70.強敵
人生で一度は言ってみたかったセリフを口に出来たことで満足しながらも、次々と連合軍の兵士達の首を素早く狩っていく。
フラガラッハを振り回すだけでなく、帯電状態の『劣雷槍』を振り回したり、先ほど中年男にやったみたいにグリモワールによって生み出した炎の魔法を手当たり次第に放っていった。
「ハーハッハッハッ!! 虐殺楽ちぃ!!」
そう叫ぶ俺は、端から見たらヤバい奴である。ただしこれは連合軍の兵士達の戦意を喪失させるための作戦であって、本当に虐殺を楽しんでいるわけではない。
…………本当だからね? 嘘じゃないからね? 虐殺なんて楽しいと思ったことないからね?
それはさておき。戦意喪失した兵士ってのは狩りやすいね。簡単に殺せるよ。そのせいで作業ゲーみたいになって、虐殺が苦痛に感じるけども。
というように無心で兵士達を殺していった。降参すると言った奴もいたが、騎兵以外は容赦なく殺していく。
騎兵以外はジパング王国にはあまり必要じゃないしね。それにもし捕虜をとっても、その捕虜の分の食料が減るんだよ。
ジパング王国では食料が大量にあるが、捕虜のために食料を減らすよりはジパング王国の兵士達のために食料を減らした方が効率的だ。
まあ強い異能を持っている奴は騎兵じゃなくても神谷みたいに仲間にするが、連合軍の兵士達はかなり弱い。
と言っても、連合軍の兵士達の質は高い方だろう。Dランク下位くらいのモンスターなら単独で倒せるほどの覚醒者がかなりいる。
だが、なぜか連合軍の兵士達の中に魔法型の異能を持った覚醒者がいない。
さっき俺が首を狩った将校クラスと思われる中年男も、自己強化のバフ系異能を持つ覚醒者であって魔法型の異能ではなかった。
異能というのは基本的に、物理型より魔法型の方が強い。なのに未だに魔法型の異能を持つ覚醒者を見ていない。
というか物理型の、しかも自己強化系の異能持ちしか見ていない。それが不自然だ。
理由でもあるのか? う~ん、謎だ。考えすぎて脳がパンクしそう。
まあ蝦夷汗国と大日本皇国はどちらも潰す予定だから、いずれその理由も判明するはずだ。だから気にする必要はないかな。
という結論を出しつつも連合軍の兵士達を薙ぎ倒していっていたら、急にフラガラッハの切れ味が落ちた。
「マスター、効果が切れました」
「ついに切れちまったか」
『覚醒』のスキルを発動して付喪神にランクアップしている状態だと、フラガラッハの攻撃力と防御力は倍になっている。
その効果が切れたら攻撃力が急に半減したことになり、そのため切れ味が落ちたのである。
半減したと言っても、それでもフラガラッハの攻撃力は一万ほどあるけどね。さすがネームド。
「さて、と。効果が切れたし、どうしようかね……」
「もう少し連合軍の数を削っておきましょう!」
「フラガラッハはやる気だな」
「ええ! 最近のマスターは政務に忙しくて戦闘での私の活躍の機会がありませんでした。なので今の内に活躍しておこうと思いまして!」
張り切ってんなぁ。
そんな感じで俺が驚いていると、フラガラッハが『飛行』スキルを使って急に動き出したのだ。
何事かと再び驚く俺をよそに、何者かによって俺へと振るわれた剣戟をフラガラッハは自身の剣身で受け止めるのだった。
「は?」
急展開にまたまた驚く俺。だが襲われたことを瞬時に理解し、俺に剣を振るった何者かから距離を取って後退する。
「チッ! ちょうど狙い目だったのに」
俺に剣を振るったのは、戦場には似つかわしくない軽装備の男だ。
ちょうど狙い目だとこの男は言ったが、もしかしてフラガラッハの『覚醒』スキルの効果が切れたことがバレていたのか?
会話を聞かれた? いや……もし聞かれていても『覚醒』スキルの存在を知らないと狙い目だとは理解出来ないはず。
じゃあ、こいつは『覚醒』スキルの存在を知っている、ということか? なぜだ! なぜ知っている!
