78.自称天皇の種明かし
「俺が何者か、だって? ならば聞いて驚け! 俺の名前は貴仁! 大日本皇国の天皇だ!!」
───は? こいつが自称天皇? じゃあ軽装備の男は何だったんだ!?
「ハハハハハ! 驚いているみたいだな、ジパング王!!」
偽フラガラッハ──否、自称天皇は俺に話し掛けてくる。
「……あ、当たり前だ」
くっ……喋ると苦しいな。
「冥土の土産だ。貴様らに教えてやろう。俺の異能は、一度見たことのある人物が持つ異能をコピー出来るのだ!!」
マジかよ!? 自称天皇は複数の異能を使えると聞いていたが、まさか他人の異能をコピー出来る異能を持っていたというのか!?
「俺が剣の姿になっているのは、ジパング王が武器にしていたインテリジェンス・ソードが持っていた『覚醒』のスキルをコピーしたからだ」
「!!」
なるほど。だから自称天皇はフラガラッハの姿をしていたのか。
『覚醒』を発動すると『報復の刃』と『破壊斬撃』のスキルを使用出来るようになるから、偽フラガラッハによって斬られた傷はポーションを掛けても回復しなかったんだ。
自称天皇が『覚醒』スキルをコピーしてフラガラッハの姿になっていたのは、軽装備の男を倒して俺が油断している隙に攻撃をしようとしていたからだと思われる。
現に軽装備の男を倒した俺は油断してしまい、胸を突き刺されてしまったわけだし。
つーか、ネームドスキルすらコピー出来るとかどんなチート能力だよ。俺の異能より優秀なんじゃないか?
「俺がわざわざ剣の姿になっていたのは、お前達が俺の長男を倒して油断している隙を突くためだ」
……長男? ああ、軽装備の男のことか!! あいつ、自称天皇の長男だったのかよ!?
ってことは軽装備の男は宇都宮の兄ちゃんってことか。言われてみると軽装備の男と宇都宮の顔は似てなくもなかったな。
で、自称天皇が剣の姿になっていたのは、俺達が軽装備の男を倒して油断している隙を突くためだったのか。
なら納得がいくな。軽装備の男はすごい強かったのに祖父ちゃんの異能によってあっさり倒されちまったが、あれは自称天皇がわざと負けさせたのだろう。俺達を油断させるために。
でも疑問が残る。自称天皇ならば一撃で俺の心臓を貫くことなど造作も無いはずなのに、なぜか俺の胸に突き刺さっている偽フラガラッハは急所を外している。
だがその疑問を俺が尋ねる前に、自称天皇はまた喋り初めてしまった。
「俺は以前、『鑑定』の異能を持つ男と会ったことがあるからな。その『鑑定』の異能もコピーしてあるから、ジパング王が使う剣がモンスターであることを知ったんだぜ」
『鑑定』の異能を持つ男……脅威度によるランク制度を定めたという人物のことだな!
自称天皇が『鑑定』の異能をコピーしていたから、フラガラッハの『覚醒』スキルが日に一度しか発動出来ないとバレていたのか。
そのため、一夜城を建てて『覚醒』を早い段階で発動させるという作戦を実行したんだろう。
「……一夜城は、ど、どうやって建てた、んだ?」
と俺が尋ねる。
「あの城は命懸けでドワーフと接触してコピーした『建築』のスキルを使って俺が建てたものだ」
俺が持つ異能をコピーし、それによりカード化させたドワーフに城を造らせたのかと思ったが……まさかドワーフと接触してスキルをコピーしてきていたとは思わなんだ。
「ドワーフどもは空を飛べなかったから逃げるのは容易だったぜ」
そういえば俺が捕まえたモンゴル人の男が、自称天皇は空を飛べると言っていたな。
「城を建てたあとはジパング王がどれほど強いか確かめるために、ジパング王と一緒にいた男が持っていた巨大化する異能をコピーしてみたんだが……左手首をお前に切り落とされて散々な目に遭ったぜ。『報復の刃』のスキルのせいで、切り落とされた左手首は回復出来ないし」
自称天皇は嘆いていた。
やはり巨人の男は自称天皇と同一人物だったか。
「軽装備の男は死んでいないのに神炎が消えたが……あれは一体どういうカラクリだったのだ?」
そう自称天皇に質問したのは、俺ではなくクロウだ。
「軽装備の男? ああ、俺の長男のことか。あれは大したカラクリじゃねぇぞ。あの炎が燃え尽きた時には、長男はすでに死んでいただけだ」
……まさか!!
