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87.蝦夷汗国の実態《1》

 祖父ちゃんが江戸城を制圧しにいってから三時間くらい経つが、戻ってくる様子はまったくない。一時間もあれば祖父ちゃんなら制圧出来ると思ったんだが……。


 もしや、どこかで道草食ってるということか?


 くっ……帰ってきたら祖父ちゃんをとっちめてやる。俺達は暇なのに祖父ちゃんだけ楽しいことしやがって。


「暇じゃ……」


 イザナミも暇だと呟いている。


 ……ん? イザナミにはルービックキューブを渡していたはずなんだが。


 そう思ってイザナミに目を向けると、彼女の足元にはかろうじてルービックキューブと判別出来る残骸が落ちていた。


「お、お前……ルービックキューブ壊しやがったな!?」


「妾が壊したわけじゃないのじゃ。勝手に自壊したのじゃ」


「んなわけねぇだろ! テメェ、やりやがったな!」


 暇な時によく遊んでいたルービックキューブが……。思い出のルービックキューブが……。


「ルービックキューブが悪いのじゃ。妾が遊んでやっているのに、色が全然そろわないのじゃ」


「色が全然そろわないのがルービックキューブなんだよ!」


「何で色が全然そろわないのじゃ? 不良品か?」


「不良品じゃねぇよ! それがデフォだから! 色が全然そろわないから楽しいんだよ!」


「色が全然そろわないルービックキューブで遊んでも楽しくないのじゃ。なのに童は色がそろわないのに遊ぶということは……マゾなのじゃな?」


「……ぶっ飛ばすぞ?」


 俺が拳を握ると、イザナミはニヤリと笑って胸を張った。


「妾に童のパンチは効かないのじゃ」


 確かに。イザナミは強いからなぁ……。


「私のパンチならイザナミにも効くが、どうする?」


 イザナミに俺のパンチは効かないので拳を握るのをやめると、雫がそう言いながらイザナミの前に立った。


「ぴいぃ……」


 するとまたもイザナミは変な悲鳴を上げながら涙目になる。


 このイザナミの悲鳴はいつ聞いても面白いな。なんだよ、ぴいぃって。悲鳴が漏れるにしても、ぴいぃはおかしいだろ。


「わ、悪かったのじゃ……」


 おお、イザナミは謝った。珍しいな。


「うん、よろしい」


 雫は満足そうに笑顔でうなずき、椅子に座った。


 ……マジで暇だ。祖父ちゃんはすぐに帰ってくると思ったからマヨヒガは召喚せず、チャリオットの中で待っていた。


 が、三時間経っても帰ってこないんだし、マヨヒガを召喚して寛ごうかな。


 と考えていたら、タイミングが良いのか悪いのかはわからないが祖父ちゃんが江戸城を制圧して帰ってきたということをクロウが伝えに来てくれた。


 そしてしばらくチャリオットで待っていると、扉が開いて祖父ちゃんが入ってくる。


「首尾は?」


 そう俺が問うと、祖父ちゃんは白髪まじりの短い顎髭(あごひげ)を撫でながら答えた。


「制圧は完了。チャリオットの外には大日本皇国の中心メンバー二人と、大日本皇国に囚われていた日本国政府の人間を八百余人を連れてきている」


 大日本皇国の本拠地には日本国政府の者が八百人余りも囚われていたのか。囚われているだろうとは思っていたが、予想よりも人数が多いな。


「じゃあ祖父ちゃんは大日本皇国の中心メンバーっていう二人と、大日本皇国に囚われていた日本国政府の者達の中で一番偉い奴をここに連れてきてくれ」


「わかった」


 祖父ちゃんはうなずいてからチャリオットを出ていった。


「童よ。童にルービックキューブ以外のおもちゃを寄越すのじゃ」


「お前また絶対壊すじゃん」


「妾が壊したわけじゃないのじゃ」


「そんな見え透いた嘘が通じると思うなよ」


「童は馬鹿だから通じるのじゃ」


「それを本人()の前で言ったら駄目だろ。ってか、これでも俺は頭良いからな!?」


 一応、偏差値が高い大学を卒業しているんだぞ?


