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61.それぞれの思惑

 主人公→主人公の祖父→ミラージュ→大日本皇国の自称天皇


 の順番で視点が変わります。

「駄目です! それは認められません!」


「なぜだ! 俊也は分からず屋だな!」


 俺は初めて先輩と口喧嘩をしていた。


「何で私は戦争に参加してはいけないんだ! 私の異能は有用なはずだぞ!」


「先輩の身に何かあったらどうするんですか!」


 ちょうど戦争の準備が終わったところで、蝦夷汗国・大日本皇国連合軍がジパング王国の領土へと侵攻を開始した。


 今は俺のモンスター達やジパング王国陸軍などによって国境付近で食い止められている連合軍だが、国境が突破されるのは時間の問題だ。


 なので大急ぎで軍隊を召集し、戦争についての演説を王城前で行う準備を進めていた。そんな時に、先輩が戦争に参加したいと言い出したのだ。


「私の使役するアンデッド達は戦争で確実に役に立つぞ。それに万が一の時のために、備えもしている」


「しかしですね……」


 先輩が戦争に参加して、もし彼女の身に何かあったら。そればかり考えてしまう。


「俊也は私のことが心配なのかもしれないが、私は俊也のことが心配だ。俊也の方が私より強いことはわかっているが……それでも、俊也が心配なんだ」


 俺はどうすればいいのだろうか。先輩の意思は尊重したいが……。




「───わかりました。先輩がこの戦争に参加することは許可します」


 こういう時の先輩はまったく折れないので、俺が折れるしかなかった。


 だが、戦場では俺から離れないように言っておく。


 戦場では王である俺が連合軍から狙われるのは確実だが、自慢でもなんでもなく俺は強い。なので俺の近くならば先輩が危険な目に遭うことはないはずだ。


 それに加えて、エルダートレントに祝福させたりして先輩にはいろいろ強化を施しておこう。




◇ ◆ ◇




 ジパング王国の王都にある宿屋の一室で腕を組みながら椅子に座っていると、扉がガチャッと開いて俊一が部屋に入ってきた。儂の息子だ。


「あれ、父さんだけか? 瑠璃は?」


 部屋を見回した俊一は、儂に尋ねてきた。


「瑠璃さんならまだ帰ってきていないぞ」


「瑠璃はまだ帰ってきてないのか」


 俊一は頭を掻きながらソファに腰を下ろす。


「どうだった?」


 儂の問いに、俊一は非常に言いにくそうな顔になる。


「王都中の兵が……王城に続々と集まっていたよ」


「そうか」


 なぜ王城に兵が集められているのか。簡単なことだ。ジパング王国が他国との戦争を始めたからだ。正確には、ジパング王国の領土に他国の軍隊が侵攻を開始した。


 俊一が言い(よど)んだのは儂が戦争嫌いだからだ。


 儂は若い頃に戦争を経験した。


 儂が戦場で見たのは次々と仲間が撃ち殺されていく光景と、ヒロポンの入ったチョコレートを食べて神風特攻や自爆攻撃をする帝国軍兵士達の喜びに満ちた表情だ。


 日本軍の兵士達は儂を含めて捕虜となることを恥だと認識していたため、帰還が絶望的な場合は喜んで特攻や自爆を行っていたのだ。


 日本が敗戦した際には、戦場で死ねなかったことを儂は仲間達とともに泣きながら悔いていた。今では捕虜になってでも生き延びたいと思うが、当時はそうではなかったんだ。


 そんな惨状を目の当たりにして、戦争を嫌いにならない方がおかしい。戦場で命を散らした仲間達の死にはどんな意味があったというのか。


「それで俊一は、敵のことについて何かわかったか? わかったことを聞かせてほしいな」


「ああ、敵ってのは蝦夷汗国と大日本皇国のことだろ?」


「そうだ」


 それにしても大日本()国ではなく……大日本()国、か。皮肉な国名だな。


 蝦夷汗国と大日本皇国の連合軍がジパング王国の領土に侵攻したという情報はすぐに入手出来たが、その二つの国の内情などはあまり出回っていない。


 日本国政府を打倒した自称革命軍が興した革命政府を中心としているのが大日本皇国ということが、唯一判明していることだ。


 俊一は胸ポケットから取り出した手帳をめくりながら、儂に視線を向けてくる。


「情報をいろいろと集めてみたが、少ししかわからなかったよ。それでも聞くか?」


「聞くに決まっておる」


 一度うなずいた俊一は、視線を落として手帳を見る。


「蝦夷汗国は北海道のほぼ全域を国土とする国のようだ。どうもこの国は日本人じゃなくてモンゴル人が中心となっている国のようで、主力は騎兵だな」


 遊牧民族であるモンゴル人を中心になっている蝦夷汗国だから、主力が騎兵なのか。騎馬遊牧民族とは厄介な。


 戦争で騎兵というのは非常に強力だ。戦争を経験した儂だからこそ、身をもって知っている。


 もっとも儂が従軍をした頃には、戦争の中心は騎兵から戦車などに切り替わりつつあったが。


「モンゴル人が何で北海道にいるのかは不明だ。まあ、樺太を通って北海道に上陸したと考えられる」


「大日本皇国については?」


「大日本皇国も蝦夷汗国と同じように不明な点が多い。日本国政府を下した自称革命軍が興した国ということと、天皇を僭称する者が政権の中心にいることくらいしか明らかになっていないな」


