表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/135

91.とあるアンデッドの悩み

 俺が今まで黙っていたことを雫に話し終えると、彼女は目を皿のようにして驚く。だが同時に()に落ちたように何度か小さくうなずき、なるほどと口にしていた。


「自称天皇と俊也にはそんな関わりがあったのか」


「俺もまさか、自称天皇があの藤堂だとは思わなかった」


 自称天皇の正体が藤堂なんていう偶然があるなんてな。俺も驚いたよ。


 ……いや、この場合は偶然ではなく()()なのか?


 何か()()()なものを感じて、偶然で片付けてはいけない問題な気がする。


 作為的と言っても、普通の人間には藤堂の行動を意のままに操ることは出来ない。そう、普通の人間には。


 だが例えば……上位存在ならば、藤堂を操れたはず。


 何にしても、都合が良すぎるんだよ。藤堂はかなり強かったが、それを遥かに(しの)ぐほどの強さを土壇場で雫が手に入れたことにより勝てた。


 Dランクモンスターを倒してもカードが簡単にドロップすることはあまりない。だのに、アンデッド化した雫を俺が殺した時は運良くカードがドロップした。


 こう聞くと、やはり違和感だらけだ。


 クロウは『導き手』のスキルの指示に従って俺達の前に強敵として現れ、その結果フラガラッハがネームドモンスターへと進化した。


 藤堂もクロウと同様に、コピーした『導き手』の指示通りに行動し、それにより雫がカード化した上でネームドモンスターへと進化した。


 どちらの状況も非常に似通っている。上位存在は、俺が強くなることを望んでいるっぽいな。


 つまり、藤堂が俺の前に現れたのは神の試練とも言えるのか。そして神の試練を乗り越えるたびに俺は強くなれる。


 しかし……上位存在は何で俺を成長させたがっているんだ? これといって思い当たる節はないのだが。


 クロウは上位存在が地球の神話を元にしてモンスターを創り出したと言っていた。とどのつまり上位存在がこの世にモンスターを解き放った張本人ということだ。


 が、しかし。モンスターをこの世に解き放った目的や、俺を成長させようとする目的。これがわからない。


 上位存在は何のためにそんなことをしているのか。まさか、意味がないなんていうことはない……はず。


 つーか、意味がないのにモンスターをこの世に解き放ったのだとすれば、上位存在は愉快犯のクソ野郎じゃねぇか。


 もし上位存在がそんなクソ野郎だった場合は、人類を代表して俺が上位存在をぶっ飛ばしてやる。……ぶっ飛ばせるほど俺達はまだ強くはないけどね。




「──…んや! 俊也!」


「んあ? ……お、おう。呼んだか?」


 上位存在をどうやって倒そうかと考えていたから雫が俺の名前を呼んでることに気付かなかったな。


「何度呼びかけても返事がないからビックリしたぞ」


 雫はそう言って腰に手を当てると口の中に空気を溜めて頬を脹らませた。何それ可愛い。


「すまんすまん」


 俺が謝ると、彼女は頬を脹らませるのをやめて表情を真剣なものに変えた。


「まあ許すとしよう。だが、俊也と自称天皇に関わりがあったことを私に黙っていたことは簡単には許せないぞ」


 あれ、おかしいな……結構怒っていらっしゃる……。


「俊也は何で私が怒っているかわかるか?」


「いえまったく」


 俺が首を振ると、彼女はため息をついた。


「私達が大学で出会う前に、俊也には意中の相手がいたということに怒っているわけじゃない。私にだって、俊也と会う前は結婚を誓い合った人がいたからな」


 俺と会う前に、雫は俺以外の奴と結婚を誓い合っていただと!? それ聞くとかなりショックなんだが……。


「私が怒っているのは、そんな大切なことを私に黙っていたことだ。私達はこの戦争が終わったら結婚するんだから、秘密はお互いに無しだぞ」


 ああ、そういうことか。大切なことを自分に話してくれなかったことに雫は怒っているのか。


「わかった。今度からはそういうことは雫にも説明することにするよ」


「うん、よろしい」


 雫は満足そうに腕を組んでうなずいた。


「それはそうと、雫。お前に聞きたいことがあるんだが」


「何だ?」


「お前が結婚を誓い合った人ってのは誰なんだ?」


 雫が結婚を誓い合った相手というのが純粋に気になる。


「秘密はお互いに無しだと言った手前、恥ずかしいが言うしかないな」


 そう言った雫は恥ずかしそうに苦笑いをしながらも、こう言った。


「私が結婚を誓い合った相手というのは父さんのことだよ。まだ幼かった頃の私は、父さんと結婚するとよく言っていてね」


 雫の父親、か。雫が結婚を誓い合った相手というのが父親で安心したが、確か雫の両親は早くに他界していたな。


 うっ……微妙に気まずい。話題の選択をミスったわ。


「……ごめん」


「何で俊也が謝るんだ?」


「雫の両親は昔に亡くなっていただろ。だから思い出したくないことだったら悪かったな」


「父さんと母さんが死んだのはかなり前のことだから、もう気にしてはいないよ。だけど……私が父さんと結婚すると母さんに言っていた頃を思い出して、少し寂しくなったかな」


