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74.希望

 その後しばらく俺は泣き続け、居間では俺の泣き声だけが木霊(こだま)していた。


 雫の亡骸にしがみつき、死んでいるとは思えない彼女の綺麗な顔を見ながら問いかける。


「生きてるんだよな!? 目を覚ましてくれよ!!」


 それを何度も繰り返していると、誰かが居間に足を踏み入れてきた。


「目を覚ますのは童の方じゃ」


 振り返ると、そこには仁王立ちをして俺を見下ろすイザナミの姿があったのだ。


「童よ、目を覚ますのじゃ。そこな小娘はすでに死んでいるのじゃぞ」


 俺は雫の亡骸を抱きかかえながら顔を上げ、イザナミを睨みつけた。


「雫は死んでねぇ」


「……人間はこうも愚かな生き物なのじゃな。小娘が死んでいることなぞ一目瞭然じゃ」


「雫は生きてる!」


 そう俺は断言した。するとそれに反応するかのように、ピクリと雫の指が動いたのだ!


「し、雫!」


 やっぱり雫は死んでなどいなかった。生きていたんだ。と俺は喜び、嬉し涙を流しながら雫を抱き起こした。


「ああ良かった! 生きていたんだな、雫!」


 笑顔の俺とは対照的に、イザナミは険しい顔で雫を見つめている。


「童! その娘から離れるのじゃ!」


 イザナミは俺の肩に手を置き、俺を雫から引き離そうとした。


「邪魔するなイザナミ!」


「離れるのじゃ! その娘は──」































「───生ける屍じゃ!」


 イザナミがそう言い終えるよりも前に、雫は俺に襲い掛かってくる!


「え? 雫? う、嘘……だよな?」


「嘘じゃないのじゃ! 小娘はDランクの知性なきアンデッドと化したのじゃ! 殺すしかあるまい!」


「ふざけんな! 雫は殺させねぇよ!」


 だがこの雫の様子を見れば、彼女が知性なきアンデッドと化したことは嫌でも理解出来てしまう。


 それでも、雫は生きていると……そう信じたい。


「ガア゛ア゛ア゛ア゛!!」


 雫は尚も叫びながら暴れている。


「目を覚ませ雫!」


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」


 俺が何度呼びかけても、彼女から返事が返ってくることはなかった。


「覚悟を決めるのじゃ、童!」


 …………イザナミの言う通りだ。目を逸らさずに現実を受け入れなくてはならない。


 雫はもう……死んでいるんだ。


 腹をくくった俺は『名もなき英雄の剣』を手に取り、泣き叫びながらも雫の首を刎ねた。


 アンデッド化した雫の生首が居間の床を転がり、やがて胴体とともに生首は煙のようにフッと消え去る。


「死体が……消えた?」


 まるでモンスターを倒した時のように、雫の死体は消え去った。


 もしかしたら……そう思って辺りを見回すと、畳の上には一枚のカードが落ちていたのだ。


 俺ははやる気持ちを抑えて、落ちているカードを拾った。そしてそのカードに目を通してみるが──




「そう上手くはいかないか」


 と言って、肩を落とす結果となる。


 確かに拾ったカードは、アンデッド化した雫のものだった。だがランクはDと表示されている。つまり喋ることが出来ないということだ。


 しかし、試しに血を垂らして召喚してみることにした。


「ア゛ア゛ア゛……」


「やっぱり、か」


 召喚した雫には言語を操るほどの知能が備わっていなかった。


 こんな結果になるなら、最初から期待させるんじゃねぇよ。


 そう思いながら俺は雫をカードに送還し、また泣き崩れた。


 だがそこで、イザナミがこう言ったのだ。


「小娘を救う方法がある」


 その言葉を聞いた俺は泣きながらも顔を上げ、(わら)にもすがる思いでイザナミを見る。


「本当なのじゃ。小娘をフラガラッハと同じようにネームドモンスターにしてしまえばいいのじゃよ」


「! そうか、なるほど!」


 フラガラッハも元々はDランクモンスターだったが、ネームドモンスターへと進化したため喋れる知性を得たのだ。


 グリフィスもエルダー種になってフラガラッハと同様にCランクにランクアップするスキルを得たが、フラガラッハとは違って喋れるようにはならなかった。


 だから、エルダー種ではなくネームドへと進化させなくてはならない。


 雫をネームドモンスターへと進化させることが出来れば……。


「だけど、ネームドモンスターにどうやって進化させればいいんだよ?」


「ネームドモンスターになるには、神話に登場する者達の名前を名乗ることを上位存在に認めてもらわないといけないのじゃ。そして上位存在に認めてもらうには''確固たる決意''が必要じゃ」


「確固たる決意?」


「そうじゃ。例えば『この人を助けたい』といったような確固たる決意をした場合、上位存在によって名前を名乗ることを認められる」


 ……思い出してみると、フラガラッハがネームドへと進化を遂げたのは俺がクロウにやられそうになった時だったな。


 ということはあの時、フラガラッハは俺を助けたいと強く決意したということなのか?


「確固たる決意さえすれば、小娘はネームドへと至ることが出来るはずじゃ」


「確固たる決意……」


 イザナミのお陰で雫を生き返らせる方法はわかったが……どうやって雫に確固たる決意をさせればいいんだ!?


「……まだ童が理解していないようだから、もう一つ教えてやるのじゃ。戦闘時にネームドへと進化するモンスターか多いらしいようじゃぞ」


「!」


 確かにフラガラッハも戦闘時にネームドへと進化した。ならば雫と一緒に軽装備の男と戦えば、雫がネームドへと進化することが出来るかもしれない!


「男らしい顔付きになったようじゃな」


 イザナミは俺を見ながらニヤリと笑みを浮かべた。


「妾も戦闘に協力してやるのじゃ」


「やっと戦闘に協力する気になったか」


「勘違いするでない。戦闘に協力するのはこれっきりなのじゃ」


「それでもいい。イザナミが協力してくれたら勝てるからな!」


 だが──



「イザナミは戦闘に参加すべきではない」



 ───そう言いながらクロウが居間に入ってきた。


「どういうことだ、クロウ?」


 俺がクロウを睨みながら尋ねる。


「『導き手』のスキルが道を指し示してくれたのだ。それによると、イザナミが戦闘に参加すれば確実に負けるそうだ。その理由はわからぬがな」


 クロウが持つ『導き手』のスキル。胡散(うさん)臭いスキルだが……そのスキルによってクロウが俺の前に現れたのも事実だ。


 果たして『導き手』のスキルが指し示した道を信じるべきか否か。


「マスター、我を信じよ」


 クロウは俺の目を見ながら言った。


「……わかった。クロウを信じる」


 俺がうなずくと、クロウはイザナミに視線を移す。


「ということで、イザナミよ。お主は居間で待機しておれ」


「ふんっ! 仕方ないから妾は居間で待機するのじゃ!」


 戦う気満々だったイザナミは、出鼻(でばな)(くじ)かれたので不満げだった。


 一方でイザナミの出鼻を挫いたクロウは、俺に顔を向けて申し訳なさそうな顔をする。


「少し話は聞いておった。……あの子が死んだようだのぅ」


「……あぁ。だけどネームドに進化させることが出来れば雫は元に戻るんだ!」


「ポジティブだな。それてこそマスターだ」


「当たり前だ! フラガラッハとカヤだって生き返らせてやるよ!!」


 俺は自分を(ふる)い立たせるようにそう言い、拳を握った。




 というわけで、ぶっちゃけると第二章は戦争編に見せかけた先輩強化編です。

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