81.真なる神
……ここはどこだ?
そう思って周囲を見回すが、目に入るものは何もない。辺り一面が真っ白なのだ。
辺り一面真っ白、と聞くと雪景色を思い浮かべるかもしれない。だがこれは雪なんかではない。転生もののラノベなんかではお決まりである白い空間のようだ。
もしここが転生もののラノベで定番の白い空間であるならば神がいるはずだ。だが、どこもかしこも白いだけで神がいるようには感じられない。
これが夢だという可能性もあるな。
まず、これを夢だと仮定してみるか。そうすると俺は現実で寝ていることになる。実際に寝たのかどうか思い出してみるが……記憶が混濁していてはっきりとは覚えていない。
というかそもそも、自分が誰なのかもわからなくなっているような気が……。
俺は瞼を閉じて人差し指でこめかみを押さえ、う~んと唸り声を上げながら自分の名前を必死に思い出していた。
確か俺の名字は……山本? 山口? 山田? 山中? 田中? 田所? 田堂? 安堂? 一堂? 二階堂? 藤堂? ……藤堂だっ!!
そうだ、俺の名字は藤堂だ。で、下の名前は……貴樹だ!
思い出したぞ。俺は藤堂貴樹。大日本皇国で天皇をやっていたんだ。だがジパング王との戦いで負けた俺は、コピーした『自爆』のスキルを発動して死んだはずだ。
なのに意識があるということは、俺はまだ生きているということか!?
『──答えは否だ。汝はもう死んでいる』
俺が希望を見出していると、ケンシロウじみたセリフで否定された。
「誰だ!?」
驚いて周りを見るが、誰の姿も捉えられない。
『当然だ。我ら上位存在の姿を捉えられる人間なぞいてたまるか』
まただ。姿は見えないのに声だけが聞こえる。まるで脳内に直接語りかけてきているようだ。
『肯定する。私は汝の頭の中に直接語りかけている。汝を何を考えているかも筒抜けだ』
白い空間で頭の中に直接語りかけてくる存在……。
「もしや貴様が神か?」
『私を貴様呼ばわりか。何様だ、人の子よ?』
「はっ!」
俺は鼻を鳴らした。
「どうせAかBランクのモンスターのくせに偉そうにしやがって」
『ほお? 私とモンスターが同列の存在だと汝は思っているのか』
「もしお前がモンスターじゃなかったら何なんだよ?」
俺の脳内に直接語りかけてくる存在はため息をついた。
『神の名を冠するモンスター達は多いが、奴らは便宜上の神に過ぎん。私こそが造物主にして真なる神である』
ほ~ん? 造物主? 真なる神? そりゃすごいね(棒)。
『む、信じていないな?』
「まあな。突然そんなことを言われても」
『ではこれならばどうだ。汝は、八咫烏からコピーした「導き手」のスキルの言う通りに動いていただろ? あの「導き手」のスキルで汝に指示を出していたのは私だ』
『導き手』のスキル? ああ、ジパング王と一緒にいたデカイ烏からコピーしたスキルのことか。
あのスキルから出された指示通りに行動したからこそ、ジパング王をあそこまで追い詰めることが出来た。
だからあのスキルには感謝しているが、お前があのスキルを介して指示を出していた存在だという確証がないじゃないか。
「というか、そんな話はどうでもいい。さっきお前は『汝はもう死んでいる』はもう死んでいると言っていたよな?」
『……うむ、言ったな』
返事をするまでに少し間が開いていたな。どうでもいいと俺に言われたからか? まあそんなことは今は関係ない。
「俺は死んでいるはずなのにこの白い空間にいるということは、ラノベみたいに俺を転生させてくれるってことだろ?」
死んだあとに白い空間に呼び出されたら、チート付きで転生させてもらえると相場が決まっているのだ。
つーわけで早く俺にチートを寄越して転生させろ。
『……都合のいい頭をしているな』
「は?」
『実を言うと、私は「導き手」のスキルを介して指示を出すことで汝の行動を操っていた』
ん???
