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94.部族合併

 今話はまるごと説明回です。

 結論から言うと、ゾリグは蝦夷汗国がジパング王国の属国となることを受け入れた。


 なお、ゾリグが属国になることを受け入れたあとに聞いたのだが、彼が日本語を操れたのは北海道民達と交易を行っていたからのようだ。


 何を手に入れるためにゾリグ達が北海道民達と交易していたかというと、穀物などである。


 自給自足をする孤高な印象を受ける遊牧民だが、そもそも遊牧生活をしていて穀物などの農作物を育てられるわけがない。


 古来より遊牧民は農耕民と交易をすることで穀物を入手している。ほとんどの場合、遊牧民の牧地の周辺には農耕民がいることからも明白だろう。


 蝦夷汗国のモンゴル人達も北海道民と定期的に交易をして穀物を手に入れていたため、モンゴル人達は穀物を育ててくれる北海道民を大切にした。


 だから北海道民は蝦夷汗国の支配を歓迎しているわけだし、定期的に北海道民と交易をしているゾリグは日本語を操れるようになったというわけだ。


 ちなみに北海道民とモンゴル人の交易では、主に穀物と馬乳酒が交換されていたらしい。


 馬乳酒とは言わずもがな、モンゴル人達が夏に造る馬乳の酒だ。


 遊牧生活は肉食が中心となるので、ビタミンやミネラルを補うために栄養のある馬乳酒をモンゴル人達は飲んでいる。夏季においてモンゴル人は馬乳酒を主食とするほどだ。


 そして北海道民が馬乳酒を求めるのは、やはり栄養豊富なものだからだろう。交易では少量の穀物と大量の馬乳酒が交換されていたため、餓死者を出さないようにするためにはうってつけだったらしい。


 味に興味があったからモンスター肉と引き換えにゾリグから馬乳酒を手に入れて飲んでみたが、酸味があって俺はあまり好きではない味だった。


 馬乳酒を飲むとか北海道民は馬鹿舌かよと思ったが、酒が好きではない雫が馬乳酒を気に入ったことを考慮すると俺の方が少数派なのか?


 まあ馬乳酒のアルコール濃度は1%ほどと低めで、そのためモンゴル人は赤ん坊にも飲ませているようだ。だから酒があまり好きではない雫でも美味しいと感じられたんだと思う。


 だが俺は酸味のあるものは好きではないので馬乳酒は体が受け付けなかったし、お酒好きには物足りないはずだ。


 ドワーフなんかはアルコール濃度1%のものは酒じゃないと言うと思う。


 ドワーフと言えば……カヤが従属させていたスクナやかぐや達ドワーフはどうなったんだろう。


 カヤが死んだことで、王都に残してきたドワーフ達も死んじゃったかな。


 …………ああ、やめだやめだ! 辛気くさいのはやめて話を戻そう!!


 ゾリグとの今後についての話し合いを終えた俺はまず、ゾリグの部族にだけだが、蝦夷汗国がジパング王国の属国になるということを伝えることした。


 ゾリグの部族にだけというより、札幌にいるモンゴル人は全員ゾリグの部族の者しかいないが……そんな細かいことはどうでもいいんだよ。


 反応は様々だったが、ゾリグが部族長を務める部族内に逆らう者がいるはずもなく。よって、ゾリグの部族も蝦夷汗国の属国化を受け入れた。


 蝦夷汗国内ではゾリグに従う者は少ないが、ゾリグの部族はきっちりと統制されているらしいな。


 そもそも、部族というものは氏族の連合体だ。氏族内には血縁関係があり、氏族宗家の家長がその氏族の長となる。


 だがいくつかの氏族の連合体である部族には血縁関係というものがなく、その部族内で一番力のある氏族の長がその部族の長を兼任している。


 このような氏族集合体である部族が他の諸部族と連合しているのが部族連合体の蝦夷汗国だ。


 ゾリグが部族長を務める部族──長いので、以降はカン部族と呼ぶ──の過半数はゾリグ氏族が占めている。だからこそ、カン部族内においてはゾリグが絶対なのだ。


 だがカン部族が蝦夷汗国のモンゴル人の過半数を占めているわけではないので、他部族はゾリグに従わないというわけだ。


 無論、ゾリグ氏族はゾリグの血縁者のみで構成されていて、この氏族の氏族長もゾリグが務めている。


 また、ゾリグと同様に部族長というのはその部族内で一番力のある氏族の長でもあるわけだから、カン部族が他部族を吸収したら、吸収された部族の長はただの氏族長へと戻ることになる。


