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79.アンデッド

「先輩!? 俺の声が聞こえますか!?」


 俊也の声が聞こえて、私は目が覚めた。


「ぅ……」


「先輩!?」


「しゅ、俊也……か?」


「ええ、俊也です!」


 ホッと安堵のため息を吐き出した俊也は収納カードからポーションを取り出し、私の胸に掛けた。


 ……ポーションが冷たいな。


「クソッ! 駄目か!」


 ポーションを掛けても私の胸の傷が塞がらず、彼は頭を掻きむしった。


「俊也……わ、私は死ぬ…………のか?」


「先輩のことは死なせません!」


「いい……いいんだ、俊……也……。ほ、本……当のことを……言って…………くれ」


 私がそう言うと、俊也は目に大粒の涙を浮かべて歯を食いしばる。


 俊也は泣き叫びたいはずなのに、私の前だから必死に涙を堪えているのだろう。その顔が愛おしい。


「先輩は……おそらく、もう…………長くはないと思います」


「そう、か。意外……ではない、な……。何となく、わかって……いたよ」


 私は涙を流す。


「俊也……お前に…………伝え、ておくこ、とが……ある」


「何ですか?」


「実は、な。わ、私も……お前のこと、が……好き、なんだよ」


「え?」


 突然の私の告白に、俊也は何を言われているのかわからないというような顔をしていた。


「もっと……ロマンチックな、告白が良かった、からな。だか、ら私は……こ、告白を、保留にした、んだ」


 理由はこれだけではないがな。戦争の前に告白を受け入れてしまえば、俊也の死亡フラグが立ってしまうというのもあった。


 ほら、よく聞くくだろ? 俺、この戦いが終わったら結婚するんだって言った奴は必ず死ぬというものだよ。


 だから戦争が終わってから告白を受け入れようと思っていたんだが……俊也ではなく私が死ぬという始末だ。まったく笑えないよ。


 でもまあ……俊也に私の想いを伝えるには言い機会でもあるな。


「好き、だった。大学、の時から……ずっと、私は、俊也のこと、が…………好きだった」


 最期に自分の想いを俊也に伝えるため、私は途切れ途切れにだが話した。


「あ……あぁ……」


 すると俊也が恥も外聞も気にせずに大声で泣き出した。これには驚いてしまう。俊也がこうも涙もろいとは思わなんだ。


「お、前は……男、だろ? 男なら……泣く、な」


「ぁ……そ、そうですね……先輩」


「なあ……俊也」


「なんです?」


「た、頼み……がある、んだ」


「……俊也に…………名、前で、呼ばれ、たい」


「名前、ですか?」


「あ、ああ…………」


 死ぬ前に俊也に名前を呼ばれたかったんだ。


 鏡がないのでわからないが、今私の顔は()(だこ)になっていることだろう。


 しばらく待っていると、意を決した俊也が私の名前を呼ぶ。


「雫……さん」


「さん、は……付けな、いで……くれ。敬……語も、だ」


「じゃあ……雫」


 私の名前を俊也が口にする。


「大好、きだ……よ、俊也」


「俺もだ、雫」


 そして私達は見つめ合う。


 死ぬ間際に俊也に自分の想いを伝え、俊也に名前を呼んでもらうという長年の願いも叶った。だから胸に穴が開いているというのに、気分は最高である。痛みなんてまったく感じない。


 だが、どんなものも終わりを迎えるように、この時間にも終わりがきた。私の体に異変が訪れたからだ。


「ぐっ……ゲハッ!」


 私が咳き込むと、口からは血が吐き出された。そして徐々に意識が遠のいていく。


 くっ……まだだ。まだ意識を失ってはいけない。ここで意識を失えば、私は()()()()()()()()()


 俊也に私の想いを伝えられたのに、死んでしまっては意味がないじゃないか。だから私は生きようと足掻いてやる!


