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69.今のはメラゾーマではない、メラだ

 俺は巨人の男にどうのように対処しようかと頭を悩ませつつ、天竜川の河口から戦場へと帰ってきた。するとそこでは、驚きの光景が広がっていたのだ。


「うおぉ……マジか…………」


 と俺は思わず呟き、腰に手を当てて天を(あお)ぐ。


 なんと巨人化した神谷率いる兵士達が、天竜川を越えて連合軍に逆襲をしていたのだ。


 何で防衛側であるはずの王国陸軍が反撃に転じているんだよ……。


 まあ誰の仕業かは考えるまでもない。巨人化して戦っている神谷だろう。あいつは馬鹿だから、攻撃こそ最大の防御と思っていそうだし。


 神谷には軍の指揮権を与えていたから、その指揮権を行使して反撃に転じたんだろう。


 っにしても、やっぱりエルダートレントに祝福されてから巨人化した神谷は強いな。今も天竜川の向こう岸で、連合軍の兵士達を次々と踏み潰している。


 圧倒的じゃないか、我が軍は。


 神谷の異能は広域殲滅に向いているな。巨人化したまま横になってゴロゴロと転がったら、一瞬にして大地が平らになりそう。これが『地鳴らし』か!


 ……冗談だよ?


 しかし、困ったな。フラガラッハの『覚醒』スキルの効果が切れる前に戦場で暴れ回ろうと考えていたんだが、このまま俺が戦いに参加したら味方を巻き込んでしまう。


「どうしよう」


 俺がそう口にすると、頭上から声が聞こえてきた。


「俊也の心配は無用だぞ!」


 先輩の声だ。


 顔を上に向けると、クロウの背中に跨がって俺に笑顔で手を振る先輩が見えた。


「グリフィス。少し上昇してクロウと横並びになれ」


「グルゥ」


 グリフィスは俺の指示に従って上昇し、クロウの横でホバリングをする。


「で、先輩。俺の心配は無用ってどういうことですか?」


「俊也の心配というのは、もし戦場で暴れ回ろうものなら味方を巻き込んでしまうというものだろ?」


「まあ、そうですね」


 俺は同意をしてうなずいた。


「安心してくれ。俊也が天竜川の向こう岸で暴れ回っても味方を巻き込むことはない」


「??」


 先輩の言っていることが理解出来ず、俺は首をひねる。


「実はな、天竜川の向こう岸で連合軍と戦っているのは、私がアンデッド化させた連合軍の兵士達だ。だから俊也が暴れ回っても、巻き込んでしまうのは神谷とアンデッド達だけだぞ」


「ああ、なるほど」


 そういうことか。アンデッドならば巻き込んでも問題ないからな。


 目を()らして見てみると、確かに天竜川の向こう岸で暴れている奴らは王国軍の鎧ではなく連合軍の鎧を着用していた。


 ということは先輩は、アンデッド化させた連合軍の兵士達を暴れさせて内輪揉めのような状況を作り出したのか。……発想がえげつない!


「言っておくが、連合軍の兵士達をアンデッド化させて暴れさせようと提案したのはクロウだからな?」


 俺がドン引きしていることを感じ取った先輩は、自分の発想ではないと首を横に振って否定した。


「そうなのか?」


 俺がクロウに是非(ぜひ)を問うと、彼はうなずいた。


「うむ、我の発想だ。神谷は最初、二個大隊を率いて天竜川を渡って連合軍に突撃しようとしていた。だがそれではマスターが暴れ回る際に邪魔になってしまうため、我が代行案を出したのだ」


