部族に逆らえない。


 さすが俺だな。完璧な理論武装(屁理屈)だ。


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