だが……それよりもまず尋ねるべきことがある。
「その剣はなんだ?」
俺は軽装備の男を睨みながら問う。
「これは剣だ」
「剣だということはわかっている! なんでその剣は──」
───フラガラッハと同じ見た目なんだ?
と最後まで言い切る前に、軽装備の男はフラガラッハと同じ見た目の剣を俺に向けて振るう。
俺は振るわれた剣をフラガラッハで弾き、そして目を見開いて驚いた。
「は?」
間抜けな声が俺の口から漏れる。
驚くべきことに、軽装備の男が持っている剣の方が今のフラガラッハより強い。
そう、その強さはまるで……
「───まるで、付喪神にランクアップしたフラガラッハと同じようだ。とでも言いたいのか?」
軽装備の男は、俺の気持ちを代弁するかのように口にした。
「な、なぜそれを……!」
「顔にそう書いてあるよ。わかりやすいな」
何がどうなっているんだ!? 意味不明だ!
だが、一つだけハッキリとしていることがある。
強敵が現れたということだけは理解した。
「お前さえいなければ、この戦争は連合軍側の圧勝だ。ってなわけで、お前には死んでもらう」
「そういうことかっ!」
こいつの目的は俺を殺すこと。ならば逃げるのが最善だ!
ということで俺は軽装備の男に背を向けて逃げ出した。
しかし──
「───逃げてんじゃねぇよ!!」
軽装備の男はそう言いながら、フラガラッハと瓜二つの剣──これからは偽フラガラッハと呼ぶことにする──を俺に向かって投擲する。
投擲されたその剣は俺の脇腹に突き刺さり、あまりの痛さに地面に倒れた。
「ぐはっ!!」
痛い痛い痛い痛いっ! クソッタレが!!
俺は脇腹に突き刺さった剣を無理矢理引き抜く。すると勢いよく血が噴水のように噴き出し、俺は慌てて収納カードからポーションを取り出した。
もちろんこれはCランクモンスターの魔石を消費して生み出したものだ。
そのポーションを脇腹にある傷口に垂らすが、一向に治る気配がない。
「なんでだよっ!」
仕方ないので俺は脇腹の傷口を手で押さえながら立ち上がると、軽装備の男は偽フラガラッハを肩に担ぎながら口元を歪めていた。
「痛そうだな?」
「痛ぇよ」
俺は舌打ちする。
脇腹の傷口から血が止めどなく流れていく。その傷は、ポーションを掛けても治ることがない。
なぜポーションを掛けても治らないのか。この現象には心当たりがある。
付喪神にランクアップしたフラガラッハが持つ『報復の刃』のスキルを使用した時に起こる現象と同じなのだ。
……なぜ軽装備の男が持つ剣は、見た目だけではなく持っているスキルすら同じなんだ!
しかも『報復の刃』はネームドスキルだぞ!? 同じ効果を持つネームドスキルなんて世界に二つとないんだぞ!?
ぐっ……脇腹が痛い。血が流れすぎて意識も朦朧とするし、視界も霞んでいる。
「ふぅ……ふぅ……」
息も荒くなってきた。止血出来ないから、失血性の貧血だろう。
俺は立っていられず、地面に片膝をついた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「お? 何だ? もう終わりか?」
喋ることが出来ないので、俺は軽装備の男を目一杯睨んだ。
「その目は何だ!」
俺に睨まれたことが気に入らなかったのか、軽装備の男は眉をひそめながら俺を蹴り飛ばした。
意識が朦朧としているので無抵抗な俺は、受け身を取れずにゴロゴロと地面を転がっていく。
……痛い。
「『覚醒』の効果が切れた時を狙ったのは正解だったな」
と軽装備の男は呟いた。
……やっぱり『覚醒』のネームドスキルのことを知っていたのか! 何で知っているんだよ!
「城を破壊するために『覚醒』を発動させたのがお前の運の尽きだったな」
どういうことだ? 運の尽き?
もしかして……一夜城を建てたのは、俺に『覚醒』のスキルを早い段階で発動させるためなのか?
早い段階で『覚醒』を発動させれば、当然のことだが効果が切れる時間も早まる。効果が切れれば俺が弱体化するのは自明の理だ。
そうして弱体化した隙を突いて俺を殺そうとしたのだろう。
ちくしょう! 俺はずっと手のひらの上で踊らされていたってのかよ!