 ジパング王国の中でも一番人の集まっている場所である王都で情報収集をしても、蝦夷汗国・大日本皇国についての情報は(とぼ)しいな。


「話は変わるが……俊也の居場所はわかったか?」


 儂が俊也のことを尋ねると、パタンと手帳を閉じた俊一は難しい表情になる。


「いや、俊也の情報は蝦夷汗国・大日本皇国の情報より少ない。というか無い」


「となると、俊也はすでに王都を出ている可能性もあるか」


 儂の呟きに反応し、俊一は歯を食いしばった。


 三ヶ月ほど前に、夜中の王都で俊一は俊也を見つけたらしい。最初は見間違えかと儂と瑠璃さんは思ったが、どうやら俊一は俊也と言葉を交わしたとのこと。


 その後俊也は走って逃げていったようで、俊一も無理には追わなかったため、三ヶ月経った今でも俊也の行方はわかっていない。


「くそっ! あの時、俊也を追い掛けていれば」


 俊一は悔しそうに手帳を握り締め、眉間に(しわ)を寄せていた。


「そう悔しがることもないぞ」


「? どういうことだよ、父さん?」


「俊也が女の人と歩いていたということは、過去のことが吹っ切れたのかもしれない」


 儂の言葉にハッとなった俊一は、口元を少し緩める。


「そう……かもな」


 まだ若い頃、俊也には好きな女の子がいた。名前は芽依(めい)と言って、俊也とは相思相愛だった。将来は結婚を誓い合うほどの仲だ。


 けれど()()()()()により、二人の仲は引き裂かれてしまう。


 でも俊也は芽依ちゃんのことを一途に想い続けていたが……女と夜中に歩いていたということは、芽依ちゃんのことが吹っ切れたということだ。


 今まで芽依ちゃんのことが忘れられずに女の人と付き合っていなかった俊也にも、ようやく春が訪れたのかもしれぬ。


「やっと芽依ちゃんのことが吹っ切れたのかな」


 と呟いた俊一は、手帳を胸ポケットに戻してから安堵のため息をついた。


 その時だった。勢いよく扉が開けられ、瑠璃さんが部屋に飛び込んできたのだ。


「た、た、た、大変よ!?」


 瑠璃さんはかなり慌てていて、息も切れていた。直前まで走っていたのだろうか。


「どうしたんだ瑠璃、そんなに慌てて」


 慌てる瑠璃の様子を見て、俊一は驚いて目を丸くしている。


「それが大変なのよ!! 俊也が!」


「なに!? 俊也が!? 俊也を見つけたのか!?」


「ええ、そうよ!!」


 何と! 俊也が見つかったのか!?


「どこだ! 瑠璃!! どこに俊也がいたんだ!?」


 俊一は瑠璃さんの両肩に手を置き、顔を近づけながら問い(ただ)した。


「落ち着きなさい、俊一!」


「さっきは瑠璃の方が慌てていただろーがっ!!」


 どっちもどっち、だな。両者ともに慌てている。


「二人とも落ち着け」


 儂がドスを効かせながら、そう言った。すると二人はハッとなり、途端に冷静さを取り戻す。


「落ち着いたか?」


「ああ、落ち着いたぜ」


「ええ、落ち着いたわよ」


「そいつは良かった。で、瑠璃さんや。どこで俊也を見たんだ?」


 瑠璃さんは深呼吸をしながら儂と俊一を交互に見て、やがてポツリと呟いた。


「俊也は王城の前で……演説をしていたわ」


「「演説??」」


 儂と俊一は一緒になって首を傾げた。




◇ ◆ ◇




「むっ」


「どうしたのだ?」


「マスターがジパング王国の国王であることが、両親達にバレましたっす」


「ついに見つかってしまったのぅ」


 クロウさんの表情が険しくなったっすね。まあ、無理もないっす。マスターは両親達との接触を避けようとしている節があるっすから。


 内藤さんとのデートの時にマスターは自身の父親と遭遇したようで、それからマスターはあまり外には出ようとはしなくなったっす。


 マスターと両親達には、何か溝があるんすかね?