 私は最後の力を振り絞り、ポケットに手を突っ込む。ポケットの中にはケースがあり、そのケースから取り出した針を服越しに自分の太ももに刺した。


 この針の先には致死量の毒が塗ってある。この毒針を自分に刺すことで自殺、つまり()()()()()()()()()ということになるはずだ。


 戦争に行きたいと俊也に頼み込んだ時、私は『万が一の時のために、備えもしている』と言った。


 その『備え』というのが毒針のことなのだ。


 私の持つ異能は殺した生物をアンデッドとして使役するというものだが、それは私自身も例外ではないのではないかと私は考えている。


 つまり、もし万が一自分が死にそうになった場合は、死ぬ前に自殺することで自身をアンデッド化させられるというのが私の仮説だ。


 だが、私が使役するアンデッド達は全てDランクだ。だからもし自殺することで自身をアンデッド化出来たとしても、知能がないかもしれない。


 けど、それでも……それでも私がこの状況で生き残れる方法はこれしかないんだ。ならば、知能のあるアンデッドと化すことを祈るしかない!


「もっと……生き、たかった、な。もっと、俊也、とデートも……した、かった…………」


 もしアンデッドになれなかったり、知能がないアンデッドになった場合は、これで俊也とはお別れになる。だから私の別れの言葉を言わないとな。


「おい! 雫!? 待て、待ってくれ! 嫌だよ! こんな別れ方は!!」


「私、も……嫌だ、よ。でも……無、理み……たい、だ」


 願わくば私のようにアンデッドになる道を選ぶことなく、俊也には長生きしてほしい。


「せめ、て……しゅんや……は生き、ろ……よ」


 そこで私の意識は途切れた。




◇ ◆ ◇




 次に目が覚めた時、私はゾンビとなっていた。私の思惑通り、自分自身をアンデッド化させることに成功したのだ。


 失敗だったのは、アンデッド化したことで私はモンスターと同じように俊也に襲い掛かってしまったことだな。


 駄目だとわかっていても、モンスターの本能のようなものには逆らえずに俊也を襲ってしまったんだ。そして俊也自ら、私は首チョンパされた。




◇ ◆ ◇




 そして次に意識が覚醒すると、人間を殺したいとは思わなくなっていた。それもそのはず、私はカード化されて俊也に使役されていたのだから。


 以前に俊也が言っていたが、俊也に使役されたモンスターは人間を殺したいとは思わなくなるらしい。そのお陰で、私も人間を殺したいとは思わなくなった。


 ただし、まだ喋ることは出来ない。でも生きながらえることが出来たのだ。これ以上の結果を求めるのは傲慢と言えよう。


 それからいろいろとあったが、ついに軽装備の男を倒した。けれど自称天皇は軽装備の男ではなく剣の方だったようだ。


 その剣が俊也の胸に突き刺された。そしてその剣がこう言った。


「おっと、そこのデカイ烏ども! こっちに近づくんじゃねぇ。もしこっちに近づいたら、こいつの命がどうなるか……わかってるな?」


 私とクロウは俊也を助けようとしたのだが、剣の姿をした自称天皇が俊也を人質に取ったために助けることが出来ない。


 私は自分の不甲斐なさに歯噛みするが、事態が好転することはなかった。というよりむしろ悪化している。


 それに……弱い私が助けに行っても、俊也を救い出すのは無理だ。でも俊也を助けたい。何か私に出来ることはないだろうか。


 そんな時だった。胸に刺さっていた剣を俊也自ら引き抜いたのだ。引き抜かれた剣は人間の姿となり、その姿を見た俊也は目を大きく見開いた。


「と、藤堂貴樹ッ──!!」


「あ? 何でジパング王が俺の本名を知ってるんだ?」


 俊也は自称天皇のことを知っていたらしく、驚いている。いや、怒っているというのが適切だな。


 自称天皇の顔を見た瞬間、俊也は怒りを(あら)わにした。


 その時、私はこう思った。俊也を怒らせたこいつを許さない、と。だがこいつを倒せるほどの力が私にはない。だから力を欲した。


 すると──


『良いだろう。汝が神の名を名乗ることを認める』


 ───声が、聞こえた気がしたんだ。

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