 さて。ゾリグを晴れて蝦夷汗国の支配者にするには、カン部族が他部族を吸収して過半数を占める必要がある。


 では、他部族をどのように吸収すれば良いのか。これは簡単で、力を示せばいい。つまり他部族と戦って勝てば、おのずと従ってくれる。


 彼ら遊牧民は能力主義であり、能力のある指導者には従うらしい。要するには戦いに勝てば、その部族を吸収出来るということだ。ものすごく単純明快だな。


 といっても理由なく他部族に戦いを仕掛ければ、どんなに強かったとしても反発は大きいし素直には誰も従ってくれない。が、理由さえあれば大丈夫と思ってもらっていい。


 というわけで俺達はゾリグとともにカン部族を率いて、藤堂が協力を要請した部族の元へと向かった。




◇ ◆ ◇




 現在、二つの騎兵集団が十勝(とかち)平野で戦いを繰り広げていた。片方はゾリグ率いるカン部族で、もう片方は藤堂が協力を要請した部族だ。


 どうもそれぞれの部族には名前など付いていないようだ。なので藤堂が協力を要請した部族は帯広(おびひろ)市を領地としている部族ということで、帯広部族と呼ぶことにする。


 ……にしても、やはり帯広部族は強いな。カン部族がやや劣勢だ。その理由としては、やはり馬の違いなどが挙げられる。


 帯広部族が拠点とする帯広市は十勝平野の中心にある。そして十勝平野には肥沃(ひよく)の土地が広がり、馬の餌が非常に豊富だ。


 これだけ言えば、帯広部族が優勢な理由はわかるはず。そう、帯広部族が騎乗している馬の方が質が高いということだ。


 遊牧民だから当然だが、カン部族と帯広部族の両部族には騎兵が多い。なので馬の質が戦況を大きく左右する。


 遊牧国家が衰退するのは、国を築いて定住したことにより馬が満足に草を食べられず栄養不足になることで貧弱となってしまったからという側面もあるのかもしれない。


 というのも遊牧民が草原に散らばって生活しているのは馬を維持するためだ。一カ所に集まってしまえば、途端に周辺の草は馬によって食べ尽くされてしまう。


 だが国を築くにはある程度は同じ場所に留まる必要があり、そうすると周辺の草が馬に食べ尽くされてしまい、その後は馬の餌を賄えなくなるわけだ。


 蝦夷汗国の諸部族も、馬を維持するために北海道中に散らばっている。だがゴーストタウンと化した都市内にはあまりモンゴル人はいない。


 なぜかと言うと、都市内には馬が食べる草がないからだ。ゾリグ達が札幌郊外にゲルを立てていた理由がこれで、つまり馬が食べる草が近くにある都市郊外にモンゴル人達はゲルを立てているってわけ。


 そしてこの戦いに他の部族が介入してこないのは、そもそも北海道中に散らばっているためカン部族と帯広部族が戦っているということを知らないのだ。


「まあ、帯広部族が優勢なのは馬の質の違いだけではないけどね」


 俺はカン部族と帯広部族の激しい戦いを眺めながら呟いた。


 思い出してほしいのだが、藤堂が会ったことのある蝦夷汗国のモンゴル人は帯広部族の者達だけだ。藤堂が協力を要請したのが帯広部族だからな。


 で、藤堂は『ATフィールドみたいなバリアや飛ぶ斬撃、たくさんのバフの異能は全て蝦夷汗国のモンゴル人達からコピーしたものだ』と言っていた。


 つまり、ATフィールドみたいなバリアや飛ぶ斬撃、たくさんのバフの異能を持つモンゴル人の覚醒者が帯広部族にはいるということを示唆(しさ)している。


 そんな強力な覚醒者が馬に乗って駆け回りながら攻撃してくると考えれば、帯広部族が強いということは容易に理解出来ることだろう。


 肥沃の土地である十勝平野の中心地・帯広を領地として与えられていたのは、ゾリグやカン部族としては無視出来ないほど帯広部族が強かったからだ。


 しかし、カン部族も負けてはいない。曲がりなりにもカン部族は蝦夷汗国の部族の中では一番人数が多く、そして強い。


 そのため、俺の目の前で行われていたカン部族と帯広部族の戦いは熾烈(しれつ)を極めていた。


 だが、この戦いはカン部族の勝利で終わる。なぜならば……ゾリグが帯広部族の長を馬上から射抜いたからだ。


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