89.手帳の記号《1》
投稿を忘れてました。
俺は頭をフル回転させるが、打開策はまったく思いつかない。こうなったらモンゴル人達を仲間にすることは諦めるしかないのか……。
つーかさ、藤堂って死んでからも俺に迷惑を掛けるよな。マジでふざけんなっ!
俺が憤っていると、イザナミが手帳を手に取って開いた。
「妾には難しくてわからないが……童の様子を見るに、何か不味いことでも書かれてあったのか?」
「書かれてあったんだよ、それが」
手帳に書かれていた内容を要約しつつ、イザナミにもわかりやすいように説明する。
「確かに面倒なことになっているのじゃな」
「お、わかってくれたか」
「ああ、もちろん。要するに、蝦夷汗国とやらが強くてジパング王国が負けるかもしれないということじゃろ?」
「違ぇよ!!」
やっぱりイザナミは理解していなかったか!
「蝦夷汗国にジパング王国が負けるわけないだろ」
そう、そうなのだ。ジパング王国が蝦夷汗国に負ける心配はまったくない。
以前ならばジパング王国が蝦夷汗国に負ける可能性もあるにはあると俺は考えていたが、藤堂の手帳を読んだことで蝦夷汗国に負けるわけがないことがわかっている。
何せ、蝦夷汗国はまったく中央に権力が集中していないからな。
中央集権が出来ていないということは、足並みがそろうことはないということだ。つまり、蝦夷汗国は烏合の衆と言える。
そんな蝦夷汗国に対して、ジパング王国は中央集権がしっかりと出来ている。なのでどちらが強いかは明らかだ。
藤堂クラスの覚醒者が蝦夷汗国側にいた場合はヤバいが、手帳を見る限りでは蝦夷汗国に藤堂クラスの覚醒者はいないと思われる。
もしそんな強敵がいたのなら、藤堂が手帳に記しているはずだからな。
まあ藤堂が会っていないだけで蝦夷汗国にも藤堂クラスの化け物がいる可能性もあるが、それは心配し過ぎというものだ。なるようになるさ。
それに、騎兵というものは確かに強力だが、弱点がないわけではない。
馬も生き物なので食事をするわけだから、飼葉が尽きれば騎兵を維持することが難しくなる。
兵士達の食料が尽きた場合は騎兵の馬を食べるだろうから、そうすると騎兵隊は壊滅する。
馬のような賢い生き物を食するのを忌避する地域や宗教上の理由で馬を食べない地域もあるにはあるが、モンゴル人達は日本人と同じく馬を普通に食べる。
だから蝦夷汗国に対して兵糧攻めを行えば、いずれ飢えた兵士達が軍馬を食べて騎兵隊は壊滅するはずだ。
というような方法によって騎兵隊を無力化すれば、蝦夷汗国は脅威ではなくなる。蝦夷汗国が強いのは騎兵が多いからであって、その騎兵が壊滅すれば弱体化は必至だ。
騎兵が壊滅した蝦夷汗国など敵ではないので、よってジパング王国が負けることは億が一にもない。
「いいか? ジパング王国は偉大で──」
「む、なんじゃ? 手帳に変な記号が書かれているのじゃ」
蝦夷汗国がいかに弱く、ジパング王国がいかに強大かをイザナミに説明していると、彼女が手帳に変な記号が書かれていると言う。
「どれ、見せてみろ」
なので手帳をひったくてみた。
「あ、本当だ。マジで変な記号が書かれているな」
「じゃろ?」
この記号、どっかで見たことがあるような気がするんだよなぁ。どこで見たっけ?