「顔が馬鹿っぽいのじゃ」


「よし望み通りぶっ飛ばしてやる!」


「フラガラッハを持たぬ童なぞ怖くないのじゃ!」


「フラガラッハがいなくたって俺は(つえ)ぇ!」


 俺とイザナミが睨み合って火花を散らしていると、ちょうど何人かの男達とともに祖父ちゃんがチャリオットに入ってきた。


 このチャリオットの内部は広く造られているから十数人が乗っても狭くは感じないのだが、祖父ちゃんが連れてきたねは全員男だからむさ苦しいな。


「紹介しよう。こいつが儂の孫の俊也だ」


「おう、俺が俊也だ」


 俺が名乗ると、祖父ちゃんが連れてきた男どもがペコリとお辞儀をした。


「つーか、あれ? お前とお前、どっかで見たことがあるような」


 祖父ちゃんが連れてきた男達の中には、見覚えがあるような者が()()もいたのだ。


「……まさか僕の顔を忘れてたのか?」


「んん? ん~?」


「僕は宇都宮だよ。宇都宮勇仁」


「宇都宮? おー、言われてみると確かに宇都宮じゃないか」


 あの時は宇都宮の顔をあんまり見てなかったから、宇都宮だと気づかなかったのも無理はない。だから宇都宮は呆れたような目で俺を見るんじゃねぇ。


「一度会ったことのある僕を忘れるとは」


「……宇都宮のことは覚えていたさ。顔を忘れていただけだ」


「何で僕のことを覚えているのに顔は忘れるんだよ」


 仕方ねぇじゃん。忘れちゃったんだから。


「ほら、一度会った者を忘れるほど童が馬鹿だということが証明されたのじゃ」


 く、悔しいが反論出来ねぇ…………。


 でも、おかしいな。祖父ちゃんが連れてきた奴らの中には見覚えのある者が二人いた。その二人のうち一人は宇都宮だということが判明したが、もう一人の方は本当に思い出せないな。


 もう一人の方は宇都宮とは違って会ったことがない気がするんだが……?


「で、こいつ誰?」


 もう一人の思い出せない男を指差しながら、俺は宇都宮に尋ねた。


「あ~、結構有名な人なのに知らないのか?」


「見覚えはあるんだよ、見覚えは。だから宇都宮みたいに前にも会ったことがある奴かもしれない」


 と俺が言うと、宇都宮や祖父ちゃんは苦笑する。雫も俺の隣りで苦笑いをしながらも、彼が何者であるかを教えてくれた。


「彼は総理大臣だよ。モンスターが出現する前にはよくテレビで見ていた顔じゃないか」


 ……総理大臣ってこんな顔だっけ? 総理大臣といえば総理大臣のような気がしなくもなくもないような?


 う~ん、記憶が定かではないが、総理大臣がこんな顔をしていたと言われるとそうなのかもしれない。


「わ、私が元総理の仁藤翔太だ。よろしく」


 俺に知られていなかったことが余程ショックなのか、仁藤と名乗った元総理さんは肩を落としていた。


「俺は塚原俊也。ジパング王国の国王をやってます」


「!? では君がジパング王なのか」


「あれ、祖父ちゃんから説明ありませんでした?」


「あ、ああ……説明はなかったな」


 俺と仁藤さんの目が祖父ちゃんへと向けられる。


「む、説明するのを忘れていたようだ」


 祖父ちゃんはばつが悪そうに視線を逸らしてから、ポリポリと後頭部を掻いた。


「では改めて、儂の孫はジパング王国で国王をやっている」


「祖父ちゃん、遅いよ……」


 説明するのが圧倒的に遅いな。だが今はそんなことはどうでもいい。これから急いでやらなくてはいけないことがあるのだ。


「で、祖父ちゃんが言っていたが、大日本皇国の中心メンバーを二人連れてきたんだろ? ということは宇都宮以外にもう一人いるはずだ。そのもう一人は誰だ?」


 俺が宇都宮に聞くと、彼は自分の隣りに立つ男の肩に手を置いた。


「もう一人の中心メンバーは彼だよ」


「ふーん、お前か。名前は?」


「俺は神楽宮義仁だ。宇都宮の兄になる」


「お前が次男か」


「そうだ」


 神楽宮は自分の肩に置かれた宇都宮の手を払いながらうなずいた。


「お前ら兄弟には蝦夷汗国についてくわしく聞きたい」


 俺がこれから急いでやらなくてはいけないこと。それは……蝦夷汗国を潰すことだ。


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