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51.ドワーフとノーム

 事情を理解したノーミーデスは、クロウやフラガラッハ達と同じように俺をマスターと呼ぶようになった。


「で、マスターは私にドワーフを従えてほしいのか」


「そうなんだよ。ドワーフを仲間に出来れば、いろいろなものが作れるようになるからな」


「なるほど、わかった。私の『従属化』のスキルならドワーフを簡単に従えさせることが可能だし、戦艦に乗ったつもりでいてくれ」


 戦艦……大船より安心出来そうだな。


「ああ、助かるよ」


 ノーミーデスはイザナミとは違って反抗的ではなかったので、ドワーフは簡単に仲間に出来そうだ。


「ただし条件がある」


「ん?」


 ノーミーデスは反抗的じゃないなと思っていたら、何か条件があるとか言われたんだが。


「私にも名前を付けてくれ」


「何だよ、そんなことか」


 ネーミングセンスはないが、名前を付けることぐらいわけない。


 ノーミーデスに名前を付けるなら、大地に関連した名前が良いと思うんだよ。


 ……有名な地母神といえばガイアか。ガイアは世界の始まりから存在した原初の神の一柱であり、大地を象徴する女神だ。


 その女神から取って、ノーミーデスの名前はガイア……というのは安直過ぎるかなぁ。


 それにガイアとは、大地だけでなく地球全体を指す英単語だ。ノーミーデスは地球ではなく大地を司っている精霊なので、ガイアという名前は不適切である。


「う~ん」


 俺は腕を組みながら熟考する。


 日本神話に登場する地母神というと……伊邪那美命か。ノーミーデスにイザナミって名付けたら、未だ俺に反抗的なあいつと名前がだだ被りになるな。


 つーことでガイアと同じく、イザナミという名前も却下だ。




 ───数時間後。


「ノーミーデス。お前の名前が決まったぜ」


「やっとかい?」


 数時間も悩んだ末に、俺はノーミーデスの名前を考え出した。


「お前の名前は今日から『カヤ』だ」


「カヤ、か? 由来を聞いてもいいか?」


「ああ、いいぜ。ちゃんと由来もある。適当に考えたわけじゃないからな」


 古代の日本では、生物・無生物限らず自然物には精霊が宿っていると信じられていた。そしてそれら精霊を、名称の語尾に『チ』を付けて呼んだ。


 例を挙げると岩の精を『イワツチ』、火の精を『カグツチ』と呼んだらしい。


 んで、野の精をノツチと呼び、漢字では野槌とか野椎と書くらしい。そして日本神話には、野椎神(ノヅチノカミ)という神が登場する。


 野椎神の別名はカヤノヒメと言い、草の神だ。そのカヤノヒメから取り、ノーミーデスには『カヤ』と名付けることにしたのだ。


「なるほど。日本神話のことはくわしく知らないが、カヤの名前はそういう由来なのか。でもカヤノヒメは草の神なのだろう? 大地とはあまり関係がない気がするのだが」


「……野の精は大地と間接的に関わりがある、と言えなくもない」


「つまり、間接的にしか野の精は大地と関わりがないということか」


「…………ノーコメントで」


 俺は押し黙ることにした。




◇ ◆ ◇




 その日の夕方、俺達はとある洞窟の入口にいた。


「ここか?」


「ここだ」


 カヤとともに洞窟の中を覗くが、洞窟の中が真っ暗で奥がまったく見えない。


 この洞窟こそが、ドワーフのいる場所だ。ついでに、二ヶ月前に俺達が敗走した場所でもある。


「この洞窟の中にドワーフがいるから、カヤは『従属化』のスキルでドワーフを従属させろ」


「わかった」


 あ、ちなみに、彼女はカヤという名前を受け入れてくれた。良かったよ。もし彼女がカヤの名前が嫌と言ったら、また名前を考え直さなければならなくなるし。


「じゃあクロウ、お前は待機してろ」


「わかっておるわ」


 前回と同じように、クロウは洞窟の外で待機だ。クロウの体は大きいから洞窟に入らないんだよなぁ。まあクロウは寂しくないみたいなので、あんまり気にしなくても大丈夫かな。


「よし。カヤ、中に入るぞ。作戦通りにしろよ」


「ああ、作戦通りにな」


 カヤは指を鳴らしながらニヤリと笑い、洞窟へ足を踏み入れる。俺もカヤの後を追って洞窟に入り、フラガラッハを握り締めた。




「暗いな」


 これが、洞窟を数十分進んだ俺が抱いた感想だった。


 前回は洞窟の手前にドワーフがいたから奥に行くことはなく、そのため灯りを必要とはしなかった。だが今回は、洞窟を数十分進んでもドワーフに遭遇することはない。


 あれ、もしかしてドワーフども引っ越したのか?


