表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/135

72.神の炎



「残念! 死んでないよ~」


 地中から飛び出してきた軽装備の男は、そう言いながら偽フラガラッハを俺目掛けて振り下ろした。


 テメェ、生きてやがったか! だが俺はそう簡単には死なねぇぞ!


 俺はフラガラッハの柄を掴み、素早く抜剣をして軽装備の男の剣戟を弾く。そして返す刀で首を狩ろうとして失敗するが、軽装備の男の体勢を崩すことには成功した。


 そこへ、腕だけを巨大化させた神谷がパンチを叩き込む。


「効かねぇよ!」


 軽装備の男は腕をクロスさせて神谷のパンチをガードした。


 だが続いて、先輩が使役するアンデッドの軍勢が軽装備の男の元へと殺到(さっとう)する。


 先輩の使役するアンデッドは全てDランクだが、それでも大勢のDランクモンスターに囲まれれば少しの間は身動きが出来なくなるはずだ。


 その隙を狙い、俺は軽装備の男に向けて『劣雷槍』の『擬神罰』を発動した。


「『神よ、裁きの雷を下し給え』!」


 空は急激に曇っていき、何本もの雷がアンデッド達を巻き込みながら軽装備の男へと落ちていく。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」


 軽装備の男はアンデッド達に囲まれたことで動きを封じられているので、面白いように雷が当たる。


 だが悲鳴を上げていることからわかるように、軽装備の男は雷に何度も打たれているはずなのに感電死もしていないし意識も失っていない。


 やはりこの程度では死なないか。


 じゃあ感電して痺れている間に追撃を仕掛けよう!


「カヤも『地魔法』で追撃しろ!」


「わかった!」


 カヤは呪文を唱え始める。それを傍目(はため)に、俺はグリモワールを取り出した。


 グリモワールは炎の魔導書のネームドアイテムだ。そして紙幣を消費することで炎の魔法を放てるが、魔法の威力は消費する紙幣の価値に比例している。


 つまり消費する紙幣の価値が高ければ高いほど、魔法の威力が上昇するのだ。


 例えば一億円分の紙幣を消費すると、黒い炎の魔法が放たれる。この黒炎は、対象人物の邪念を燃やし尽くして消し去るという特性を持っている。


 しかし邪念というものは心や脳で常に生み出されているのかは知らんが、残念なことに実験の結果対象の邪念を燃やし尽くしてもまたすぐに邪念が元に戻ってしまうことがわかった。


 一億円分もの紙幣を消費して発動出来るようになる黒炎はこの程度の効果しか持っていないのかと落胆したが、クロウによると黒炎が持つこの特性はかなりすごいものらしい。


 邪念を燃やすということは、人の脳内に直接的に干渉しているということだ。で、人の意識に干渉する能力というのは非常に高度なものだとクロウに言われた。


 俺の異能は使役したモンスターの洗脳(プログラム)を解除出来るが、これも意識に干渉しているので非常に高度な能力なんだってさ。


 さすが俺の異能だな(ドヤァ)。


 つーか、全てのモンスターに人間を殺すように洗脳(プログラム)している上位存在ってやっぱりすごいんだな定期。


 話を戻そう。


 一億円分の紙幣を消費したら黒い炎の魔法が放たれるが、もし百兆円分の紙幣を消費したらどのような炎の魔法が放たれるのか?


 その答えは、俺の目の前にある。


 俺の目前には、神々しく辺りを照らす山吹(やまぶき)色の火の玉が浮いていたのだ。


 その神々しい炎の真下にあるアスファルトはドロドロに溶けている。以前と同様に俺は熱さを感じることはないが、それほどまでにその炎は周囲に熱気を放っていた。


 イザナミいわく、この炎は神性を帯びているようだ。要するにこれは、神炎というものらしい。


 神の炎。そう聞くと、天界から神の火を盗み出して人類に与えたプロメテウスを思い出す。


 プロメテウスはティターン神族の男神で、ギリシア神話に登場する。だが、イザナミによるとプロメテウスの盗んだ火とは関係ないとのこと。


 というかそもそも、グリモワールは神話ではなく明治時代の風刺画が元になっている魔導書だ。なのでプロメテウスなどの神話と関係ないのも当たり前である。


 俺はそんな神炎を操り、フラガラッハの剣身に纏わせた。


「熱くないか、フラガラッハ?」


「大丈夫です。相変わらず熱さは感じません」


「そりゃ良かった」


 じゃあさっさと軽装備の男を神炎で燃え上がらせてやろう。


 俺は地面を蹴って接近し、地面に倒れ伏す軽装備の男に向けてフラガラッハを振り上げる。


「死にさらせええぇぇぇ!!」


 だがフラガラッハを振り下ろす前に軽装備の男は意識を取り戻してしまい、軽装備の男は瞬時に回避した。


 逃げられると思うなよ!