「じゃあ俺はお前の手のひらの上でずっと踊らされていたということか!?」
でも何でそんなことを?
『汝の行動を操ったのは、塚原俊也を成長させるためだ』
「塚原俊也? 誰だよ、そいつは」
『ジパング王と呼んだ方が汝にはわかりやすいか。ジパング王の怨敵である汝の存在により、彼の成長を促したのだ』
「俺がジパング王の怨敵? 身に覚えがないんだが」
『汝が殺した中学生の女の子というのがジパング王の恋人だった故に、汝の行動を誘導してジパング王の敵となったもらった。その結果、見事ジパング王は成長を遂げた。感謝するぞ』
「はあっっっ!?」
ジパング王は俺が刺した中学生の女の恋人だぁ!? おいおいおい、嘘だろ。
『汝は役目を果たし、ジパング王を成長へと導いた。これは賞賛に値する。──しかし、汝はフラガラッハを殺してしまった』
おっと。まだ理解が追いついていないが、話の雲行きが怪しくなってきたぞ……。
『私がわざわざネームドへ進化するように導いたフラガラッハを、汝は殺したのだ。そのためジパング王は大幅に弱体化した。よって私が汝に与えるのはチートではなく罰である』
「待て、待ってくれ! お前の言うこと何でも聞くから!」
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!
やべぇ、マジで雲行きが怪しくなりやがった!
このままでは俺は殺されてしまう! それだけは何としてでも避けなくてはいけない!
『地獄で苦しめ』
「地獄ぅ!? ふ、ふざけなんなよクソ野郎! 俺様が地獄行きなんて絶対に認めないからな!」
逃げないと! 早くこの白い空間か脱出しないと!
『汝がこの空間から逃げることは出来ない。諦めることだな』
と自称造物主が言ってから少しして、指をパチンと鳴らしたような音が耳に──というか脳内に直接聞こえた。
すると俺の次第に遠くなっていく。
「い、嫌だ……地獄なん、かに行くもの、か……」
俺が拳を握り締めて意識を失わないように足掻いていると、笑い声が聞こえてくる。自称造物主が俺を嘲笑っているんだ。
『地獄で罰を受けよ』
そこで俺の意識は途切れた。
◇ ◆ ◇
「痛っ!」
ものすごい激痛で目が覚める。そして混乱しながらも上半身を起こすと、目の前には異形の怪物がいた。
昔話に登場する鬼のような不気味な容姿をしている怪物だ。その怪物は手に持った金棒を地面に突き刺し、杖のようにしてその金棒で体重を支えている。
「誰だお前!」
俺がそう問うが、当の怪物はじっとこちらを見つめるばかりだ。
「チッ! 返事しろよ」
その時、俺はふと視線を落とした。するとどうだ。そこには俺の下半身がなかったのだ。
「え?」
俺の下半身は少し遠くに落ちていた。そのことに気付いた瞬間、痛覚が蘇ったかのように激痛が走る。
「痛い痛い痛いっ!」
俺は今、上半身だけしかないということか!? 何でこうなった!? 何で!!
あまりの痛みに悶えていると、今まで不動だった怪物が杖代わりにしていた金棒を地面から引き抜いて振り上げた。
怪物は眉一つ動かさず金棒を俺の頭に振り下ろす。
「あ゛あ゛あ゛!!??」
俺の頭は潰れ、中から脳味噌が飛び出してくる。だが意識が失われることはなく、怪物に全身をミンチにされるまで意識は途切れず痛みもずっと感じていた。
ミンチになって意識を失う直前、俺はやっと死ねると思った。やっと痛みから解放されるんだと、心の底から安堵した。
けれど次に目が覚めたら、また目前には金棒を持った鬼のような怪物がいた。
それから何度も何度もミンチにされては体が修復され、ミンチにされてはまた体が修復される。これが延々と繰り返されていった。
「ぁぅ……も、もぅや、やだぁ……。いたい、いたいのやだぁ…………」
今話は急いで書いたので結構雑です。すみません。