表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/135

92.話し合い(物理)

 雫が泣き出してから数時間後、俺はグリフィスに跨がって遥か上空を飛んでいた。言わずともわかるかもしれないが、俺は北海道へと向かっている。


 一度王都に帰還し、王国空軍ないし王国海軍を率いて北海道に行こうかとも考えた。


 だが王都に帰還する最中に蝦夷汗国がどのような行動を取るかわからないため、俺はグリフィスに乗って北海道を目指して出発したのだ。


 王国陸軍の兵士達や祖父ちゃん、宇都宮、神楽宮、神谷などは江戸城に待機させている。大日本皇国の本拠地である江戸城を取り返されないようにするためだ。


 イザナミ以外のCランクモンスターも全て召喚し、江戸城に待機させた。


 江戸城に待機させていないイザナミはというと、俺の横を飛んでいる。


 妾も行きたいのじゃ、と言うので仕方なく連れてきたんだ。ちなみに雫は俺と一緒にグリフィスに乗り、ともに北海道に向かっているよ。


 俺、雫、イザナミ、グリフィスの計四名が蝦夷汗国と戦う際の戦力である。


 雫一人だけでも過剰戦力なのに、そこに俺やイザナミやグリフィスが加わるのだ。負けるわけがない。


 藤堂クラスの者が蝦夷汗国にいるということを否定は出来ないが、仮に藤堂クラスの者がいてもこのメンバーならば倒せることだろう。


 藤堂の手帳に書かれていた蝦夷汗国に所属する覚醒者達全員が束になって挑んできても負けない。これは根拠のない自信ではない。純然たる事実だ。


「お、北海道が見えてきたぞ」


 まだかなり遠くではあるが、北海道が見えてきた。


「わー、本当だ」


 と言った雫は、前に乗っているので俺に寄り掛かりながら遠くに見える北海道を眺めている。


 イザナミと同様に雫も空を飛べるはずなんだが、俺と一緒にグリフィスに乗りたいと言うのでこうなった。


「やっと見えてきたのじゃ。(のろ)いヒッポグリフにスピードを合わせながら飛んでいたから時間が掛かったのじゃ」


 まったく可愛げのないことをイザナミが言う。お前はもうちょっと雫とかを見習って可愛げのある発言をしろ。


「えっと、蝦夷汗国の本拠地は札幌だから……グリフィス、もうちょい(なな)め左に進め」


「グルゥ!」


 うんうん、グリフィスは素直で良い子だなぁ。言うことをまったく聞こうとしないどっかのイザナミとは大違いだ。


「む、童に馬鹿にされたような気がするのじゃ」


「気のせいだ」


 ……鋭い奴だな。Cランク最強のモンスターの名は伊達ではないということか。


 それからしばらくして、眼下には雄大な自然が広がっていた。俺達が北海道の真上を飛んでいるからだ。


 さすが人口密度が都道府県で最も低い北海道なだけはある。まだこんなに美しい自然が残っているとは。景色を見て感動することもあるんだな。


 そんな景色に目を奪われていると、あっという間に札幌上空まで辿り着いた。


 藤堂の手帳によると札幌が蝦夷汗国の本拠地らしいが……と思いながら見下ろしていると、札幌の郊外に見慣れないテントらしきものが密集して立てられている場所を見つけた。


 そのテントが密集している場所の中央には、他のテントより一回りも二回りも大きいテントがある。


 他のテントも通常のものよりかなり大きいものなのに、それよりも一回りも二回りも大きい中央にあるテントがどれほどの大きさかは言うまでもない。


 これらのテントこそが、モンゴル高原の遊牧民達が使っている移動式住居のゲルなのだろう。何度か写真を見たことがあるからわかる。


 多分だが、中央に立っている大きなテントにゾリグ・カンがいるんじゃなかろうか。


「さて、じゃあ蝦夷汗国を俺の物にしに行こうじゃないか」


 俺は悪役っぽいセリフを言ってからグリフィスを飛び降りる。


 俺に続くように雫もグリフィスの背から飛び降りると、グリフィスとイザナミが俺達を追うようにゆっくりと下降を始めた。


 そして俺と雫はほぼ同時に中央の大きなゲルの前に着地する。俺はエルダートレントによって祝福されているし、雫はネームドなので俺達にとってこれくらいは朝飯前だ。


 俺達が着地して数瞬ののちに、グリフィスとイザナミはふわりと着地した。


「童らはもう少し優しく着地するのじゃ。音を立てたら気付かれるのじゃぞ」


