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77.偽フラガラッハ

 飛ぶ斬撃を躱してから少しして、マヨヒガの屋敷から二体の門兵が出てきた。もちろん六本腕なので強化済みだ。


 マヨヒガの本体が『門兵召喚』のスキルを発動させて、二体の門兵を補充してくれたようだ。


「ア゛ア゛ア゛!!」


 そう叫びながら軽装備の男は偽フラガラッハを何度も振るうが、それはただただ空を切るのみ。


 しかし偽フラガラッハが振るわれるたびに剣身からは斬撃が飛ぶ。その斬撃は門兵元へと向かって飛んでいくが、門兵は斬撃を難なく盾で受け止めた。


 軽装備の男は引き続き斬撃を飛ばしてくるだけで、その場から動く気配はない。そう思っていたら、いきなり軽装備の男が地面を蹴って俺に接近してくる。


 急だったために回避が遅れてしまったが、二体の門兵が俺の前に飛び出して盾を構えてくれた。


「ガア゛!」


 振るわれた偽フラガラッハは門兵の二つの盾に受け止められる。そこへ俺が門兵を飛び越え、真上から落下しながら軽装備の男に向けて『名もなき英雄の剣』を振り下ろした。


 振り下ろされた『名もなき英雄の剣』は偽フラガラッハによって弾かれてしまう。だが息つく間もなく祖父ちゃんが軽装備の男に刀を振るった。


「死ね!」


 祖父ちゃんがそう言いながら振るった刀は展開されたATフィールドっぽいバリアに防がれ、軽装備の男は俺達から距離を取って後退する。


「俊也! 儂があの男に向けて魔法を放つ!」


「魔法!?」


 ということはつまり、祖父ちゃんの異能は魔法放出型なのか?


 だけど戦闘時の動きを見るに、祖父ちゃんは身体強化系統の異能を持っていると思ったんだが……。


 まさか自称天皇と同じで、祖父ちゃんも複数の異能持ちということか!?


「祖父ちゃんはどう見ても身体強化系の異能持ちだろ!!」


「それは半分正解で、半分不正解だ!」


 祖父ちゃんは軽く説明をしてくれた。それによると、祖父ちゃんの異能は自身の体内にあるエネルギーを自在に操るというものらしい。


 生物というものは食事をすることで体外からエネルギーを摂取している。もちろん人間もそうであり、食べ物から取り入れられたエネルギーは体内に貯蔵されているのだ。


 祖父ちゃんいわく、その貯蔵されたエネルギーを操って自身の身体能力を強化をすることも可能だが、エネルギーを体外に放出することで攻撃をすることも出来るんだとさ。


 要するに祖父ちゃんの異能は身体強化とエネルギー放出の二つが可能なため、半分は正解だが半分は不正解だと言ったんだ。


 祖父ちゃんの異能すげぇ……。めっちゃ万能じゃねぇか。


 祖父ちゃんはもうかなりの歳なのに戦闘を行うことが可能なのも、エネルギーを自在に操るという異能のお陰のようだ。


「だが体外にエネルギーを放出するには時間が掛かる。故に俊也は儂がエネルギーを放出するまでの時間を稼いでくれ」


「わかった!」


 俺は祖父ちゃんに返事をしてすぐに軽装備の男の元へと駆け出していった。




◇ ◆ ◇




 俊也が軽装備の男に向かっていく光景を見ながら、儂は体内にあるエネルギーを操ることに集中する。


 いまいち状況を理解出来ていないが、大きな三本足の烏によると、あの軽装備の男は俊也の大切な人を殺したようだ。


 俊也は中学三年生の時にも、大切な人である芽依ちゃんを失っている。


 俊也は芽依ちゃんを刺した通り魔を自らの手で殺したいと言って儂に古武術を習いたいと頼んできたが、あの時の儂は綺麗事を言って断ってしまった。


 今でも断ったことを後悔している。儂が断ったせいで、家族の仲が悪くなった。だから今度こそは後悔しないように、俊也に協力をする。


 そのためならば儂は、()()()()()()()()()()()()()()()


 儂の異能は俊也に説明した通り、自身の体内にあるエネルギーを自在に操ることが出来るというものだ。だが、あえて説明していなかったことがあるんだ。


 それは、体内にあるエネルギーを体内に放出し過ぎると、最悪の場合は死に至るということ。


 そもそも生物が食事をしてエネルギーを取り入れるのは生きていくために必要なことであり、そのエネルギーが生命活動を維持している。


 そんなエネルギーを体外へと放出すれば、生命活動の維持に必要なエネルギーが体内から消え去るのだ。そうなると当然、儂は死ぬ。


 まあ実際にやったことがないので死ぬかはわからないが、理論上は100%の確率で死ぬことだろう。


 死なない程度に体内にエネルギーを残すくらいの調整は可能ではあるがそれでは威力が足りないかもしれない。


 ……儂はもう後悔したくないんだ。ならば、選択肢は一つしかないよな?


