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55.先輩とデート《2》

「これがジェットコースターっす」


 ミラージュに案内されたのは、ジェットコースターの乗り場だった。


「案内終わったんだし帰れ帰れ」


 俺は手でミラージュを追い払うような動作をした。


 お前がいると先輩との二人きりのデートが台無しなんだよ。


「マスターは酷いっすねぇ。というか私がいてもいなくても、王都内で起こったことは私に筒抜けなんすけど?」


「そうなんだけどさぁ」


 先輩と二人きりのデートを俺は楽しみたいんだ。三ヶ月も前から約束していたデートなわけだし。


「私もどちらかと言うと俊也と二人きりがいいな」


「ですよね!」


「呼び出しておいて、用が済んだら帰れなんて……二人とも酷いっす!」


「呼んでないぞ?」


「呼んでねぇよ」


「うわーん!!」


 ミラージュは泣いたフリをしながら遊園地の人混みへと消えていった。


「愉快な奴だな、ミラージュは」


「愉快ではありますね。……テンションが高すぎますけど」


 俺達はしばらくミラージュが消えていった人混みを眺めていた。


「じゃあジェットコースター乗ろうか」


「ですね。乗りましょう」


 ジェットコースター乗り場の前には、遊園地の入り口と同様に長蛇の列が出来ていた。


 だが、当然のことながら特権階級である俺と先輩は列に並ぶことなくジェットコースターに乗れる。


 と、その時だった。


「おい、ちゃんと列に並べよ!」


 そんな声が聞こえてきた。


 だが、さすがに今や国王となった俺や、法務大臣である先輩に言っているわけではないだろう。何せ、俺と先輩は胸元に紋章を付けているからだ。


 俺が胸元に付けている紋章は国王の証しで、先輩が胸元に付けている紋章は侯爵の証しなのだ。これら紋章は特権階級でないと付けてはならないと、ジパング王国の法律で定められている。


 だから俺達が付けている紋章が何を示しているのかわからなくても、紋章を付けているんだから俺達二人が特権階級の人間だということは誰の目からも明らかだ。


 そんな俺達に向かって『おい、ちゃんと列に並べよ!』なんて言うわけないじゃないか、ハハハ。きっと誰かが列に割り込んで、それで喧嘩になっているんだよ(フラグ)。


「無視してんじゃねぇよ!」


 うるさいなぁ。今は先輩とデート中だから静かにしてくれないかなぁ。


「そうだそうだ!」


「列にはちゃんと並べよ!」


「列を抜かすな!」


 何か周囲の奴らが同調を始めたんだけど。


「先輩……多分ですけど、これ俺達が言われているんですかね?」


「おそらく、な」


 こいつらは俺達の胸元にある紋章が見えていないのか? 失明しているのかな? あ、失明しているのに障害者割引きとかなかったから不満なのかな?


 そもそもこの遊園地は蜃のスキルで展開しているものであり、誰でもお金を払えば利用出来るように俺が一般公開してやっているんだぞ。


 だというのに列を抜かすなとか、舐めてんのかお前ら?


