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82.力の代償

 自称天皇こと藤堂を倒したあと、俺達はマヨヒガの居間に集まっていた。


 居間には俺、雫、神谷、祖父ちゃん、クロウ、イザナミがいる。


 ただ祖父ちゃんはまだ意識を失ったままだ。祖父ちゃんには聞きたいことが山ほどあるが、それをするのは今ではない。


「じゃあ、このまま攻めに転じるってことで異論はないよな?」


 俺がそう問うと、皆一斉にうなずいた。


 というわけで話し合いの結果、我々ジパング王国陸軍は天竜川を越えて攻めに転じることになった。




◇ ◆ ◇




 二日後。俺がチャリオットから降りると、目の前には江戸城がそびえ立っていた。


 ジパング王国は反撃に転じ、つい先ほど大日本皇国の本拠地である江戸城まで攻め上がってきたのだ。この江戸城の中に、連合軍の残党が立てこもっている。


 ここに来るまでに藤堂クラスの化け物とは遭わなかったが、かなり強い兵士が連合軍側に何人かいた。だがネームドへと進化した雫の敵ではなく、難なく江戸城にまでやって来られたな。


「じゃあ頼むよ、祖父ちゃん」


 と俺が振り返りながら言うと、ちょうどチャリオットから降りてきた祖父ちゃんが江戸城を見上げて笑う。


「ああ、任せろ」


 祖父ちゃんは昨日の夜に目覚め、なぜ自分が生きているのかと驚いていた。どうも祖父ちゃんは全てのエネルギーを放出して攻撃し、死ぬつもりでいたらしい。


 なぜそんなことをしたのかと聞くと、もう後悔はしたくなかったと祖父ちゃんは言った。


 なんと祖父ちゃんは、古武術を俺に教えるのを断ったことを悔やんでいたようだ。


 クロウから雫が殺されたということを聞き、祖父ちゃんは芽依が殺されたことを思い出して、二度と同じ過ちを犯さないために自分の命を犠牲にしてまで俺に協力したんだと。


 その後祖父ちゃんと俺は少しずつだが、会話をしていった。祖父ちゃんは俺が王様になっていたことに驚いていたが、俺は祖父ちゃんが戦争に参加していたことに驚いたよ。


 そうして徐々にではあるが関係が修復していき、まだよそよそしいが面と向かってちゃんと話せるようになっていた。


「じゃあ行ってくるぞ!」


 祖父ちゃんはそう言って俺に手を振り、単身で江戸城の中へと突撃していった。


 実は江戸城制圧を祖父ちゃんに任せたのだ。


 何でもいいから役目が欲しいと祖父ちゃんが言ったからという理由もあるが、俺や雫、神谷などが江戸城制圧をしようものなら、江戸城がぶっ壊れる可能性が高いという理由もある。