 二個大隊というと、およそ千人ほどか。神谷は千人の兵士を率いて突撃するつもりだったのかよ。あの馬鹿野郎め。


 これは防衛戦なんだから、王国陸軍が天竜川を越えて戦う必要なんてないんだけど。


「神谷は何で連合軍に攻撃を仕掛けたんだ?」


「あの小僧は『攻撃こそ最大の防御だぜ!』と言っておったぞ」


 俺はため息を漏らしてから、こめかみを指で押さえる。


 ……頭痛が痛い。


 神谷が馬鹿だということは先輩から聞いていたが、ここまで馬鹿だったとは。だからこそ、インフルエンサーとして有名になれたのだろう。


「もうそろそろフラガラッハの『覚醒』の効果が切れそうだし、マスターもあの戦いに参加して暴れ回ったらどうだ?」


「俺はクロウに言われるまでもなく戦場で暴れ回るつもりだよ」


 フラガラッハの『覚醒』の効果が切れる前に、連合軍の兵士の数を出来る限り減らしておきたいからな。


「じゃあ行ってきますね、先輩!」


「ああ! ちゃんと生きて帰ってこいよ?」


「そのつもりです!」


 先輩に返事をしてから、天竜川の向こう岸に飛んでいくようにグリフィスに指示する。


 グリフィスは元気よく鳴き声を上げて天竜川の上空を通過した。


 そして空から戦場を見下ろすと、巨人化した神谷が逃げ(まど)う連合軍の兵士達を次々と踏み殺していく光景が目に入る。


「ゴオオオォォォォ!!」


 神谷は兵士達を踏み潰すたびに耳をつんざくような雄叫びを発していた。


 やっぱりすげぇ。神谷は馬鹿だけど、異能は一級品なんだよな。


 といっても、連合軍側にも神谷と似たような効果の異能を持っている覚醒者とつい先ほど戦ったばかりだけどね。


 今はそんなの関係ねぇ。それよりも──




「───虐殺だあああぁぁぁぁ!!」


 俺はそう叫びながらグリフィスをカードに送還して飛び降り、戦場のど真ん中に着地後すぐに鞘から抜き放ったフラガラッハを振り回す。


「ヒャッハアアアァァァァーーーー!!」


 俺は世紀末のモヒカンみたいな奇声を上げながら、近くにいる連合軍の兵士達の首を次から次へと狩っていった。


 俺の奇声に恐れおののき、恐怖で失禁する奴らも続出する。


「首よこせええぇぇぇ!!」


 見ていて面白いからもっと失禁しろ! ハハハハハ! 首よこせえええええぇぇぇぇぇぇ!!!


「マスター、大丈夫ですか?」


「ハハハハハ! 今の俺はハイテンションだっ! 体の具合も良いし大丈夫だああぁぁぁ!!」


 ……自分で大丈夫だと言っているけど、よくよく考えてみると今の俺って頭おかしい奴じゃないか?


 ……。


 …………。


 ……………………。


 …………………………………………。


 俺の頭がおかしいわけないよな、うん。俺は正常だ。


 さて。俺の頭が正常だとわかったところで考え事を中断して、虐殺を再開しようじゃないか!


 ハハハハハハハハハハ!


「ん?」


 手当たり次第に兵士達をフラガラッハで斬っていたのだが、俺の斬撃をあっさりと(かわ)した奴がいたのだ。


 俺の斬撃を躱した兵士をまじまじと見る。纏っている鎧は豪華だ。連合軍の将校クラスだと思われる。顔を見るに中年の日本人であり、性別は男だ。


「若造。あまり調子に乗ってると痛い目を見るぜ?」


 言い方がムカつく。


「老害か。調子に乗ってるようだから、俺が痛い目を見せてやるよ」


「……ぶっ殺す!」


 沸点が低いっ!


 中年男は顔を真っ赤にさせて怒りながら剣を構えて突進してきた。


 俺はその突進をサイドステップで避けて、グリモワールを取り出す。そして紙幣を消費して生み出した炎の魔法を、中年男に向かって放った。


 放たれた炎は中年男の鎧の中に侵入し、生え際が後退した髪の毛に燃え移ったではないか。笑える。


「ぎゃあああぁぁぁぁ!?」


 これは中年男の悲鳴だ。体が燃えているから当然だけど、すごい悲鳴が大きいな。うるせぇなぁ。


 あ、人生で一度は言ってみたかったセリフをここで言おうかな。


「今のはメラゾーマではない、メラだ」


「ぐわあああああぁぁぁぁぁぁ!!」


 こいつ、俺のセリフを聞いてねぇな。まあいいや。うるさくて耳が痛くなるからそろそろ息の根を止めるか。


 俺は中年男の首にフラガラッハを振り下ろした。


 焼いたナイフでバターを切るかのように抵抗なく中年男の首は切断され、勢いよく勢いよく血が噴き出した。


「弱いな」


 手応えがまるでない。将校クラスとはいえ、やはりこの程度か。連合軍側にいる強い奴は、巨人の男と自称天皇くらいじゃないかな?


 というか、巨人の男と自称天皇が同一人物という可能性もある。


 捕まえたモンゴル人の男によると自称天皇は複数の異能を持っているらしい。だから自称天皇の持つ複数の異能の中には、自身を巨大化させるという効果のものがあるのかもしれない。


 でもモンゴル人の男は、自称天皇が巨人化出来るとは言っていなかった。そもそも、巨大化する異能を持つ者が連合軍にいると言っていなかった。


 ……考えれば考えるほどわからなくなるな。よし、思考を放棄することにしよう。

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