「まあ気にせずジェットコースターに乗りますか」


「そうしよう」


 本来なら不敬罪とかで逮捕案件なんだが、今はデートを楽しみたいので無視することにしてジェットコースターに乗り込む。


 が、その寸前で


「ちょっと待った!」


 という声が聞こえてくる。


 俺も先輩もうんざりした気分になった。俺達は三ヶ月も前から約束していたデートの最中なんだけど。


 若干イラつきながら俺達が振り返ると、見覚えがある顔の男がいた。この男が「ちょっと待った!」と言った奴だろう。


「何か見たことのあるような顔だな……」


 俺が呟くと、先輩は呆れたような表情をする。


「俊也、お前それ本気で言っているのか?」


「先輩はあの男を知っているんですか?」


「知っているもなにも、モンスター出現以前の日本でかなり有名だったインフルエンサーじゃないか」


「ほー、あの男は有名人なんですね」


 まあどんなにすごい有名人だとしても、文明が崩壊したこの世界ではすでに効力の失った肩書きだけどな。


「僕を無視して話さないでくださいよ」


 インフルエンサー(笑)が俺と先輩の会話をぶった切って話し掛けてくるので、俺が対応する。


「何か私達に用ですか?」


 向こうも敬語を使っているので、俺も敬語で喋る。なお、こういう場合の俺の一人称は『私』だ。


「ええ、あなた達に用がありまして。あ、僕のことは知ってます?」


「知っていますとも。有名な方ですもんね」


 先ほど先輩に教えられたばかりだが、ここで知らないと言えば失礼だから嘘をついた。


「知っていましたか。改めまして、僕は神谷(かんだに)憲二(けんじ)です」


 へぇ、そんな名前なんだ。と思ったが、それをおくびにも出さずに俺も自己紹介をする。


「これはどうもご丁寧に。私は塚原俊也と申します」


「塚原さんですね。それで、あなたには聞きたいことがあるんですが」


「聞きたいこと、ですか?」


「はい。なぜ列を素通りしてアトラクションに乗り込もうとしたんです?」


 やっぱり聞きたいことはそれかよ。


「ジパング王国の法律に定められている通り、我々特権階級は文字通り『特権』を有していますので」


「特権、ですか? なぜあなた方が特権を持っているんですかね?」


「我が国の特権階級は、ジパング王国を建てる際に尽力した者達です。そして建国に尽力した見返りとして特権が与えられているんですよ」


「確かに一理ありますね。しかし、人間は平等でならなければいけないとは思いませんか?」


 こいつムカつくな。


「思いませんね。人間が平等というのは暴論ですよ」


「なぜですか?」


「建国に協力してないお前らを何で優遇しないといけないんだ? 別に建国に協力してないという理由でお前らを冷遇してるわけじゃねぇだろ」


 こいつに敬語は不要だな。


「おかしくないですか? それこそ暴論ですよ」


「どこが?」


「建国に協力していないという理由だけで、後からここに来た我々を優遇しないところです。おかしいですよ。というわけで僕にも特権をください」


 話しが支離滅裂じゃねぇか。お前の方がおかしいだろ。


 ジパング王国の国内では、モンスター出現以前とほぼ同じ値段で食料などが売られている。そうなるように俺達が調整しているのだ。


 ジパング王国外だと、ジパング王国内の何倍もの値段で食料が取り引きされている。その理由が、モンスターのせいで農業がまともに出来ないから。


 だがジパング王国内では公営市場を設けて安い値段で食料を売り、餓死者を出さないようにしている。


 だからこそお前は腹一杯食べられているんだぞ。腹一杯食べられなかったら元気がないわけだから、お前らは遊園地に来て遊ぶ余裕なんてないはずだし。


 なのに平等じゃない、と?


 こっちはモンスター出現以前と同じくらいの生活を出来るようにしてやっているのに、お前らは平等じゃないと言うのか?


「ジパング王国の国籍を取得したら、いろいろな場面で優遇されるという制度がある。その制度のように、建国に協力していない者も決して冷遇されているわけじゃないんだけど?」


 申請をしたら、大きな問題がない限りすぐにジパング王国の国籍が取得出来る。


 国籍を取得すると納税額は上がってしまうが、その代わりジパング王国籍を持つ者はジパング王国の庇護下に入ることになり、何かあった場合はジパング王国は守ることになっているのだ。


「確かにその通りです。ですが平等というわけではないですよね」


「こっちは出来る限り建国に協力していない者にも利を分けているんだがなぁ。テメェ、何様だよ」


「あなたこそ何様ですか?」


 王様ですが、何か?


 おんどりゃ! こちとら国王様じゃぞ!


「おい、インフルエンサー。私達は今プライベートなんだ。邪魔しないでいただこうか」


 痺れを切らした先輩がそう言いながら俺の腕を掴んでジェットコースターに乗ろうとするが、インフルエンサー(笑)が先輩の肩に手を置く。


「僕は塚原さんと話しているんです。あなたこそ邪魔しないでいただきたい」


 その言葉を聞いた俺は、真っ先にインフルエンサー(笑)の顔面にパンチを打ち込む。


「ぐは!」


 未強化状態のパンチだから死にはしないが、筋肉が少し付いてきた俺の腕による本気の一撃だ。かなり痛いはず。


「二度とその(つら)を見せんじゃねぇぞ。あと、気安く先輩の肩に手を置くな」


 ムカつきはしたが、殺すほどでもないしこれくらいで許してやるよ。


「ぐぐぐっ、貴様ぁ!」


 俺を睨んだインフルエンサー(笑)が右腕に力を込めると、急に右腕が肥大化した。そしてその肥大化した右腕を俺に向かって振り下ろしてくる。


「面白い異能を持っているじゃねぇか」


 ギア3のルフィのギガントピストルみたいな技だな。


 今の俺はフラガラッハやリビングアーマーも装備していないし、エルダートレントに祝福されているわけでもない。だからこのままでは右腕に潰される。


 が、そんなに焦らなくても大丈夫そうだ。肥大化しているからか知らんが、動きはそこまで速くない。


 余裕を持ってポケットからカードを取り出し、インテリジェンス・シールドを召喚して肥大化した右腕の攻撃を防ぐ。


 そしてインテリジェンス・シールドが攻撃を受けたことにより自動的に『反射』のスキルが発動し、受けたダメージの25%を弾き返した。


 ダメージの25%を反射されたことによりインフルエンサー(笑)は吹き飛び、無様に地面に転がる。


「ミラージュはいるか?」


「何すか?」


「あの男を牢屋にぶち込んでおけ」


「マスターに列を抜かすなとか文句を言っていた奴らはどうします?」


「そうだな……ならそいつらの消費税を100%にしとけ」


「地味な嫌がらせっすね」


「俺は恐怖政治をしたいわけではないからな」


「そうは見えないんすけど」


 と言いながら、ミラージュはインフルエンサー(笑)に目を向けた。


「あいつから攻撃してきたんだから俺は悪くねぇ」


「いや、マスターが先に顔面パンチしてたじゃないっすか」


「異能を最初に発動させたのはあいつだ!」


 というか俺が顔面パンチをしたことを知っているってことは、俺達のやり取りを見てたのかよ! 見てんじゃねぇよ!

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