5.上位種と従属化
おはよう諸君! いい朝だね! 我が家がクソ雑魚Dランクモンスターの魔石と同価値だと判明した翌朝だよ! こんちくしょうっ!
確かに田舎にある比較的安い家ではあるけどさぁ……Dランクモンスターの魔石って一個で一万円くらいの価値しかないからね!?
我が家が一万円のわけないじゃんっ!!
収納カードには『モンスターが跋扈する世界になって空き家が多数あるため、価値は低くなっている。』とか解説されてたけど、何千万したと思ってんだよゴラァ?
あ、やべぇ……涙が…………ぐすん。
気にしたら悲しくなってくるし、もうこの記憶は封印しよう。うん、そうしよう。
さて。意識が覚醒した俺はベッドから起き上がるとパジャマからよそ行きの服に着替え、リビングアーマーを召喚して装備する。インテリジェンス・ソードも召喚し、手に持ってから外に出た。
ちなみに、リビングアーマーも魔石を吸収するか確かめてみたけど、駄目だった。他のモンスターも魔石は吸収しないみたいだし、インテリジェンス・ウェポンの特性なのかもしれない。
インテリジェンス・ソード以外のインテリジェンス・ウェポン系統のモンスターのカードは持ってないから、実際どうなのかはわかんないけど。
今日の目標は、収納カードをもう一枚ドロップさせることだ。
昨日初めて、収納カードがドロップした。つまり、かなりドロップの確率が低いのか、もしくはDランクモンスター以上からしかドロップしないという仮説が立てられる。
俺は今まで戦う力はなかったので、Dランクモンスターはあまり倒したことがないのだ。だから、Dランクモンスター以上からしかドロップしない可能性も十分にあり得る。
今日はそれを検証しつつ、収納カードを手に入れるために、昨日行ったDランクモンスターの徘徊する場所を目指して向かっている。
道中にオークがいたのだが、リビングアーマーを装備した俺は剣を使わず蹴りだけで倒せるようになった。ヤヴァイ、わい人間やめてしもうた……。
まあ、この程度のことなら物理攻撃に特化した覚醒者なら誰でも出来るらしいが。
そんなこともありつつ、はい到着。昨日収納カードがドロップした、Dランクモンスターが徘徊する狩り場だよ。
さて、リビングアーマーのお陰でさくっとハイ・オークやらのDランクモンスターを狩れるようになったわけだ。
今も、数分くらいでハイ・オークを追い詰めている。このハイ・オーク、頬に古傷みたいなのがあるな。個体差かな。
「ブ、ブモゥッ!」
「死にやがれ」
最後にそのハイ・オークの首をインテリジェンス・ソードで切り落とすと、死体が消失してドロップアイテムだけが残る。
ドロップアイテムがカードだったようなので、すわ収納カードかと思って急いで回収してみる。
種族:ハイ・オーク
ランク:D
攻撃力:85
防御力:315
【スキル】
●従属化・オーク:下位種であるオークを最大で五体、従属させて配下にすることが出来る。
何だよ、収納カードじゃなくてモンスターカードか。ただ、ハイ・オークのカードはまだ持ってなかったからちょっと嬉しいな。
EランクやFランクのモンスターを倒すと、結構な頻度でカードがドロップする。けれどDランクになると途端に、カードがドロップする確率が下がる。
だからDランクモンスターのカードは、このハイ・オークを含めるとインテリジェンス・ソードとリビングアーマーの計三枚しかない。
戦力強化という意味では、ハイ・オークのカードは役に立つ。何せ、スキルが『従属化』というものだからだ。オークを最大で五体も配下に出来るとは、素晴らしいな。カードのオークではなく、野生のオークを配下に出来るなら汎用性は高い。
というか、今までハイ・オークがオークを率いている場面は見たことがないのだが……?
いや、そうか。ここら辺はDランクモンスターが密集していて、Eランクのオークは近づけない。
だから今まで俺が倒したハイ・オークは、オークに遭遇しなかったから『従属化』のスキルを使う機会がなかったのだろう。
なるほど納得した。ということは、他の場所ではオークを従えたハイ・オークとエンカウントする可能性もあるわけだ。気をつけねば。
ハイ・オークのスキル検証は後日にして、今日はとことんDランクモンスターを狩るぞーっ!