「案ずるな。洞窟の最奥にある空間に数十体のドワーフの気配を感じる」


「お前、気配なんて察知出来んのか?」


 すごいな、カヤは。腐肉喰いの持っている『気配察知』や『空間把握』のスキルでも、そこまで正確な居場所はわからないのに。


「『従属化』スキルは、従属させられる対象モンスターの気配を感じ取れるんだ。つまり私の場合は、ドワーフの居場所なら正確に把握可能ということになる」


 『従属化』のスキルにはそんな使い方もあるのか。ハイ・オークやホブ・ゴブリンはそんなこと教えてくれなかったけど、そもそもあいつらは喋れないか。


「最奥に到着したぞ」


 カヤにそう言われて辺りを見回すと、確かに行き止まりの開けた空間に俺達は到着した。


 洞窟に灯りはないので暗い。そのためはっきりしたことはわからないが、近くにモンスターの気配が感じられるな。


「姿を見せよ」


 カヤが周囲を見回したあとでそう言うと、その途端に洞窟の壁に埋まっている石のようなものが発光して明るくなる。何かの魔導具だろうか。


 その魔導具らしき石のお陰で、カヤに向かって跪く数十体のドワーフの姿が見えるようになった。


 なぜ跪いてるんだよ。


「失礼ながら、発言よろしいでしょうか」


 ドワーフの一体が挙手をし、代表してカヤに話し掛ける。無論、跪いたままで。


「発言を許可する」


「ありがたき幸せ。感謝いたします。ところで、あなた様はもしや、ノーミーデス様でいらっしゃいますでしょうか?」


「いかにも」


 カヤがうなずくと、ドワーフ達の口から驚愕したような声が漏れる。


「「おお!」」


 ドワーフ達は全員嬉しそうだな。どういうことだ?


「ということはノーミーデス様は、我々を配下にしてくださるのですね!?」


「君らが望むなら配下としよう」


「「では、これからは主従として何卒(なにとぞ)よろしくお願いいたしますっ!」」


(うけたまわ)った」


 カヤがドワーフ達に手のひらを向けた。確か『従属化』のスキルを持っているハイ・オークも、下位種オークを従属させる時は手のひらを向けていたな。


「よし。これで君らドワーフは私の配下になった」


「「ドワーフの悲願が叶ったことは至上の(ほま)れ。我ら一同、感無量です!」」


 こうしてカヤは洞窟にいた十三体のドワーフを全て従属化させることに成功した。


 というカヤとドワーフ達のやり取りを隅っこの方で(たたず)んで眺めていたら、俺のところにトコトコとドワーフのおっさんが歩み寄ってきた。


「お? お前さんは、この前洞窟(ここ)に来た人間の小僧じゃねぇか」


「あ、お前はあの時のおっさんドワーフか!」


「おう、久しぶりじゃねーか。二ヶ月ぶりくらいか?」


「ああ、二ヶ月ぶりだな。それにしても、フラガラッハで斬った腕の傷がもう治ってやがるな?」


 そう、このドワーフのおっさんの腕にはフラガラッハによって付けられた傷があるはずだ。なのにおっさんの腕に傷らしきものは見当たらない。


 ただしフラガラッハによって付けられた傷は、スキル『報復の刃』の効果により自然治癒以外で治ることはないはずだ。


 なのに傷が見当たらない。どーゆーことだ?


「ドワーフの自然治癒力を甘く見るなよ」


「ドワーフ半端ねぇ……」


 やっぱりドワーフってマヨヒガよりランク詐欺だ。フラガラッハと同じくらいランク詐欺と言っても過言じゃないね。


「で、お前さんが何でいるんだ?」


「俺はあそこにいるノーミーデスのマスターなんだよ」


「ってぇことは、お前さんがノーミーデス様をここに連れてきてくれたのか?」


「そうなる」


「ならお礼を言わないとだな」


「お礼?」


「ドワーフって種族は、上位種であるノーム様を敬っているんだ。そしてノーム様の配下になることが、全ドワーフの悲願なんだ」


「なるほど」


「ところで、何でドワーフがノーム様を敬っているかわかるか?」


「そりゃ、ノームがドワーフの上位種だからだろ?」


「それも理由の一つではあるが、それだけの理由でノーム様を敬っているわけじゃねーよ」


 と、そこでおっさんは勿体振るように咳払いをする。そんでもって地面に腰を下ろすもんだから、それに(なら)って俺も地面にあぐらを搔いて座った。


「いいか、お前さん。自慢じゃないが、ドワーフってのは高度な鍛冶・建築・工芸の技術を持っている。これは知っているよな?」


「知ってるよ」


「だがな、ドワーフは採掘が上手じゃない」


「ほう、そうなのか」


 ドワーフが採掘をする描写をしている作品が多いけど、モンスターのドワーフは採掘が苦手なんだな。


「でもドワーフの力は強いだろ。それだけの力があれば簡単に採掘ができそうな気もするが」


「採掘ってのはそんなに単純なことじゃない。俺達ドワーフが力一杯につるはしを振り下ろせば、鉱物が粉々になるんだ」


「じゃあ力をセーブして採掘しろよ」


「ドワーフは力の調整をするみたいな細かいのは苦手だ」


「なのに芸術品みたいな細かい装飾品が多く付いていた土器は作ってたよな」


 以前ここに来た時に、洞窟の隅に芸術品みたいに美しい土器が置いてあった。あんなに細かい装飾品を作れるのに、何で力の調整が出来ないんだよ。


「造る時は細かい調整くらい出来るが、それ以外だと細かい調整が出来なくなるんだよ」


「ほ~ん」


 不思議だな、ドワーフは。というか、モンスターの存在自体が不思議だな。


「で、ノーム様の持つ『地魔法』のスキルは大地を操るというものだ。そのスキルをうまく使うと、地中などに埋まった金属や鉱物などをピンポイントで採掘出来るようになる」


「つまりドワーフは造ることは出来ても採掘は出来ない。採掘が出来ないと造ることすら不可能なため、採掘を簡単に行うノームを尊敬しているということか」


「簡単に言うとそういうことだ」


 ノームは『地魔法』スキルを使って、簡単に鉱物などを採掘出来るのか。良いことを聞いたな。あとでカヤに採掘やらせてみるか。

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