「う~ん? 何だこの記号」
スマホとかがあれば調べることが出来るんだが、モンスターが現れたせいで基地局が壊滅してインターネットが使えなくなったからなぁ。
インターネットが使えたら便利なんだが。と思いながら手帳に書かれた記号と睨めっこをしていると、チャリオットの外から耳をつんざくような歓声が聞こえてきた。
「何だ? 何かあったのか?」
そう呟きながらチャリオットの扉を開けてみると、歓声を上げているのはジパング王国陸軍の兵士達であるということがわかる。
兵士達が歓声を上げる理由はすぐにわかった。なぜなら、江戸城の総構えに等間隔でジパング王国の国旗が立てられていたからだ。
この国旗は、大日本皇国の本拠地・江戸城をジパング王国が制圧したということを内外に知らしめる役割を持つ。
俺はまだ国旗を立てるように指示をしていないので、おそらく雫の指示によって国旗が立てられたのだろう。
ジパング王国の国旗が江戸城総構えに立てられたことで、陸軍兵士達が歓声を上げたというわけだ。
「すごい歓声なのじゃな」
「そうだな」
普段ならば、兵士達に混じって俺も喜びを露わにしていた。だが、ジパング王国の国旗を目にしたことで感傷的な気分になってしまったので、歓声を上げることはない。
ジパング王国の国旗は、クロウの頭上に二本の剣が交差しているというものだ。その交差する剣の片方がフラガラッハであり、国旗を見た俺はフラガラッハを思い出してしまった。
すまない、フラガラッハ……カヤ……。
「どうしたのじゃ、童」
「あ、ああ……。ちょっとフラガラッハとカヤのことを思い出していてな」
そう言いながら、俺は二枚のカードを取り出した。色が失われて白黒となってしまったフラガラッハとカヤのカードだ。
「必ずお前らを生き返らせてやるからな」
フラガラッハとカヤのカードを見ながら、そう口にする。
二人を生き返らせる方法はわからないが……それでも、二人が生き返る可能性はあると俺は考えている。
なぜならば、モンスターが死んでも色が失われるだけでカードは残り続けるからだ。
もし復活手段がないのならばカードは消滅するはずではないだろうか。なのにカードが残り続けるということは、何らかの方法で生き返らせることが出来る可能性が高い。
だから俺が復活させるまで待っていろ。と心の中でフラガラッハとカヤに向けて呟く。
「なーに黄昏れているのじゃ! 男ならシャキッとするのじゃ!」
物思いにふけっていると、イザナミが俺の胸をぺしっと叩きながらそう言った。
「お、おう……」
俺は胸に手を当ててうなずく。
胸が……胸が痛くて…………締め付けられているような気がして、すごく苦しい。
だって──
───イザナミに胸を叩かれたからに決まってんじゃん! クソ痛いよ!
イザナミめ、かなり本気で叩きやがったな!!
というかさ、使役されたモンスターは召喚主である俺に攻撃してもダメージを与えられないんじゃなかったっけ!?
なのに何でイザナミに叩かれた胸が痛いんだよ!!
「ぐふぅ……痛い」
俺は胸を押さえながら片膝を突いた。するとそこへクロウがやって来る。
「マスターよ、何か問題が起きたのか?」
「イザナミにやられた! クッソ痛い! モンスターは俺に攻撃出来ないんじゃないのか!?」
「妾はただ胸を叩いただけなのじゃ!」
俺とイザナミを交互に見てから、クロウはなるほどとうなずいた。
「大方、イザナミが励ますためにマスターを叩いたのだろう?」
「そ、そうだ」
「そうじゃ」
俺とイザナミが同意すると、クロウは
「マスターのための行為ならば、召喚されたモンスターは召喚主であるマスターを攻撃することも可能だ。故に、イザナミがマスターのためを思って叩いたから攻撃が通ってしまったと考えられる」
俺の異能が無駄に高性能だからイザナミの攻撃が通ったのか。こういう時は異能が高性能なのも困りものだ。
未だかつて、自分の異能が高性能だということを恨めしく思ったことはないな。
「イザナミ。次叩く時は軽くしろよ」
「さっきも軽く叩いたのじゃ」
「んなわけねぇだろ! めっちゃ痛かったんだけど!? というか、まだ痛いんだけど!?」
「知らないのじゃ」
「テメェ、マジでぶっ飛ばすぞ?」
「やれるものならやってみろ、なのじゃ」
「あ゛? ならやってやんよゴラァ!!!」
そうしてイザナミと俺が睨み合っていると、雫や祖父ちゃんや宇都宮、神楽宮達がこちらに駆け寄ってきていることが遠目からでもわかった。
「俊也! 何かあったのか?」
雫がそう言いながら俺の元にやって来た。これにはイザナミも変な悲鳴を上げる。
「ぴいぃ……」
何で雫に威圧されたわけでもないのに怖がっているんだよ。
それにしてもちょうどいいな。手帳に書かれている記号について雫なら何か知っているかもしれないから、聞いてみることにするか。