 儂は手のひらを軽装備の男に向ける。そして体内にある全てのエネルギーを手のひらの一点に集め、そのエネルギーを一気に放出した。


「はあああぁぁぁぁーーーっ!!」


 手のひらから放出されたエネルギーは一直線に進んでいく。そのことに気付いた軽装備の男は、剣の先からバリアのようなものを展開した。


 だがあの男がバリアを展開することは、デカイ烏から聞いていたので対処は簡単だ。


 儂は放出されたエネルギーを操って軌道を修正し、バリアを避けさせる。


「ア゛ア゛!?」


 そうして儂が放出したエネルギーは軽装備の男に直撃し、(ちり)すら残さず死体は完全に消滅した。


「勝った、か……」


 儂はそう呟きながら地面に倒れる。


 エネルギーを体外に放出し過ぎたか。苦しまずに死にたかったが……無理そうだな。


 そこで儂は意識を失った。




◇ ◆ ◇




「クロウ!」


 俺が名前を呼ぶと、彼はそれだけで俺の考えを理解してうなずいた。


「相わかった!」


 クロウが軽装備の男の背後に回り込む。そして俺が軽装備の男の前方に立った。挟み撃ちである。


 軽装備の男の焦点がまったく合わないので、『威圧』を発動することはつい先ほど諦めることにしたのだ。


「ア゛ア゛ア゛ッ!」


 と叫んで軽装備の男は偽フラガラッハを俺に向かって振るうが、アンデッドと化した馬がその身を犠牲にして偽フラガラッハを受け止めた。


 この馬も先ほど俺の盾になってくれた狼と同様に、雫が使役していたアンデッドの一体だ。


 雫の使役するアンデッドには盾役が最適だな。


 そんなことを考えていると、俺の背後から軽装備の男に向かって魔法のようなものが放たれた。


 振り返ってみると祖父ちゃんの手のひらから魔法のようなものが放たれている。あの魔法のようなものこそが、祖父ちゃんの言っていたエネルギーか。


 祖父ちゃんの手のひらから放出されたエネルギーを防ぐように偽フラガラッハの剣先からATフィールドが展開されたが、俺の神炎と同じようにエネルギーはATフィールドを避けた。


 そしてエネルギーは軽装備の男に見事ヒットし、その存在をこの世から消し去ったのだった。


「やった!」


 俺はガッツポーズをする。


 見ていたかカヤ! フラガラッハ! 仇を討ったぞ!


 だが次に雫のカードを取り出すと、俺は一転して肩を落とした。


「駄目か……」


 クロウも近づいてきて雫のカードを覗き見て、残念そうに呟く。


「上手くいかないものだのぅ」


「だな」


 雫のカードを見てみるが、ネームドへ進化していなかった。


 クロウは肩を落として意気消沈をしている。俺も気を落としたが、何で今になって軽装備の男をあっさりと倒すことが出来たのかと不思議に思った。


 しかし祖父ちゃんが突然地面に倒れたことにより、俺は思考を中断せざるを得なくなった。


 驚いて駆け寄ると、祖父ちゃんはミイラのように干からびて水気が消え失せているではないか。それに意識もないな。


「は? 何で!?」


 俺は困惑しつつも急いで祖父ちゃんにポーションを掛けるが、回復した様子はまったくない。


「祖父ちゃん!! 祖父ちゃん!?」


「焦るなマスター! マスターの祖父はエネルギーを放出すると言っていた。ということは、エネルギーを放出し過ぎたためにミイラみたいになっているということだと我は考えておる!」


 そういうことか!


 エネルギーが足りないからミイラになっているのなら、『回復のポーション』を掛けても回復するわけないな。


 エネルギーが足りないなら、Fランクモンスターの魔石を消費して作った『体力回復のポーション』を使ってみよう。


 俺は収納カードから『体力回復のポーション』を取り出して、意識のない祖父ちゃんに無理矢理飲ませた。


 するとすぐに効果が現れる。ミイラみたいだった祖父ちゃんの見た目が元に戻ったんだ。けれど相変わらず意識はないままなので少し心配だけど、息はしているから死ぬなんてことはないだろう。


「良かったぁ。雫に続いて祖父ちゃんにまで死なれたら……」


 と安堵して、ホッと胸を撫で下ろそうとしたのだが──































 ───()()()()()()()()()()()()()ため、撫で下ろすことが出来なかった。


「グハッ!」


 俺は血を吐いた。


「マスター!?」


 何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で!!


 何でだよ!? 軽装備の男は倒したはずだろ!?




「──ハハハハハ! アーハッハッハ! これで!! これで俺の勝ちだっ!!!」


 高笑いする声が聞こえた。だがそれは軽装備の男の声とは明らかに違っていたし、その声は俺の胸に深々と突き刺さっている剣から発せられているように感じられる。


「おっと、そこのデカイ烏ども! こっちに近づくんじゃねぇ。もしこっちに近づいたら、こいつの命がどうなるか……わかってるな?」


 …………やっぱりだ。やっぱり、この声は剣から発せられている。


「お、お前は……何者だ?」


 俺が胸元に刺さった剣を見ながら言う。


 よく見ると、胸元に刺さった剣は偽フラガラッハだった。つまり偽フラガラッハもフラガラッハと同じで、意思を持っていたということか!


「俺が何者か、だって? ならば聞いて驚け! 俺の名前は()()! ()()()()()()()()だ!!」




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