「ジパング王の女が持っていた異能をコピーして、そのコピーした異能を使って俺の長男をアンデッド化させたんだ。そうしたらあの炎が燃え尽きたってわけ」
そういうことか。軽装備の男の焦点が合っていないから『威圧』が発動出来ないとクロウは言っていたが、アンデッドだから焦点が合っていなかっただろう。
「だけ、ど……雫の異能、によって、使役出来るアンデッド、は全てDランクだ。だが、軽装備、の男は……Cランク並みに強かった、ぞ?」
俺は疑問に思ったことを口にした。
「それは俺が長男にバフを大量に掛けていたからだ」
「……バフ?」
バフとは自分や他人の攻撃力や防御力などを上げる効果を持つ異能のことだ。覚醒者が持つ異能の中でもかなり使い勝手の良い異能として広く認知されている。
その理由は、バフは重ね掛けが出来るからだ。例えばA君に、バフの異能を持つ複数の覚醒者達がそれぞれ一回ずつバフを掛けていく。
そうするとA君のステータスは非常に強化される。
ただし、バフの異能を持つ覚醒者のB君がA君に何度もバフを掛けたとしても、この場合はバフが重ね掛けされているわけではない。
「俺はバフの異能を持つ大勢の覚醒者から、様々なバフの異能をコピーしている。その様々なバフをアンデッド化した長男に重ね掛けしたから、Cランク並みに強化されたんだよ」
「連合軍の兵士、達の中に……魔法型の覚醒者が、いなかったのは……そういう、ことか」
要するに、連合軍の兵士達は覚醒者ではなかったということだと思われる。
あの兵士達は自称天皇によってバフを重ね掛けされたことで強くなっていただけなんだ。
それと、自称天皇が五十メートルほどに巨大化出来たのは、自身にバフを重ね掛けして強化していたからだろう。
未強化状態ならば十メートル以上巨大化出来ないからな。
「ご明察! 連合軍側の覚醒者の数が少なかったから、バフを重ね掛けして兵士の数を増やしたんだよ!」
……強い。明らかに自称天皇は強い。自分の異能を上手に使いこなしていやがる。
しかし、まだまだ腑に落ちない点は多い。
「そんなに、強いなら……何で、蝦夷汗国に協力を、要請した、んだ?」
……ヤバいな。喋れば喋るほど胸の傷が痛くなっていく。フラガラッハの姿をした自称天皇がまだ胸に刺さったままだし、どうにかして抜かないとな。
「…………蝦夷汗国に協力を要請した時の俺は、今ほど強くはなかった。俺がここまで強くなったのは、蝦夷汗国のモンゴル人と会ってからだ」
どういうことだと首を傾げると、自称天皇は忌々しそうにしながらも話してくれた。
「ATフィールドみたいなバリアや飛ぶ斬撃、たくさんのバフの異能は全て蝦夷汗国のモンゴル人達からコピーしたものだ」
あー、理解したぞ。だから自称天皇は忌々しそうにしているのか。
そういえばクロウの『導き手』のスキルによると、イザナミが戦闘に参加すれば確実に負けるらしいが……本当のことだったな。
もしイザナミがこの戦闘に参加していれば、イザナミが持つ強力なスキルを全てコピーされてしまい、自称天皇がますます強くなってしまっただろう。
それに、思い返してみるとATフィールドのようなバリアも飛ぶ斬撃も偽フラガラッハを起点として発動していた。
つまりATフィールドのようなバリアも飛ぶ斬撃も軽装備の男が発動したものではなく、フラガラッハの姿をしていた自称天皇が発動したものということだ。
……点と点が繋がっていく。悔しいが、俺は最初から自称天皇の手のひらの上で踊らされていたみたいだな。
「クックック。蝦夷汗国のことを思い出して機嫌が悪くなったが、ジパング王の愚かさを見ていると気分が良くなるな」
俺が考え事をしていると、自称天皇が俺を見下したように言う。
「どういう……こと、だ?」
俺が怪訝そうな顔をすると、自称天皇は滑稽なものを見ているかのように笑い声を上げた。
「アハハハハ! アーハッハッハ! 愚かだなジパング王!! 俺を笑い死にさせるつもりか? アハハハハ!!」
自称天皇は笑い続ける。
「人の不幸は蜜の味と言うが、ジパング王の不幸は蜜以上に甘美だな!! 今、俺は実に気分が良い!! ガハハハハ!!!」
どういうことかわかんないけど……こいつうぜぇな。
「ジパング王! お前は自分で自分の首を絞めたんだぞ!」
「は?」
「俺がここまで貴様を追いつめることが出来たのは、デカイ烏が持っていた『導き手』のスキルのお陰なんだぜ? 『導き手』が指し示す通りに行動をした結果だ!!」
マジかぁ……。クロウの『導き手』のスキルをコピーされていたってことかよ。合点がいったな。
俺が納得していると、自称天皇がさり気なく呟いた。
「ん? そろそろ『覚醒』の効果が切れそうだな」
俺はその呟きを耳にすると、急いで偽フラガラッハを掴んで自分の胸から引き抜く。その途端、胸の傷から大量の血が流れ出てきた。
俺は跪いて両腕を地面に付けて、そのまま幾度か血を吐き出す。
「ぐうぅ……グハッ!!」
痛い痛い痛い痛い痛い!!!
でももし引き抜かなかったら、『覚醒』の効果が切れた時に俺の胸に刺さったまま自称天皇は人間の姿に戻ることになる。
そうなると俺の胸元には大きな穴が開いてしまう。だから急いで偽フラガラッハを引き抜いたのだ。
「ハハハ! ジパング王は自傷行為が好きなのかな???」
すげぇわざとらしいな……。そう思いながら顔を上げると、人間の姿へと戻った自称天皇が立っていた。
なぜ一度も人間の姿を見たことがないのにそれが自称天皇なのかわかるのかと言うと、彼の左手首が切り落とされて無くなっていたからだ。
自称天皇の左手首は付喪神にランクアップしたフラガラッハによって切り落とされたので、『報復の刃』の効果によって未だに血が止まらずに流れている。
俺は自称天皇の左手首が無くなっているのを見て、ざまぁみやがれと思った。
だが自称天皇の顔を見た瞬間、俺の中で怒りの感情が一気に膨れ上がった。
そこには──
───絶対に忘れてはならない男がいたのだ。
「と、藤堂貴樹ッ──!!」
俺はその男の名を口にした。
「あ? 何でジパング王が俺の本名を知ってるんだ?」
この男は…………芽依を殺して牢屋にぶち込まれたはずの通り魔だ。
クソッ! 通り魔は俺が殺したいから生きていてほしいとは思ったが、まさかこいつが自称ではあるが天皇になっているとは予想外だな!!
そうして芽依のことを思い出して藤堂を睨んでいると……雫のカードが失明するのではないかというほどの眩い光を発したのだった。
「お前、俊也を…………怒らせたな?」




