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50.土精《3》




 ───ノーミーデスと戦い始めてから、もうすでに四時間ほど経過していた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 俺はフラガラッハの剣身を地面に突き刺し、柄に掴まって自分を支える。


「マスター! 大丈夫ですか!?」


 肩で息をしていると、杖代わりにしていたフラガラッハに心配された。


 四時間もぶっ続けで戦闘をしていたから疲れて息が切れただけで、怪我を負ったわけじゃないから全然大丈夫なんだが。


「あ、ああ……大丈夫だから心配すんなよ」


 俺はそう言いながら、収納カードからガラス瓶を取り出した。


 このガラス瓶には半透明の緑色の液体が入っている。この液体こそが『ポーションのボトル』の魔導具によって作成したポーションだ。


 と言っても、Cランクモンスターの魔石を消費して作ったポーションではない。このポーションはFランクモンスターの魔石を消費して作ったものなのだ。




名称:体力回復のポーション

品質:F+

解説:経口摂取することで体力が回復する体力回復のポーション。飲めば疲れや眠気も吹き飛ぶ。




 うーむ、ファイトを一発する栄養ドリンク剤みたいだ。本当にこんなので体力が回復するか怪しいが、今は戦闘中なので急いで一気に飲み干した。


「おお……すげぇ」


 このポーションの効果は飲んですぐに現れる。先ほどまでは肩で息をするくらいに息が切れていたが、ポーションを飲んだらそれが治りやがった。


「マスターよ! やっと『威圧』が発動出来たぞ!」


 体力回復のポーションの効き目に驚いていると、クロウから朗報が届けられた。


「マジか! やっとかよ!」


 戦闘を開始してからクロウはノーミーデスと目を合わせて『威圧』スキルを発動しようとしていたが、ノーミーデスは意図的に視線を逸らしていた。


 おそらく、ノーミーデスはクロウが持つ『威圧』スキルの存在を知っていたのだろう。事実、これまでに戦ってきたノーム達もクロウとは目を合わせようとしていなかったし。


「どうやら本当に『威圧』のスキルが発動出来たようだな」


 硬直して動かなくなったノーミーデスの前まで来てみたが、彼女が動き出すことはなかった。


 俺はクロウに『威圧』スキルを発動させられたことがあるからわかるが、急に自分の体が硬直して動かなくなるって怖いよな。


「早くノーミーデスの首を刎ねよ」


「わかってるよ」


 クロウに急かされてフラガラッハを振り上げると、ノーミーデスは悲しそうな顔をした。


 ……そんな表情されたら倒しにくいだろ。ただでさえノーミーデスの見た目は美少女なんだから攻撃するのが心苦しいのに。


 モンスターにも感情はある。それはクロウやフラガラッハ、ミラージュ達を見ていたらわかる。


 でも、モンスターは人間を襲うように本能に刻みつけられている。だから俺達人間は、襲い掛かってくるモンスターを倒すしかないんだよ。


 や、やめろ…………そんな顔で俺を見るな!


「早くしろ」


 再度クロウに急かされる。


「………………すまんな」


 俺はノーミーデスの目を見ながら謝り、彼女の首を目掛けてフラガラッハを振り下ろした。


 フラガラッハに斬られた首は遠くへ吹き飛び、数秒後にノーミーデスの死体は煙のように消え去る。そして地面にコトンと、ドロップアイテムが落ちた。


 罪悪感が半端ない。モンスターとはいえ、あんな美少女の見た目をしているノーミーデスの首を刎ねるのは気分が良いものではない。


 今まで何人ものクソ野郎どもをぶっ殺してきた身ではあるが、殺す相手が美少女だとこうも躊躇するようになるとは思わなかった。


 ノーミーデスのあの悲しそうな顔が、今夜の夢に出てきそうだ。気分(わり)ぃ。


「見てくださいマスター! ノーミーデスのドロップアイテムが!」


「あ?」


 フラガラッハに促され、ノーミーデスを倒した際にドロップしたアイテムが落ちた地面に目を向ける。


 すると、そこには──


「カードだ……」


 ───カードが落ちていた。


 俺は急いで、ドロップしたカードを拾い上げた。




種族:ノーミーデス(ノーム)