 なら俺が雫の寂しさを紛らわせてやるよ、などという男前な発言を俺が出来るはずもなく。


 どのように返事をしていいかわからない俺は話題を変えることにした。


「秘密と言えば、まだ祖父ちゃんには雫がアンデッド化したことをはっきりと伝えていなかったな」


 祖父ちゃんには雫が俺の異能によって生き返ったということは話したが、アンデッドとして蘇ったとは話していない。


 雫が殺されたことは藤堂と戦っている時にクロウが祖父ちゃんに伝えてしまっていたようだが、あの時一緒に戦っていたゾンビの正体が雫だと祖父ちゃんは気付いていなかった。


 なので雫がアンデッドとして蘇ったということを祖父ちゃんはまだ知らない。


 そのことを俺が口にした途端、雫は表情を曇らせた。


「どうした? 具合でも悪くなったのか?」


「いや……私がアンデッドになったことは俊也の家族達に伝えないでもらえると嬉しいのだが」


 雫は俺の家族にアンデッドになったことを伝えたくないということか。


 彼女はアンデッドだから息もしていないし心臓も動いていない。雫はそのことを非常に気にしていたな。


 アンデッドとはいえネームドなので、雫の体から腐臭がしたりすることはない。だが、胸に手を当てるたびに自分は生きていないのだと実感していると雫は言っていた。


 もし俺が雫の立場だったら自分がアンデッドであることはあまり知られたくないわけだし、彼女の気持ちはわかる。


「……私がアンデッドであることを知ったら、俊也の家族達は私を気味悪がるかもしれない。俊也と結婚することを認めないと言われたら……私は…………」


 そこで言葉を区切った雫は、目に大粒の涙を浮かべて泣き出した。


 やべぇ、この話題は雫にとってはタブーだったのか。また選択をミスってしまった……。さっきっから選択ミスってばっかりだな……。


 アンデッドになったことを気にしたような素振りはあまりなかったが……それは俺の前では明るく振る舞っていた、ということなのか?


 俺は離れたところにいる祖父ちゃん達の視線にさらされながらも、涙を流す雫を抱きしめて優しく背中をポンポンと叩いた。


「雫が話してもいいと思うようになった時に話せばいいんだ。必ず話す必要はないよ」


「う、うん……」


「俺はお前がアンデッドだとしても愛し続ける。半端な覚悟でプロポーズをしたわけじゃない。だから自分の心臓が動いていないことを思い悩まなくてもいいんだぜ」


「…………ありがと」


 雫は俺の胸に顔をうずめた。


 どうにかして雫をアンデッドから人間に戻してやりたいが……。


 クロウは言っていた。上位存在は地球の神話を元にしてモンスターを創り出した、と。そして地球には、人が蘇る神話や神自身が蘇る神話などが数多く存在している。


 だから、雫を蘇らせることが出来るようなスキルを持つモンスターは必ず存在しているだろう。


 ……当面の目標は決まったな。フラガラッハやカヤだけでなく雫も含めた三人を蘇らせてやる。雫を慰めながら、三人を蘇らせることを俺は決意した。


 まあその前に蝦夷汗国とのあれこれを解決しなくてはならないが。


 正直、藤堂はマジで余計なことをしやがったな。あいつがちゃんとゾリグ・カンに協力を要請していれば、大日本皇国と蝦夷汗国をぶっ潰すだけで済んだのに。


 それともまさか、藤堂は俺を困らせるためにゾリグの部族とは別の部族に協力を要請したのか?


 もしそうだとしたら見事としか言えないが、藤堂にそんな知恵があるとは思えないな。『導き手』の指示だと考えるのが妥当かな。


 というか……よくよく考えてみると祖父ちゃんが義勇兵として戦争に参加していたのも上位存在の手引きなんじゃないか?


 グリフィスだけがエルダー種に進化したとかの諸々の俺に都合が良い状況は上位存在がお膳立てしたものなんだろうな。そう考えると悔しいぜ。ちくせう。



 ご都合展開は全て上位存在のせいにするスタイル……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