 俺はフラガラッハが纏っている神炎を操り、軽装備の男に向かって神炎による火球を放ったのだ。


「くそっ!」


 軽装備の男は焦りながらも、偽フラガラッハを神炎の火球に向けた。すると偽フラガラッハの剣先からATフィールドのようなバリアが展開される。


 お前は使徒かなんかか!?


 だが、これで軽装備の男が自称天皇であることがほぼ間違いないことがわかった。空を飛んだりATフィールドを展開したりと、複数の異能を発動しているわけだし。


 そんなことさておき。ATフィールドみたいなバリアが見た目的に強固っぽいので、火球の軌道を修正してバリアを避けさせる。


「なっ!?」


 軽装備の男の口からは驚愕したような声が漏れる。まさか神炎の火球の軌道を修正出来るとは夢にも思わなかったようだな。


 火球は瞬く間に軽装備の男へと直撃し、火達磨(ひだるま)と化した。


 さすがに神炎に耐えることはないだろう。というかもし神炎を耐えられるようならば、俺達に勝ち目はないんじゃないか?


 というのも、神炎は黒炎とは違って攻撃能力がある特性を持つ。その特性とは、生物が焼け死ぬまで消えることなく燃え続けるというものだ。


 だから軽装備の男はこれで焼け死ぬことだろう。俺達の勝ちだ。


 そう安堵していたのだが──




 ───なんと、軽装備の男はまだ生きて動いているというのに神炎が突如として消え去ったのだった。


「は?」


 俺は驚いて目を見開いた。


 神炎が消えた……だと? 神炎は対象が焼け死ぬまで消えることがないんだぞ!? どういうことだ!?


 軽装備の男の体は炭と化して真っ黒くなっているが、それでも生きていて動いている。


 ……理解が追いつかないな。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」


 どうやって神炎を消したのか頭を悩ませていると、軽装備の男は叫びながら俺に向かって攻撃を仕掛けてくる。


「チッ!」


 俺は舌打ちをしながら攻撃を避けて距離を取り、頭を働かせる。そうして結論を下した。


 火が駄目なら水や土だ!


「カヤは『地魔法』であの男をなんとかしてくれ! 河童は『墜ちし水神の意地』を発動させろ!」


 カヤと河童に指示を出す。


 河童は天竜川に潜らせて待機させているので俺の指示が聞こえるか不安だったが、どうやら指示が聞こえたようだ。


 いつの間にか俺の隣りには無地の浴衣を着ているイケメンが立っていた。この憎たらしいくらい整った顔の男こそが、本来の姿を取り戻した河童だ。


「この姿に戻ったのは久しぶりだな。して、私は何をすれば良い?」


「あの男を攻撃しろ!」


「心得た」


 河童が天竜川に手のひらを向けると、その途端に天竜川から何体もの水龍が頭を覗かせた。


「やれ」


 水龍達は河童の指示に従って軽装備の男に顔を向けて口を開けると、口から勢いよく水流が噴射される。


 ガーゴイルの『水の息吹』と似ているが、一つだけ違うところがある。それは威力だ。


 ガーゴイルの『水の息吹』とは比べられないほどの勢いの水流により、軽装備の男は遠くまで吹っ飛ばされる。


 すると空中に幾百もの大きな岩が現れ、止めとばかりに倒れている軽装備の男に大岩が次々と落下していく。これはカヤの『地魔法』による攻撃だな。


 これで死んでくれればいいんだが……無理だったようだ。


 軽装備の男は何事もなかったかのように起き上がり、偽フラガラッハを俺に向けて投擲してくる。


 ……早い!


 偽フラガラッハはものすごいスピードで俺の方に飛んでくる。


 俺は咄嗟にフラガラッハを構えて、投擲された偽フラガラッハを弾く。否、弾こうとした。


 だが偽フラガラッハを弾くことが出来ず──































 ───フラガラッハは折れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