ランク:C

攻撃力:1420

防御力:1600

【スキル】

●地魔法:大地を司る地属性魔法。大地を意のままに操作することが可能。

●従属化・ドワーフ:下位種であるドワーフを最大で十五体、従属させて配下にすることが出来る。




 おお、これはまさしくノーミーデスのカードだな。


 それにしても、ノーミーデスのスキルが強すぎる。大地震を引き起こしてしたことからわかる通り、『地魔法』スキルがぶっ壊れ性能であることは明白だ。


 だがノーミーデスが持つスキルで注目すべきは『地魔法』ではなく、『従属化』の方である。


 なんとノーミーデスはドワーフの上位種であり、下位種ドワーフを従わせられる『従属化』のスキルを持つのだ。


 ノームのカードが欲しかったのは魔法を使えるからというだけでなく、ドワーフを従わせられる『従属化』のスキルを持っているからだ。


 ドワーフのカードが手に入ればいろいろなものが作れるようになるが、ドワーフはDランクのくせに強い。なので正攻法ではドワーフ一体を倒すのにものすごく時間が掛かる。


 それにドワーフを倒しても確実にカードがドロップするわけではないので、ドワーフのカードを手に入れるには何か月も要する。


 だがノームの『従属化』スキルを使えば、ドワーフを倒すことなく仲間にすることが出来る。


 ドワーフのいる洞窟から逃げ帰った翌日にそのことをクロウから教えられた俺は、ノームのカードを手に入れるために躍起になった。


 急がば回れ、だ。ノームのカードさえ手に入れば、ドワーフを十五体も仲間に出来るわけだし。


 もちろんドワーフを従えたノームとは戦うことを避けた。ドワーフは洞窟にしかいないので、ドワーフと遭遇したことがないノームはたくさんいる。


 つまり、ドワーフを従えていないノームはかなり多い。そういうノームをピンポイントで倒せば、いつかはカードが手に入れるだろう。そう信じて、二ヶ月前からノームを見つけては倒していった。


 そしてついに、ノーム(ノーミーデス)のカードが手に入ったのだ!


「これでフラガラッハの鞘を作れるな」


 ドワーフのいる洞窟に行って、今し方手に入れたノーミーデスに『従属化』のスキルを発動させればドワーフが最大で十五体も仲間になる。


 仲間になったそのドワーフ達には、まず最初にフラガラッハの鞘を作らせるつもりだ。


 前々から鞘が欲しいとフラガラッハ自身が言っていたし、俺も鞘が欲しいと思っていたからな。


 それに、ドワーフにはジパング王国の硬貨とかも作らせよう。良いね、夢が広がるぜ。


「早速ノーミーデスを召喚しようぜ」


「賛成です!」


「我も賛成だ」


 ということでノーミーデスのカードに血を垂らし、召喚するように強く念じる。そうすると発光とともに先ほど俺達と戦っていたノーミーデスが顕現(けんげん)した。


「お、おお?」


 困惑したような表情のノーミーデス。どんなモンスターも初めて召喚された時は困惑しているよな。いや、ミラージュは初めて召喚した時はまったく困惑していなかったような気が……。


 まあミラージュは困惑するようなキャラじゃないか。どんなことが起こっても、いつも通りふざけ倒しているミラージュの姿が目に浮かぶ。


「よう! さっきぶりだな!」


 俺は困惑するノーミーデスに向けて右手を上げる。


「お、お前はさっきの!」


「その通り。さっき会ったな」


 ノーミーデスは俺やクロウ、フラガラッハを順々に見る。その後、ノーミーデスは自分の首を軽く(さわ)りながら疑問を口にした。


「さっき私は首を刎ねられたはずだろう? なぜ生きているんだ?」


「お前は俺の異能(スキル)によって復活したんだよ。というより、お前は俺に従わせられたと言うべきか」


「それはつまり、私はそこにいる八咫烏やインテリジェンス・ソードのような存在になったということか?」


「そゆこと。実際、人間を殺したいとは思わなくなっただろ?」


「確かに……」


 ノーミーデスは深くうなずいた。


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