「いや、気付かれるために音を立てたんだよ」


「なに? 一人一人気付かれぬように倒していくわけじゃないのじゃ?」


「暗殺しにきたわけじゃねぇんだから、そんなことはやらねぇよ」


 イザナミは俺が蝦夷汗国のモンゴル人を皆殺しにすると思っていたようだ。


 モンゴル人は貴重な騎兵なんだから無意味に殺すわけないじゃん。


「俺は蝦夷汗国と話し合い(物理)しにきたんだよ」


 別に蝦夷汗国と戦いにきたわけじゃないから軍を引き連れてきたりはせず、少数で札幌まで来たってわけだ。


「話し合いのあとに(物理)というのが聞こえた気がしたのじゃが……」


「気のせいだ」


 俺はイザナミにそう返しながら中央にある大きなゲルの中へと入っていく。雫やイザナミ、グリフィスも遅れてゲルの中に入ってきた。


 ゲルの中はかなり豪華な造りとなっていて、床には高級そうな絨毯が敷かれている。


 敷かれた高級そうな絨毯の上には椅子や机などが置かれていて……その椅子には、日本人ではないであろう一人の男が座っていた。


 男は驚いたように椅子から立ち上がり、俺達を警戒して懐から短剣を取り出す。


「よお、誰だか知らんが日本語わかるか?」


 俺は男に向けて手を振りながら、日本語がわかるか尋ねる。


 もし日本語がわからなかったら意思疎通をどうやってしようかな……。


「日本語、少しわかる」


 おお、わかるんだ。


「俺は塚原俊也だ。お前は?」


「ゾリグだ」


「ゾリグ? お前が蝦夷汗国のカンか?」


「そうだ」


 まさかこいつがゾリグ・カンだったとはな。


「俺はジパング王国の国王だ。ちょうど蝦夷汗国のカンに用があったんだよ」


 俺がジパング王国という単語を口にすると、ゾリグは目を見開いた。


「お前、ジパング王?」


「おう。太陽王と呼んでくれてもいいんだぜ?」


 ゾリグに対してフレンドリーに接しながら、彼がつい先ほどまで座っていた椅子に俺は腰を下ろす。


「貴国のとある部族が日本の内戦に軍事介入してきた件について、話がある」


 俺が言うと、彼は渋い顔になり短剣を懐に戻した。


「その件、ついさっき知った。私、指示してない」


「だろうな。その部族がカンに許可を取らずに行動していたことは我々も把握している」


 俺は腕と足を組んでふんぞり返る。


「我が国には騎兵がいない。だから貴国のモンゴル人を殺すのは惜しいと思っている。かと言って貴国を放置すれば我が国の面目は潰れ、軍事介入してきた部族だけを我が国が潰したとしたら貴国の面目が潰れる」


「理解した」


 そう言ったゾリグは苦々しい表情をしていた。蝦夷汗国の君主でありながら、他部族に好き勝手される現状を忌々しく思っているのだろうか。


 ジパング王国は強力な中央集権を敷いているため、貴族の力はそこまで強くない。だから配下に好き勝手されることはない。


 が、蝦夷汗国は部族連合である。


 二つ以上の国ないし州などが一つの主権の元に国となるのが連邦であり、対して国家連合というものは主権を有する国の集合体だ。


 つまり部族連合とは、それぞれ権力を有する諸部族の集合体と言える。


 蝦夷汗国はその部族連合なわけで、要するに明確な支配者がいないのだ。


 他部族より少し人数が多い部族の長だったゾリグが名目上の支配者として君臨しているだけというわけである。


 だからゾリグの命令に素直に従う部族というのがそもそも存在せず、国と名乗るにはなんともお粗末だ。


 まあ、蝦夷汗国を脅かす勢力に対抗するためだったりした場合などには、蝦夷汗国の諸部族の足並みがそろう可能性があるにはある。


 そんな国家として呼んでいいのか怪しい国の君主をやっているゾリグは、いろいろと大変な目に遭っているはずだ。


 なので苦労しているゾリグにはプレゼントがあるよ。


「安心しろ。ジパング王国と蝦夷汗国の面目が潰れない方法を考えてきた。ジパング王国にも蝦夷汗国にも利点がある方法だ」


「それは?」


 希望にすがるように、ゾリグが俺を見る。だから俺は、彼の希望に答えるように笑顔でこう言った。



「貴国が我が国の属国になればいいんだよ」



 と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