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54.先輩とデート《1》

 スクナ達ドワーフを仲間にしてから、およそ三ヶ月ほど経過した。


 三ヶ月の内に何があったのかを説明しようと思う。


 まず説明すべきは、魔石硬貨が完成したことだろう。完成した魔石硬貨は三種類ある。


 Dランクモンスターの魔石から作られた10000円玉、Eランクモンスターの魔石から作られた5000円玉、Fランクモンスターの魔石から作られた1000円玉の三つが魔石硬貨の種類だ。


 本当は日本と同じように紙幣にしたかったがドワーフは紙の扱いには慣れていないようだし、紙幣っぽいものを造ろうにも魔石は薄くすると割れやすくなるので断念した。


 だが魔石は普通の石よりも比較的軽いので、魔石硬貨を大量には持ち運ぶことが出来ないということはない。……紙幣よりはかさばるけどね。


 ちなみに10000円玉には俺が、5000円玉にはクロウが、1000円玉にはフラガラッハのイラストがデザインされている。


 自分の肖像が硬貨に描かれているというのは、なんだかむず(がゆ)い気持ちになる。


 そういえば俺は幼い頃に、お札に自分の肖像が採用されるくらい偉くなってやると意気込んでいたな。中学生くらいになると、そんなの無理だと思い始めるようになったが、まさか幼き頃の夢が叶うとは。


 ガキだった過去の俺に『曲がりなりにもお前の夢は叶うぜ』って言ってやりたいな。


 次に説明するのは、ジパング王国の国土拡大についてだ。と言っても他国と争ったわけじゃない。そもそもジパング王国の周辺に国なんて無いし。


 具体的に何をして国土の拡大を図ったのかと言うと、ドワーフを各地に派遣して街を造らせたんだ。そうすることで出来上がった街の周辺一帯はジパング王国の国土に組み込まれる。


 まあ街を造るというより、ゴーストタウンと化した街の外周部を高い壁で囲っているだけだけどね。


 避難所よりドワーフ達に造らせた壁に囲まれている街の方が安全なので、当然のことながら周辺の避難所にいる人達は街へと流入する。


 館山にある避難所の暮らしが豊かだったが、それは俺がモンスター肉を無償で提供していたからであって、他の地域の避難所では皆貧しい暮らしをしている。


 だから近くに豊かな暮らしが可能となる街があれば、避難民達はそちらへと流入するのだ。


 このやり方でジパング王国の国土を拡大すると同時に、ジパング王国の人口も増やすことが出来た。


 こうして三ヶ月の内に街を千個以上造らせることにより、愛知県、岐阜県、富山県、石川県、福井県、滋賀県、三重県、和歌山県、奈良県、大阪府、京都府の十一府県を完全に支配下に置いた。


 また、新潟県、長野県、静岡県、兵庫県の一部もジパング王国の国土に組み込まれている。


 出来る限り街を増やせとドワーフには言ったが、俺の想定よりドワーフが優秀だったので街が爆発的に増加してしまった……。


 国土が一気に増えたことで政務も増えることとなり、俺は頭を抱えたよ。


 あ、そうそう。王都に名前を付けたんだよね。街がすごい増えたので、王都に名前がないと不便だからだ。


 俺が付けた王都の名前は『洶和久(ワクワク)』。


 ……うん、言いたいことはわかるよ? 何で王都の名前が『ワクワク』なんだとか、当て字のことだとか。


 でもちゃんと意味はある。そもそもワクワクというのは、中世アラブ世界において東方の彼方(かなた)にあると思われている土地だ。


 多くの伝承ではワクワクは中国の東方にある、黄金に富んだ島とされている。なので諸説はあるが、ワクワクは日本のことだとされているんだ。


 で、ワクワクの当て字の『洶和久』についても説明しよう。と言っても洶和久は当て字ではなく、一応ちゃんと意味を持っている。


 『洶』には騒がしいという意味があり、『和』は日本を表し、『久』は長く続くという意味を持つ。


 つまり『洶和久』には人でごった返して騒がしい日本が長く続くという意味があるわけで、それくらい繁栄(はんえい)してほしいと願って名付けたんだ。


 で、王都に名前を付けたついでに、ジパング王国の国名の漢字表記についても考えてみたんだ。


 俺が考えたジパング王国の漢字表記は『士帆紅』で、略称は『士』だ。


 『士』は武士を、『帆』は船の帆を、『紅』は太陽の赤色を表している。


 『士』には日本古来からの戦士である武士を表すことで、日本の歴史を受け継ぐというような意味を持たせている。


 『帆』には船を表すことで、ジパング王国が海洋国家であるという意味を持たせた。


 そして『紅』は文字通りジパング王国の象徴である太陽と関係のある漢字を入れてみた。




 …………やっぱり俺にはネーミングセンスが皆無(かいむ)な気がするぜ。


 以上が、三ヶ月の内に起こった出来事になる。




◇ ◆ ◇




 俺はジパング王国の王都・洶和久(ワクワク)にある噴水の縁に腰を掛けて、先輩が来るのを待っていた。


 しばらく足をブラブラとさせながら待っていると、可愛らしいフリフリの付いた白いワンピースを身に纏った先輩が、申し訳なさそうな顔をしながら俺の元へと駆け寄ってきた。


「俊也、遅れてすまなかったな」


「いえ、気にしないでください。先輩と遊ぶのが楽しみで、予定より早く待ち合わせに来ただけなので」


 そう、これから俺は先輩とデートをするのだ!