 俺は力の制御に慣れているから大丈夫かもしれないが、雫はネームドになったばかりだから力の制御をミスって江戸城が壊れてしまう可能性がある。


 そしてそもそも神谷は、巨大化したら江戸城を確実にぶっ壊す。


 江戸城は歴史的な価値があり、壊すのは忍びないので祖父ちゃんが江戸城制圧を行うことになった。


 祖父ちゃんなら力の制御も出来ているし、エネルギーさえ放出しなければ身体強化型の異能と同じなので江戸城が壊れる心配はない。


 でも万が一、祖父ちゃんが苦戦するほどの敵がいた場合は、江戸城を壊してもいいからエネルギーを放出するように言ってある。


 念のために『体力回復のポーション』もいくつか渡しているので、問題ないだろう。


「自称天皇クラスの敵が襲撃してくる可能性は否定出来ぬ故、マスターはチャリオットに乗っていてくれ」


 祖父ちゃんを見送ったあともしばらく江戸城を眺めていると、周囲の警戒をしていたクロウが苦言を(てい)してきた。


 確かに、藤堂クラスの敵が襲ってこない限りはドワーフ製のチャリオットの中は非常に安全だ。何せ、このチャリオットはCランクモンスターの攻撃にも耐える。


「藤堂クラスの敵が早々現れることはないと思うけどなぁ……」


 俺はそう言って苦笑しつつもクロウの忠告を聞き入れ、チャリオットの中へと入っていく。


 チャリオットの中には、雫とイザナミがいる。イザナミは俺が貸し与えた漫画を読んでいて、雫は退屈そうに座りながら膝に頬杖を突いていた。


「お、童よ。もうそろそろこの漫画が読み終わるから、他の漫画をいくつか用意するのじゃ」


「読むの(はえ)ぇな!?」


 イザナミが暇だ暇だと騒ぐもんだから昨日三十冊ほどの漫画を渡したのだが、一日でその三十冊を読み終えたってことかよ。


「早く妾に漫画を寄越すのじゃ」


「いや、漫画は昨日渡した三十冊以外に持ってねぇよ?」


「なぜじゃ!?」


 ショックを受けたようで、イザナミは手に持っていた漫画を落として固まった。


「モンスターが現れるようになってからは印刷所は稼働していないんだから、本ってのは貴重なものになったんだ。だからあんまり持ってないんだよな」


 イザナミが落とした漫画を拾いながら、俺は本が貴重であることを説明する。


「なら妾はどうやって暇を潰せばいいのじゃ!」


「小説は漫画より多く持ってるけど、読むか?」


 俺や雫は漫画より小説を読むので、漫画より小説を数多く持っているのは必然だ。


「小説? 小説ってあれじゃろ? 文字がずらりと羅列(られつ)してあるだけのやつ」


「いや、そもそもこの世界も小説だぞ? お前も俺も文字列で構成されているんだぜ?」


「そんなメタなことは知らないのじゃ」


 その返しが出来る時点で充分お前もメタいからな。


「そんなことより妾に漫画を寄越すのじゃ!」


「んなこと言われてもなぁ……」


 困った俺が頭を掻いていると、雫がイザナミに目をやった。


「イザナミ。あまり俊也を困らせないでくれるかな?」


 と言った雫は表面上は穏やかな表情をしていたが、目はまったく笑っていなかった。


 俺を困らせるイザナミにキレているのかな?


「ぴいぃ……」


 雫に鋭い視線を向けられたことで、イザナミは変な悲鳴を上げながら(ひる)んだ。


 それも仕方ない。自身よりステータスの高い者に睨まれれば、誰だってイザナミのように怯むことだろう。


 それにステータス差とか関係なく、イザナミは雫を避けている節がある。イザナミと(ヘカテ)はどちらも冥府神だから馬が合わないということだろうか。


 ちなみに、クロウもイザナミと同じように雫を避けている。


 ヘカテは冥界の神であるのと同時に月の神であるのに対して、クロウの種族である八咫烏は太陽の化身だ。それが理由でクロウは雫を避けているのかもしれない。


「俊也は私の夫であって、君の召使いではないんだ。というか俊也は君の召喚主だぞ? つまり主人は俊也で、君こそが召使いだ。だから君は召使いに相応しい対応をしてくれ」


 う~ん、それを言うならミラージュも俺に図々しい対応をしていると思うんだけど……。


 というかやっぱり、雫の性格が以前と変わっているな。以前ならばこんなことは言わなかったのに。


「わ、妾はお前とは違って童に使役されることを受け入れてはいないのじゃ! だから召使いの対応はしないのじゃ!」


 おお、すげぇ! 圧倒的なステータス差がありながらも、イザナミが雫の意見を()()けやがった!


「私が言っているのは、俊也を困らせないことだ。受け入れないことは勝手だが、話をすり替えないでもらおう」


「ぴいぃ……」


 あ、駄目だったか。またイザナミが変な悲鳴を上げたよ。


「まあまあ、雫もあんまり怒らないでくれよ。イザナミも悪気があったわけじゃないし」


 俺はまず雫を(なだ)めて、それからイザナミに視線を向けた。そして収納カードからルービックキューブを取り出し、イザナミに手渡す。


「イザナミはそれで遊んでいてくれ」


「何じゃ、これは?」


「ルービックキューブと言って、色をそろえて遊ぶものだ」


 遊び方をイザナミに教えると、彼女は喜々としてルービックキューブに熱中した。


 知恵の輪でも良かったんだが、その場合はイザナミが力業でリングを外してしまい()()ではなく()の輪と化してしまう未来が()えたのでルービックキューブを渡したんだ。


「すまない俊也……。モンスターになってからというもの、なぜか怒りやすくなってな」


 俺に宥められたことで雫は落ち込んでしまったようだ。肩を落として俯いていた。


「あんまり気にするな。クロウが言っていたが、ネームドに進化したモンスターは性格が変わることが多いらしいし」


「うん、そうだよな……」


 クロウいわく、ネームドモンスターは傲慢な性格の奴らが多い。ネームドへと進化して強い力を手に入れ、他者を見下すようになるからだ。


 フラガラッハや雫が傲慢になっていないのは、これも俺の異能による効果だとクロウから聞いた。俺の異能は万能だな。


 だが雫は怒りやすい性格に変わってしまい、少なからずネームドへと進化したことによる影響を受けていることがわかる。


 雫も怒りやすい性格になってしまったことを気にしているようだし、この問題をなんとか片付けたいのだが……。

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