───九時間後。夕日が沈んできたので、そろそろモンスター狩りは終えようと思う。
今日の成果はハイ・オークのカードが一枚に、ハイ・オークの肉が一つ、それと───収納カードが二枚だ。
収納カードがそれなりの確率でドロップしたので、ドロップ率が低いわけではなくDランクモンスター以上からしかドロップしないと推測変換出来る。
今日ドロップした収納カードには、同じく今日ドロップしたハイ・オークの肉を収納している。
昨日収納カードに氷や火の点いたマッチ棒を収納して、一時間してから取り出したところ変化はなかった。なので収納カードに収納すると、時間が流れるのが限りなく遅いか止まっているのだと思われる。
だからハイ・オークの肉が不味くならないように収納カードに収納し、今日の晩飯にするのだ。オークの肉より美味しいので楽しみである。
そして帰宅途中に、一体のオークと遭遇した。いつもならサーチアンドデストロイとなるのだが、今回はハイ・オークのスキルを確かめたいので倒しはしない。
まずは今日手に入れたハイ・オークのカードを取り出して、召喚するように念じた。すでに血は垂らしてある。
そうして召喚されたハイ・オークはの頬には、小さな古傷があった。
俺はその古傷のハイ・オークに、目の前のオークに向けて『従属化』のスキルを使用するように指示を出す。
うなずいたハイ・オークが右手の手のひらをオークに向けると、オークは急にハイ・オークに対して跪いたのである。
「カッケーッ!」
ハイ・オークには勿体ないスキルだと思う。もっと姿形のカッコイイモンスターが所持するべきだ。
それはともかくとして、このままハイ・オークをカードに送還するとどうなるのかも試してみよう。
ハイ・オークをカードに送還した途端にオークが急に俺に襲いかかって来ても大丈夫なように準備をしてから、ハイ・オークをカードへと送還した。
「っへ?」
そしたらどうだろうか。オークはハイ・オークとともに姿を消したのである。ハイ・オークのカードを見てみると、ハイ・オークの後ろに一体のオークが付き従うイラストへと変わっていた。
再びハイ・オークを召喚すると、オークもともに召喚される。……こうなるのか。カードがドロップせずともオークを仲間に出来るのなら、捨て駒としても使えるな。
家に帰るまでにあと四体のオークをハイ・オークの配下にさせてしまおう。そう考えた俺は、腐肉喰いを召喚してオークを探し始めたのである。
四十分ほどで、ハイ・オークのカードのイラストには四体のオークも加わることになった。
「もう日が暮れて真っ暗になっちまったな」
辺り一面真っ暗となり、モンスターのせいでゴーストタウンと化しているため不気味な雰囲気を感じさせる。
ただ何年も前からこうなので、もう慣れてしまった。それにDランクのモンスターなら簡単に屠れるくらいの力を手に入れたので、危険はあまりないだろうな。
その日俺は周囲を警戒しつつ、無事に帰宅したのであった。
◇ ◆ ◇
翌日はハイ・オークの性能を確かめることにした。
ハイ・オークはそもそも物理攻撃しか出来ないと俺は思っていた。ハイ・オークはこっちに攻撃する際は殴ったり蹴ったりしかしないからな。
だが、オークを最大で五体も配下にすることが可能だった。野生のオークも配下に加えることが可能なので、ハイ・オークは対集団戦などで真価を発揮するだろう。
そのハイ・オークが配下にしたオークだが、死んでしまうとカード同様に復活することはなかった。
もちろん、その後野生のオークに向けて『従属化』を発動させてハイ・オークには配下を補充してもらったよ。
カードとなったオークもハイ・オークの配下にすることは出来たが、こちらはあまり意味がない。
オークのカードをドロップさせるのに時間が掛かる上に、そのオークをハイ・オークの配下にしてもメリットはない。
このハイ・オークのスキル『従属化』はかなり強力なので、今日は重点的にハイ・オークを狩ってカードをドロップさせていた。
その甲斐あって、ハイ・オークのカードを今日だけで三枚も手に入れた。
そしてそれぞれに上限である五体ずつオークを従属化させてあるので、俺が持つ四体のハイ・オークは計二十体のオークを配下にしている。
オークのカードも五十二枚あるので、オークの大軍団が召喚出来るな。
ちなみに、オークを俺一人で倒せるようになったのはモンスターの召喚方法を気付いた先々月からなので、あまりオークのカードは貯まっていない。
それ以前から倒せていたゴブリンやスライム、腐肉喰いなどのカードはそれぞれ二百枚ほど貯まっているけどね。
モンスターが現れてから4年の間に、強くなるために必死でゴブリンや腐肉喰いと戦ったからなあ……。スライムはほぼ抵抗なく倒せたけど。さすが最弱モンスターだぜ。
「グギャアアアアッ!」
今俺の目の前で雄叫びを上げているのは、Eランク最弱のモンスターという名を冠するホブ・ゴブリンだ。
ホブ・ゴブリンはゴブリンの上位種ではあるが、同ランクのオークよりもかなり弱い。俺はこいつのカードを狙っていたりする。
なぜかというと、ハイ・オークは下位種のオークを配下にするスキルを持っていた。ならばゴブリンの上位種であるホブ・ゴブリンも、下位種のゴブリンを従えるスキルを持っているかもしれない。
ゴブリンはいくら群れたところで雑魚なのは変わらないが、雑魚過ぎて倒すのが単純作業となってしまって面倒だ。
だから、もしホブ・ゴブリンがゴブリンを従属化出来るスキルを持っているなら、その従属化したゴブリンは捨て駒や肉の盾として使えるのだ。
「グギャアアアァァァァァッ!」
こちらにタックルをかましてくるホブ・ゴブリンを容赦なく切り刻んで殺し、地面に落ちたドロップアイテムを手に取って確認する。
種族:ホブ・ゴブリン
ランク:E
攻撃力:40
防御力:205
【スキル】
●従属化・ゴブリン:下位種であるゴブリンを最大で三十体、従属させて配下にすることが出来る。
たまに数体のゴブリンを従えるホブ・ゴブリンを見るからもしかしたらと思ったが……ドロップしたホブ・ゴブリンのカードを確かめたら、スキルに『従属化』があった。
というか、ホブ・ゴブリンの持つ『従属化』のスキルだとゴブリンを最大で三十体も配下に出来るんだな。
ハイ・オークより配下に出来る上限が高い。ゴブリンが弱いからかな。まあどうでもいいが。
ホブ・ゴブリンは弱いからカードに興味もなく、たまにドロップする肉もあまり美味しくないから避けていたが、こういうスキルがあるなら話は別だ。
今後はホブ・ゴブリンも積極的に狩っていくことにしよう。