 三ヶ月経ってやっと仕事が一区切りついたので、先輩と一緒に王都を遊び歩くのである。


 今日の先輩とのデートが楽しみすぎて、昨日の夜はあまり眠れなかったんだよね。


「じゃあ行きましょうか」


 俺はそう言って立ち上がった。


「ああ、行こうか」


 先輩の真横に立って会話をしながら、最初の目的地へと向かって歩き始める。


 そしてそのまま数分ほど道を進んでいると、急に先輩が立ち止まった。


「どうしました?」


 と問いかけつつ先輩の方へ振り返ると、眉をハの字に曲げた先輩が俺を見つめていた。


「その……どうだ? 私の服装は」


「え? 服装ですか?」


「に、似合っているか?」


 突然何を言い出すんだろうか、先輩は。女心は複雑って言うからなぁ。


 ワンピースが似合っているかどうかと聞かれたので、改めて先輩の姿に目を向ける。


 先輩は純白のワンピースを着ていて、そのワンピースを透かして肩や胸の骨が浮かび上がって見えた。


 が、そこで俺は気付いてしまった。浮き出て見えるのは骨ばかりではないことに。


 先輩の服装をよく見てみると、ブラジャーの紐が浮かび上がっている。それが非常に扇情的だ。


 エロい……先輩がエロいよ……。


「か、可愛いですよ。似合ってます、先輩」


 そう言いながらブラジャーの紐に露骨に視線が集中しないように意識していると、先輩は喜びをまぶたに浮かべた。


「そうか? そうか……俊也に可愛いと言われると嬉しいな」


 可愛い……。何だこの可愛い生き物は!?


「じゃあ、その、そろそろ進みましょうか」


「うん、そうしよう」


 先輩の笑顔を見ているだけで胸の高鳴る。これが幸せって言うんだろうな。




 楽しい会話を交わしながら数十分ほど先輩と歩いていると、デートの最初の目的地である遊園地に到着した。


 この遊園地は蜃の街に最初からある備え付けのものだ。さすが娯楽に特化した街なだけある。


「しかし……ものすごく混んでいるな」


 国王の権力で入園待ちの長蛇の列を素通りして遊園地に足を踏み入れると、先輩が思わず呟いてしまうくらいには混雑していた。


 というのも、ここ三ヶ月のうちに王都を訪れる者が増えたのだ。ジパング王国籍の取得を申請する者も数百人ほどいて、王都は今や蜃の分身ではなくちゃんとした人間で溢れかえっている。


 だから遊園地も下民どもで混んでいるんだ。


 なお、遊園地の一人分の入園料は1000円、またはFランクモンスターの魔石が一個だ。


 魔石やジパング王国の貨幣を持っていない場合は、街に必ず一つはある換金所を利用すればいいようになっている。


 換金所のシステムは至ってシンプルで、換金所にいる係員に物品を渡すと、その物品の価値に応じてジパング王国の貨幣が貰える仕組みになっているのだ。


 俺や先輩などの貴族の場合は、そもそも入園料など支払わずに遊園地に入園出来るけどね。俺達のような特権階級は列に並んで入園する必要もないし。


「まずはどのアトラクションで遊びましょうか」


「俊也のおすすめはないのか?」


「ここの遊園地には来たことがないんでわからないですよ」


 という感じでどのアトラクションに行こうかと話し合っていると俺達の前に霧が現れ、その霧が徐々に人の姿を象っていく。


「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! ミラージュ、参上っす!」


「湧き出てくんな。こちとらデート中だぞ」


「いやぁー、お二人が困っているようだったので、おすすめのアトラクションをお教えしようと思ったんすよ!」


 めっちゃうぜええぇぇぇーーーっ!! こいつテンション高いな!?


「実際どれがおすすめのアトラクションか気になるし、教えてくれると助かるな」


「はいっす!」


 まあ先輩が聞きたいなら仕方ないか。ほらミラージュ、さっさとおすすめのアトラクションを教えろ。そしてさっさと消えろ。


「私のおすすめはジェットコースターっすね。富士急ハイランドのより絶叫すると思うっすよ」


 絶叫系は苦手なんだが……。


「いいな、ジェットコースター。それ乗ろう」


「えええぇぇぇぇ!?」


 先輩って絶叫系アトラクション好きなの?


「ちょ、先輩!? どうして富士急以上とかいうジェットコースターに乗ろうとするんですか!?」


「ジェットコースターが苦手なら俊也は乗らなくてもいいんだぞ?」


 な、なんかそれはそれで寂しい……。よし! 乗ってやろうじゃねぇかああぁぁぁ!!!


 今の俺の身体能力を(もっ)てすれば、身体能力なんぞ()でもないぜっ!


 かくして、先輩と俺はミラージュに案内されながらジェットコースターへ向かったのであった。

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