「して、ミラージュよ。どう対応するつもりだ?」


「そうっすねぇ……どう対応すれば良いんすか、これ」


「ふぅむ。マスターの両親達はどのように動くつもりなのだ?」


「どうやらマスターのお祖父(じい)さんがマスターと接触するために義勇兵として戦争に参加して、マスターの両親は王都に待機するようっす。このことをマスターに報告した方が良いんすかね?」


「いや、マスターには報告すべきではない。それと、両親達がマスターに接触しないようにするための妨害もしてはならぬ」


「なぜっすか?」


「マスターは両親達を避けているが、心のどこかで両親達と仲直りをしたいと考えているという印象を受ける。だからこそ、マスターはジパング王国から両親達を追い出そうとはしておらぬ」


 確かに、クロウさんの言う通りっす。もし本当に両親達のことを嫌っているなら、両親達をジパング王国から追い出しているはず。


 なのに王都から両親達を追い出そうとする素振りもマスターは見せていない。両親達を避けてはいるが、仲直りをしたいとも思っているということっすか。人間の心境は複雑っすね。


「わかりましたっす」


 そっちの方が面白そう、とは口には出さないっす。


「うむ。我はマスターに同行して戦争に参加する故に、留守は任せたぞ」


「もちろん、王都は守っておくっすよ!」


 クロウさんは私の返事に満足そうにうなずいたっす。




◇ ◆ ◇




 俺の名前は藤堂(とうどう)貴樹(たかき)。だが、今は貴仁(たかひと)と名乗っている。


 なぜ偽名を使っているのかって? そりゃ、()()()()()()()()()()だからだ。


 ちょいとした成り行きで革命軍のリーダーを務め、蝦夷汗国の協力を得て日本国政府を下した。そうして革命政府を樹立し、大日本皇国を興すに至ったのだ。


 もう俺の人生はバラ色だ。俺様が大日本皇国で一番偉い!


囚人(しゅうじん)から天皇にまで登り詰めるとは……我ながらすごい成り上がりだな」


 と俺は呟き、しみじみとした気持ちになった。


 そう、モンスター出現前の俺は牢屋にいる囚人だった。数十年前に俺は中学生くらいの女の子を出来心で殺しちまって、牢屋にぶち込まれたんだ。


 けどモンスター出現後に俺は異能に目覚め、その異能を使って牢屋から脱出した。それから革命軍の奴らと出会い、革命軍のリーダーとなり、最終的に天皇になった。


 革命軍でリーダーを務められるくらいに、俺の異能は強力なものなのだ。


 というように天皇にまで成り上がって、俺には敵なしかと思うかもしれないが……目障りな存在が二つもある。一つは蝦夷汗国だ。


 日本国政府打倒のために蝦夷汗国に使者を派遣して協力を得たが、日本国政府を打倒した今となっては蝦夷汗国は目障りでしかない。


 せっかく俺が天皇になったのに、大日本皇国は常に蝦夷汗国の顔色を(うかが)わないといけない。もし蝦夷汗国が機嫌を損ねれば、大日本皇国は危うい。


 これでは大日本皇国は蝦夷汗国の属国ではないか!


 まあ、それも致し方ないか。大日本皇国の建国は、蝦夷汗国なくして成し遂げることは出来なかったわけだし。


 けれども、蝦夷汗国が目障りなことには変わりない。蝦夷汗国さえいなければ、俺はもっと自由に好きなことが出来るのだ。


 いつか絶対に蝦夷汗国を潰してやる。


 そして次に目障りなのが……ジパング王国だ。蝦夷汗国に匹敵するほどの国土を有する国であり、ジパング王の異能はモンスターを使役するというもの。


 しかもすでにジパング王は数体ものCランクモンスターを従えているようなので、ジパング王国の戦力は蝦夷汗国を優に超える。


 我が大日本皇国と蝦夷汗国は、そんなジパング王国に戦争を仕掛けた。蝦夷汗国もジパング王国は目障りだったようだから、協力してジパング王国へと侵攻を開始した。


 もちろん勝ち目はある。勝ち目があるから俺の三男坊をジパング王国に派遣し、戦争の口実を作らせたのだ。


 戦争の口実とは、ジパング王国が蝦夷汗国並びに大日本皇国に従わなかったからだ。


 なお、三男坊を含めた息子達は、牢屋にぶち込まれる前に妻との間に儲けた子供だ。妻は俺が殺人犯になった心労で、俺が服役している時に死んじまったらしい。


 話を戻そう。勝ち目があるからこそ、俺達大日本皇国は蝦夷汗国と一緒にジパング王国の領土へと侵攻した。


 その勝ち目とは、俺の異能だ。


 俺の異能は──































 ───他人の異能をコピーすることが出来る。


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